雪解けとともに

さえき あかり

文字の大きさ
3 / 3

春風を連れた帰路

しおりを挟む
 馬車は彼の田舎への帰路を行く。
 そんな道中、姫が不意に窓の外を覗き込んだ。

 そして、「あれを摘んではくれぬであろうか。」
 指さしたその先にあったのは苺と思しき赤い実が群生していた。
 「相、分かった。しかし無断で持ち帰るわけにはいかない。」
 そう言うと、若殿はそこらに居たお爺さんへ声を掛けると、心づけを懐から出して、赤く熟れた籠いっぱいの苺を受けとると、姫は気づかぬうちにすぐ横に立っていた。

 「ありがとう。お爺さまも若君さまも。」
 精一杯の笑顔は若の目にも至極眩しく映り、二人は改めて苺のお礼を口にすると、道中に頂く為に川を探し、そこで清めてから頬張った。

 雪解けは近い。
 じきに春風を感じる事になるだろう。
 そんな予感を携えて、馬車の間から春風が二人の頬を掠める。

 それからしばらく行くと、いよいよ近づいてきたところで、子供らの遊び場から賑やかな子供たちの声が聴くともなしに聞こえてきた。
 「こんなに沢山の子供は初めて見ましたわ。」
 その光景をどう思っているか気になった若殿は、「子供の声は如何様に聞こえますか?」と尋ねる。

 すると、「楽し気でとても良い。正直、混ざりたいくらい!」
 若殿さまは馬車をそこらの淵へ停めさせると、いそいそと向こう側へ周り、「お手をどうぞ」と極自然にエスコートしていた。
過去にそんなことなど一度たりともしたことが無く、そんな自分の姿に驚いた様子。
 そんな彼の様子を横目に見つつ、姫は緑の青々と生えた空気を大きく吸い込む。
 そして、春風が桜の花びらを連れてくるのを感じながら、ざわめきながら広がる草原に腰を掛けると、「そういえば貴方の名を尋ねていなかったような」と言うと踵を返し、姫は若殿と向き合って、「私は明楽<あきら>、そなたは……?」
 「僕の名前は智秋<ちあき>、改めて宜しくお願い致します。」
 智秋がすっと手を出すと、明楽は指をしっかりと絡め、暮れかけた空を仰ぎ、家路を急いだ。
 行きにはあった白い息はもう出ない。春を告げる足音がそこまで近づいているらしい。新しい楽しい人生の始まりを告げる。そんな予感。

<終>
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

【完結】大好きなあなたのために…?

月樹《つき》
恋愛
私には子供の頃から仲の良い大好きな幼馴染がいた。 2人でよく読んだ冒険のお話の中では、最後に魔物を倒し立派な騎士となった男の子と、それを支えてきた聖女の女の子が結ばれる。 『俺もこの物語の主人公みたいに立派な騎士になるから』と言って、真っ赤な顔で花畑で摘んだ花束をくれた彼。あの時から彼を信じて支えてきたのに… いつの間にか彼の隣には、お姫様のように可憐な女の子がいた…。

うわさの行方

下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。 すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。 戦場から帰るまでは。 三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。 ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~

ねるねわかば
恋愛
悪路に閉ざされた貧しい辺境ルースライン領。 兄を支えたい子爵令嬢リゼは、視察に来た調査官のずさんな仕事に思わず異議を唱える。 異議を唱えた相手は、侯爵家の子息で冷静沈着な官吏ギルベルト。 最悪の出会いだった二人だが、領の問題に向き合う中で互いの誠実さを知り、次第に理解し合っていく。 やがてリゼが王都で働き始めたことを機に距離を縮める二人。しかし立ちはだかるのは身分差と政略結婚という現実。自分では彼の未来を縛れないと、リゼは想いを押し込めようとする。 そんな中、故郷の川で拾われる“名もなき石”が思わぬ縁を呼び、リゼの選択と領の未来を動かしていく――。 想いと責務の狭間で揺れる青年と、自分を後回しにしがちな少女。 すれ違いと葛藤の先で、二人は互いを選び取れるのか。 辺境令嬢の小さな勇気が恋と運命を変えていく。 ※作中の仕事や災害、病、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。 ※8万字前後になる予定です。

処理中です...