1 / 5
第一話
しおりを挟む
桃源郷は、その名の通り、長く穏やかな時が流れる場所だった。どこまでも続く桃畑は一年を通して淡い桃色に染まり、人々は互いを疑うことなく、ゆったりとした日々を送っていた。しかし、その平和はあまりにも長く続きすぎていた。じりじりと迫る「人類滅亡の危機」という言葉も、ここでは遠い世界の噂話のようにしか響かない。住人たちはすっかり平和ボケし、今日の天気や隣人の噂話に興じている。桃倉《ももくら》は、そんな桃源郷の空気に息苦しさを感じていた。
彼女は桃農家の一人娘で、熟した桃の甘い香りに包まれて育った。しかし、その心は桃源郷の閉じた空気の外へと向いていた。SNSを開けば、そこには全く違う空気が流れていた。滅亡の危機をリアルに捉え、回避のために秘密裏に動く組織『革新組』の存在。彼らの焦燥感や議論は、桃源郷の能天気さとは対極にあった。だが、その革新組もまた、「佐渡島の鬼を一掃すべきか」という過激な議論に揺れており、平和とは程遠い。どちらの極端な状況にも、桃倉は心を痛めていた。
そんなある日のことだった。いつものようにSNSを眺めていると、見慣れないアカウントから一通のダイレクトメッセージが届いた。知人でも友人でも、もちろん革新組でもない。
「選ばれし者よ、来る5月5日、満月の夜、古の祭壇にて待つ。」
差出人の名はない。ただそれだけが、簡潔に記されていた。桃倉の心臓が、とくん、と小さく跳ねた。警戒心と、ほんの少しの好奇心。そして、この停滞した状況を動かすかもしれないという、淡い期待。
桃倉はすぐに幼馴染たちに連絡を取った。猿渡《さるわたり》、狗飼《いぬかい》、鳥塚《とりづか》。物心ついた頃からいつも一緒だった3人だ。猿渡は機転が利き、グループのまとめ役。狗飼は少し気難しいところもあるが、デジタルクリエイターとして才能を発揮し、鳥塚は造船所の家系で、おおらかな性格だった。
「ねえ、ちょっと変なDMが来たんだけど……」
桃倉が切り出すと、電話の向こうで3人が息を呑む気配がした。そして、驚くべきことに、彼女たち全員に全く同じメッセージが届いていたというのだ。
「これって、どういうこと……?」鳥塚がおっとりとした声で呟く。
「偶然とは思えないわね」冷静な猿渡の声。
「……面白そうじゃん」狗飼が少しぶっきらぼうに言った。
彼女は桃農家の一人娘で、熟した桃の甘い香りに包まれて育った。しかし、その心は桃源郷の閉じた空気の外へと向いていた。SNSを開けば、そこには全く違う空気が流れていた。滅亡の危機をリアルに捉え、回避のために秘密裏に動く組織『革新組』の存在。彼らの焦燥感や議論は、桃源郷の能天気さとは対極にあった。だが、その革新組もまた、「佐渡島の鬼を一掃すべきか」という過激な議論に揺れており、平和とは程遠い。どちらの極端な状況にも、桃倉は心を痛めていた。
そんなある日のことだった。いつものようにSNSを眺めていると、見慣れないアカウントから一通のダイレクトメッセージが届いた。知人でも友人でも、もちろん革新組でもない。
「選ばれし者よ、来る5月5日、満月の夜、古の祭壇にて待つ。」
差出人の名はない。ただそれだけが、簡潔に記されていた。桃倉の心臓が、とくん、と小さく跳ねた。警戒心と、ほんの少しの好奇心。そして、この停滞した状況を動かすかもしれないという、淡い期待。
桃倉はすぐに幼馴染たちに連絡を取った。猿渡《さるわたり》、狗飼《いぬかい》、鳥塚《とりづか》。物心ついた頃からいつも一緒だった3人だ。猿渡は機転が利き、グループのまとめ役。狗飼は少し気難しいところもあるが、デジタルクリエイターとして才能を発揮し、鳥塚は造船所の家系で、おおらかな性格だった。
「ねえ、ちょっと変なDMが来たんだけど……」
桃倉が切り出すと、電話の向こうで3人が息を呑む気配がした。そして、驚くべきことに、彼女たち全員に全く同じメッセージが届いていたというのだ。
「これって、どういうこと……?」鳥塚がおっとりとした声で呟く。
「偶然とは思えないわね」冷静な猿渡の声。
「……面白そうじゃん」狗飼が少しぶっきらぼうに言った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
豚公子の逆襲蘇生
ヤネコ
ファンタジー
肥満体の公爵令息ポルコは婚約者の裏切りを目撃し、憤死で生涯を終えるはずだった。だが、憤怒の中に燃え尽きたはずのポルコの魂は、社内政争に敗れ命を落とした男武藤の魂と混じり合う。
アニメ化も決定した超人気ロマンスファンタジー『婚約者の豚公子に虐げられていましたが隣国皇子様から溺愛されています』を舞台に、『舞台装置』と『負け犬』落伍者達の魂は、徹底した自己管理と泥塗れの知略で再点火する。
※主人公の『原作知識』は断片的(広告バナーで見た一部分のみ)なものとなります。
己の努力と知略を武器に戦う、ハーレム・チート・聖人化無しの復讐ファンタジーです。
準備を重ねて牙を剥く、じっくり型主人公をお楽しみください。
【お知らせ】
第8話「復讐はロゴマークに寄せて」は2026/02/11 08:00公開予定です。
続・冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
の続編です。
アンドリューもそこそこ頑張るけど、続編で苦労するのはその息子かな?
辺境から結局建国することになったので、事務処理ハンパねぇー‼ってのを息子に押しつける俺です。楽隠居を決め込むつもりだったのになぁ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる