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ブラック・ウィリ
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ある村にウィリという少年が住んでいました。
ウィリは奴隷でした。
奴隷制度はとっくの昔に廃止されたというのに、ウィリもウィリのお父さんもおじいさんもそのまたおじいさんのおじいさんも産まれた時から奴隷として使われていました。
「お前らみたいな奴をサイムドレイっていうんだぜ」
ウィリの雇い主の農場の坊ちゃんがある時そう言いました。
坊ちゃんは毎日良い肉を食べます。
ウィリは坊ちゃんの料理に使われない骨や臓器の部分と豆を煮込んだ料理を食べます。
坊ちゃんは毎日パリッとしたシャツを着ます。
ウィリはよれよれの破れたシャツを着ます。
坊ちゃんは毎日シャワーを浴びます。
ウィリはシャワーを浴びたことがないので体からは嫌な臭いがします。
坊ちゃんは毎日学校に行きます。
ウィリは学校に行った事がありません。
坊ちゃんの家にはテレビがあります。
ウィリは豚小屋の横の何もない粗末な掘っ立て小屋に住んでいます。
ウィリやウィリの家族は毎朝日の出より前に働きだし、暗くなってから随分経って仕事を終えます。
(僕はどうして奴隷なの?)
ウィリはいつも考えていました。
お父さんに聞いてもお母さんに聞いても首を傾げるだけでした。
そんな話をしていると分かれば農場主にムチでぶたれる事がわかっていたからです。
ある日、農場主はウキウキしていました。
何があったのかな?と不思議に思っていると農場主の家で働いている召使いが教えてくれました。
「今度この農場に市長が視察に来るのさ」
「シチョウって?」
「この市で1番偉い人さ」
1番偉い人がここに来る。
よく分からないけれどウィリもなんだかワクワクしてきました。
ところが。
市長が農場に来る日農場主はウィリ達の住む掘っ立て小屋に来てこう言いました。
「今日、お前達は仕事をしなくて良い。その代わり絶対にこの小屋から出てはいかん。物音を立てる事もゆるさんぞ」
債務奴隷は法律で禁止されている事。ウィリ達家族の存在が市長に知れるのは農場主にとって都合の悪い事なのです。
ウィリのお父さんとお母さんは黙って頷くと小屋の隅に寝転がりました。
毎日の労働でとても疲れていたのです。
(一目遠くから見るだけなら……)
ウィリはそうっとドアを開けました。
「!!」
そこにはまだ農場主がいました。
「小僧!!どこへ行く!!出てはいかんと言っただろ!!」
農場主は恐ろしい形相でウィリに駆け寄るとムチを振り上げました。
「うわああああ!!!」
叩かれた背中が燃えるように熱く、ウィリはその場に倒れ込みました。
「さっさと入れ!!」
農場主は小屋の中にウィリを引きずり入れると乱暴にドアを閉めました。
ガチャッ
「!」
ウィリはドアに駆け寄りました。
ドアには鍵がかけられていました。
これではどうする事もできません。
「ウィリ。旦那様に逆らってはいけないよ」
お母さんが優しくウィリに声をかけました。
「お母さん!!おかしいと思わないの!?
僕達は人間なのにどうしてこんな扱いを受けなきゃいけないの!?」
「仕方ない。仕方ないんだよ。お母さんのお母さんもそのまたお母さんも皆こうして旦那様に仕えてきたのさ」
「召使いのメアリーはちゃんとお給金をもらっているじゃないか!だけど僕達は違う!
これは正しいことなの!?」
母さんはそれには答えませんでした。
「お母さん。シチョウはこの市でいっちばん偉い人なんだよね?旦那様より偉いんだよね?」
「そうだと思うよ。よく分からないけれど…」
「だったら……!」
ウィリは寝床の干し草を集め始めました。
「何しているんだい?ウィリ」
間もなく市長が農場に到着しました。
馬車の音や大勢の話し声が少し遠くで聞こえてきたので小屋に閉じ込められているウィリにもそれが分かりました。
ウィリはそれを見計らいドアの前に積んだ干し草にマッチで火をつけました。
「いやあ、立派な農場ですね。手入れが行き届いている」
「ええ、それはもう……」
市長と農場主が歩いていると畑の向こうから煙が上がるのが見えました。
「大変だ!!家事だ!!」
市長が叫びました。
「誰かあの中にいるのか?」
「い、いえ。あの小屋は…そのう…」
農場主がまごまごしているうちに市長は小屋に駆け寄りました。
「誰もいないか!?」
「!!」
その声はウィリに届きました。
ウィリは力強く答えました。
「いるよ!!僕はここにいるよ!!ここにいるんだ!!」
「すぐに火を消せ!!」
市長はお供に指示を出し、すぐさまバケツリレーが始まりました。
農場主はそれに加わらないわけにはいきませんでした。
数分後、火は消えました。
黒こげになったドアから出てきたのはウィリとお父さんとお母さん。
「無事で良かった。…?彼らはここの使用人ですか?」
「…え、ええ。あの…その…」
農場主は途端に焦り出した。
「僕は……生まれた時からこの農場の奴隷です。ご先祖様がした借金を返す為に一生働くんだ」
「おいっ!小僧っ!」
農場主は慌てた。
暫しの間の後市長は静かにこう言った。
「この家族は私が引き受けよう。いいね」
ウィリ達一家は市街地にある小さな家をもらいました。
お父さんは市長の口利きで別の農場で働く事になりました。勿論お給金がもらえる仕事です。
ウィリは学校に通うようになり、やがて青年になり、大人になり、今ではこの市初の黒人市長になったということです。
ウィリは奴隷でした。
奴隷制度はとっくの昔に廃止されたというのに、ウィリもウィリのお父さんもおじいさんもそのまたおじいさんのおじいさんも産まれた時から奴隷として使われていました。
「お前らみたいな奴をサイムドレイっていうんだぜ」
ウィリの雇い主の農場の坊ちゃんがある時そう言いました。
坊ちゃんは毎日良い肉を食べます。
ウィリは坊ちゃんの料理に使われない骨や臓器の部分と豆を煮込んだ料理を食べます。
坊ちゃんは毎日パリッとしたシャツを着ます。
ウィリはよれよれの破れたシャツを着ます。
坊ちゃんは毎日シャワーを浴びます。
ウィリはシャワーを浴びたことがないので体からは嫌な臭いがします。
坊ちゃんは毎日学校に行きます。
ウィリは学校に行った事がありません。
坊ちゃんの家にはテレビがあります。
ウィリは豚小屋の横の何もない粗末な掘っ立て小屋に住んでいます。
ウィリやウィリの家族は毎朝日の出より前に働きだし、暗くなってから随分経って仕事を終えます。
(僕はどうして奴隷なの?)
ウィリはいつも考えていました。
お父さんに聞いてもお母さんに聞いても首を傾げるだけでした。
そんな話をしていると分かれば農場主にムチでぶたれる事がわかっていたからです。
ある日、農場主はウキウキしていました。
何があったのかな?と不思議に思っていると農場主の家で働いている召使いが教えてくれました。
「今度この農場に市長が視察に来るのさ」
「シチョウって?」
「この市で1番偉い人さ」
1番偉い人がここに来る。
よく分からないけれどウィリもなんだかワクワクしてきました。
ところが。
市長が農場に来る日農場主はウィリ達の住む掘っ立て小屋に来てこう言いました。
「今日、お前達は仕事をしなくて良い。その代わり絶対にこの小屋から出てはいかん。物音を立てる事もゆるさんぞ」
債務奴隷は法律で禁止されている事。ウィリ達家族の存在が市長に知れるのは農場主にとって都合の悪い事なのです。
ウィリのお父さんとお母さんは黙って頷くと小屋の隅に寝転がりました。
毎日の労働でとても疲れていたのです。
(一目遠くから見るだけなら……)
ウィリはそうっとドアを開けました。
「!!」
そこにはまだ農場主がいました。
「小僧!!どこへ行く!!出てはいかんと言っただろ!!」
農場主は恐ろしい形相でウィリに駆け寄るとムチを振り上げました。
「うわああああ!!!」
叩かれた背中が燃えるように熱く、ウィリはその場に倒れ込みました。
「さっさと入れ!!」
農場主は小屋の中にウィリを引きずり入れると乱暴にドアを閉めました。
ガチャッ
「!」
ウィリはドアに駆け寄りました。
ドアには鍵がかけられていました。
これではどうする事もできません。
「ウィリ。旦那様に逆らってはいけないよ」
お母さんが優しくウィリに声をかけました。
「お母さん!!おかしいと思わないの!?
僕達は人間なのにどうしてこんな扱いを受けなきゃいけないの!?」
「仕方ない。仕方ないんだよ。お母さんのお母さんもそのまたお母さんも皆こうして旦那様に仕えてきたのさ」
「召使いのメアリーはちゃんとお給金をもらっているじゃないか!だけど僕達は違う!
これは正しいことなの!?」
母さんはそれには答えませんでした。
「お母さん。シチョウはこの市でいっちばん偉い人なんだよね?旦那様より偉いんだよね?」
「そうだと思うよ。よく分からないけれど…」
「だったら……!」
ウィリは寝床の干し草を集め始めました。
「何しているんだい?ウィリ」
間もなく市長が農場に到着しました。
馬車の音や大勢の話し声が少し遠くで聞こえてきたので小屋に閉じ込められているウィリにもそれが分かりました。
ウィリはそれを見計らいドアの前に積んだ干し草にマッチで火をつけました。
「いやあ、立派な農場ですね。手入れが行き届いている」
「ええ、それはもう……」
市長と農場主が歩いていると畑の向こうから煙が上がるのが見えました。
「大変だ!!家事だ!!」
市長が叫びました。
「誰かあの中にいるのか?」
「い、いえ。あの小屋は…そのう…」
農場主がまごまごしているうちに市長は小屋に駆け寄りました。
「誰もいないか!?」
「!!」
その声はウィリに届きました。
ウィリは力強く答えました。
「いるよ!!僕はここにいるよ!!ここにいるんだ!!」
「すぐに火を消せ!!」
市長はお供に指示を出し、すぐさまバケツリレーが始まりました。
農場主はそれに加わらないわけにはいきませんでした。
数分後、火は消えました。
黒こげになったドアから出てきたのはウィリとお父さんとお母さん。
「無事で良かった。…?彼らはここの使用人ですか?」
「…え、ええ。あの…その…」
農場主は途端に焦り出した。
「僕は……生まれた時からこの農場の奴隷です。ご先祖様がした借金を返す為に一生働くんだ」
「おいっ!小僧っ!」
農場主は慌てた。
暫しの間の後市長は静かにこう言った。
「この家族は私が引き受けよう。いいね」
ウィリ達一家は市街地にある小さな家をもらいました。
お父さんは市長の口利きで別の農場で働く事になりました。勿論お給金がもらえる仕事です。
ウィリは学校に通うようになり、やがて青年になり、大人になり、今ではこの市初の黒人市長になったということです。
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