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揺れる心
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きゅん。は、強さと優しさを持ったボーカリストだ。
俺が、初めてライブで聞いた曲は、バンドの中でも特別な曲とされていて
締めくくりには必ず、きゅん。は真面目に唄う。
おふざけに見える衣装も着替えて、髪は下ろし、素に近い
きゅん。が唄うのは「もう、会えなくなった友人へのうた。」
俺は、これを間近で聞いてしまって。
後悔にも近い思いで、胸が痛んだ。
聞いている人、大半が泣いている。異様な光景。
いや、そもそも…きゅん。が、泣いているからだ。
きゅん。に泣かれると、とても耐えられない。
きゅん。の涙の重さを知っているからだ。
偽りばかりに見えるようで、何にも隠してはいない事を
知った時、俺はやっぱりきゅん。が愛おしくてたまらなかった。
本名も、家とのことも。
きゅん。は、付き合い始めの頃言っていた。
来世にも期待できないから、今、髪を伸ばして好きな服を着て、大好きな
ろっくんと、一緒にいられる事が幸せだと。
170cm程の美青年は、こんな平凡な俺に幸せだと言った。
「きゅん。は、俺でよかったのか?」
『…ろっくんこそ、きゅん。で、良かったの?』
良かったに決まってる。
人の心の痛みが分かるきゅん。は、内面も綺麗だから。
家で、作曲の仕事を受けたり動画編集をしたりして実は結構、きゅん。は忙しい。
根がお人よしだから、依頼も重なったりすると追い詰められて
それで、さっきみたいに電池切れを起こして、畳の上で寝てしまう。
この家は、きゅん。の祖母が暮らしていたらしく今は、きゅん。が住んでいて
俺はただの同居人。
時間が、ゆっくりと流れる庭先、縁側。
きゅん。の心に根付いている、懐かしくて温かい日常の景色。
2階に上がると、開けっ放しの窓辺の風鈴が響く。
そろそろ、夏の終わりのツーンとした寂しさを誘う調べに思えて来た。
箪笥部屋の前を通りかかると、しゃがみ込んでいるきゅん。が、服を物色してる。
「きゅん。ぱんつさー、あるの?」
『見えてる?見える丈のは持ってないから…ぇーっと、』
引き出しを開けたり閉めたり、何を探してるんだろ。
「その部屋、暑くない?いい加減にしておけよ。」
俺は、2階の洋室に部屋を貰っているので
自室があるだけで、何となく心に余裕があった。
プライベートな空間を持てるという事は、ありがたい。
まぁ、寝る時はきゅん。がさっき居た和室になるんだけど。
冷凍庫から持って来た、ソーダバーを半分に割ったタイミングで
部屋にきゅん。が入って来た。
扇風機の羽根の音を聞きながら、目を閉じてアイスを噛む。
このキシキシ感が、実はあんまり好きじゃない。
きゅん。は、側に来て片割れのソーダバーを手にすると
部屋に合わないパイプ椅子に座った。
やたらと長い髪と脚。
腕も長い。
目を開けると、
「ほぼ、下着じゃん。」
『水着も、こんなもんでしょ。あつーい…』
「ぇー、せめてスカート履けよ。目のやり場に困るから」
『スカート?スカートめくれた方が喜ぶくせに、何言ってんだ。』
ガシガシ、アイスを食べているきゅん。は、暑さのせいか荒れている。
「準備してたんじゃないの?」
『ぇ?あ…、そうだけど』
歯切れが悪く、視線は遠くに。きゅん。は、分かりやすい。
「何もしないって…。今まだ暑いし、くっつきたいとも思わないし」
『…きゅん。寝てる時にさ、何か変な夢見たんだよね。』
「どんな夢?」
『きゅん。夢の中で…男としての生が終わったの。そんで、この体にしてもらった、って夢。』
「で、起きたらこうなってた、と。」
えぇ、と俺は意味もなく怪訝な顔をしてみたけど。
きゅん。は、案外冷静で、淡々としているのは
きっと、夢での出来事と現状に、納得しているからだろうと思った。
「良かったんじゃないの?女の子…、可愛いし」
『そんな単純なもの?こっちはずっと男として、生きて来たのに…。色んな事、あきらめたり
耐えたりして来て、いきなりこんなのは、ちょっと、心がまだ追いついてない。』
忘れてたけど、きゅん。は、わりと賢い学校出てるし、努力もしてきのだ。
俺みたいに、棚ぼたを期待しているような性格ではない。
うーん、そういう所がまた、意外で。
ますます好きな要素だって思う俺。
「現実を、楽しんでこそデショ?俺は、きゅん。が水着ギャルでも問題が一つもない。」
『ろっくんみたいに、都合よく考えられないの。いつ戻るのかも、分かんないのに…。』
「いや、もう戻んないっしょ?だって、きゅん。の前の体は…男としての体はダメで、今の体に
なったんだろ。」
『まさか~、そんなの信じられる訳ないし。ろっくん、嘘みたいだって思わないの?』
「あんまり、思わない…かな。あ~、俺の彼女がとうとう、ってくらい。」
きゅん。は、アイスの木の棒を眺めてため息をついた。
いや、水着…と言うかホント、下着でチラチラ現れるのマジで止めて。
ゴミ箱に棒を捨てて、きゅん。は
『なんか、モヤモヤするし…お風呂入って来る。』
きゅん。の奴、この暑いのに風呂が入れるってのはスゲェ。
無駄にいいスタイルを見せつけるでもなく、
階下に行った、きゅん。
「あんな体になっても、やっぱりきゅん。は、きゅん。でしかないな。」
ホッとしたような、ガッカリしたような。
「…あれ?なんで下着とか持ってるんだよ。さすがに、ライブの衣装でも無いだろうし。」
きゅん。の生態は、どっちにしても謎だらけだった。
考えても、キリがない。俺は下の台所で晩飯を作る。
きゅん。に料理を作ってもらうと、後々面倒なので、食事は俺が担当していた。
しばらくして、食卓に皿が並ぶ頃、神妙な面持ちのきゅん。がやってきた。
「今日も、また可愛いナイティだな。」
『うん…。』
「どうした?元気ないみたいだけど…、」
『ろっくん、きゅん。体、なんだかよく分からないんだよね。』
「…別に、付いてるか、付いてないかくらいの差だろ。」
けろっと答えると、
『ばか。然違うんだからね!!女の子の体は、心もだけど…もっとデリケートで、センシティブなの。』
何があったのかは分からないけど、早速怒られてしまった。
きゅん。は、そのままスリッパをならして
2階へと上がって行った。
なんか、めんどくさそうな予感しかしなくなって来た。
俺が、初めてライブで聞いた曲は、バンドの中でも特別な曲とされていて
締めくくりには必ず、きゅん。は真面目に唄う。
おふざけに見える衣装も着替えて、髪は下ろし、素に近い
きゅん。が唄うのは「もう、会えなくなった友人へのうた。」
俺は、これを間近で聞いてしまって。
後悔にも近い思いで、胸が痛んだ。
聞いている人、大半が泣いている。異様な光景。
いや、そもそも…きゅん。が、泣いているからだ。
きゅん。に泣かれると、とても耐えられない。
きゅん。の涙の重さを知っているからだ。
偽りばかりに見えるようで、何にも隠してはいない事を
知った時、俺はやっぱりきゅん。が愛おしくてたまらなかった。
本名も、家とのことも。
きゅん。は、付き合い始めの頃言っていた。
来世にも期待できないから、今、髪を伸ばして好きな服を着て、大好きな
ろっくんと、一緒にいられる事が幸せだと。
170cm程の美青年は、こんな平凡な俺に幸せだと言った。
「きゅん。は、俺でよかったのか?」
『…ろっくんこそ、きゅん。で、良かったの?』
良かったに決まってる。
人の心の痛みが分かるきゅん。は、内面も綺麗だから。
家で、作曲の仕事を受けたり動画編集をしたりして実は結構、きゅん。は忙しい。
根がお人よしだから、依頼も重なったりすると追い詰められて
それで、さっきみたいに電池切れを起こして、畳の上で寝てしまう。
この家は、きゅん。の祖母が暮らしていたらしく今は、きゅん。が住んでいて
俺はただの同居人。
時間が、ゆっくりと流れる庭先、縁側。
きゅん。の心に根付いている、懐かしくて温かい日常の景色。
2階に上がると、開けっ放しの窓辺の風鈴が響く。
そろそろ、夏の終わりのツーンとした寂しさを誘う調べに思えて来た。
箪笥部屋の前を通りかかると、しゃがみ込んでいるきゅん。が、服を物色してる。
「きゅん。ぱんつさー、あるの?」
『見えてる?見える丈のは持ってないから…ぇーっと、』
引き出しを開けたり閉めたり、何を探してるんだろ。
「その部屋、暑くない?いい加減にしておけよ。」
俺は、2階の洋室に部屋を貰っているので
自室があるだけで、何となく心に余裕があった。
プライベートな空間を持てるという事は、ありがたい。
まぁ、寝る時はきゅん。がさっき居た和室になるんだけど。
冷凍庫から持って来た、ソーダバーを半分に割ったタイミングで
部屋にきゅん。が入って来た。
扇風機の羽根の音を聞きながら、目を閉じてアイスを噛む。
このキシキシ感が、実はあんまり好きじゃない。
きゅん。は、側に来て片割れのソーダバーを手にすると
部屋に合わないパイプ椅子に座った。
やたらと長い髪と脚。
腕も長い。
目を開けると、
「ほぼ、下着じゃん。」
『水着も、こんなもんでしょ。あつーい…』
「ぇー、せめてスカート履けよ。目のやり場に困るから」
『スカート?スカートめくれた方が喜ぶくせに、何言ってんだ。』
ガシガシ、アイスを食べているきゅん。は、暑さのせいか荒れている。
「準備してたんじゃないの?」
『ぇ?あ…、そうだけど』
歯切れが悪く、視線は遠くに。きゅん。は、分かりやすい。
「何もしないって…。今まだ暑いし、くっつきたいとも思わないし」
『…きゅん。寝てる時にさ、何か変な夢見たんだよね。』
「どんな夢?」
『きゅん。夢の中で…男としての生が終わったの。そんで、この体にしてもらった、って夢。』
「で、起きたらこうなってた、と。」
えぇ、と俺は意味もなく怪訝な顔をしてみたけど。
きゅん。は、案外冷静で、淡々としているのは
きっと、夢での出来事と現状に、納得しているからだろうと思った。
「良かったんじゃないの?女の子…、可愛いし」
『そんな単純なもの?こっちはずっと男として、生きて来たのに…。色んな事、あきらめたり
耐えたりして来て、いきなりこんなのは、ちょっと、心がまだ追いついてない。』
忘れてたけど、きゅん。は、わりと賢い学校出てるし、努力もしてきのだ。
俺みたいに、棚ぼたを期待しているような性格ではない。
うーん、そういう所がまた、意外で。
ますます好きな要素だって思う俺。
「現実を、楽しんでこそデショ?俺は、きゅん。が水着ギャルでも問題が一つもない。」
『ろっくんみたいに、都合よく考えられないの。いつ戻るのかも、分かんないのに…。』
「いや、もう戻んないっしょ?だって、きゅん。の前の体は…男としての体はダメで、今の体に
なったんだろ。」
『まさか~、そんなの信じられる訳ないし。ろっくん、嘘みたいだって思わないの?』
「あんまり、思わない…かな。あ~、俺の彼女がとうとう、ってくらい。」
きゅん。は、アイスの木の棒を眺めてため息をついた。
いや、水着…と言うかホント、下着でチラチラ現れるのマジで止めて。
ゴミ箱に棒を捨てて、きゅん。は
『なんか、モヤモヤするし…お風呂入って来る。』
きゅん。の奴、この暑いのに風呂が入れるってのはスゲェ。
無駄にいいスタイルを見せつけるでもなく、
階下に行った、きゅん。
「あんな体になっても、やっぱりきゅん。は、きゅん。でしかないな。」
ホッとしたような、ガッカリしたような。
「…あれ?なんで下着とか持ってるんだよ。さすがに、ライブの衣装でも無いだろうし。」
きゅん。の生態は、どっちにしても謎だらけだった。
考えても、キリがない。俺は下の台所で晩飯を作る。
きゅん。に料理を作ってもらうと、後々面倒なので、食事は俺が担当していた。
しばらくして、食卓に皿が並ぶ頃、神妙な面持ちのきゅん。がやってきた。
「今日も、また可愛いナイティだな。」
『うん…。』
「どうした?元気ないみたいだけど…、」
『ろっくん、きゅん。体、なんだかよく分からないんだよね。』
「…別に、付いてるか、付いてないかくらいの差だろ。」
けろっと答えると、
『ばか。然違うんだからね!!女の子の体は、心もだけど…もっとデリケートで、センシティブなの。』
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