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①
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璃端は、俗にいう顔が良い。
俺と出かけると、フツウに知らない人から声を掛けられて
『ファンです~』
って言われてる。
おかしな日常だと、こちらからすれば思う。
璃端に、プライベートはないのだろうか?
とさえ思う。
「目立つ、のか?」
『え…?あぁ、ゴメンナサイ。せっかく今日は2人で居るのに。』
本当だよ。今日は、珍しくほんの少し遠出をして
海岸沿いの小さな町まで来ていた。
五月雨にそろそろ心の鬱積が暴れ出しかけていた所だった。
曖昧に一緒に居られるだけで、叶わない事に
ただ失望していく毎日なら無いにも等しい。
自分と璃端を連れて、足がたどりつく先は
いかにもあたたかそうな砂浜に、ぼんやりとした水平線の
海だった。
【たまには、なんでもない休日を】
駅で不意に声を掛けられて、璃端はバスの時刻表を
ターミナルで探してくれた。
俺は数歩離れた所から、璃端の背中を見つめていた。
リネンのシャツが涼しげで、惜しげもなく曝される腕を見て
思わず日焼けの心配をした。
人一倍、身なりに気を遣う璃端の事だ。
本当なら、日傘だって差したいんじゃないか。
「結局、ぜーんぶ璃端に任せっきりだな。」
バスから降りても俺に気を遣って、飲み物を買うか
たずねてくれたり。
『…2人で居るから、でしょう?』
海岸通りの美術館に差しかかり、陽の照り加減にも
少しずつ体が堪えて来るのを感じる。
なぁんだ、璃端の勘の鋭さを舐めてた。
「璃端もさ、俺の心配イイから。日焼けとか嫌なんじゃないの?」
軽くて温かい海風に璃端の髪がそよぐ。
『僕はそこまで気にしない性質なので、自然のままにしてますヨ。』
ついつい、見慣れているはずなのに目を奪われてるのは
惚れてる証拠だろう。
「今日、やっと晴れて…イイ日に連れ出してもらえた。」
家で溶ける様に、璃端と無為に過ごす事にも正直
慣れて来た。
『でも、珍しいですよね。あの要が…?海だなんて。』
自分でもそう思う。時には、らしくないおセンチを
気取りたかったのもある。
「1人で来るには重すぎるって言うの?」
きっとタイミングだって、掴めずに1人だったら
来る気にもならなかったと思う。
坂道の勾配が結構歩いていてもキツイ。
仕事場に履いていくよく履きなれたスニーカーで来て正解だった。
『確かに。要が1人で海に居たら、ちょっと心配にはなりますね。』
「多分、璃端と来たかったんだよ。面がイイ彼氏とさぁ…」
俺の言葉に、璃端がおかしそうに笑う。
ぬるい風、好きでもないけれど。
砂に埋もれてしまう浜辺も、独特の潮の香りも。
指に絡むはずの糸を、引いてみたくて
今でも、心のどこかで信じきれずに
璃端の気を引きたくなる。
俺と出かけると、フツウに知らない人から声を掛けられて
『ファンです~』
って言われてる。
おかしな日常だと、こちらからすれば思う。
璃端に、プライベートはないのだろうか?
とさえ思う。
「目立つ、のか?」
『え…?あぁ、ゴメンナサイ。せっかく今日は2人で居るのに。』
本当だよ。今日は、珍しくほんの少し遠出をして
海岸沿いの小さな町まで来ていた。
五月雨にそろそろ心の鬱積が暴れ出しかけていた所だった。
曖昧に一緒に居られるだけで、叶わない事に
ただ失望していく毎日なら無いにも等しい。
自分と璃端を連れて、足がたどりつく先は
いかにもあたたかそうな砂浜に、ぼんやりとした水平線の
海だった。
【たまには、なんでもない休日を】
駅で不意に声を掛けられて、璃端はバスの時刻表を
ターミナルで探してくれた。
俺は数歩離れた所から、璃端の背中を見つめていた。
リネンのシャツが涼しげで、惜しげもなく曝される腕を見て
思わず日焼けの心配をした。
人一倍、身なりに気を遣う璃端の事だ。
本当なら、日傘だって差したいんじゃないか。
「結局、ぜーんぶ璃端に任せっきりだな。」
バスから降りても俺に気を遣って、飲み物を買うか
たずねてくれたり。
『…2人で居るから、でしょう?』
海岸通りの美術館に差しかかり、陽の照り加減にも
少しずつ体が堪えて来るのを感じる。
なぁんだ、璃端の勘の鋭さを舐めてた。
「璃端もさ、俺の心配イイから。日焼けとか嫌なんじゃないの?」
軽くて温かい海風に璃端の髪がそよぐ。
『僕はそこまで気にしない性質なので、自然のままにしてますヨ。』
ついつい、見慣れているはずなのに目を奪われてるのは
惚れてる証拠だろう。
「今日、やっと晴れて…イイ日に連れ出してもらえた。」
家で溶ける様に、璃端と無為に過ごす事にも正直
慣れて来た。
『でも、珍しいですよね。あの要が…?海だなんて。』
自分でもそう思う。時には、らしくないおセンチを
気取りたかったのもある。
「1人で来るには重すぎるって言うの?」
きっとタイミングだって、掴めずに1人だったら
来る気にもならなかったと思う。
坂道の勾配が結構歩いていてもキツイ。
仕事場に履いていくよく履きなれたスニーカーで来て正解だった。
『確かに。要が1人で海に居たら、ちょっと心配にはなりますね。』
「多分、璃端と来たかったんだよ。面がイイ彼氏とさぁ…」
俺の言葉に、璃端がおかしそうに笑う。
ぬるい風、好きでもないけれど。
砂に埋もれてしまう浜辺も、独特の潮の香りも。
指に絡むはずの糸を、引いてみたくて
今でも、心のどこかで信じきれずに
璃端の気を引きたくなる。
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