7 / 15
⑦春雷
しおりを挟む
四月は急な雷雨に何度か見舞われた。
喫茶店にも、少しの間雨宿りも兼ねて来店する
お客さんも見受けられる。
大気が不安定だと、雹だって降り出す始末。
店の外の傘立てが、色とりどりに埋まりだす頃
窓の外から覗くのは、
今にも消えてしまいそうな
薄ぼんやりとした2重の虹。
マスターの淹れているコーヒーが、穏やかに店内に
広がっていく。
つかの間のアイドルタイムは、少しだけ賑わいを見せた。
デザートや、ケーキセットがよくオーダーされる。
このクロッカスの店内は、お世辞にも広いとは言えない。
席数も20席程。
流れるのは、フレンチポップ。
雨上がりのまだ薄暗い空は、アンニュイさを
含んでいて。
このまま、芳しいコーヒーと
フワっと軽いシフォンケーキにかかる
ぽったりとしたクリームに
心を浸らせていたい。
はっ、いけないいけない。
僕は今、お客さんじゃないんだった。
カウンターから見ている、外の世界は
特別だけれどもう一人の自分だと感じる。
「マスター、今日帰りにちょっと買って帰っても良いですか?」
マスターはいつも穏やかに微笑んでくれる。
『もちろん、レモンタルトはまだ奥の冷蔵庫にもあるから。多少出ても平気だと思うよ。』
マスターも、奥さんも僕がお店のレモンタルトの
ファンである事を知っててくれている。
「奥さん、そういえば朝から作ってましたよね。僕、側で見てるだけでも楽しくて。」
『この店がオープンした頃からのタルトだから、もう随分と古いメニューだけどね。当時はまだ、レモンのタルトも珍しかった。』
「…愛されてますよね。僕ももしかしたら、その一人ですし。」
ナフキンを折り終えると、僕は休憩に入った。
今日はモーニングの準備に、メニューのオーダーから提供にランチタイムと
あっという間に時間が過ぎて行く。
途中、買い出しや配達にも出たりしていると
本当に一日は一瞬な気さえしてくる。
17時を過ぎた頃に、お店のレモンタルトを2つ購入して
奥さんとマスターに挨拶をして帰宅した。
家に帰ると、既にノビが帰宅してたみたいで
珍しく早い帰宅で少し驚いた。
「ノビ?ただいま」
『…俺の黒い服って、あるよな?』
玄関まで来たノビは、どこか焦ってるような気がして
僕は嫌な予感がした。
「黒い服って、喪服?」
『そう、俺ちょっと伯父さんの…新幹線で、』
「ぁ…、そうなんだ。今から向かうんだね?準備手伝うよ。」
小走りに廊下を歩きながら、いるものを頭の中で
ピックアップする。
タルトは、ノビが帰ってからにしよう。
きちんと冷凍保存して、自然解凍ででも
美味しく食べられる事を、奥さんに聞いているから。
手早く準備を済ませると僕は、つい今しがた
自分が帰って来たばかりだけれど
ノビを見送る事になってしまった。
「気を付けて…体調も、ね。」
突然の事で、言葉がそれ以上思い浮かばなかった。
ノビも、何とも言い難い表情で
そっと、手を上げて玄関のドアを開けた。
喫茶店にも、少しの間雨宿りも兼ねて来店する
お客さんも見受けられる。
大気が不安定だと、雹だって降り出す始末。
店の外の傘立てが、色とりどりに埋まりだす頃
窓の外から覗くのは、
今にも消えてしまいそうな
薄ぼんやりとした2重の虹。
マスターの淹れているコーヒーが、穏やかに店内に
広がっていく。
つかの間のアイドルタイムは、少しだけ賑わいを見せた。
デザートや、ケーキセットがよくオーダーされる。
このクロッカスの店内は、お世辞にも広いとは言えない。
席数も20席程。
流れるのは、フレンチポップ。
雨上がりのまだ薄暗い空は、アンニュイさを
含んでいて。
このまま、芳しいコーヒーと
フワっと軽いシフォンケーキにかかる
ぽったりとしたクリームに
心を浸らせていたい。
はっ、いけないいけない。
僕は今、お客さんじゃないんだった。
カウンターから見ている、外の世界は
特別だけれどもう一人の自分だと感じる。
「マスター、今日帰りにちょっと買って帰っても良いですか?」
マスターはいつも穏やかに微笑んでくれる。
『もちろん、レモンタルトはまだ奥の冷蔵庫にもあるから。多少出ても平気だと思うよ。』
マスターも、奥さんも僕がお店のレモンタルトの
ファンである事を知っててくれている。
「奥さん、そういえば朝から作ってましたよね。僕、側で見てるだけでも楽しくて。」
『この店がオープンした頃からのタルトだから、もう随分と古いメニューだけどね。当時はまだ、レモンのタルトも珍しかった。』
「…愛されてますよね。僕ももしかしたら、その一人ですし。」
ナフキンを折り終えると、僕は休憩に入った。
今日はモーニングの準備に、メニューのオーダーから提供にランチタイムと
あっという間に時間が過ぎて行く。
途中、買い出しや配達にも出たりしていると
本当に一日は一瞬な気さえしてくる。
17時を過ぎた頃に、お店のレモンタルトを2つ購入して
奥さんとマスターに挨拶をして帰宅した。
家に帰ると、既にノビが帰宅してたみたいで
珍しく早い帰宅で少し驚いた。
「ノビ?ただいま」
『…俺の黒い服って、あるよな?』
玄関まで来たノビは、どこか焦ってるような気がして
僕は嫌な予感がした。
「黒い服って、喪服?」
『そう、俺ちょっと伯父さんの…新幹線で、』
「ぁ…、そうなんだ。今から向かうんだね?準備手伝うよ。」
小走りに廊下を歩きながら、いるものを頭の中で
ピックアップする。
タルトは、ノビが帰ってからにしよう。
きちんと冷凍保存して、自然解凍ででも
美味しく食べられる事を、奥さんに聞いているから。
手早く準備を済ませると僕は、つい今しがた
自分が帰って来たばかりだけれど
ノビを見送る事になってしまった。
「気を付けて…体調も、ね。」
突然の事で、言葉がそれ以上思い浮かばなかった。
ノビも、何とも言い難い表情で
そっと、手を上げて玄関のドアを開けた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる