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はた、と。

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明日には別れてるかもしれない。
こんな事を想ったのは、一度や二度では無いし。
本当の所を言えば、絶対的な自身だって持っているはずも無いのだから。

「クソ彼氏が、俺の思う様な本当のクソ彼氏だったら…俺もちょっとは楽だったのに。」
実家から帰ってすぐに、俺は朔の元に行く。

心の置き場所が、見つからない時は
不安になって。
必死になり朔を求めてしまう、昔からの
隠したい自分の癖だった。

何もかも解りきっているであろう、朔の顔には
薄い笑み。

『あの堅物の両親に、勘当されて来たのか?』

よくもまぁ、軽々しく言ってくれると思う。
俺の半分の原因だって…言えはしないけど。
こんなにも魅力的な人たらし。
俺だって、少なくとも…子供の頃の夢?は
途中までは自分の両親みたいな家族を持つ事だと思っていたのに。

蓮花寺 朔という、人の姿をした言わば
【悪魔】に心を奪われたのは、自分にも隙があったから。

よく話す唇を塞ぐのにも、随分と手慣れてしまったし。
薄く混じる吐息の湿りでさえも、心地よくて抱き締めあう。
朔の後頭部を抱き込む圧迫感に、頭はクラクラしていく。

「俺の人生、は…っ、朔が現れてから…ん、やっと始まった…」

朔の部屋は、昔の青い思い出が沢山あるから
ついつい、昔に戻った錯覚に陥る。

心の中の波打つ罪悪感と、背徳の香り。

男に、組み敷かれる事の意味をこの体に深く刻み込まれて。
初めて、人によって俺は変えられてしまった気がした。

『俺だって、初めて…他人を内側から変えてしまった。って、それなりに苦しかったけどな。』
事後だから、体は気だるくてとりあえず寒いから
朔に抱き着く。

「はぁ、…ね…?寒くないの、朔は」
良い体に仕上がってるのは、言うまでもない朔の上半身。
筋肉もついてはいる。
腕と、足が特にドキドキするくらいのしなやかな質感。

ちょっとだけ、意識的に触れてみて
『カラダ、大丈夫かよ?ちょっと勢いに任せたっぽいから…』
俺は、珍しく殊勝な言葉にクスクスと笑って。

指先で、朔の腕の節をゆっくりとなぞる。
抱かれるのも、さんざん慣れてはいるけど。

時々は、思い出したみたいに気恥ずかしくなるから。
「大丈夫な様にしか、朔は抱かない癖に。俺には結構優しいんだと思うよ。」
『お前の体、傷付ける趣味は無いからな。』

ほら、もう…こういう所だよ。
俺が朔から離れられないのは。
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