元競走馬の転生ヒロイン、恋を知る…その前に、人間の常識から学びましょうか!

マキバチャン

文字の大きさ
8 / 12

8 最後の攻略対象は誰?

しおりを挟む
この学園は全寮制で、一人につき一部屋が与えられている。

「改めて見ると、広すぎますねこの部屋…!馬房の5倍くらいあります!」

『貴族が通う学園だからな。ちなみに、サラを引き取ったのは侯爵家なのでもっとすごいぞ』

サラがこの世界で目覚めたときには、すでに学園の寮にいた。自分を引き取ってくれたらしい侯爵の顔は知らない。

それどころか、つい最近亡くなったばかりという設定であるらしい両親の顔も知らないのである。

もっと言うと、サラには爵位が分からない。侯爵家と言われても、どのくらいの地位なのか全く分からなかった。

「爵位って要は、G1、G2、G3…みたいな感じですか?王はG1、公爵はG2、侯爵はG3みたいな…」

『なんか違う気もするけど…まあいいや、それで』

G3一族と思えば、確かにすごい。いや、G3一族って自分で言いながらよく分からないけれど。

「侯爵との”イベント”もあるんですか?」

『いや、ない。侯爵はサラの父の弟だからな』

「まあ確かに血が濃すぎる気はしますね…でも、それほど問題はないのでは?ダビサイでは”危険な配合”ではないですよね」

競馬ゲーム・ダビサイにおける”危険な配合”とは、血量50%以上の組み合わせのことを言う。血量50%というのは、親のうちのどちらかが同じであった場合が該当する。

つまり、ゲームの世界においてサラブレッドの交配は兄弟や親子でない限り”危険な配合”ではないのだ。

これには現実のサラブレッドの血統観がかかわっている。

サラブレッドには近親交配の馬が多い。三代前の祖先と四代前の祖先が同じであった場合、それは「奇跡の血量」と呼ばれる素晴らしい配合ということになる。

つまり、サラブレッドの世界では近親交配が推奨されているような状態なのだ。とはいえさすがに侯爵とサラの関係では血が濃すぎてリスクが高い。

『サラブレッド的にはセーフでも人間的には結構アウトなのよ…叔父姪はなんていうか…特殊性癖に近くなっちゃうかな』

「ほほう…人間って難しいですね」

『代わりに、侯爵の養子とのイベントがあるから安心してくれ』

侯爵には養子がいるらしい。ということは、私とは義理の兄弟ということになるのかな?

サラは義理の兄弟という概念を知らなかった。それでも頭の中にすっとその言葉が浮かんできたので、やはり神様パワーはすごい。

「義理の兄とのイベントですか?」

『いや、弟だ。名前は…出会ってから説明しよう』

弟キャラの八代スタリオンステーションの種牡馬なんていたかな…と、サラは思いを巡らせる。まあ、正直別に誰でもいいのだけれど。

「寮で暮らしてるということはしばらく会う機会ありませんよね?」

『いや、ヤンデレ系のシスコン弟なので学園に乗り込んでくる』

ヤンデレもシスコンも初めて聞く言葉だ。神様パワーで大体の言葉の意味は分かるけれど、概念そのものが意味不明な場合はすんなりと理解することができない。

「ヤンデレもシスコンもあまりよく理解できていませんが、乗り込んでくるということはなかなか骨のありそうな牡馬…じゃなくて男子ですね。常に勝利を目指す必要がある競走馬の父としてはアリかもしれません!」

『ヤンデレのシスコン弟に骨があるかどうかは分からないけど…ま、とりあえず明日もまた”イベント”があるからゆっくり休むといい。ちなみに、初日に気になった男はいたか?』

神様の言葉に、サラはベッドにごろんと横たわってから考える。

「うーん…確かにみんな素晴らしい種牡馬なんですけど、何かが足りないんですよね」

特にプロフォーンド王子はとてもいい筋肉を持っていた。彼との子はきっと強くなるだろう。

それなのに、どうしてだろう。足りないものなんてないはずなのに。

―「君にピッタリのお婿さんが見つかった。君を名馬の母にしてくれるはずだ」―

誰かの言葉が頭に響く。

彼が選んでくれたらいいのに。彼の言うことならば、全て信じられる。

胸が痛くなったのは、思い出せないせいだろうか。それとも、彼自身が私の相手になることが絶対にないと分かっているからだろうか。

静かに目を閉じたサラは、そのまま深い眠りに落ちたのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~

紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。 「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。 だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。 誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。 愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

転生賢妻は最高のスパダリ辺境伯の愛を独占し、やがて王国を救う〜現代知識で悪女と王都の陰謀を打ち砕く溺愛新婚記〜

紅葉山参
恋愛
ブラック企業から辺境伯夫人アナスタシアとして転生した私は、愛する完璧な夫マクナル様と溺愛の新婚生活を送っていた。私は前世の「合理的常識」と「科学知識」を駆使し、元公爵令嬢ローナのあらゆる悪意を打ち破り、彼女を辺境の落ちぶれた貴族の元へ追放した。 第一の試練を乗り越えた辺境伯領は、私の導入した投資戦略とシンプルな経営手法により、瞬く間に王国一の経済力を確立する。この成功は、王都の中央貴族、特に王弟公爵とその腹心である奸猾な財務大臣の強烈な嫉妬と警戒を引き寄せる。彼らは、辺境伯領の富を「危険な独立勢力」と見なし、マクナル様を王都へ召喚し、アナスタシアを孤立させる第二の試練を仕掛けてきた。 夫が不在となる中、アナスタシアは辺境領の全ての重責を一人で背負うことになる。王都からの横暴な監査団の干渉、領地の資源を狙う裏切り者、そして辺境ならではの飢饉と疫病の発生。アナスタシアは「現代のインフラ技術」と「危機管理広報」を駆使し、夫の留守を完璧に守り抜くだけでなく、王都の監査団を論破し、辺境領の半独立的な経済圏を確立する。 第三の試練として、隣国との緊張が高まり、王国全体が未曽有の財政危機に瀕する。マクナル様は王国の窮地を救うため王都へ戻るが、保守派の貴族に阻まれ無力化される。この時、アナスタシアは辺境伯夫人として王都へ乗り込むことを決意する。彼女は前世の「国家予算の再建理論」や「国際金融の知識」を武器に、王国の経済再建計画を提案する。 最終的に、アナスタシアとマクナル様は、王国の腐敗した権力構造と対峙し、愛と知恵、そして辺境の強大な経済力を背景に、全ての敵対勢力を打ち砕く。王国の危機を救った二人は、辺境伯としての地位を王国の基盤として確立し、二人の愛の結晶と共に、永遠に続く溺愛と繁栄の歴史を築き上げる。 予定です……

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

処理中です...