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第一章「いきなり冒険者」
第36話「バージル領の視察」〇
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(報告。個体名「システィーナ」がパートナーになりました。有機調査体名「望月望」がLV30になりました。個体名「システィーナ」の特殊能力「火魔法」を確認、身体の最適化を構築中……失敗しました)
朝からレベルアップの報告で目が覚めた。
どうやら、魔法習得は失敗したらしい。何かが足りないということだろうか。これは検討しないといけないな。
隣にはすやすやと寝息を立てるシスティーナの姿。
金の髪が絹のように朝陽で輝いている。
金髪スゲー!
思わず触ってしまう。
ピクリとシスティーナのまぶたが動き、目を覚ました。
はっとしたようにシスティーナが体を起こす。
オレを見、周囲を見、何かを思い出したかのように真っ赤になるといきなり両手で顔を覆い隠した。
「どーしたの?」
「いや……ちょっと色々と思い出しただけだ……」
指の間からか細い声が聞こえた。
「そうか……」
オレは無防備なシスティーナの胸を触る。
「きゃん♡」
いきなり女の子のような声を上げた。
いつものシスティーナからは想像もできない声。
「よ、よくも……」
羞恥心からか涙目でシスティーナがこちらをにらみつけてくる。
「おはようございます。お嬢様」
「私の事をお嬢様と呼ぶ……な……♡」
オレに唇を奪われ、システィーナは言葉を失う。
舌を絡ませ、彼女の腕が背中に回された。
「それは……卑怯だ……ん♡」
最後まで言わせない。
システィーナをベッドに押し倒す。
「ま、待ってくれ……今日は視察が……」
よいではないか。よいではないか。
システィーナの豊かな果実にむしゃぶりつく。
夜も明け。メイドたちも動き出す時間だ。オレを起こしにメイドが来る可能性もあった。
「分かったよ」
じゃあ、一回だけね。
システィーナの口をキスしてふさぎ、そそり立つ聖剣を彼女の膣内(なか)に挿入する。
システィーナが身体をのけぞらせる。
背中を抱き本能の命じるままに突きまくる。
悦びの声を必死に押し殺し、それでもオレを求めてくるシスティーナ。
オレはそんな彼女にすべてを注ぎ込むのだった。
結局、ニ回戦してしまいました。
◆ ◆ ◆ ◆
バージル卿の屋敷を出発したのはそろそろお昼も近いという頃だった。
「そういえば、マヤとミーシャは?」
昨晩から二人の姿を見ていない。
「お二人は朝から村の方にお出かけされております」
リューシャがすぐに答えてくれた。
リューシャの隣にはアンナがいたがオレが軽く挨拶するとふいと顔をさらされてしまった。無視されたのかと思ったが耳まで真っ赤になっていたので羞恥でこちらを見ることができなかったからだと勝手に納得しておくことにする。
「朝早くに?」
「はい。早々に起きられマヤ様に連れられてミーシャ様も出発されました」
その様子が目に浮かぶようだ。
恐らくだが、マヤなりに気を遣ってくれたのかもしれない。
まあ、マヤとは繋がっているわけだから、その辺は配慮してくれたのだろう。
昨晩色々とアレだったし、そこに出くわしたりしちゃったら色々と大変だろうから!
「さすが我が妹! 勉強熱心なことで!」
それに引き換え、オレたちはのんびりお昼出勤。
あんなに色々と急いだのに結局遅くなってしまった。
これも準備の大変なシスティーナお嬢様のせいだ。
「ノゾミのせいだからな……」
システィーナに真っ赤になりながら注意されてしまった。
反省しております。今度は必ず一回で終わらせます。
◆ ◆ ◆ ◆
目の前には農耕された大地が広がっていた。
しかし、どの作物もしおれ今にも枯れてしまいそうだ。
まだ完全に枯れてしまったわけではない。
木にはまだ緑が残り、農夫たちが作物に水を撒いていた。
「ここ数年、雨の量がめっきり減ってしまって、収穫量は昨年の六割ほどになっています」
案内役のアンナが実情を報告してくれる。
「このことをバージル卿は?」
「もちろんご存知です。しかし……」
領主という立場を与えられてはいるが、実質の権限はあまりない。
領主の役割とは与えられた土地の自治だ。時には裁判のような事をしたりもする。土地の管理も仕事に含まれる。
バージル卿は魔族であるがゆえに外に出ることができない。報告で上げられる情報だけでは正しい決裁はできないだろう。
あの花吹雪のお奉行様のように市井(しせい)に紛れて生活とかすれば問題点はおのずと見えてくるのに。やっぱり無理なのかねぇ。ああいった事は。
「川の水位もだんだんと減ってきています。このままでは作物だけでなく住民たちの生活にも影響してきます」
キリムのような交易都市であれば地下に水路があり、市民が水に困ることはない。
しかし、これだけ土地が広大であれば水路を作るだけでも一大事業だ。
「早急に手を打つ必要があるな」
システィーナが唸る。
さすが領主の娘。頭の回転が早い。
このままでは冬を越せない。
作物が育たなければ、税を収めるどころか民の生活もおぼつかない。
最悪、冬になると餓死者が出る可能性もある。
「おーい、お兄ちゃーん!」
声の方を見ればマヤとミーシャがこちらに駆け付けてくるところだった。
「朝からご苦労さん」
オレは妹にねぎらいの言葉をかける。
「何言ってるのよ! 昨日の晩はミーシャを止めるのに大変だったんだからね」
マヤが小声で忠告してくれる。聞けば昨晩はずっとミーシャとおしゃべりしていたそうだ。それも、オレの部屋に向かおうとするミーシャにあれやこれやと話題を振って何とか引き留めていたらしい。
オレの知らない所でいろいろと気を遣ってくださっているのですね。
「それにしても、お兄ちゃん。お風呂ではかなりイイ思いをしたんじゃない?」
むぬぬぬ。言い返せない。
しかし、まだ本格的なことはまだ何も……
「今度は私たちも混ぜてね!」
マヤはそういってあははと無邪気に笑った。
◆ ◆ ◆ ◆
「やっぱり井戸を掘るしかないか」
システィーナが唸りながらこちらに意見を求める。
「この周辺にも井戸はありますが、ほとんど枯れてしまっています」
アンナが答えてくれた。しかし、聞けばこの辺の井戸の深さはせいぜい数メートル。この深さのものだと雨が降らなくなれば枯れてしまうのだ。
(報告。井戸の水は不圧帯水層のものになります。被圧帯水層に到達することができれば、周辺一体の水問題を解決することが可能です)
それから長々とマザーさんの説明が続いた。
要するに地中の浅い層が不圧帯水層と呼ばれている。不圧帯水は地中での流れも早く、雨や環境に左右されやすい。また、不圧帯水層の下には水を通しにくい粘土層などの不透水層があり、その下に被圧帯水層があるのだ。
不圧帯水層には雨水などの有無によって左右されやすい。
今回の場合はさらに深く穴を掘る必要があった。
「被圧帯水層の水なら枯れることはない」
オレは地図を広げながら印をつけていく。
地図はマヤの力を借りて書き上げたものだ。
「しかし、一体どれだけの井戸を掘ればいいんだ?」
システィーナが地図をのぞき込む。
(分析結果。バージル卿の領土内、8箇所に井戸を掘れば現状は打開できます)
おお、さすがはマザーさんだ仕事が早い。
「しかし、穴を掘るのは大変だぞ」
システィーナの危惧することはもっともと言えた。
しかし。
「穴を掘る方法は考えてある」
オレの答えにマヤはにっこりと笑った。
「私とお兄ちゃんがいれば穴を掘るのは簡単なのです」
オレは必要な物を木版に……字は書けないので、アンナに書いてもらった。
材料だけそろえてもらえばいい。加工は異空間内の工作機械で行う。
だが、何から何までこちらで行うわけにもいかない。最終的にはこの土地の者たちの手で行わなければならないからだ。
「まずは、バージル卿にお伺いを立てないとな」
今回はあくまでも調査が目的だ。
おせっかいも過ぎれば過剰な干渉に他ならない。
現地の視察を行い屋敷に戻った頃には夕方になっていた。
◆ ◆ ◆ ◆
バージル卿に事情を説明し、工事の必要性を説くと彼はあっさりと許可してくれた。
「ノゾミ殿がいいと言うのであれば反対する理由はない。存分に干渉してくれたまえ」
だそうだ。
あまりにあっさりな態度にこちらは拍子抜けしてしまった。
「あの……本当にオレたちでやってしまっていいんでしょうか?」
あらためての確認たが、バージル卿は大きく頷くだけだ。
「私が動くには王の決裁が必要だ。今まで色々と改革案て提出したが、ことごとく返されてしまってね」
私の事を快く思わない者たちが王の周りには多いようだ。と、バージル卿はこともなげに言った。
それはオレに対してというよりも、周囲を取り囲む警備兵に向けての言葉だ。兵達は沈黙したままの無表情。
「今回、私が直接指示を出して何かをする訳ではない。あくまでも視察に来た人間の助力をするだけだ」
直接的に領地の改革を行うわけではない。直接的ではないが間接的ではある。
それでも、今動かないわけにはいかない。
早く水環境の整備を行わなければ、困るのは民であり、領主であり、国であるのだ。
「私の指示だと民には伝えれば良い。領地のまとめ役に一筆書いておこう。その方が動きやすいだろう。まさかとは思うが、民のために動こうとする視察官殿に文句をいう者などおるまい」
門兵達は無言だ。
「そういう訳だ。よろしく頼むぞ」
オレとシスティーナは頷いた。
これは責任重大だ。
「何から何までありがとうございます」
「なに、民のためだからな」
飾らない気質。オレはバージル卿を好きになっていた。
「バージル卿は私達の意見にもよく耳を傾けてくださいます。しかし、周囲がそれを受け入れてくれないのです」
メイド長のリューシャが悔しそうに言った。
いくら耳を傾けてくれたとしても、しっかりとした確証がなければ動くことはできない。
メイドの言だけで、動くことはできない。
警護の兵の協力など皆無だ。
「私は……万が一の時のための保険なのだよ」
彼は魔族が攻めてきた時の防衛のための武器であり、万が一の時には人質となる盾であった。
バージル卿の境遇はあまりにも酷い。
「少しでも民の生活が良くなればそれで良し。責任は私が取る。存分にやりたまえ」
がははは! とバージル卿は笑った。
本当に良い領主だ。
魔族という枷(かせ)がなければ、この領地はきっと栄えただろう。
「ノゾミ殿の要望した物は明日の昼には届くはずだ」
「ありかとうございます」
オレが礼を言うとバージル卿は静かに首を振った。
「礼を言うのは私の方だよ。魔人族でなければもっと民にも良い生活を保証できるというのに……」
悔し気にバージル卿は唇をかむ。
「文句を言っても始まりませんな……しかし……」
バージル卿の目の前には羊皮紙に描かれた領地の精密な地図が置かれていた。
高低差から各家の配置。畑の位置など正確に記されている。
地下の水脈もスキャン済みだ。
それらを踏まえて井戸の場所をバージル卿と話しをしたのだが、領主の興味は井戸ではなく地図の方に向いているようだった。
「私達の所有する地図よりも精度はこちらが上かと……」
リューシャが遠慮がちに言った。
バージル卿は唸りつつ食い入るように地図をにらみつけている。
「ノゾミ殿はこの地図をいったいどのように……」
「それは企業秘密です」
オレのにべもない言葉にバージル卿は黙り込む。
「うむむ。地下水脈を探し当てる力か……面白い!」
すごく勘違いをされている。
オレの力じゃないんですけど。
ここはマザーさんを信じるしかない。
ぶっちゃけマザーさんに丸投げです。
「ノゾミ殿……明日が楽しみですなぁ」
本心から楽しそうに笑うバージル卿にオレは愛想笑いでしか応えられなかった。
失敗したら全力で逃げ出そう。
そう思ったことは内緒である。
◆ ◆ ◆ ◆
「バージル卿、一つお願いがあるのですが」
打ち合わせも終わり、そろそろ夕食も終わると思われた頃。
席を立とうとしたバージル卿をオレは呼び止めた。
「なんですかな?」
「時間がある時で構いませんので、戦いの指導を頂けたらと思いまして」
「ノゾミ……それは……! そんなことを言えば……!」
システィーナが小さく悲鳴を上げた。
ん? 何かおかしなことを言ったのか?
もしかして、そういうことを言ってはいけない決まりがあるとか?
メイドさんたちだけでなく、門兵までもザワザワしている。
「ふふふふふ、あははははは!」
バージル卿が笑い出した。
殺気にもにたピリピリとした空気が漂い始める。
もしかして、怒らせちゃいましたか?
「今度、時間あったらだと?」
バージル卿ににらまれた。
「あの、ご迷惑なようでしたら……」
「今からだ!」
「はい?」
「今からやろうではないか!」
めっちゃ喜んでる。
バージル卿はヤル気満々だ。
オレはどうやら彼の闘志に火をつけてしまったらしい。
周りを見るとメイドさんも遠巻きにこちらの様子をうかがっていた門兵も、システィーナですらヤレヤレと首を横に振っていた。
オレはもしかして地雷踏んだ?
しかも、両足で!
「今夜は寝かさぬぞ!」
バージル卿の言葉が響き渡った。
朝からレベルアップの報告で目が覚めた。
どうやら、魔法習得は失敗したらしい。何かが足りないということだろうか。これは検討しないといけないな。
隣にはすやすやと寝息を立てるシスティーナの姿。
金の髪が絹のように朝陽で輝いている。
金髪スゲー!
思わず触ってしまう。
ピクリとシスティーナのまぶたが動き、目を覚ました。
はっとしたようにシスティーナが体を起こす。
オレを見、周囲を見、何かを思い出したかのように真っ赤になるといきなり両手で顔を覆い隠した。
「どーしたの?」
「いや……ちょっと色々と思い出しただけだ……」
指の間からか細い声が聞こえた。
「そうか……」
オレは無防備なシスティーナの胸を触る。
「きゃん♡」
いきなり女の子のような声を上げた。
いつものシスティーナからは想像もできない声。
「よ、よくも……」
羞恥心からか涙目でシスティーナがこちらをにらみつけてくる。
「おはようございます。お嬢様」
「私の事をお嬢様と呼ぶ……な……♡」
オレに唇を奪われ、システィーナは言葉を失う。
舌を絡ませ、彼女の腕が背中に回された。
「それは……卑怯だ……ん♡」
最後まで言わせない。
システィーナをベッドに押し倒す。
「ま、待ってくれ……今日は視察が……」
よいではないか。よいではないか。
システィーナの豊かな果実にむしゃぶりつく。
夜も明け。メイドたちも動き出す時間だ。オレを起こしにメイドが来る可能性もあった。
「分かったよ」
じゃあ、一回だけね。
システィーナの口をキスしてふさぎ、そそり立つ聖剣を彼女の膣内(なか)に挿入する。
システィーナが身体をのけぞらせる。
背中を抱き本能の命じるままに突きまくる。
悦びの声を必死に押し殺し、それでもオレを求めてくるシスティーナ。
オレはそんな彼女にすべてを注ぎ込むのだった。
結局、ニ回戦してしまいました。
◆ ◆ ◆ ◆
バージル卿の屋敷を出発したのはそろそろお昼も近いという頃だった。
「そういえば、マヤとミーシャは?」
昨晩から二人の姿を見ていない。
「お二人は朝から村の方にお出かけされております」
リューシャがすぐに答えてくれた。
リューシャの隣にはアンナがいたがオレが軽く挨拶するとふいと顔をさらされてしまった。無視されたのかと思ったが耳まで真っ赤になっていたので羞恥でこちらを見ることができなかったからだと勝手に納得しておくことにする。
「朝早くに?」
「はい。早々に起きられマヤ様に連れられてミーシャ様も出発されました」
その様子が目に浮かぶようだ。
恐らくだが、マヤなりに気を遣ってくれたのかもしれない。
まあ、マヤとは繋がっているわけだから、その辺は配慮してくれたのだろう。
昨晩色々とアレだったし、そこに出くわしたりしちゃったら色々と大変だろうから!
「さすが我が妹! 勉強熱心なことで!」
それに引き換え、オレたちはのんびりお昼出勤。
あんなに色々と急いだのに結局遅くなってしまった。
これも準備の大変なシスティーナお嬢様のせいだ。
「ノゾミのせいだからな……」
システィーナに真っ赤になりながら注意されてしまった。
反省しております。今度は必ず一回で終わらせます。
◆ ◆ ◆ ◆
目の前には農耕された大地が広がっていた。
しかし、どの作物もしおれ今にも枯れてしまいそうだ。
まだ完全に枯れてしまったわけではない。
木にはまだ緑が残り、農夫たちが作物に水を撒いていた。
「ここ数年、雨の量がめっきり減ってしまって、収穫量は昨年の六割ほどになっています」
案内役のアンナが実情を報告してくれる。
「このことをバージル卿は?」
「もちろんご存知です。しかし……」
領主という立場を与えられてはいるが、実質の権限はあまりない。
領主の役割とは与えられた土地の自治だ。時には裁判のような事をしたりもする。土地の管理も仕事に含まれる。
バージル卿は魔族であるがゆえに外に出ることができない。報告で上げられる情報だけでは正しい決裁はできないだろう。
あの花吹雪のお奉行様のように市井(しせい)に紛れて生活とかすれば問題点はおのずと見えてくるのに。やっぱり無理なのかねぇ。ああいった事は。
「川の水位もだんだんと減ってきています。このままでは作物だけでなく住民たちの生活にも影響してきます」
キリムのような交易都市であれば地下に水路があり、市民が水に困ることはない。
しかし、これだけ土地が広大であれば水路を作るだけでも一大事業だ。
「早急に手を打つ必要があるな」
システィーナが唸る。
さすが領主の娘。頭の回転が早い。
このままでは冬を越せない。
作物が育たなければ、税を収めるどころか民の生活もおぼつかない。
最悪、冬になると餓死者が出る可能性もある。
「おーい、お兄ちゃーん!」
声の方を見ればマヤとミーシャがこちらに駆け付けてくるところだった。
「朝からご苦労さん」
オレは妹にねぎらいの言葉をかける。
「何言ってるのよ! 昨日の晩はミーシャを止めるのに大変だったんだからね」
マヤが小声で忠告してくれる。聞けば昨晩はずっとミーシャとおしゃべりしていたそうだ。それも、オレの部屋に向かおうとするミーシャにあれやこれやと話題を振って何とか引き留めていたらしい。
オレの知らない所でいろいろと気を遣ってくださっているのですね。
「それにしても、お兄ちゃん。お風呂ではかなりイイ思いをしたんじゃない?」
むぬぬぬ。言い返せない。
しかし、まだ本格的なことはまだ何も……
「今度は私たちも混ぜてね!」
マヤはそういってあははと無邪気に笑った。
◆ ◆ ◆ ◆
「やっぱり井戸を掘るしかないか」
システィーナが唸りながらこちらに意見を求める。
「この周辺にも井戸はありますが、ほとんど枯れてしまっています」
アンナが答えてくれた。しかし、聞けばこの辺の井戸の深さはせいぜい数メートル。この深さのものだと雨が降らなくなれば枯れてしまうのだ。
(報告。井戸の水は不圧帯水層のものになります。被圧帯水層に到達することができれば、周辺一体の水問題を解決することが可能です)
それから長々とマザーさんの説明が続いた。
要するに地中の浅い層が不圧帯水層と呼ばれている。不圧帯水は地中での流れも早く、雨や環境に左右されやすい。また、不圧帯水層の下には水を通しにくい粘土層などの不透水層があり、その下に被圧帯水層があるのだ。
不圧帯水層には雨水などの有無によって左右されやすい。
今回の場合はさらに深く穴を掘る必要があった。
「被圧帯水層の水なら枯れることはない」
オレは地図を広げながら印をつけていく。
地図はマヤの力を借りて書き上げたものだ。
「しかし、一体どれだけの井戸を掘ればいいんだ?」
システィーナが地図をのぞき込む。
(分析結果。バージル卿の領土内、8箇所に井戸を掘れば現状は打開できます)
おお、さすがはマザーさんだ仕事が早い。
「しかし、穴を掘るのは大変だぞ」
システィーナの危惧することはもっともと言えた。
しかし。
「穴を掘る方法は考えてある」
オレの答えにマヤはにっこりと笑った。
「私とお兄ちゃんがいれば穴を掘るのは簡単なのです」
オレは必要な物を木版に……字は書けないので、アンナに書いてもらった。
材料だけそろえてもらえばいい。加工は異空間内の工作機械で行う。
だが、何から何までこちらで行うわけにもいかない。最終的にはこの土地の者たちの手で行わなければならないからだ。
「まずは、バージル卿にお伺いを立てないとな」
今回はあくまでも調査が目的だ。
おせっかいも過ぎれば過剰な干渉に他ならない。
現地の視察を行い屋敷に戻った頃には夕方になっていた。
◆ ◆ ◆ ◆
バージル卿に事情を説明し、工事の必要性を説くと彼はあっさりと許可してくれた。
「ノゾミ殿がいいと言うのであれば反対する理由はない。存分に干渉してくれたまえ」
だそうだ。
あまりにあっさりな態度にこちらは拍子抜けしてしまった。
「あの……本当にオレたちでやってしまっていいんでしょうか?」
あらためての確認たが、バージル卿は大きく頷くだけだ。
「私が動くには王の決裁が必要だ。今まで色々と改革案て提出したが、ことごとく返されてしまってね」
私の事を快く思わない者たちが王の周りには多いようだ。と、バージル卿はこともなげに言った。
それはオレに対してというよりも、周囲を取り囲む警備兵に向けての言葉だ。兵達は沈黙したままの無表情。
「今回、私が直接指示を出して何かをする訳ではない。あくまでも視察に来た人間の助力をするだけだ」
直接的に領地の改革を行うわけではない。直接的ではないが間接的ではある。
それでも、今動かないわけにはいかない。
早く水環境の整備を行わなければ、困るのは民であり、領主であり、国であるのだ。
「私の指示だと民には伝えれば良い。領地のまとめ役に一筆書いておこう。その方が動きやすいだろう。まさかとは思うが、民のために動こうとする視察官殿に文句をいう者などおるまい」
門兵達は無言だ。
「そういう訳だ。よろしく頼むぞ」
オレとシスティーナは頷いた。
これは責任重大だ。
「何から何までありがとうございます」
「なに、民のためだからな」
飾らない気質。オレはバージル卿を好きになっていた。
「バージル卿は私達の意見にもよく耳を傾けてくださいます。しかし、周囲がそれを受け入れてくれないのです」
メイド長のリューシャが悔しそうに言った。
いくら耳を傾けてくれたとしても、しっかりとした確証がなければ動くことはできない。
メイドの言だけで、動くことはできない。
警護の兵の協力など皆無だ。
「私は……万が一の時のための保険なのだよ」
彼は魔族が攻めてきた時の防衛のための武器であり、万が一の時には人質となる盾であった。
バージル卿の境遇はあまりにも酷い。
「少しでも民の生活が良くなればそれで良し。責任は私が取る。存分にやりたまえ」
がははは! とバージル卿は笑った。
本当に良い領主だ。
魔族という枷(かせ)がなければ、この領地はきっと栄えただろう。
「ノゾミ殿の要望した物は明日の昼には届くはずだ」
「ありかとうございます」
オレが礼を言うとバージル卿は静かに首を振った。
「礼を言うのは私の方だよ。魔人族でなければもっと民にも良い生活を保証できるというのに……」
悔し気にバージル卿は唇をかむ。
「文句を言っても始まりませんな……しかし……」
バージル卿の目の前には羊皮紙に描かれた領地の精密な地図が置かれていた。
高低差から各家の配置。畑の位置など正確に記されている。
地下の水脈もスキャン済みだ。
それらを踏まえて井戸の場所をバージル卿と話しをしたのだが、領主の興味は井戸ではなく地図の方に向いているようだった。
「私達の所有する地図よりも精度はこちらが上かと……」
リューシャが遠慮がちに言った。
バージル卿は唸りつつ食い入るように地図をにらみつけている。
「ノゾミ殿はこの地図をいったいどのように……」
「それは企業秘密です」
オレのにべもない言葉にバージル卿は黙り込む。
「うむむ。地下水脈を探し当てる力か……面白い!」
すごく勘違いをされている。
オレの力じゃないんですけど。
ここはマザーさんを信じるしかない。
ぶっちゃけマザーさんに丸投げです。
「ノゾミ殿……明日が楽しみですなぁ」
本心から楽しそうに笑うバージル卿にオレは愛想笑いでしか応えられなかった。
失敗したら全力で逃げ出そう。
そう思ったことは内緒である。
◆ ◆ ◆ ◆
「バージル卿、一つお願いがあるのですが」
打ち合わせも終わり、そろそろ夕食も終わると思われた頃。
席を立とうとしたバージル卿をオレは呼び止めた。
「なんですかな?」
「時間がある時で構いませんので、戦いの指導を頂けたらと思いまして」
「ノゾミ……それは……! そんなことを言えば……!」
システィーナが小さく悲鳴を上げた。
ん? 何かおかしなことを言ったのか?
もしかして、そういうことを言ってはいけない決まりがあるとか?
メイドさんたちだけでなく、門兵までもザワザワしている。
「ふふふふふ、あははははは!」
バージル卿が笑い出した。
殺気にもにたピリピリとした空気が漂い始める。
もしかして、怒らせちゃいましたか?
「今度、時間あったらだと?」
バージル卿ににらまれた。
「あの、ご迷惑なようでしたら……」
「今からだ!」
「はい?」
「今からやろうではないか!」
めっちゃ喜んでる。
バージル卿はヤル気満々だ。
オレはどうやら彼の闘志に火をつけてしまったらしい。
周りを見るとメイドさんも遠巻きにこちらの様子をうかがっていた門兵も、システィーナですらヤレヤレと首を横に振っていた。
オレはもしかして地雷踏んだ?
しかも、両足で!
「今夜は寝かさぬぞ!」
バージル卿の言葉が響き渡った。
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