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魂のひとかけら。(辰海視点)

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初めて抱き合った時のしっくり加減が
なんだか、今でも忘れられなくて。

悠寅と出会うべくして出会い
俺が足りないと感じていた何かが
埋まっていく気さえした。

『魂のひとかけらを、俺の…前世の俺が食べてしまったんだよ。』
ある日の講義が終わった後、
家にそのまま帰るでもなく
悠寅とカフェに立ち寄って話していた。

どことなく勘付いてはいたけど、
悠寅と一緒にいると人目が気になる。
良くも悪くも目立つ容姿。
認めたく無いのに、認めざるを得ない。

俺しか見てない視線。
目が合うと少しだけ首を傾げて
わずかに笑みを浮かべる所も
俺1人が受けるにはちょっと重い?
と言うのか、反応に困る。

「それは、どういう…?俺の魂を」
『少し貰った。多分、そのせいでしばらくは
転生からは外されていた。』
「あぁ、なんか今やっとしっくり来たかも。」

自分の本音がうっかり出てしまう。
『へぇ?それはどう言う事?』
悠寅は、カップを手のひらに抱き込んで
ゆっくりと珈琲を味わっている。

「悠寅と、こう…抱き合った時に違和感が無くて驚いたんだよ。もっとぎこちない感じかと思ったのに。むしろ、吸い寄せられるみたいに自然で安心したんだ。」

目の前の悠寅は、あまり表情こそ変えて
いないけれど何か言いたそうに
視線を少し外した。
『いや…俺も似た様な事考えてはいたけど。まさかそれを辰海の口から聞けるとは思わなかったから。』

もしかしたら、照れているのかもしれない。
急にソワソワしだす悠寅を見て
この場で触れるべき話ではなかったかも。
と、少し後悔した。

「ぁ、今のナシ!忘れていいから。」
『はぁ?何でだよ。あーあ、お店じゃ無かったら危なかった。』
透けるような白さの長い髪、
瞳の神秘的な色味が本当に綺麗で
ちょっとだけ羨ましく思う。

どうして俺なの?
昔の事なんて忘れて、生きても
良かったのに。

前世の俺を襲った訳ではなくて、
本当は救いたかったのだと
伝えられた時。
また、遠い記憶が蘇る。

姿形を変えても尚、また目の前に現れる
白い虎。
「ずっと、片想いで苦しかった。」
『それは、辰として…?』
「愛憎だよ。せめてお前に殺されようと思った。喰われて終われば救われないかなって。」
『蝕まれていく辰を見ているのは、俺も辛かった。日に日に、人では無くなっていく。あまりに残酷だった。』

耳鳴りがする。真冬によくおきる
嫌な二重の音が交差する。

『辰海、そろそろ出よう。』
鋭い視線を感じて、悠寅を見ると
耳鳴りが治まった。

席を立って、レジで支払いを済ませる。
「なんか、話し込みたい気分。」
『俺もまだ、な。…珈琲いくらだった?』
「いいよ、よく払ってもらってるし。今回は俺持ちで。」
『…そっか、ありがとう。』

カフェを後にして、バス停まで歩く。
鼻の頭が耳が冷たい。
もうそろそろ冬の気配が訪れる。

「話足りなかった。ってよりは、内容がね。」
『俺とお前の世界の話だな。』
「うん。でも、みんなきっとそんな話してるよ。」
『やばかった。辰海が変な事言うから。』
「タガが外れちゃうって怖いね。」
『抱いたくらいで?』
「やめなよ、もーっ。誰か聞いてたらどうすんだよ。」

ついこの前、俺は悠寅に体をゆるした。
どこか夢や非現実みたいに
今でも信じ難いけど、確かに想いを
受け止めた。

悠寅の体温や表情、思い遣り方が
俺には眩しくて愛おしくて、
不思議とやっと手に出来た。
と、微妙な独占欲を満たしていた。

悠寅が俺を、ずっと追ってくれたら
嬉しい。なんて事を思う始末で、
前世の辰としての想いと今の俺の気持ちが
重なってしまう。

俺ってこんなヤツだったのだろうか?

そもそもの白虎の目的も、悠寅の目的も
本来同じはずなんだ。

おかしな話かもしれないけど、
やっぱり悠寅に好かれてると嬉しい。
「どうして、俺の魂のかけらなんて…」
数分遅れてやって来たバスに乗り込む。

『来世でもお前をすぐに見つけられる様に。』
「そんな事されたら、悠寅しか見えなくなるよ。」
当たり前のように、隣同士に座って
バスに揺られながら俺は悠寅の肩に
頭を少しもたれ掛ける。

『…だからだよ。』
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