いけ好かない知人が変わり果てた姿で…

あきすと

文字の大きさ
1 / 10

①再会?

しおりを挟む
虫唾が走ると思っていた、知人がいる。
如何にもいけ好かないと思わせる何かを持っているらしく
できれば、顔も合わせたくないと思っていた。

のに、ある日こつ然と相手は姿を消した。

共通の知人から、相手の事を聞かれても
知らない。

むしろ、何かあったのだろうか?と考える様になっていた。

私とその共通の知人である友人は、彼の身辺に何か起きたのかと
探りはした。

ただ、仕事が立て込んでいた為友人に任せて
私は締め切りに追われる日々に帰って行った。

秋口に、長年私の世話をしてくれているお手伝いさんが
辞める事を私に伝えてくれた。

もう、すっかりと意思は変わらない様子だったので
引き留めはしなかったが。
惜別は人生につきものだと、心得ている。

『最上先生、後任の子をご紹介してもよろしいでしょうか?』
先日、書斎にお手伝いさんが連れて来た人物を見て、ただ驚いた。

「…え…君は」
私の前に現れたのは、最近まで捜していた知人。
辻川 響翠その人物だった。

家が裕福で、何不自由ない生活。学業優秀でもあった
私にとってツクリモノの様な存在そのもの。

だからいけ好かない。
と思っていた、知人がまさか。

『先生、この子はですね…魔法被害に遭ってしまい。保護されたんです。』
「魔法被害だと?」
『私たちただの人間の世界にも、最近では魔法界からの住人がやって来ては人間に
危害を加える事件も多くなっています。』

「待ってくれ。…辻川…私が分からないのか?」
『…えっと、…作家さん。なんですよね。』

辻川はいかにも愛想笑いをして、私を見上げた。
おかしい。記憶まで無くしていると言うのか?
背も幾分か縮んでしまっている。

本人は、私よりわずかに身長が低いほどだった。
今では、お手伝いさんより少し背が高い程になってしまっている。

「私の、事は分からないのか。」
『先生。あまり…この子はまだ見習いとしてウチの事務所が身元を引き受けたばかりですので。』
「病院に、入院はしていたのか?」
『先生、』

「答えるんだ。辻川。君は実家の家業を継いで…順風満帆な人生を送っていたんじゃなかったのか?」

信じられなかった。あの、御曹司でいつも私より半歩は先を行き
好奇心旺盛な、いけ好かない辻川が…。

『……最上、先生。よろしくお願いいたします。』

辻川はお手伝いさんの隣で、深々と私に頭を下げた。
「改めて、名前を教えてくれないか。」
『響、とお呼びください。』

「響…。私は最上伯明と言う名前で作家を生業としている。よろしく頼むよ。」
『本。を、書かれるのですか?……あれ?』

使用人の制服を与えられ、お手伝いさんと共にこの家にやって来た事が
いまだに信じがたい。

意図せず目立つ風貌に、気取らない性格や素直さが
かえって鼻につくイヤな奴だと思っていた。

それが今では、私の目の前で記憶を恐らくは無くして
笑みを浮かべている。


後ほど、辞めるお手伝いさんから辻川の簡単な被害状況を
教えて貰った。業務にもし支障が出る場合には、事務所に連絡をして
代わりの使用人を斡旋してもらう様にすすめられた。

個人の身体にまつわる情報でもある為、詳細は伏せられた部分がある。
月にまだ2度程、通院をして経過報告の必要性を伝えられた。

契約書などの種々の手続きやサインを済ませて、私は
もしかして面倒な事に関わってしまったのではないかと
嫌な予感がした。


「は…?掃除も洗濯もした事が無い?」
いや、当たり前だ。
『…ごめんなさい。最近、教えて貰ったばかりで。』
このお坊ちゃまが、あの豪邸で教わる事が無いだろうとは
思っていた。

「いちいち謝らないでくれ。煩わしい。…もういい、私がする。」
怒っているのではない、と自分でも分かっている。

ただただ、歯がゆくて見ていられないのだ。
ハッキリ言って、仕事に支障が出そうだ。

「掃除は上からするものだ、本当に教わったのか?」
『…それが、ずっと覚えていなきゃと思っても。忘れてしまって。』

書類には、記憶に関する注意事項もいくつか書かれていた。
過去に関する事の発言には慎重に。や、記憶の混在の示唆も現時点では
急激に行わない様に指示されていた。

辻川の実家に連れて帰れば、早いだろうに
なんでこんな、もどろっこしい事をするのかと考えた。

辻川の家系は、古くからとある業界でもトップクラスの業績を上げている。
国が絡む事業にも多く関わって来ている。
その跡継ぎでもある令息が、魔法事故の被害になったとあれば…。

なんとなく保っているであろう、この社会のバランスが危ぶまれる気がした。

「もし、私が教えた事を忘れてしまったなら…言ってくれ。また、教える。」
『…うん!…じゃなかった。ハイ、有難うございます。』

私と同い年で、あくまでも知人として位置付けていた
いけ好かないハズの男が。
今は何を疑う事も無く、私の邸宅で使用人として働き始めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー

処理中です...