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クソ彼氏、必要です。

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『馬鹿じゃん、お前…。何やってんの?』
「久しぶりに会う、彼氏に……。ひっでぇ言葉~」

久し振りだって、自分でも自覚している。
年末は実家に帰ってて。
姉貴と義兄さんと甥っ子と、父親でしばらく一緒だった。

最悪なクリスマスをプレゼントされて、
誰にも愛されない聖なる夜を
寒空の下で過ごしていた。

俺には帰る家はある。
あるんだけど、心の在処は消えそうになっていた。
何があっても、不動の1番が央未でしかない。

クリスマスの事は、もう何も言わない。
ただ分かるのは目の前の央未の目が、今にも
涙でいっぱいで今にも零れ落ちそうな事。

新年早々、やって来た従兄に暴力を振るわれかけて
正月も明けてやっと落ち着いて来た頃に
央未が、実家を訪ねて来てくれた。

で、手土産を俺は玄関先で受け取り
央未を部屋に案内した。
運よく、他の家族は出掛けてるから都合がいい。
2階の自室に入ると央未は背後から俺に
抱き着いて来た。

珍しい。余程、今回の事が央未にもこたえたらしい。
『この意地っ張り…、電話もメッセージも無視してるなんて』
コートのままで抱き着いて来る央未は、少し嗚咽混じりだ。
「無視じゃない。あの時は、出ても話せそうになかったんだよ。」

例えばこの先も、今回みたいな事が起きてしまったらと思うと
心が軋む様に苦しい。
『俺、ちゃんと親にも…朔の事話すから。』

薄々気付いてはいた。
きっと央未の親御さんだったら、央未に心無い事を言って
しまうんじゃないかと。
少し、考えが堅くほとんど家にはいなくて
一人っ子の央未をかぎっ子にして、研究に明け暮れていたのだから
本当の、央未についてはもしかしたら見えていなかったのだろう。

自分の人生は自分で決めるものだと、央未はきっとかなり
早い段階から思っていたのかもしれない。

「言って、どうする?お前きっと勘当されるぞ?」
重いため息をついて、向き直り央未を抱きすくめる。

こじれにこじれて、俺は巻き添えを食って
央未と喧嘩してしまい、家を飛び出していった。
突然訪ねて来た央未の両親は、2人でささやかなクリスマスイヴを
堪能している時に、運悪く現れた。

後から聞いた話によると、央未の両親は
まだ央未に彼女が出来ない事や、クリスマスを
忙しく1人で過ごしているんじゃないかと
仕事帰りに、ケーキやその他諸々を買い込んで
様子を見に来たという。

『今更、誰と一緒になれっての?朔だって、同じでしょ。』
腰に絡む両手が、やっぱりなんか愛おしくて仕方ない。
本当に、目の前の央未って奴はどうしてこんなにも
俺の心を捕らえるのが上手いのか。

ゆっくりと顔を上げて、伏せてた瞳が合うと
自然と嬉しそうな笑顔をこぼす。
コイツはれっきとした男だ。
でも、女よりも不意に耽美で、いつも少し物憂げで
放っておけない不思議な存在。

性別でさえも、関係ないと思わせてくれた
俺の規格外な男だ。

「去年さぁ、温泉行ったじゃん?」
『ぅん。もう、去年なんだね…』
「丁度今くらいの時期に、楽しかったよなぁ。」
『…また、行きたい。』
「……許すのか?それで」

一応、喧嘩別れだけはしたくない。
いや、別れるだなんて本当は思ってもいない。
俺も、央未に捨てられたくなくて。
情けない程に依存してる。
互いが互いを縛り合ってる。

『許すも許さないも、無いよ。だって、まだずっと俺は…朔の事、』

今更、頬真っ赤にして口ごもる。
あーくそ。こんなの絶対無意識でやってるだなんて
信じられない。
けど、央未だから信じてしまう。

あんな痴態晒せるくせに、まだ自分を白だと思い切ってる。
ムカつくくらいに可愛いって思う自分に、今日もまた
理性が切れてしまいそう。

「新年早々、ヤられたそうな顔してんじゃねぇぞ…クソ…ッ!」
脱げよ、って言えば目を丸くして何か言いながらダウンコートを脱いで
恨めしそうに俺をねめつける。

2週間くらい、俺は央未の匂いも忘れてただ
心を空にして暮らしていたんだ。
白いアラン模様のニットが、よく似合っている。
少し身軽になった央未に、俺はベットの上でなすりつかれている。

『帰って来てよ、朔…もう一回ちゃんと話がしたいから。』
「……帰りはするけど、今日すぐってのは難しいかな。荷物もあるし。」
『俺も、運ぶの手伝うからさ。』
「週末、週末でないと落ち着かない。」

言えば言う程、央未の表情が曇っていく(これはこれで可愛いけど)
『今週始まったばっかり…なのに?』
央未の頭突きを肩に受けながら、俺はへらへら笑っている。
「お前は~…、猫かよ?」
ムスッとして、だんだん拗ね始める央未を見てると
楽しくなってくる。

『もう!折角迎えに来たのに…いいよ、解った。』
やば、さすがに意地悪しすぎたか?

「央未、解った。荷物は後にするから…拗ねるなよ、な…?」
頭をそっと撫でると央未は両手で顔を押さえてる。
『絶対、解ってない!朔は。俺の事からかって玩具にするの、そんなに楽しい?』
~…央未はかなり思い込みが激しいタイプだから参る。

「帰るって、今日…今でもいい。」
信じてもらわない事には、始まらない。
泣かれると面倒くさい。
『…っ、っふふ…朔?』

急に笑い声に変わって、パッと手をどけてみせた央未の顔は
薄っすらと目が紅いながらも、無理に笑っている気がした。
「帰る。嘘じゃない。俺はお前が単純に心配になって来た。」
俺の世界には、央未が必要だ。

央未の世界にも、俺が必要なんだって
改めて実感できた。

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