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一年

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田舎に帰って来てから、そろそろ1年が経とうとしている。
早かった。本当に、さっき夢からさめたような気持ちで
今でも、僕は山の中にある古民家カフェに従業員として勤めている。

送迎の車に揺られて、今日もいつもの様に帰宅する。
家が近所の幼馴染の礼緒くんが、明日は誕生日を迎える。
去年は、色々あって遅れた誕生日のお祝いを
今年は、当日に出来るんだから。

僕としては、かなり楽しみでしかなかった。
本当に、今でも去年の夏の魔法が解けてない気がする。

怪我をして入院していたのに、僕は礼緒くんの前に現れたり
不思議な事が起きていた。
説明のつかなさそうな事も、全部何も否定せずに
僕を心配して、お見舞いに来てくれた礼緒くん。

彼は、ひまわりみたいに真っすぐで、温かな人。
ちなみに、僕の初恋の人でもある。

紆余曲折を経て、やっと想いを交わしたとは言え。
相変わらず、お互いが忙しくてなかなか2人で
ゆっくり出来る事も、少ない。

携帯で、言葉のやりとりを交わすだけじゃ
より一層、想いだけが募って行って苦しくもなる。
だから、時々僕は礼緒君に言って
2人で車で遠出する。

日常を少しだけ忘れたくて。
もっと、お互いを近くに感じていたいから。
『悠里のそれくらいのワガママだったら、いくらでも聞いてやる。』
そう言ってくれる事が嬉しくて仕方なかった。

誕生日当日、仕事終わりの礼緒くんには前日にもう
予定を開けておいて貰う様に、お願いしてある。
のに、何でだろう。
急、に僕の方が気恥ずかしいような。
照れくささが一気に噴出してしまって。

電話を掛けて、礼緒くんに何故か僕の家に来て貰う事に
したんだった。
察しの良い礼緒くんは、なんとなく分かっているみたいで
笑ってくれてるけど。

テーブルの上には、ケーキの準備も飲み物の準備も出来ている。
階段を上がって来る足音。
はぁ、ドキドキする。
プレゼントは、少し落ち着いてから渡そう。

ドアが開いた、と思うとすぐに礼緒くんと
目が合う。…今日も、凛々しい。
僕、本当に礼緒くんが好き過ぎて
ついには、今日お休みだったからケーキも
手作りしてしまって。

『お疲れ、悠里。ごめんな、少し遅くなった。』
「お疲れ様、礼緒くん。っても、僕今日は休みだったんだ。」
『ぁ、そっか。忘れてた。この前言ってたな。』
僕の前に座る礼緒くんは、お風呂上りみたいで。
少しまだ、髪が濡れている。

「……」
『で?…お前、自分で俺を呼んでおきながら、何固まってるんだよ。』
くすくす笑っている礼緒くん。
そんな優しい声で言われても…、余計になんかこう…、ね?
「お誕生日おめでとう、礼緒くん。本当は、お店のケーキの方が美味しいと思うんだけど。」
礼緒くんは、視線をケーキに注いで
『これ、悠里が作ったのか?』
僕とを交互に見なている。

「一応は、オーナーさんに作り方を教えて貰ったんだけどね。練習1回だから、不安で。」
『お店の人に教わったんだったら、美味しいと思う。それに、悠里が頑張って作ったんなら尚更だ。』

この幼馴染彼氏、もう彼氏としてのスペックが高すぎて
僕なんかじゃ太刀打ちも出来ないよ。
「大好きな人に、食べてもらえるなら…本望だよ。」

本当は、この後にもちょっと色々あったんだけど。
あり過ぎて、頭の中で整理がつかないから
もう少し落ち着いたら、またね。
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