オッサンと、鬼神(後に嫁)

あきすと

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宵闇ドッペルゲンガー

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「お前、…何でこんな所に?」

確か、美祢は宿屋にいるはずだったが。
いつもより、優しい瞳の美祢。
俺には、だいたい鋭い目つきでいるはずの美祢が。 

俺が寝泊まりしている宿の前に立っていた。
珍しいというか、何があったのかと聞きたくなる。

『…』
黙って俯く美祢。
卑怯だな、こういうのに
弱いの分かっててやってるだろ?
と、言いたいのを飲み込む。
ぐっ、と袂を引っ張られて
…どうも悪い気はしなかった。
「何か、あったか?話くらいなら聞いてやるよ。上がってけ。」

やれやれと、溜め息をつき
美祢を部屋へと案内する。

襖を開けて、座布団を敷き
座るように促す。
「待ってろ、今茶でも淹れてくる。」
『…ぁ、』
廊下にでようとした所を美祢が後ろ手で襖を閉めて
それを阻止した。
「お前…、一体どうした?」

なんだか、今日の美祢は
別人みたいで不思議な気持ちになる。
『…』
今にも、零れそうな瞳で
見上げられ立ちすくむ。

目を見張るような愛らしさだと思う。
考えるより先に、美祢を抱き締めていた。
美祢も、最初はびっくりした様子だったが両腕をまわしてしっかりと抱き返してくる。

ほんのり頬が紅いのが見受けられて、サラサラと美祢の髪を撫でる。
こんな、質感だったのか…。
ようやく、俺に懐いてくれる気になったかと
ほくそ笑む。

ならば、いっそ
このまま…!




『って、思ってこの有様なんて…情けないですよ?白島さん。』

クスクス楽しそうに笑う美祢。
「くっそ、あれは誰が見ても美祢だった…けど」
『けど?』
「美祢より、無駄に色っぽかった。」

最近やっと身体を起こせるようになった美祢。風邪をこじらせて、悪い咳が続いていたが俺の知り合いの薬師の薬で回復したのを聞いて会いに来た。

『え?俺は男なんですが…それより、俺そっくりな人が安芸の宿屋にまで来るなんて、気を付けて下さいね?なんだか、ただ事じゃない気がします。』

「あぁ、何か嫌な予感がする。あれは変装なんかじゃ無かった。美祢を写し取ったみたいに、そっくりなんだ。」

『…あちら側の人間の仕業と見ていいでしょう。』
「卑怯なやり方しやがって!あの日の本当の美祢は風邪で寝込んでたらしいな?柳部に聞いた。」

『はい、柳部さんに付添ってもらってました。』

美祢の姿を利用して…
はっ、だから口をきかなかったのか?声でバレてしまう事を恐れて。

「そうか。」
『それにしても、酷いなぁ。俺じゃないって判らないなんて。』

「すまん。美祢だと思い込んでたらしい。あまりに美祢が素直で、可愛かったんだよ。」
面白くなさそうに
美祢が頬を膨らます。

『ちょっと悔しい。俺はまだ安芸の宿屋に入った事すら無いのに。』

ぽそぽそと、不満げに
美祢がこちらを見る。

確かに、まだ深い仲では無いが伝わってくる想いの
温かさはお互いに感じては居た。

「元気になったら、遊びに来い。茶くらいは出してやるよ。」
『…ん。ありがとう。楽しみ。』

乾いた咳を何度かする
美祢の背中を摩る。
咳のし過ぎで、腹筋が痛いらしく背中を丸めて辛そうだ。

「よ~し、大丈夫大丈夫。」
『移るよ?安芸。風邪は治り際が移りやすいんだって。』
気を使ってくれているが、
こちらは不死だから
風邪を引いてもすぐに治る。
「美祢…」
『?どうしたの』
「あ、いや…何でも無い。」

美祢…もしも、
美祢が神格化されなかったら俺は二度と会えないんだな。
朔夜にも、美祢にも。

『安芸って、急に考え込んで遠い目とかする…。』
「すまん。」
『どうしたの?あんまり顔色良くないし…最近ちゃんと食べてる?寝てる?』

病み上がりの美祢が、健気にこちらの心配をしてくるのが愛しくて、まだ幼さの残る頬に手を伸ばす。
「お前は、自分の心配をしろ。俺は平気だよ。宿屋には世話してくれる者がいるからな。」

『そっか。なら、安心だ。』
「…髪長くて邪魔そうだな?」
『あ、うん。寝てると引っ張ったりするかな。』
「ちょっと、こっち…」
櫛を借りて、毛先の絡まりを解き少しずつ束を作り編んでいく。
一本一本が、しなやかで
綺麗な髪をしている。

『安芸。』
「ん?」
『これ、最後に縛って。』
髪紐を渡され、言われるように最後はそれでまとめた。
「よし。そんなにキツくは編まなかったから、張らないだろ?」
『…そうかも。あーあ、温泉にでも入りに行きたいよ。』
最近寝て過ごしていた美祢は、きっと退屈だったのと
心がほっとするようなものを求めているんだろう。

「しばらくしたら、連れてってやるよ。」
『え~…別に安芸と行きたくない。』

…何気に傷付く発言だ。
自分で言っておきながら。
可愛い顔して、とんだ性悪な奴だ。

「…チッ。」
『ぇ、何、舌打ちした?…怖っ。雰囲気から怖いのに、舌打ちすると近寄れないよ?誰も。』
「は、余計なお世話だ。」
しかし、前々から感じていた事なんだが…美祢といると調子が狂う。
だが、それが嫌じゃない。
『怖いよ?もっと優しい顔見せて。』

…っ、コイツは。

いつもは、お前の殺気の方がはるかに強いのに
こんな一面を見せられたら
単純にも心が動かされる。

「優しい、顔?」
『難しい?』
「まぁな。意識してると顔が引きつりそうだ。」

そっかぁ、と流されて
美祢が目を細める。
「そろそろ、帰るよ。悪かったな、病み上がりに。」

『えっ…、もう帰るの?安芸。』

あまり、無理をさせてはいけない身体なんだ、美祢は。
計画に支障をきたす。

「寂しいか?」
『…ん。今ちょっと気持ちがね。って…冗談。気にしないで。』
相変わらず嘘が下手だ。

「美祢…。」
『不安だよ。だって、俺にそっくりな人がいるんだろ?安芸、その人選んだりしないよね?』

………えーと。
「ど、…どうした?お前。」
『俺は…っ、安芸が…多分』
「えー……。」
やばい。この可愛い生き物がおかしくなった。
打ち明けて来そうなんだが。

「何言ってんだよ、お前俺が嫌いだろ?」
『…。うん。』
「ほらな、気の迷いだ、気の迷い。」

深刻そうに、うーん
と考え込む美祢。
『嫌いな時もあるけど、最近は安芸の夢見たりして…泣きながら目覚ましたりして、ちょっと俺おかしいのかも。』

「おかしいと言うよりは…心身共に疲れが溜まってるんだろ。急に、寂しくなるか?」
素直に、話してくれる美祢が抱き締めたいくらいに
愛しい。

『安芸、俺早く任務に戻りたい。こんな気持ち消したい。』
冷めた印象の瞳に
美祢が変わり、いつもの
鋭い視線に戻る。

どちらが、本当の美祢なんだろう?
答えは、簡単だ。

『こんな俺は、自分じゃない。』
「一番大切なものだけは、忘れないでくれ。」

そう告げて、美祢の額に
口付けた。


後日、美祢の任務の後始末に向かった。
「…こりゃ、ひどいな。」
無惨に切られた長かった髪が辺りに散らばっている。

俺が、美祢だと思っていた人物は本当の美祢によって始末されていた。

「あいつの何がここまでさせるんだ?」

もしかしたら、
独占欲か。

葵から、美祢と同じ姿の者を始末しろ。と命を受け、
柳部から美祢に伝えられた今回の任務。
抹殺しなければ、後々
動き辛い。と。それだけの理由だ。

暗殺者の同じ姿をした者が、もう一人いてはいけない。

すっかり元気になった美祢。それなのに、しばらく話しかけても美祢は冷たかった。

やはり、嫉妬していたのかもしれない。
言いはしないが。

「美祢は、一人で充分だな。」
『…当たり前だ。』
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