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最終話
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猿渡と雪之丞は、祭りの喧騒を離れ、島の奥深くにあるという古の祭壇へと向かった。月明かりに照らされた苔むした石段を登っていくと、開けた場所に、 神聖の象徴象の描かれた石造りの祭壇が現れた。祭壇の中央には、満月を受けて淡く光る水晶のような石が置かれている。
その時、祭壇の陰から、一人の老婆が姿を現した。雪之丞の祖母、先代の象使いだった。
「……よくぞ参られた、選ばれし者たちよ」老婆は穏やかな声で言った。「あのメッセージを送ったのは、わたくしじゃ」
猿渡は驚きながらも尋ねた。「なぜ、私たちを?」
「この島と、桃源郷の未来のためじゃ」老婆は続けた。「長きにわたる対立は、互いを疲弊させるだけ。じゃが、憎しみの連鎖は、そう簡単には断ち切れぬ。わたくしは、象の声を通じて、古き記憶と繋がることができる。そして、この祭壇の石は、両島の平和を願う古の魂の依り代。新しい風を吹き込む若い力が必要じゃったのじゃ」
老婆は、桃源郷と佐渡島の間にあった、忘れ去られようとしていた真の歴史――かつては協力し合い、互いを尊重していた時代があったこと――を語った。争いは、些細な誤解と、増幅された恐怖心から始まったのだと。
「憎しみを終わらせるには、まず互いを知り、理解することじゃ。お主たちの桃のパンは、その第一歩となった」老婆は、祭りの賑わいを遠くに聞きながら言った。「この祭壇は、和解の始まりの場所となるじゃろう」
祭壇での出来事を胸に、猿渡が祭り会場に戻ると、そこには信じられない光景が広がっていた。桃ピューレパンをきっかけに、桃源郷の話題で島の人々が語り合っている。かつての対立を知る老人も、孫が美味しそうにパンを頬張る姿を見て、硬い表情を少しだけ緩めていた。狗飼は、祖母と並んで、ぎこちないながらも言葉を交わしていた。
祭りの後、雪之丞と天子様、そして『新風カルテット』の働きかけにより、佐渡島と桃源郷の間で、正式な対話の場が設けられることになった。桃倉たちが持ち帰った佐渡島の現状と、桃ピューレパンがもたらした変化の報告は、平和ボケしていた桃源郷の重い腰を上げさせるのに十分だった。
両島の代表者が、古の祭壇の前に集った。かつて敵対した者同士が、今は未来を見据えてテーブルについている。長い協議の末、ついに「友好条約」が締結された。70年以上続いた歪な関係に、完全な終止符が打たれた瞬間だった。争いの歴史は終わり、協力と共生の新しい時代が始まったのだ。
桃源郷に帰る船の上で、『新風カルテット』の4人は、穏やかになった海を眺めていた。
「やったね、私たち」桃倉が微笑む。
「ええ。でも、これは始まりに過ぎないわ」猿渡が答える。「人類滅亡の危機が去ったわけじゃない。でも、こうやって手を取り合えば、きっと乗り越えられるはずよ」
狗飼は、遠くに見える佐渡島を見つめていた。「……また、パンを焼きに行かなきゃな」その声には、確かな温かみが宿っていた。
鳥塚が、大きく伸びをした。「さーて、次はどこの島に新しい風を吹き込みに行こうか!」
4人の笑い声が、穏やかな海風に乗って、どこまでも響いていった。桃源郷と佐渡島を結んだ新しい風は、やがて世界全体へと吹き渡っていくのかもしれない。彼女たちの旅は、まだ始まったばかりだ。
その時、祭壇の陰から、一人の老婆が姿を現した。雪之丞の祖母、先代の象使いだった。
「……よくぞ参られた、選ばれし者たちよ」老婆は穏やかな声で言った。「あのメッセージを送ったのは、わたくしじゃ」
猿渡は驚きながらも尋ねた。「なぜ、私たちを?」
「この島と、桃源郷の未来のためじゃ」老婆は続けた。「長きにわたる対立は、互いを疲弊させるだけ。じゃが、憎しみの連鎖は、そう簡単には断ち切れぬ。わたくしは、象の声を通じて、古き記憶と繋がることができる。そして、この祭壇の石は、両島の平和を願う古の魂の依り代。新しい風を吹き込む若い力が必要じゃったのじゃ」
老婆は、桃源郷と佐渡島の間にあった、忘れ去られようとしていた真の歴史――かつては協力し合い、互いを尊重していた時代があったこと――を語った。争いは、些細な誤解と、増幅された恐怖心から始まったのだと。
「憎しみを終わらせるには、まず互いを知り、理解することじゃ。お主たちの桃のパンは、その第一歩となった」老婆は、祭りの賑わいを遠くに聞きながら言った。「この祭壇は、和解の始まりの場所となるじゃろう」
祭壇での出来事を胸に、猿渡が祭り会場に戻ると、そこには信じられない光景が広がっていた。桃ピューレパンをきっかけに、桃源郷の話題で島の人々が語り合っている。かつての対立を知る老人も、孫が美味しそうにパンを頬張る姿を見て、硬い表情を少しだけ緩めていた。狗飼は、祖母と並んで、ぎこちないながらも言葉を交わしていた。
祭りの後、雪之丞と天子様、そして『新風カルテット』の働きかけにより、佐渡島と桃源郷の間で、正式な対話の場が設けられることになった。桃倉たちが持ち帰った佐渡島の現状と、桃ピューレパンがもたらした変化の報告は、平和ボケしていた桃源郷の重い腰を上げさせるのに十分だった。
両島の代表者が、古の祭壇の前に集った。かつて敵対した者同士が、今は未来を見据えてテーブルについている。長い協議の末、ついに「友好条約」が締結された。70年以上続いた歪な関係に、完全な終止符が打たれた瞬間だった。争いの歴史は終わり、協力と共生の新しい時代が始まったのだ。
桃源郷に帰る船の上で、『新風カルテット』の4人は、穏やかになった海を眺めていた。
「やったね、私たち」桃倉が微笑む。
「ええ。でも、これは始まりに過ぎないわ」猿渡が答える。「人類滅亡の危機が去ったわけじゃない。でも、こうやって手を取り合えば、きっと乗り越えられるはずよ」
狗飼は、遠くに見える佐渡島を見つめていた。「……また、パンを焼きに行かなきゃな」その声には、確かな温かみが宿っていた。
鳥塚が、大きく伸びをした。「さーて、次はどこの島に新しい風を吹き込みに行こうか!」
4人の笑い声が、穏やかな海風に乗って、どこまでも響いていった。桃源郷と佐渡島を結んだ新しい風は、やがて世界全体へと吹き渡っていくのかもしれない。彼女たちの旅は、まだ始まったばかりだ。
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