高校球児は悪役令嬢?!天才野球少年は婚約破棄したいっ!

マキバチャン

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第一部 悪役令嬢ってなんなんですの?!

ハッピーバースデッドボール

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突然、頭部に激しい衝撃が走り、その場に崩れ落ちてしまう。カナリアはこの国の皇太子の婚約者として誰よりも大切に育てられてきた。彼女の16歳の誕生日は国を挙げての祝事とされ、彼女にとって輝かしい日になるはずだった。

薄れゆく意識の中、カナリアははっきりと意識した。

…―デッドボールだ、これ。


カナリア・アーネラ・ロアディンは、この国で最も高貴な女性となることが約束された存在だった。カナリアはステラサール帝国で最も高位の公爵家の生まれだ。ロアディン公爵家は古くから皇家に忠誠を誓い、誰よりも近くで皇帝を支えてきた神官の一族である。

これまでの歴史では、絶大な権力を持つ者同士、皇家との婚姻はある種のタブーとされていた。

しかしカナリアがこの世に生を受けたとき、背中に双翼にも似たあざがあり、それがこの国の神である龍神の加護の象徴であるとされ、その後に生まれた王子との婚約が成立したのであった。

龍神の加護を持つ女性が皇家に嫁ぐと、帝国はさらなる繁栄を迎えるとされている。繁栄とは、侵略戦争に勝ち、領土を広げることであると考えられていた。


カナリアの16歳の誕生日は、国事として盛大に祝われることになっている。

カナリアはこの日、早朝に目を覚まし、半日かけてようやく身支度を整えた。コルセットをいつも以上にきつく締めあげたせいで食欲も湧かない。どことなくイライラした気持ちを抑えきれず、侍女に八つ当たりをしてしまう。

「いつもより紅茶の温度が1度低いわ」

正直、紅茶の温度なんてカナリアには分からなかった。それでも言わずにはいられない。侍女は震える声で「申し訳ございません」とつぶやいた。

「もういいわ。外に出ましょう。あなたの淹れたお茶なんて飲みたくないから」

言ってしまってから後悔する。ほとんど食べられていないから、紅茶だけでも飲んでおきたかったのに。ぬるいと言ってしまった手前、甘い砂糖がたっぷり入った美味しい紅茶をがぶ飲みするわけにもいかない。あくまでも高貴な女性らしく席を立ち、そのまま庭園へと向かった。

カナリアのぴりぴりとした雰囲気を感じ取っているせいか、侍女はおそるおそるといった様子で隣を歩く。緊張のためか手がわずかに震え、カナリアのためにさしている日傘は不安定に揺れていた。

「ちょっとあなた。やる気がないのなら別の侍女と代わってくださる?」

そんなに怖いなら別の侍女に代わった方が良い。カナリアは侍女に怖がられたいわけではなかった。

「い、いえ。誠心誠意努めさせていただきます」

日傘を差すのに誠心誠意も何もない。

「もういいわ。傘をたたんで」

カナリアの言葉に、侍女は明らかに戸惑った表情を見せる。

「ですがお嬢様、日に焼けてしまいます。お嬢様のお肌はこの国の宝…」

令嬢の肌ごときが宝だなんて、ずいぶん貧しい帝国だ。世界最大の勢力として富を築いたこの国に見合わない。

「わたくしがいいと言うのだから、おとなしく従ってちょうだい。口答えを許した覚えはなくてよ」

そこまで言うと、侍女はようやく傘をたたんだ。


式典の開始まではまだほんの少しだけ時間がある。ロアディン公爵家の庭園には、アロアロと呼ばれる色とりどりの花が植えられていた。

カナリアはこの花が好きだ。特に、公爵家でしか見ることができない水色の花を眺めることが大好きだった。

身支度はもうすっかり終わっていて、つややかな黄金色の髪は絢爛な宝石で飾り立てられている。しかしカナリアは、このアロアロを髪に挿したいと思いついた。そして最も美しいアロアロの花に手を伸ばした、その時に…”何か”がカナリアの頭に直撃した。

侍女たちの悲鳴を聞きながら、カナリアはその場に倒れこむ。何が起こったのかわからないはずなのに、彼女は鮮明に思い出していた。これはデッドボールだ。

わたくしは、いや、俺は…あの日、甲子園の開会式に出席していたはずだ。自分で言うのもなんだが、俺は天才だった。エースで四番という絶対的な地位と、比類なき野球センスを称えて与えられた「龍王」という称号。そして、大好きな元マネージャーの花蓮さん…。何もかも忘れていた。俺は高校球児だったんだ。
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