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プロローグ その一「旅立ちは突然に」
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雨粒が窓を叩く。
朝方から降り出した雨は昼になっても止む気配もなく、私の憂鬱な心を更に暗くする。
そんなことを考えてはいけないと私は気持ちを切り替えようと、玄関へと向かった。
こんな時には散歩に限る。
雨が降っていても関係ない。傘に当たる雨音も音楽だと思えば気持ちいいものだ。
そう考えると何だかワクワクしてきた。
雨の日の散歩が楽しいものに思えてくるから不思議だ。
せっかくの誕生日を暗いままで迎えたくない。
今日、私は十六になる。
そう、二つ違いの姉と同じ年齢になったのだ。
そういう言い方をすると、姉が亡くなっているように聞こえるかもしれないが、姉は生きている…はずだ。
いや、あの大胆不敵、唯我独尊の姉が簡単に死ぬわけがない。
私はそう信じている。
私の姉はいなくなった。
唐突に、突然に。
なんの前触れもなくいなくなった。
十六の誕生日を迎えるというその日に、家の中でいなくなった。
玄関に靴はそのままだった。
家は自慢ではないがそれなりに広い。
いわゆる旧家というものだ。
ちょっとした庭もあり、祖父が愛用していた離れ家もあった。
姉がいなくなった時にはそれなりに騒ぎになったのを覚えている。
それから二年。
姉はいなくなったが不思議と寂しくはない。不謹慎と思われるかもしれないが、あの姉が簡単に死ぬわけがない。
今もどこかでのほほんと生きているに違いない。
確証はないが、そんな確信はあった。
そんな私の元に一通の手紙が届いた。
宛先も送り主すらもない真っ白な封筒。
でも、なんとなくだが、それは私宛に送られてきた手紙のような気がした。根拠なんてない。これは私の直感だ。
なんのためらいもなく、私は封を切る。
予想に反して、封筒の中には便箋らしきものは入っていなかった。
その代わりに現れたのは一個の鍵。
なんの変哲もない、真鍮製らしき古びた鍵だった。
この鍵はまさか!
私の脳裏に一つのひらめきがあった。
私の家は旧家でそれなりの広さを誇っている。その中に、一つだけ鍵のない扉があった。
子供の頃から訪れていた祖父の離れ、そこに不自然なほどに存在感を持った洋風の扉があったのだ。
私は鍵を握りしめたまま玄関から飛び出し、離へと向かった。
離れは玄関からそれほど遠くない。庭を横切り、離へとたどり着く。
離れの扉には鍵をかけていない。
扉を開け、中へと入った。
離れの中はしんと静まり返り、今はここの持ち主がいないのだと改めて感じさせる。
優しかった祖父は、三年前に他界していた。この部屋は、祖父がいなくなった時のまま、時間が停止したように、何もかもがその当時のままだった。
中に入り苦もなく私はその扉を見つける。
不自然なほどに、異様な雰囲気を醸し出して、その扉はそこに在った。
扉の向こうは壁だ。その向こうには何もない。それは小さい頃から何度も遊びに来ては、この扉の謎を解明してやろうと躍起になっていた私自身が知っていることだ。
私は恐る恐る鍵を扉の鍵穴に差し込んだ。
鍵は、難なくスルリと鍵穴に入る。
そして。
カチリ。
いともたやすく。鍵は開いた。
胸の鼓動が高まった。
ゆっくりと扉を開ける。
扉の向こうには書斎があった。
うず高く詰まれた書物。おおよそ整理整頓とは言い難い。
その中央、古風な椅子に腰掛けた一人の青年がいた。黒髪の美青年だ。
「やあ、はじめまして。僕の名前はロン、君の名前は?」
いきなりの自己紹介に私は言葉を失う。ここってあの扉の向こうの世界だよね。扉の向こうって何もなかったよね。
何もないはずの空間にいきなり現れた書斎。
一度戻って扉を見直す。
やはり、外から見ると一枚の扉。外枠から内側だけが空間を切り取ったかのように別の空間に繋がっているみたいだった。
もしかして、これってどこでもドア?
いやいや、あれって確か未来の道具だったような…
混乱したまま、それでも私は口を開いた。
「私の名前は章子…」
それが、私とロンの交わした最初の言葉。
物語は、ここから始まっていく…
朝方から降り出した雨は昼になっても止む気配もなく、私の憂鬱な心を更に暗くする。
そんなことを考えてはいけないと私は気持ちを切り替えようと、玄関へと向かった。
こんな時には散歩に限る。
雨が降っていても関係ない。傘に当たる雨音も音楽だと思えば気持ちいいものだ。
そう考えると何だかワクワクしてきた。
雨の日の散歩が楽しいものに思えてくるから不思議だ。
せっかくの誕生日を暗いままで迎えたくない。
今日、私は十六になる。
そう、二つ違いの姉と同じ年齢になったのだ。
そういう言い方をすると、姉が亡くなっているように聞こえるかもしれないが、姉は生きている…はずだ。
いや、あの大胆不敵、唯我独尊の姉が簡単に死ぬわけがない。
私はそう信じている。
私の姉はいなくなった。
唐突に、突然に。
なんの前触れもなくいなくなった。
十六の誕生日を迎えるというその日に、家の中でいなくなった。
玄関に靴はそのままだった。
家は自慢ではないがそれなりに広い。
いわゆる旧家というものだ。
ちょっとした庭もあり、祖父が愛用していた離れ家もあった。
姉がいなくなった時にはそれなりに騒ぎになったのを覚えている。
それから二年。
姉はいなくなったが不思議と寂しくはない。不謹慎と思われるかもしれないが、あの姉が簡単に死ぬわけがない。
今もどこかでのほほんと生きているに違いない。
確証はないが、そんな確信はあった。
そんな私の元に一通の手紙が届いた。
宛先も送り主すらもない真っ白な封筒。
でも、なんとなくだが、それは私宛に送られてきた手紙のような気がした。根拠なんてない。これは私の直感だ。
なんのためらいもなく、私は封を切る。
予想に反して、封筒の中には便箋らしきものは入っていなかった。
その代わりに現れたのは一個の鍵。
なんの変哲もない、真鍮製らしき古びた鍵だった。
この鍵はまさか!
私の脳裏に一つのひらめきがあった。
私の家は旧家でそれなりの広さを誇っている。その中に、一つだけ鍵のない扉があった。
子供の頃から訪れていた祖父の離れ、そこに不自然なほどに存在感を持った洋風の扉があったのだ。
私は鍵を握りしめたまま玄関から飛び出し、離へと向かった。
離れは玄関からそれほど遠くない。庭を横切り、離へとたどり着く。
離れの扉には鍵をかけていない。
扉を開け、中へと入った。
離れの中はしんと静まり返り、今はここの持ち主がいないのだと改めて感じさせる。
優しかった祖父は、三年前に他界していた。この部屋は、祖父がいなくなった時のまま、時間が停止したように、何もかもがその当時のままだった。
中に入り苦もなく私はその扉を見つける。
不自然なほどに、異様な雰囲気を醸し出して、その扉はそこに在った。
扉の向こうは壁だ。その向こうには何もない。それは小さい頃から何度も遊びに来ては、この扉の謎を解明してやろうと躍起になっていた私自身が知っていることだ。
私は恐る恐る鍵を扉の鍵穴に差し込んだ。
鍵は、難なくスルリと鍵穴に入る。
そして。
カチリ。
いともたやすく。鍵は開いた。
胸の鼓動が高まった。
ゆっくりと扉を開ける。
扉の向こうには書斎があった。
うず高く詰まれた書物。おおよそ整理整頓とは言い難い。
その中央、古風な椅子に腰掛けた一人の青年がいた。黒髪の美青年だ。
「やあ、はじめまして。僕の名前はロン、君の名前は?」
いきなりの自己紹介に私は言葉を失う。ここってあの扉の向こうの世界だよね。扉の向こうって何もなかったよね。
何もないはずの空間にいきなり現れた書斎。
一度戻って扉を見直す。
やはり、外から見ると一枚の扉。外枠から内側だけが空間を切り取ったかのように別の空間に繋がっているみたいだった。
もしかして、これってどこでもドア?
いやいや、あれって確か未来の道具だったような…
混乱したまま、それでも私は口を開いた。
「私の名前は章子…」
それが、私とロンの交わした最初の言葉。
物語は、ここから始まっていく…
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