過負荷

硯羽未

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第29話 建設的な意見

29-2

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 そんなに突っ込むこともせずにベッドの中からあっさり抜け出した壱流は、服を拾い上げながら部屋を出てゆこうとする。あっさりし過ぎな気もした。ベッドに残った温もりを指先で撫で、なんとなく残念に思う。

 ……何故。
 何故残念に思う、俺。

 壱流が部屋を出てドアを閉めようとするその間に俺はぐだぐだといろんなことを考え、思い切って言ってみた。
「なあ! もちっとぶっちゃけた話、してくんねえ?」
「──え?」
 振り向いた顔は、若干面倒臭そうだった。



 朝の情報番組が流れるリビングで、今日もまひるが用意してくれた朝食を二人で食べながら、どうしてまひるは一緒に食べないのだろうと疑問が浮かんだ。昨夜は三人分の食事が用意されていたのに、朝は一人分足りない。
「ああ、なんでだろうな。朝は食べないとか」
 壱流は他人事のように呟いて、すぐに黙々と食事に戻る。先ほど俺が言ったぶっちゃけた話は、まるでしようとしない。もう一度くらい催促してみないと駄目だろうか。

「さっきの続きだけど。はっきりしようぜ? おまえがどうしたいのかわかんねえと、俺も対応のしようがないんだよな。『俺にもわからない』とか言ってねえで、なんか希望を言えよ」
「──希望、ね」
 壱流は困ったように目を逸らし、惰性でTVを見つめた。なんのことはない芸能ニュースがやっている。誰と誰が破局したとか、誰が出産したとか、知らなくても生きてゆく上でまるで支障のない話題が次々と出ては消えてゆく。

「ZIONの入江竜司、記憶喪失」
「……はあ? なに言って」
「なんてニュースが流れたら、インパクトあるよな」
 ふざけた口調の壱流に、ちょっとむっとする。いきなりなんなのだ。
 まさかそれが希望か?
 俺が記憶喪失だってことを、世間に公表したいとでも?
 むっとしている俺に視線を戻して、壱流は小さく笑んだ。

「だけどそれは、ここだけの秘密にしておきたいんだ。だから、竜司がもう二度と忘れないでいてくれたら、それが俺の一番の願いっていうか」
「そう言われてもな」
「うん……わかってる。忘れようとして、忘れてるわけじゃないんだってことは」
「──それに、今の俺がずっと忘れなかったら、ずっとダチのまんまじゃん? それでいいのか?」

 消えたいわけではなかった。忘れたくなんてないのだが、壱流にとって俺は友達だったり体の関係があったりと、ころころポジションチェンジが繰り返されてきたはずだった。
 こいつはどの『俺』にいて欲しいのだろう。今のままでも良いのだろうかという疑問がうっすら沸いても仕方ない。言われて壱流はまた俺から目を逸らし、茶碗の中を凝視した。
 いや、そんなに凝視したって米しか入ってないから。
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