恋しなければ良かったなんて、言わせないで

あきすと

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③ファーストキスの相手

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まさか、幼馴染が差されるだなんて事は本当に予想外過ぎて。
この前、軽はずみに言った言葉を自分の中でも反芻してしまう。

ネットでは、なぜか被害者である玲の顔写真が公開されていたりもして
ものすごく理不尽な思いを僕は毎日していた。

母は、玲のお母さんと親しいから連絡は取れてはいるものの。
精神的なショックで、今しばらくは睡眠薬を出して貰うせいか
日中も寝ている事が多いと聞いた。

ただでさえ、不眠症にきらいがある玲にとっては
まさに踏んだり蹴ったりの状況が続いている事に違いない。

連絡を取ろうと思ったけれど、どう声を掛けたら良いのか。
なんて言葉であれば、玲には届けられるのか。
いまいち考えに詰まって、ただ日にちが経つ事を願った。

時間の経過が、体の傷も
ゆくゆくは心の傷も癒すことだろうと願った。


2週間程経過してから、そろそろ行っても良いんじゃないかって
母にも相談をして。
平日の空き時間があった午後から、お見舞いに行く事にした。
花とか典型的なお見舞いの品は病院では、持ち込みが出来ない
場合が多く、ほぼ身一つで玲が入院する市内の病院にバスで向かう。

受付で、玲の名前を告げて病室を教えて貰った。
なんだか、本当に今やっと現実なんだと実感が込み上げてくる。

生きていただけでも、良かったんだと思うと
鼻の奥がツーンとして痛くなる。
玲に会う前から、泣きそうになる。

泣いていたら、きっと笑われるに違いない。
真っ白とクリーム色の床と空間が、視界一杯広がる。
静けさの中に感じる多くの感情。

病院は、来る機会がほとんど無いから自分にとっては
心が緊張してしまう。

玲の部屋は5階、個室だった。
そろそろ歩き出さなければいけない時期らしく、今はまた
辛い時期を過ごしているとは聞いていた。

ストレスも溜まっているだろうな、と思いながら
エレベーターで無意識に中空を見ている間に5階に到着した。
談話室の前を通り過ぎて、指定の病室を探す。
名前は表には出ていなくて、伏せられている。

プライバシーに配慮されているので安堵した。
ドキドキする心臓を左手で抑えたい気持ちのまま
右手でドアーをノックした。

念の為、僕が玲のもとに行く事は伝えてもらっている。
もしかしたら寝ているかもしれないけど、入って大丈夫だと
言われている。

微かに、部屋の奥から玲の声が聞こえた。
ゆっくりと静かにスライドドアを開けて、カーテンの閉じられた部屋の一角に
歩いて行く。
自然光がカーテンの生地を薄い緑色に照らしている。
室内の電気は消されていて、部屋全体は薄暗い。

カーテンを引くと、
『真裕…?』
雰囲気的に玲が寝起きである事が分かる。
「…もう、会えないのかと思った。」
『俺も…さすがにこんな経験するとは思わなかった。』

椅子をベッドの近くに寄せて置き、座る。
「一応、消毒はして来たんだけど。触っても良い?」
『ん、真裕なら良い。』

眠そうな目と、重そうな体。
少しだけクマが出来ている。
玲の髪をそっと撫でる。

『あぁ…お前の手って眠くなるんだよな…。』
「生きててくれて、良かった。」
『良い恥さらしだろ、でも。』
「関係ないよ。僕は…玲がいない世界なんて考えられない。」
『お前も、昔…つけ回されてた時期あったよな。気を付けろよ。』

玲が言うのは、僕の幼少期の話だ。
姉に、度々遊ばれていたせいで変質者に遭遇したり
と言う話は何度かあった。

「今は、さすがに無いよ。僕も残念ながら男だからね。」
『そう思いきれない奴も、居るかもしれない。って…』

玲は午前中にリハビリがあったせいか、少し疲れて見える。
「バイト先まで知られてるなんて、玲…ソコ辞めないとだね。」
『そう、だから店長が何度か話に来てくれて。俺が退院してしばらくしたら
辞める方向性で進めてる。』

「本庄は?」
『来ないよ、』
「なんで?」
『アイツは彼氏がいる。』
「何それ…。じゃぁ、玲は何なの?」
『…俺もソレが知りたくて、執着してたんだろうな。』
「玲、僕は人の付き合いに口出しする趣味は無いけど…玲を大事にしてくれる人と
一緒に居て欲しいって思う。」

今にも眠ってしまいそうな玲の重たげな瞬きが愛おしかった。
『この世に、俺を大事に…おもってくれる人間って、居るのかなって』

玲の口から、初めてこんなにも後ろ向きな言葉が出た気がして
何も言えない自分が情けなかった。

ただ、少しでも冷たくなった心をどうにかできないものかと
玲の手を握る。

『真裕は、いつも手が温かいな。』
「…玲、眼…つむって」
『今つむると寝てしまうかも…』
「それでもイイよ。」

綺麗な横顔、鼻筋も通っていて足りない部分も余計な箇所も無い。
伏せられた睫毛の繊細な広がりと長さに見惚れながら
久し振りに、玲の頬にキスをした。

『頬なら、別に…目開けてても』
「見られたくないの。僕は…」
『子供の頃と変わんないな、真裕は。』
「僕のファーストキスの相手は、玲だもんね。」
『…懐かしい。』

玲の表情が柔らかに変わって、ハッとする。
一応ここは、病院の1室なんだった。
「退院はまだ先?」
『もう少しリハビリで歩ける様になってから。まぁでも、しばらくは退院してからも通院したり
リハビリが待ってるけど。』
「まだ、頑張らなきゃいけないんだね。」
『大学もしばらく休むし、うんと養生させてもらおうと思う。』

「……家、行っても良い?」
『俺が、行くよ。これまでと変わらず。』
「そっか、うん。じゃ、待ってる。」
『あのさ、真裕…』
「なに?」
『こんな時に言うのも何だけど…この件で俺、どうやら連絡がつかない。』
「数人の相手と?切られたんだ?」

ついついハッキリ言ってしまう。
『そういう事らしいな。ひでー話。』
「僕、も…連絡すぐにしたかったけど。どう、声を掛けたらいいか分からなくて出来なかった。ゴメン。」
『寂しくて、痛くて…最初は何日か眠れなかった。』
「…そうだよね。玲は結構寂しがり屋だから。そんな気はしてた。」

抱き締めたいのに、今はまだ叶わなくてもどかしい。
『退院したら、真裕の家に行きたい。』
「いつでもどうぞ、でも焦らなくていいからね。」

チラッとテーブルの上を見ると雑誌や文庫本が山積みになっている。
DVDプレイヤーなんかもあって、いかに退屈をしのいでいるのかが
よく伝わって来た。

『とにかく毎日がゆっくりで、長くて疲れる。』
「体、ちゃんと休めて。眠れる時に寝ればいいよ。」
『そうする。』

あまり長居するのも気が引けるから、そろそろ帰る事を伝えたら
ゆっくりと玲は起き上がって、僕を手で呼ぶ。
緩やかな抱擁をされて、額にキスをされた。

『来てくれて、嬉しかった。』
「……玲、無理しないで。お腹平気なの?」
『まだ抜糸は先。大丈夫。』
「今度会う時は、僕の家だと良いね。」
『え~、もう来ないの?真裕』
「講義にバイトは変わらないからさ。今日は午後、たまたま休講だったから来たんだ。」
『へ~。じゃあこの後は例のファミレスか。』
「そうそう。頑張って稼がないと!」
『何か、欲しいものでもあるのか?』

これと言ってないけれど、自由に使えるお金はあるに越した事は無い。
「でなくとも、服とかはお金かかるし」
『そっか。引き留めて悪かったな。帰り道、気を付けろよ。それと、おばさんにも泉美さん(真裕の姉)にもよろしくな。』
「うん。じゃ、ココでね。」
緩く手を振ってから、椅子をもとの場所に戻して
カーテンを閉めた。

病室を後にして、帰りに時々立ち寄る本屋さんに向かった。

雑誌のコーナーに足を向けると、ここ数年で人気の出てきたモデル
璃端ri-haが雑誌の表紙を飾っている。

比べるのも何だけれど、璃端は非現実なイケメン。
玲は現実世界の親しみあるイケメンだなぁと思う。

隣に誰かが来て、璃端の表紙を見てフッと笑ったので
顔を上げた。

「…!?」
何と、隣にいるのは玲の相手でもあって僕とも同級生の
本庄要だった。

必死に顔には出さない様に慌てて、その場から離れた。
多分、バレてはないと思う。

けど、何なんだろう。すごく動揺している。

僕は中学時代の本庄しか知らないけれど。
玲が一瞬でも、好きだと思った相手と言うならば興味が沸く。
でも、関わり合いにはならないだろうとそのまま駅まで歩いた。


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