過負荷

硯羽未

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第23話 記憶のかけら

23-1

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 今夜はまひるのところで寝る、と言い残して壱流はいなくなった。もしかしてまた俺と一緒のベッドで寝てしまったりするのだろうかとうっすら考えていた俺にとっては、肩透かしを食らうと同時に安心もした。
 すぐ隣にあるまひるの住む部屋で壱流が何をしようと、俺には関係がない。仮にも結婚しているのだから。普通の夫婦じゃないことも思い知らされてはいたが、考えても仕方なかった。

 一人部屋に戻り、棚に入っていたディスク類を漁ってみる。今まで出演した番組の録画やMVなんかが整理されていた。
 思い出せたら良いのにと、適当にラベルの貼られているそれらをいくつか眺めていたら、奥の方の目立たない場所に、明らかに浮いてるパッケージを発見する。見事に頭の禿げ上がった老人が、扇子を持って座っている。
「──落語って」
 何をこそこそと隠してあるのだろう。
 俺が買ったのだろうか。落語がどうとか言うわけじゃないが、俺の趣味ではない。俺が知る限り、壱流も特にそういう趣味はないはずだ。ここは俺の部屋だし、壱流がこっそり置いてゆくわけもないだろうと、なんとなくそれを開けてみた。

「……ん?」
 どんな趣味だったんだ過去の俺、という興味から開けてみたのだが、つや消しホワイトの円盤にパッケージのタイトルは印字されていない。無印のディスクだ。
 表面にマジックで『壱流には見せないこと』と俺の字で書かれてある。
 ……なんだこれは。
 今落語を鑑賞する気力はなかったが、ふと気になる。

 俺は記録を残してはいなかったか。

 先ほどの疑問がまた湧いてくる。
 もしかしてこれは俺の『記憶のかけら』ではないのか。
 そう思ったので、テーブルに置いてあったノートパソコンの電源をオンにして、ドライブに挿入した。
 きりきりと音を立てて回り出すディスク。中身を確認すると、いくつかのファイルが入っている。ファイル名は『20**1005』、『20**1220』……などとある。これは明らかに日付だ。

 日記……とか。
 少なくとも落語ではない気がする。一番古い日付のファイルをクリックすると、すぐにアプリケーションが立ち上がった。
「──う」
 開いてみて、思わずがっくりした。
 いきなり始まった男女の濃厚な営み。……落語と思わせておいて、思いっきりAVじゃねえか。
 期待させやがって俺! 趣味のエロ収集か!? とか憤りを抱きつつも、ついついうっかり見入ってしまう。
 どんな罠だこれは。わざとらしいほどに甘ったるい女のあえぎ声にちょっと股間がじりじりしてきた頃、急に映像がすり替わった。

 ……画面の中に、俺がいる。

「また罠かよ」
 俺がAVに出ている、というわけではない。映っているのは俺一人で、場所は多分今いるこの部屋だ。
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