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憧れの「母さん」

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「ねぇ父さん、なんでミチルには母さんがいないの?」

「母さんは、ミチルが赤ちゃんの頃にお空に行ったんだよ。」

「じゃあミチルもお空に行けば会える?」

父が切なそうな顔をしてミチルを抱きしめた。

「あぁ、そうだな……だがミチルがお空に行くのはまだ待ってくれ……」

「どうして?母さんに会いたい!だってお隣のマサト君はいつも母さんと一緒にいるんだよ?マサト君の母さん、とっても優しそうなんだよ。マサト君の母さんが作ったご飯、とっても美味しいんだよ。公園で会うミカちゃんだって……」

「ごめん、ごめんな、ミチル……母さんを守れなくて……父さんが、母さんの代わりもするから……」

泣きそうな顔で、抱きしめる腕に力を込める。

母親への強い憧れを募らせる中でミチルは大人へと近づいていった。






どうやら俺の母さんは俺が赤ん坊の頃、車にはねられて亡くなったらしい。

その時、隣には俺を抱いた父さんがいたらしいが、伸ばした腕は母さんに届くことは無かった。

俺は母親が欲しかった。

マザコンとかそういう類のものでは無いが、他人の家の、無条件で暖かな愛を与えてくれる母親に強い憧れを抱いていた。

俺は写真の中で微笑む母さんしか知らない。

もし母さんがいたなら、どんな風に俺に愛情を注いでくれただろう。

別に父さんが力不足な訳では無い。ただ母親の愛情を感じてみたかった。



「危ねぇっ!!!!!!!避けろ!!!!!!!」

「え……」

急に叫び声が聞こえた刹那、俺の体はとてつもない衝撃に文字通り吹っ飛ばされた。

全身に広がる痛みと浮遊感。やけにゆっくりと時間を感じた。

これは走馬灯というやつだろうか。俺は死ぬのか。

ごめん、ごめんな父さん。俺が死んだら父さんは辛いだろうな。母さんと同じ死因だな……。

できれば来世では優しい母さんがいますように…。

そうして俺、神崎かんざき みちるは18年の生涯を終えた。







次に目を覚ました時、そこは森の中だった。眩しい木漏れ日に、ゆっくりと目を開ける。

下半身に感じる冷たい感覚と、ぴちゃりぴちゃりという音。

……水の中にいるのか?

頭を軽く上げ自分の下半身に目を向ける。そこは、水色のプルプルしたゼリー状のものに覆われていた。そう、まるでスライムのような……

「えぇぇぇぇっ?!ス、スライム?!」

こういうのって起きる前から襲われるものなのか?

普通目が覚めて、状況をある程度理解してからでは無いのか?!ほらよくある異世界転移では!

こんな、こんな、寝起きドッキリみたいなの、ずるくないか?!

とりあえず外れないか引っ張る。だがスライム特有のぬめりで滑ってしまう。

不幸中の幸いはこのスライムが服を溶かすタイプではない事だ。

さすがに人が見えなくても下半身丸出しの間抜けな格好で森を練り歩くのは嫌だ。

快感に悶絶というよりは、べちゃべちゃするズボンと下着が気持ち悪い。

「く、そっ!離れろよっ!お前!」

ぐいぐいと引っ張る手に負けじと張り付いてくるスライム。

「あぁ、もうっ!離れろって言ってんだろー!」

そう叫んだ瞬間、じゅわりと音を立てながら一瞬でスライムが蒸発した。

「……へ?」
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