33 / 45
33魔法薬
しおりを挟む
「おや、セリーナ様ではないですか。お久しぶりです」
「お久しぶりです、ジュード様」
「それと……なるほど、今日は主と一緒なのですね、エミリ」
「はい。今日はお嬢様の付き添いでございます」
(今日は……? ただの使用人が図書館に来たことがあるってこと?)
「ジュード様、今日はジュード様に教えていただきたいことがあって来たのです」
「何でしょう? 私がお教えできることであれば喜んで」
「ありがとうございます。実は、人を眠らせる魔法について知りたいのです」
セリーナの言葉に、ジュードはスッと目を細める。すぐに柔和な笑みに戻ったジュードは、本棚の間へと歩き出す。セリーナとイリスはジュードについていった。
「人を眠らせる魔法というのは、飲食物に魔法を付与することができます。そして、その魔法を付与されたものを口にしたものを眠らせる。人の身体に影響を与える物質を作れるという意味では、エミリア様が広めている医学で言うところの薬と似ていますね」
こちらがくわしいことを何も言っていないにも関わらず、ジュードは人を眠らせる魔法そのものではなく、その魔法が食べ物に付与できることから説明する。おそらく、ジュードはイリスの一件を知っているのだろう。
「しかし、この効果については、先日エミリには教えたので、セリーナ様もご存知でしょう。今日はその他に、何が知りたいのですか?」
(エミリは人を眠らせる魔法が食べ物に付与できるって知ってたってこと? このことをセリーナは――)
「ジュード様、エミリがここに来ていたというのは本当ですか?」
(――知らなかったみたいね。ということは、セリーナの指示で調べに来たわけじゃない。ということは――)
「ええ。本当ですよ。ですよね、エミリ? あなたが熱心に人を眠らせる魔法について調べていたのを、私はよく覚えていますよ」
「はい、その節はお世話になりました」
「いえいえ。それで――――」
ジュードはパチンと指を鳴らす。
「――――メイド姿もお似合いですよ、エミリア様」
「なっ!?」
(もうセリーナ……そんな反応されたら誤魔化せないじゃない……)
「……どうしてわかったのですか、ジュード様?」
「私がエミリア様を見間違えるわけがありません。どれだけ変装しようと、あなたの美しさは隠せるものではありません。この変装であなたをあなたとわからなかった門兵や憲兵は職務怠慢ですね」
ジュードの褒め殺しに、エミリアはどんどんと俯いていってしまう。
「…………ジュード様? その……嬉しいですが真面目に答えて欲しいですわ」
エミリアは頬を染めながら、なんとか上目遣いでジュードを見る。
「あははっ、失礼しました。エミリア様がお美しいのは嘘ではありませんが、気がついた本当の理由は、それです」
ジュードはエミリアの胸の中央を指差す。
「もしかして、以前いただいたペンダントで?」
「ええ。そのペンダントには少しだけ私の魔力が入っているのです。ですから、近づくとわかるのですよ」
「それで……」
「エミリアさん、変装がバレたら……」
ジュードにエミリアの変装がバレたことに慌てるセリーナに、エミリアは笑った。
「ふふふっ、ジュード様は大丈夫ですわ。それに、何か魔法をお使いになっているのでしょう?」
「流石エミリア様です。魔法はあまりお得意ではないはずなのに、お気づきになるとは」
「ジュード様が何の対策もなく変装している私に話しかけたりしないと信じていただけですわ」
「ありがとうございます。セリーナ様、先ほどこの場所に魔法で結界を張りました。今この中は、物理的にも魔法的にも外からは見えなくなっていますのでご安心下さい」
「そ、そうなのですね……よくわかりましたね、エミリアさん」
「ジュード様ならそれくらいはしてくださると思っていただけですわ。それでジュード様、さっきの話、どう思いますか?」
「そうですね……おそらくですが、セリーナさんを眠らせた犯人は、本物のエミリでしょう」
「そんなっ……どうしてあの子がそんなことを……」
セリーナは相当ショックを受けたのか、その場に座り込んでしまう。エミリはセリーナと年も近く、姉妹同然に育った使用人だった。
「理由はわかりませんが、セリーナ様がそこまで驚かれるということは、もしかすると人質でも取られているのかもしれませんね」
「人質……」
「セリーナさん、エミリがなぜ裏切ったのかも気になると思いますが、今は、そのエミリが私の変装を知っていることの方が重要ですわ」
「っっ!! そうでした!」
エミリは、セリーナがエミリアを変装させているのを見ている。さらに、エミリアが乗ってきた馬車を目立たないように隠す事になっていたのもエミリだ。
「つまり、エミリア様が王城に侵入している事が、クレイス殿下に知られてしまうのも時間の問題と言うことですね」
「ええ。その前に陛下にお目にかからないといけませんわ。陛下は私の味方になって下さるはずですわ」
エミリアが王に謁見するために図書館を出ていこうとした時、王城のほうが騒がしいことに気がついた。すぐさまジュードが魔法で外の様子を確認する。
「どうやら遅かったようです。憲兵達がこちらに向かってきています」
「なんですって!?」
「どうしましょう、エミリアさん!」
(どうするって……どうする!? 私の戦ったりできないんだけど!?)
「ひとまず私について来て下さい」
エミリアとセリーナはジュードの案内で図書館の奥へと進んでいった。
***
協力者を名乗る人物からの手紙を受け取った翌日、イリスの夕食には再び手紙が隠されていた。
「またですか……」
『手紙を受け取ってくれてありがとう。もし君がそこから出ることを望むなら、今夜0時にドアの前で待っていてくれ』
手紙を読み終えたイリスはドアの方を見る。最初に確認した通り、そこにあるのは簡単には壊せそうにない、外からしか鍵の開け閉めができないドアだけだ。
(ドアの前で待っていたからと言って、何ができるというのでしょうか? しかしまあ、他にやることがないのも事実ですが……)
結局イリスは、素直に自称協力者の指示に従って0時の少し前からドアの前で待つことにした。そして、ちょうど時計が0時を示した時。
「久しぶりだね、イリス。と言っても、君は僕を覚えていないかもしれないけれど」
ドアの向こうから聞こえてきたのは、どこかで聞いたことがあるような、しかし誰と言われるとわからないような青年の声だった。
「お久しぶりです、ジュード様」
「それと……なるほど、今日は主と一緒なのですね、エミリ」
「はい。今日はお嬢様の付き添いでございます」
(今日は……? ただの使用人が図書館に来たことがあるってこと?)
「ジュード様、今日はジュード様に教えていただきたいことがあって来たのです」
「何でしょう? 私がお教えできることであれば喜んで」
「ありがとうございます。実は、人を眠らせる魔法について知りたいのです」
セリーナの言葉に、ジュードはスッと目を細める。すぐに柔和な笑みに戻ったジュードは、本棚の間へと歩き出す。セリーナとイリスはジュードについていった。
「人を眠らせる魔法というのは、飲食物に魔法を付与することができます。そして、その魔法を付与されたものを口にしたものを眠らせる。人の身体に影響を与える物質を作れるという意味では、エミリア様が広めている医学で言うところの薬と似ていますね」
こちらがくわしいことを何も言っていないにも関わらず、ジュードは人を眠らせる魔法そのものではなく、その魔法が食べ物に付与できることから説明する。おそらく、ジュードはイリスの一件を知っているのだろう。
「しかし、この効果については、先日エミリには教えたので、セリーナ様もご存知でしょう。今日はその他に、何が知りたいのですか?」
(エミリは人を眠らせる魔法が食べ物に付与できるって知ってたってこと? このことをセリーナは――)
「ジュード様、エミリがここに来ていたというのは本当ですか?」
(――知らなかったみたいね。ということは、セリーナの指示で調べに来たわけじゃない。ということは――)
「ええ。本当ですよ。ですよね、エミリ? あなたが熱心に人を眠らせる魔法について調べていたのを、私はよく覚えていますよ」
「はい、その節はお世話になりました」
「いえいえ。それで――――」
ジュードはパチンと指を鳴らす。
「――――メイド姿もお似合いですよ、エミリア様」
「なっ!?」
(もうセリーナ……そんな反応されたら誤魔化せないじゃない……)
「……どうしてわかったのですか、ジュード様?」
「私がエミリア様を見間違えるわけがありません。どれだけ変装しようと、あなたの美しさは隠せるものではありません。この変装であなたをあなたとわからなかった門兵や憲兵は職務怠慢ですね」
ジュードの褒め殺しに、エミリアはどんどんと俯いていってしまう。
「…………ジュード様? その……嬉しいですが真面目に答えて欲しいですわ」
エミリアは頬を染めながら、なんとか上目遣いでジュードを見る。
「あははっ、失礼しました。エミリア様がお美しいのは嘘ではありませんが、気がついた本当の理由は、それです」
ジュードはエミリアの胸の中央を指差す。
「もしかして、以前いただいたペンダントで?」
「ええ。そのペンダントには少しだけ私の魔力が入っているのです。ですから、近づくとわかるのですよ」
「それで……」
「エミリアさん、変装がバレたら……」
ジュードにエミリアの変装がバレたことに慌てるセリーナに、エミリアは笑った。
「ふふふっ、ジュード様は大丈夫ですわ。それに、何か魔法をお使いになっているのでしょう?」
「流石エミリア様です。魔法はあまりお得意ではないはずなのに、お気づきになるとは」
「ジュード様が何の対策もなく変装している私に話しかけたりしないと信じていただけですわ」
「ありがとうございます。セリーナ様、先ほどこの場所に魔法で結界を張りました。今この中は、物理的にも魔法的にも外からは見えなくなっていますのでご安心下さい」
「そ、そうなのですね……よくわかりましたね、エミリアさん」
「ジュード様ならそれくらいはしてくださると思っていただけですわ。それでジュード様、さっきの話、どう思いますか?」
「そうですね……おそらくですが、セリーナさんを眠らせた犯人は、本物のエミリでしょう」
「そんなっ……どうしてあの子がそんなことを……」
セリーナは相当ショックを受けたのか、その場に座り込んでしまう。エミリはセリーナと年も近く、姉妹同然に育った使用人だった。
「理由はわかりませんが、セリーナ様がそこまで驚かれるということは、もしかすると人質でも取られているのかもしれませんね」
「人質……」
「セリーナさん、エミリがなぜ裏切ったのかも気になると思いますが、今は、そのエミリが私の変装を知っていることの方が重要ですわ」
「っっ!! そうでした!」
エミリは、セリーナがエミリアを変装させているのを見ている。さらに、エミリアが乗ってきた馬車を目立たないように隠す事になっていたのもエミリだ。
「つまり、エミリア様が王城に侵入している事が、クレイス殿下に知られてしまうのも時間の問題と言うことですね」
「ええ。その前に陛下にお目にかからないといけませんわ。陛下は私の味方になって下さるはずですわ」
エミリアが王に謁見するために図書館を出ていこうとした時、王城のほうが騒がしいことに気がついた。すぐさまジュードが魔法で外の様子を確認する。
「どうやら遅かったようです。憲兵達がこちらに向かってきています」
「なんですって!?」
「どうしましょう、エミリアさん!」
(どうするって……どうする!? 私の戦ったりできないんだけど!?)
「ひとまず私について来て下さい」
エミリアとセリーナはジュードの案内で図書館の奥へと進んでいった。
***
協力者を名乗る人物からの手紙を受け取った翌日、イリスの夕食には再び手紙が隠されていた。
「またですか……」
『手紙を受け取ってくれてありがとう。もし君がそこから出ることを望むなら、今夜0時にドアの前で待っていてくれ』
手紙を読み終えたイリスはドアの方を見る。最初に確認した通り、そこにあるのは簡単には壊せそうにない、外からしか鍵の開け閉めができないドアだけだ。
(ドアの前で待っていたからと言って、何ができるというのでしょうか? しかしまあ、他にやることがないのも事実ですが……)
結局イリスは、素直に自称協力者の指示に従って0時の少し前からドアの前で待つことにした。そして、ちょうど時計が0時を示した時。
「久しぶりだね、イリス。と言っても、君は僕を覚えていないかもしれないけれど」
ドアの向こうから聞こえてきたのは、どこかで聞いたことがあるような、しかし誰と言われるとわからないような青年の声だった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる