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『水を桶に張って、でないと流れてしまう。』
僕は、夕食を終えてからユークレースの言う通りに
お風呂場で桶に水を張ってみた。
「木目だから、見えにくい?」
『いや、大丈夫だろう。それ程にこの粒子には1粒1粒にまで魔力が
ちゃんとあるらしい。』
ドキドキしながら、2人で屈んで子供の様に粒子を
水面にゆっくりと注ぎこむ。
「どう…言う事?」
微細な粒子が、水上で意思を持ったかのように動き出す。
よく分からないけれど、眼を見張っていた。
ユークレースも、僕と同じ様に初めて見る現象に
驚いている。
金色の粒子の動きが完全に止まってから、
僕は浮かび上がる文字の様なものを見つつ
『文字だよな?』
「うん、見た事ない文字だよ。どう、読むんだろ?」
ユークレースの様子をうかがう。
触っても良いのか、分からないけれど。
僕が粒子に触れようとすると
『…獣人が、くれたんだったよな。』
「うん、そうだよ。…もしかして、読めそう?」
首を傾げていると、ユークレースが本棚の前に立って
『俺たち、の言語とは違うか。だとしたら』
なにか、文献を探している。
「そっかぁ、獣人の世界の言語だったら…僕には分からないよ。」
『分からないじゃ、終わりたくないけどな。俺は』
耳が痛い。優等生のユークレースの言葉が心に突き刺さる。
「だよね、折角僕に渡してくれたんだから。考えなくちゃ。」
分厚い文献を読み進めるユークレースの隣で、僕も
何らかの手がかりを探してみる。
『俺は、あの黒豹…いけすかないけどな。』
部屋の時計が、鳴る。
時間が溶ける様に流れて行った気がする。
「僕は、何とも言えないよ。」
ユークレースは、きっと僕が倒れた後に色々なやり取りが
あったんだと思う。
『近くを通りかかったのが、あの黒豹で…』
「進んで、診てくれたの?」
『まさか。俺が、鞄の証印に気が付いたから声を掛けたんだ。』
「証印って、あぁ…お医者さんって事か。」
『そう。多分、往診にでも出ていたんだろうな。俺は、診てくれるなら誰でも良かったけど。』
先程、言われた言葉が脳裏をよぎった。
種族が違うのは、ある意味ではどうしようもない。
ただ、彼が僕に何を伝えたかったのか。
人間が苦手なのに、どうして?と思う。
「諦めちゃ、駄目だよ。ちゃんと、お礼もしたいし。」
『世界が、2つだった時代のものかもしれない。なら、俺の持っている文献では
あまり、役には立たないだろうな。』
僕は、そろそろ卒業間近のアカデミアで
もしかしたら難題に挑んでいるのかもしれない。
「先生に、明日話してみるよ。古代魔法に長けてるから、2つの世界の魔導書も持ってるだろうから。」
『2つの世界の時代は、暗黒史に触れるようなものだからな。いつでも、俺も協力する。』
とは言え、卒業までは残り1月程しかない。
卒業課題にも追われている僕も、ユークレースも
解読できるのだろうか?
僕は、夕食を終えてからユークレースの言う通りに
お風呂場で桶に水を張ってみた。
「木目だから、見えにくい?」
『いや、大丈夫だろう。それ程にこの粒子には1粒1粒にまで魔力が
ちゃんとあるらしい。』
ドキドキしながら、2人で屈んで子供の様に粒子を
水面にゆっくりと注ぎこむ。
「どう…言う事?」
微細な粒子が、水上で意思を持ったかのように動き出す。
よく分からないけれど、眼を見張っていた。
ユークレースも、僕と同じ様に初めて見る現象に
驚いている。
金色の粒子の動きが完全に止まってから、
僕は浮かび上がる文字の様なものを見つつ
『文字だよな?』
「うん、見た事ない文字だよ。どう、読むんだろ?」
ユークレースの様子をうかがう。
触っても良いのか、分からないけれど。
僕が粒子に触れようとすると
『…獣人が、くれたんだったよな。』
「うん、そうだよ。…もしかして、読めそう?」
首を傾げていると、ユークレースが本棚の前に立って
『俺たち、の言語とは違うか。だとしたら』
なにか、文献を探している。
「そっかぁ、獣人の世界の言語だったら…僕には分からないよ。」
『分からないじゃ、終わりたくないけどな。俺は』
耳が痛い。優等生のユークレースの言葉が心に突き刺さる。
「だよね、折角僕に渡してくれたんだから。考えなくちゃ。」
分厚い文献を読み進めるユークレースの隣で、僕も
何らかの手がかりを探してみる。
『俺は、あの黒豹…いけすかないけどな。』
部屋の時計が、鳴る。
時間が溶ける様に流れて行った気がする。
「僕は、何とも言えないよ。」
ユークレースは、きっと僕が倒れた後に色々なやり取りが
あったんだと思う。
『近くを通りかかったのが、あの黒豹で…』
「進んで、診てくれたの?」
『まさか。俺が、鞄の証印に気が付いたから声を掛けたんだ。』
「証印って、あぁ…お医者さんって事か。」
『そう。多分、往診にでも出ていたんだろうな。俺は、診てくれるなら誰でも良かったけど。』
先程、言われた言葉が脳裏をよぎった。
種族が違うのは、ある意味ではどうしようもない。
ただ、彼が僕に何を伝えたかったのか。
人間が苦手なのに、どうして?と思う。
「諦めちゃ、駄目だよ。ちゃんと、お礼もしたいし。」
『世界が、2つだった時代のものかもしれない。なら、俺の持っている文献では
あまり、役には立たないだろうな。』
僕は、そろそろ卒業間近のアカデミアで
もしかしたら難題に挑んでいるのかもしれない。
「先生に、明日話してみるよ。古代魔法に長けてるから、2つの世界の魔導書も持ってるだろうから。」
『2つの世界の時代は、暗黒史に触れるようなものだからな。いつでも、俺も協力する。』
とは言え、卒業までは残り1月程しかない。
卒業課題にも追われている僕も、ユークレースも
解読できるのだろうか?
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