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番外編 Love Addict
35-12
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先ほどの壱流にまとわりついていたまふゆを見れば良好らしいというのはわかったが、なんとなく壱流に関連付けた質問をしたくなって、聞いてみる。まひるは一旦瀬尾から目を逸らし、自分の隣に腰掛けている娘を見た。
何をするでもなく、壱流に座らされたままの体勢でじっと瀬尾の方を向いている。わりと大人しくしていることが多い印象を持っている。しかし単に大人しいわけでもない。マイペースで、自分が気になるものがあったりすると、脇目も振らずにそちらに行ってしまう傾向がある。
「まふゆ、壱流のこと好き?」
母親を経由して到着した質問に、まふゆは即答する。
「大好き」
「どんなところが好き?」
「可愛いとこ」
素で答えているまふゆに、瀬尾はちょっとコーヒーをむせる。自分の父親に対し可愛いとこが好きだなんて言う娘は、瀬尾の知る限りいない。
「あのね、竜ちゃんも大好き。でもたまに壱流のこと泣かせるのは、嫌なの」
「……そ、そう。まあ、その話は、あとでね」
ちょっと顔を引きつらせたまひる。竜ちゃん、というのはギタリストの入江のことだろう。何故泣かされているのだ、と瀬尾はぐるぐる考え始める。
あの図体のでかい深紅の髪の男。言葉少なで、いかつい印象。情報が少なすぎて何を考えているのかまるでわからないが、そのギターは骨の髄まで響く、重たくも心地良い音色で好きだった。
その男に、壱流が泣かされる。
(……あ、妄想が暴走)
今ここでしてはいけないようなディープな妄想をしてしまって、瀬尾はすぐに我に返る。何を考えているのだ。壱流は妻子持ちだ。今うっかり考えてしまったようなことが、あるはずもない。
きっとたまに音楽的なことで衝突したりもするのだろう。そんな関係で、さっきまふゆが言ったような展開になることも、なきにしもあらずだ。多分。
「ねーママ、ピアノ弾いてきてもいい?」
「蓋に指挟まないようにね」
まひるの手が小さな頭を撫でた。その手からすり抜けるように椅子から立ち上がり、まふゆはたかたかと走り出す。程なくして別の部屋から聞こえてきたピアノの音に耳を傾け、あの年にしては随分上手だな、と瀬尾は感心した。ピアノを習ってどれくらい経つのだろう。
「結構上手に弾けてるでしょう?」
何をするでもなく、壱流に座らされたままの体勢でじっと瀬尾の方を向いている。わりと大人しくしていることが多い印象を持っている。しかし単に大人しいわけでもない。マイペースで、自分が気になるものがあったりすると、脇目も振らずにそちらに行ってしまう傾向がある。
「まふゆ、壱流のこと好き?」
母親を経由して到着した質問に、まふゆは即答する。
「大好き」
「どんなところが好き?」
「可愛いとこ」
素で答えているまふゆに、瀬尾はちょっとコーヒーをむせる。自分の父親に対し可愛いとこが好きだなんて言う娘は、瀬尾の知る限りいない。
「あのね、竜ちゃんも大好き。でもたまに壱流のこと泣かせるのは、嫌なの」
「……そ、そう。まあ、その話は、あとでね」
ちょっと顔を引きつらせたまひる。竜ちゃん、というのはギタリストの入江のことだろう。何故泣かされているのだ、と瀬尾はぐるぐる考え始める。
あの図体のでかい深紅の髪の男。言葉少なで、いかつい印象。情報が少なすぎて何を考えているのかまるでわからないが、そのギターは骨の髄まで響く、重たくも心地良い音色で好きだった。
その男に、壱流が泣かされる。
(……あ、妄想が暴走)
今ここでしてはいけないようなディープな妄想をしてしまって、瀬尾はすぐに我に返る。何を考えているのだ。壱流は妻子持ちだ。今うっかり考えてしまったようなことが、あるはずもない。
きっとたまに音楽的なことで衝突したりもするのだろう。そんな関係で、さっきまふゆが言ったような展開になることも、なきにしもあらずだ。多分。
「ねーママ、ピアノ弾いてきてもいい?」
「蓋に指挟まないようにね」
まひるの手が小さな頭を撫でた。その手からすり抜けるように椅子から立ち上がり、まふゆはたかたかと走り出す。程なくして別の部屋から聞こえてきたピアノの音に耳を傾け、あの年にしては随分上手だな、と瀬尾は感心した。ピアノを習ってどれくらい経つのだろう。
「結構上手に弾けてるでしょう?」
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