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2 クリームソーダ・オプション
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しかし環奈にしてみればあまりに唐突で、いきなり何を言うのかという感覚だ。
これまでそんな空気は感じ取れなかった。単にたまに隣の席になる人、という認識でいた。環奈が鈍いのだろうか。確かに昨年環奈は、端役ではあったが舞台に上がった。今は副部長をしている。
爽多は冗談を言っているふうではない。どう答えようか迷っていたら、禅一がトレイを手にやってきた。
(さっきの、聞かれた……よね)
禅一の耳にも、先程の告白は届いたに違いない。けれどそこは客商売、別段気にした風もなく普通にドリンクがテーブルに置かれ、すぐに去ってゆく。
(動きがスマート……無駄がない)
目の前の爽多を置きっぱなしにして、環奈は禅一の動きを目で追っていた。それに気づいているのかいないのか、爽多が続ける。
「だから、試合を見に来てほしい」
「えっ? 付き合って、じゃなくて試合?」
「試合で、俺のかっこいいとこ見せるから! そんで好きになって」
好きだから付き合ってください、と繋がるのかと思いきや、予想と違っていた。断られると思ったのだろうか?
試合を見に行くだけとなると、なんとなく断りにくい。日にも寄るが、行けないこともなかった。
「試合……見に行って、あたしが爽多くんを好きにならなかったら?」
「えっ?? まだ考えてないけど、……そしたら、次の手を打つ」
「うぅん……」
環奈は悩んでしまった。今この場で付き合ってくれと言われたら、多分断った気がする。爽多を深くは知らないし、これまで意識したこともなかった。
客観的に見たら、意識したこともないのに二人でカフェに来るのかという疑問もあるかもしれない。けれど本当に他意はなかった。
「か……考える時間が、欲しい、かも」
とりあえず即答を避け、少し一人で残ると言って、コーラを飲み干した爽多だけ先に帰って貰うことにした。ちょっと渋られたが仕方ない。一緒に帰るのはなんとなく嫌だった。
§
店内が、環奈と禅一だけになった。先ほど出掛けていった店員の男性はまだ帰ってこない。
会話がないので店内の音楽が際立つ。何の曲だかは知らないが、とても気分が落ち着く静かな音楽だ。どこかで聞いたピアノ。
先ほど頼んだほうじ茶ラテはもうなくなってしまった。また何か頼もうと再びメニュー表を見ていたら、下の方によくわからないメニューがあるのにふと気づく。
(なんだろ、この。……お好きなドリンクにプラス百円で店主十分、というのは)
ドリンクの基本料金に、百円を追加すると注文出来るらしい。
何度も来ているのにこの変なメニューに今まで気づかなかった。前からあったのだろうか。なんとなく気になる。
「あの、オーダーいいですか」
環奈が声を掛けると、店の奥で静かに座っていた禅一がやってきた。
「このメニューってなんですか?」
「……ああ、それは、お好きなドリンクを召し上がりながら、僕とお喋りしたり、あるいはゲームしたりとか、ですね。空いてる時にしか受けられないんですけど、今は空いてますね。ご所望ですか?」
棚にゲームに使うであろう物がディスプレイされていた。アプリゲームなどではなく、テーブルゲームなのだろう。遊び方がわからない物もある。
(チェスとか、わかんない……でも綺麗)
チェスについては見た目で認識出来たが、名称のわからない物もいくつか置いてあった。しかし今はゲームをする気分ではない。
「そうですねぇ……どうしようかな」
眼鏡の奥の視線は穏やかで、全体的に男臭さが薄く、人畜無害な印象を与える。環奈は少し考えてから頷いて、クリームソーダにプラスして店主十分をオーダーした。
これまでそんな空気は感じ取れなかった。単にたまに隣の席になる人、という認識でいた。環奈が鈍いのだろうか。確かに昨年環奈は、端役ではあったが舞台に上がった。今は副部長をしている。
爽多は冗談を言っているふうではない。どう答えようか迷っていたら、禅一がトレイを手にやってきた。
(さっきの、聞かれた……よね)
禅一の耳にも、先程の告白は届いたに違いない。けれどそこは客商売、別段気にした風もなく普通にドリンクがテーブルに置かれ、すぐに去ってゆく。
(動きがスマート……無駄がない)
目の前の爽多を置きっぱなしにして、環奈は禅一の動きを目で追っていた。それに気づいているのかいないのか、爽多が続ける。
「だから、試合を見に来てほしい」
「えっ? 付き合って、じゃなくて試合?」
「試合で、俺のかっこいいとこ見せるから! そんで好きになって」
好きだから付き合ってください、と繋がるのかと思いきや、予想と違っていた。断られると思ったのだろうか?
試合を見に行くだけとなると、なんとなく断りにくい。日にも寄るが、行けないこともなかった。
「試合……見に行って、あたしが爽多くんを好きにならなかったら?」
「えっ?? まだ考えてないけど、……そしたら、次の手を打つ」
「うぅん……」
環奈は悩んでしまった。今この場で付き合ってくれと言われたら、多分断った気がする。爽多を深くは知らないし、これまで意識したこともなかった。
客観的に見たら、意識したこともないのに二人でカフェに来るのかという疑問もあるかもしれない。けれど本当に他意はなかった。
「か……考える時間が、欲しい、かも」
とりあえず即答を避け、少し一人で残ると言って、コーラを飲み干した爽多だけ先に帰って貰うことにした。ちょっと渋られたが仕方ない。一緒に帰るのはなんとなく嫌だった。
§
店内が、環奈と禅一だけになった。先ほど出掛けていった店員の男性はまだ帰ってこない。
会話がないので店内の音楽が際立つ。何の曲だかは知らないが、とても気分が落ち着く静かな音楽だ。どこかで聞いたピアノ。
先ほど頼んだほうじ茶ラテはもうなくなってしまった。また何か頼もうと再びメニュー表を見ていたら、下の方によくわからないメニューがあるのにふと気づく。
(なんだろ、この。……お好きなドリンクにプラス百円で店主十分、というのは)
ドリンクの基本料金に、百円を追加すると注文出来るらしい。
何度も来ているのにこの変なメニューに今まで気づかなかった。前からあったのだろうか。なんとなく気になる。
「あの、オーダーいいですか」
環奈が声を掛けると、店の奥で静かに座っていた禅一がやってきた。
「このメニューってなんですか?」
「……ああ、それは、お好きなドリンクを召し上がりながら、僕とお喋りしたり、あるいはゲームしたりとか、ですね。空いてる時にしか受けられないんですけど、今は空いてますね。ご所望ですか?」
棚にゲームに使うであろう物がディスプレイされていた。アプリゲームなどではなく、テーブルゲームなのだろう。遊び方がわからない物もある。
(チェスとか、わかんない……でも綺麗)
チェスについては見た目で認識出来たが、名称のわからない物もいくつか置いてあった。しかし今はゲームをする気分ではない。
「そうですねぇ……どうしようかな」
眼鏡の奥の視線は穏やかで、全体的に男臭さが薄く、人畜無害な印象を与える。環奈は少し考えてから頷いて、クリームソーダにプラスして店主十分をオーダーした。
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