失格王子が恋を知る唯一の方法〜恋多き陽キャは完全無欠の生徒会長を落とせるか〜

藤也いらいち

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市川潤は本当の恋を知らない

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「俺は! 王子様にはなれない!」

 結ちゃんがさげすむ目で俺を見る。

 そりゃそうだ。幼なじみが急に押しかけてきて自分の家のリビングで駄々をコネているのだ。俺だって同じことをやられたら引く。だがしかし、俺は今、駄々をコネたい。

「そもそも、王子様ってなんだよ!? 日本に王子はいませんー!!」

「王子様ねぇ」

 適当に頷きながら駄々をコネる俺を眺める幼なじみ、吉野結こと結ちゃん。長い黒髪を無造作に一まとめして、Tシャツとステテコという部屋着ですら魅力的に映る美貌の持ち主。

 運動神経抜群で成績優秀、生徒会長も務める才色兼備の高嶺の花。男ならみんな彼女を前にしたら、かっこつけたくなると思う。

 実際彼女の周りにいる男は普段そんなことしてるのか? と言いたくなるほどかっこつけている。しかし、俺は彼女にかっこいいとは思われたくはない。というか、今の俺は全人類にかっこいいとは思われたくない。

 だから、全力で駄々をコネる。恥の上塗り? 知らん。そんなこと。

「結ちゃんだって俺のこと王子様だと思うんだろ!?」

 八つ当たりのように口走って、しまったと思う。
 今回の駄々の原因は「顔は王子様なのに、中身が全然違う」とフラれたのと、知らない女の子に突然『私の王子様』という自作の詩? ラブレター? を贈られたことだ。自分でもわかっている。王子様という単語に固執しまくっている。

 そんなことより、八つ当たりしてしまったことだ。謝らないと、そう思って顔を上げると、結ちゃんはなにも気にする様子はなく、ソファーに座ってクッションを俺に投げつける。

「私が潤のこと王子様だとか言ったことあった?」

「ないぃぃぃ」

 俺はクッションを抱えもう一度床に転がった。

 あぁ、私の王子様。から始まる便箋いっぱいに書かれた俺ではない誰かに向けたメッセージが頭を駆け巡る。なにが、白馬に乗って私を連れ去って、だ。俺に乗馬経験はない。

 そう思っていると、だんだん泣けてきた。幼なじみとは言え、女子の家に上がり込んで駄々をコネるならだけならまだしも泣くなんてみっともないと思うが、涙は止まらない。思ったよりも疲れていたようだ。

『潤はアイドルより、お笑い芸人の方が向いてるよね』

 昔、結ちゃんに言われたことを思い出す。俺はかっこいいと言われるより、面白いと言われる方が好きだ。なのに、生まれ持った顔立ちのせいでかっこいいキャラ、アイドルキャラを強いられている。俺だって下ネタとかで、男友達と盛り上がりたい。

 誰だよ「潤くんに下ネタ禁止」って行った奴。

「疲れた……みんな俺の顔を見なければいいのに」

 呪詛のようにつぶやく。気がつくと結ちゃんがいない。

「ほら、カフェオレ」

 キッチンから出てきた結ちゃんが、テーブルに温かいカフェオレを置いた。礼を言って起き上がってソファを背もたれにして座る。

「もう、恋なんてしたくない」

 恋愛ソングの歌詞みたいだな、そう思いながらぼーっとしていると、結ちゃんがチョコレートを差し出してきた。カラフルな包み紙で包装されたそれを丁寧に剥がして口に入れる。ほろ苦い甘さが口に広がった。

 なんとなく、口で転がしているうちにだんだん気持ちも落ち着いてきた。

「少しは落ち着いた?」

「まぁ」

 落ち着いてくると、我に返ってくる。俺は、結ちゃんの前でなんでこんなに駄々をコネたのだ。恥ずかしさで顔が赤くなる。

「ずいぶん疲れてるみたいだけど」

 気にする様子のない結ちゃんに助けられながら、ここまで駄々をコネた原因を考える。

 昼休みに告白や呼びだしをされて昼食を食べそこねる日々。

 知らない先輩から俺の彼女に手を出すなと脅された。

 友達の彼女が俺のことを好きになったと言って友達をフった。

 思いのほかありすぎる心当たり、ぽつぽつと話すと結ちゃんは深くため息をついて、そりゃ疲れるわと言った。

「恋愛しないって言い切っちゃえばいいじゃない?」

 そう言う結ちゃんの目は、多分無理だけどと如実に語っている。

 一応、シュミレーションする。恋愛しない。恋人を作らず、恋愛に首を突っ込まない。うん。

「無理! 誰かを好きになりたい!」

 恋愛脳もここまでくると面倒だと自分でも感じる。しかし、惚れっぽいのは性分だ。なかなか変えられない。

「人を好きになるのはとっても素敵なことだって本にも書いてあるし!」

 鞄から『君に恋する100の方法』という恋愛小説をだして見せびらかす。本に書いてあるって小説じゃん。結ちゃんの顔にそう書いてあるが、めげない。

「でも、みんな俺の顔だけ好きになるんだよ……」

 結ちゃんは綺麗だけど、中身も好きになってもらえてる。そう続けそうになって、それは言ってはいけないと心に秘める。

 結ちゃんは勉強も運動もすごく頑張っていて、みんなと仲良くなるために他にもいろんなことを調べて頑張っている。

 対して俺は、勉強も運動も出来ないわけではないがそこそこだ。もともとが鈍臭いのでその点も減点だろう。

 しかし、顔の評価が異常に高い。

 できるところだけピックアップされる。付き合ってから、イメージと中身が違うとフラれるのが常なのだ。

 顔に準じた性格になろうとしたこともあるが、王子様キャラがあまりにも恥ずかしくやめた。その時も結ちゃんのところで駄々をコネた。

「告白されて付き合うのやめれば?」

「だって、俺自身を本当に好きになってくれてるのかもしれないし」

「で、潤自身を好きになってくれてるか確かめる前に潤が好きになっちゃうんでしょ」

 返す言葉もない。俺はフリーの時に告白されるとまず断らない。ほとんど面識がないような相手でもだ。付き合った後に相手のことを知って、すぐ好きになる。何度フラれても今回は大丈夫かもと繰り返し受け入れてしまう。

 普段全く話さない人からの告白なんてまず受けるものではない、リスクが高すぎると結ちゃんには何度も言われているが、どうにも変えられない。

 そう考えると俺は自分から誰かを好きになったことがないのかもしれない。

「だって……」

 なんとか言葉を返そうとして出てくる言葉が「だって」はさすがにダサい。言葉にならずに開閉を繰り返す俺の口にチョコを放り込まれる。

「その恋愛の仕方やめたほうがいいよ、それで疲れてるんでしょ」

 結ちゃんに呆れたような、けれど心配したような声と表情で言われて思わずまた泣きそうになる。

「結ちゃん! 俺のこと分かってくれるのは結ちゃんだけだ」

「……そんなことない、たくさんいるから探して」

 抱きつきそうになり、寸でのところでクッションでガードされる。すぐにごめんと言って離れた。
 危ない。リビングに二人きりにしてくれている結ちゃんの両親に申し訳が立たないところだった。

「でもさ、どうして彼氏作んないの。結ちゃんも結構モテるでしょ」

 やっと平静になった俺はカフェオレを一口飲んで聞いた。落ち着いたら恋バナがしたくなったのだ。

「いや、興味ないし」

 予想していた答に頷く。面倒と思われていると感じながらも、話を続ける。結ちゃんは少し自分に向けられる好意に敏感になった方がいい。

「結ちゃんいろんな人に恋されてるんだよ、優しいしかわいいし、誰かいいなって人いないの?」

「いないよ」

 そんな人いるの? と訝しむ姿にため息を飲み込んで話題を変えることにする。知識として入れておいてくれればいい。

「だよね、結ちゃん俺の顔、絶対に好きにならないって断言してたし」

「うん、私はそういう恋はいいから」

 そう言い切られて、やっぱり結ちゃんはかっこいいなと思う。芯が一本通ってて、自分にいらないものがはっきりわかるところ。それに、優しいが言わないといけないことは気を使いながらしっかり言うところ。

 優柔不断でなにが好きなのかすらわからない俺にはできないことだ。いつも俺の一歩先を行っている。そう感じることもあって、悔しいような、ひそかな憧れを抱えていた。

 眩しい、こうなりたい。少し薄ぐらい気持ちになりそうなところで思考をやめる。

「どうしたの」

 黙ってしまった俺に声をかける結ちゃん。顔を上げると見つめ合う形になる。数秒、結ちゃんがこちらを不思議そうに覗き込んでいた。

「結ちゃん俺と付き合って」

「はぁ?」

 薄ぐらい気持ちをごまかすようにおどけた。いつも駄々をコネた後はこうやって告白している。答はいつもおなじ、NO。俺も色よい返事は望んでいなかった。ただ、届かない思いがあることの確認。

 あからさまに嫌な顔をする結ちゃんにそんなに嫌な顔しなくても! とふて腐れて見せた。

「ごめん。それは出来ない」

 毎回、丁寧に断ってくる結ちゃん。悪いなと思いながら、いつもはここで引き下がる。

 ただ、今日は薄ぐらい気持ちが晴れなかった。

「お願い!」

 それだけの理由で俺は一線を越えた。

 すごく重要な、俺達のライン。

「何で?」

 真剣な顔で続きを促す結ちゃん。それを真剣に返せる度胸は持ち合わせていなかった。

「俺のこと好きにならない結ちゃんと付き合ってたら、恋愛休憩できるでしょ!」

 テンション高くいい案だと自画自賛して見せる俺に結ちゃんは大きくため息をつく。 

「結ちゃんも、俺と付き合ってれば、告白の回数減るんじゃない?」

 畳みかけるように言う、結ちゃんに最近恋愛がらみのアプローチが増えているのは知っていた。

「……」

 揺れている。それが手に取るようにわかった。もう少しだ。

「お願い! 夏休みまででも! 付き合ってるってことにしてくれればいいから!」

 結ちゃんの顔が歪んだ。俺がいつも頼み事をするときの顔になっているのかもしれない。結ちゃんは俺のお願いするときの顔が苦手のようだった。

「そう……ね」

 ゆっくりと頷いた結ちゃんに俺は自分の顔が笑顔になっていくのがわかった。

「やった!」

 小躍りでもしてやろうか、そう思ったが結ちゃんの顔を見てやめる。

「いい? 潤が恋愛を休憩する期間だからね? 私にいつものような恋愛感情は向けないこと」

「わかってる! 俺も結ちゃんに恋することはないから!」

 念を押されて、そう断言した。俺は惚れっぽいが、結ちゃんは特別だ。好きになるとかそういう次元にいない。どこか複雑そうな顔をした結ちゃんが右手を差し出してきた。

「じゃあ、よろしく」

「よろしく、結ちゃん」

 なるほど、握手か。俺が手を握り返して、俺達は恋人となった。


********


「結ちゃん、おはよう!」

「来なくていいのに」

「俺、結ちゃんの彼氏だから」

 翌朝から俺は家に迎えに行くようになった。どの彼女にもこれは必ずやっていた。いつもは必ず親に挨拶もするのだが、結ちゃんの両親とはもうすでに面識があるし、恋人期間明けに気まずくなるのも嫌なので、インターフォンは鳴らさずに出てくるのを家の近くで待っている。

 一緒に登校するようになり、生徒会長が彼氏しかも、遊び人と名高い市川潤(俺)と歩いているという噂はまたたく間に広まった。

 男女問わず人気のある結ちゃんを射止めた男として、学校中の注目とヘイトを集めたようで、以前よりも視線を多く感じるようになった。




「市川、いるか」

 結ちゃんと付き合い初めて数日。
 教室にやってきたのは生徒会の役員。確か同学年の副会長の小池雄太くんだ。人気の少ない場所に連れて来られて、なにをされるかと思ったら一枚の紙を渡される。
 なにかの順位が書かれているようだった。

「これは」

「今までのお前の定期試験の順位だ」

「なんで、そんなものを」

「出回ってるんだよ、それくらい会長は人気だし、お前はやっかまれてる」

 気にはしていたが、そこまでか。唖然とする俺に小池くんは深く息をつく。

「こちらでも調べているが、まぁ、もとは全校生徒に張り出されているものだから出所はわからないだろう」

 小池くんはそう言って分かってることをいくつか教えてくれる。しかし広まってるのは全校生徒の男子中心だとか、女子には体力測定の方が人気だとか、対して役に立つものではなかった。

「変な噂も流れてる」

「聞いても?」

 顔をしかめながら話す小池くんの口からは、俺をおとしめるような話から思わず耳をふさぎたくなるどぎつい話が語られた。口にするのも憚れるものが多く小池くんに申し訳ない気持ちがわく。

「大丈夫か」

「あぁ、ありがとう、大丈夫。こちらこそ、ごめん」

「いや。いい」

 動揺したが、ある程度は覚悟していたことだ。それよりも、この順位だ。中の上のこの順位が、弱みとして扱われるとは。

「会長はお前を守る必要を感じていない。その手の話には興味がないからな。必要ならばこちらから報告するが」

 俺は首を横に振る。わかっていたことだ。それは俺が解決すべき問題だ。

「そうだよな」

 小池くんが頷く。

「じゃあ、気をつけろよ」

 なにかあったらまた教える。そう言って去っていこうとする小池くんを引き止める。

「なんだ?」

 小池くんはたしか前回のテストで結ちゃんに次ぐ順位だったはずだ。

「……小池くん、俺に勉強教えてください」

 頭を下げる俺、しばし間があって小池くんの笑い声が降ってきた。

「それは、面白い話だな。やっかみは実力で殴るってことか」

 顔を上げると、すごく悪い笑顔の小池くんと目が合った。


*****


「潤、ずいぶん噂になっているのね」

 生徒会が終わった結ちゃんを生徒会室まで迎えに行って二人のの帰り道。結ちゃんから俺の噂をいくつか聞く。結ちゃんのところにも噂が届いてしまったのか。
 思わず顔が強張ったが、小池くんから聞いたものの中でも比較的軽い噂ばかりで少し安心する。

「まあね、結ちゃんの方がすごいと思うけどな」

「私の噂?」

「そうそう、頭のいい人しか入れない組織の一員だとか、じつは大企業の会長の令嬢だとか」

「なにそれ?」

 事実無根じゃない。そう言って不思議そうな顔をする結ちゃん。俺の噂から話がそれたことに安心する。

「それだけ結ちゃんが人気者だってこと」

 今は俺の彼女だけどね、と少し優越感に浸りながら言う。偽だけどと小声で訂正された。

「偽でも表向きは俺の彼女ですー」

 おどけながら自然な手つきで手を繋ぐ。この程度なら受け入れられるようになったのは少し嬉しかった。

*****


 結ちゃんと付き合って変わったことがたくさんある。

 昼休みや空き時間に小池くんに勉強を教わり、結ちゃんの生徒会が終わるまでは図書室で勉強する日々。
 以前は家に帰ればダラダラと漫画を読んでいたが、今は体力作りとしてランニングに行ったり、筋トレをした。

 俺が告白されることはなくなった。しかし結ちゃんの方はアプローチをかけようとする人が増えたようで、こちらで牽制するのが大変だった。そもそも牽制の力があまりないからあんな噂が立つ。なるべく結ちゃんから離れない位しか方法がなかった。

 はやく実力をつけなくては。

 そう考えているうちに結ちゃんと付き合うきっかけになった自分の恋愛の休憩という口実はどうでも良くなっていた。

 学校中の生徒が俺を試している。その感覚は気持ち悪いが顔だけで評価されていた時より清々しいと思うようになった。

 もしかして、今までの恋って承認欲求のなれの果てだったのか。

 そう考えるようになったころ、夏休みはあと数週間にせまっていた。



*****


「最近、噂を聞かなくなった」

 小池くんとの勉強会。休憩中に小池くんがそう言った。

「ほんと?」

「あぁ、こないだの定期試験の結果すごかったしな。俺を抜きやがって」

 あの悪い笑顔で俺の肩を叩く。小池くんとの勉強会も最初は教わるだけだったが、最近は同レベルの問題を一緒に悩むようになった。

「やらないからできないタイプだったんだよ」

 そう言って笑うと、生意気! と余計に肩を叩かれた。友人とのたわいもない会話ができるようになったのも変化の一つだ。




 もう互いに一緒に帰ることが当たり前になっていた結ちゃんとの帰り道。

「来週の土曜日、見たい映画があるんだけど、付き合ってくれない?」

 結ちゃんの提案に頷く。

「じゃあさ、映画の後、映画館近くのカフェ行ってもいい?」

「えぇ、たしか桃のパフェよね? 桃好きよね」

「結ちゃんもでしょー」

 週末のデートは映画や博物館、美術館。二人でプランを話し合うデートがこんなにワクワクすることだとは知らなかった。
 今まで付き合っていた彼女は王子様な俺の完璧なエスコートを求めている子が多かったから、デートプランは俺がすべて考えていたのだ。

「じゃあ、週末は映画とパフェね。たのしみにしてる」

 結ちゃんの家の前で別れ際、結ちゃんのそんなささいな言葉が嬉しかった。

「あ、潤くん。いつもありがとうね」

「いえ! 好きでやってるので! また明日」

 買い物帰りの結ちゃんのお母さんとすれ違う。いつのまにか交際がばれていて、しっかり挨拶する機会ももらえていた。

 騙しているようで、すこし心苦しかったが、潤くんなら安心だと言われたのは誇らしかった。



*****


 登下校を一緒にして、休みの日は時々一緒に出かける。けれどそれ以上の進展はもちろんなく、仲のいい友達のような関係のまま、夏休みまで二週間を切った。

「そろそろ夏休みだよ」

 昼休み、中庭のベンチで並んで座っていると、結ちゃんがそう言った。

「俺のこと恋人として好きになってたりしない?」

 恐る恐る聞くと、表情を変えずに結ちゃんは答えた。

「しない」

 いい友人だと思ってる。そう続けられて、俺はがっくり肩を落とす。

「恋愛の休憩のために付き合ってたんでしょ。次の恋は見つかった?」

「いや、なんか、結ちゃんといるのが、楽しくて」

 結ちゃんといれれば恋とかしなくてもいいかなーって。視線を反らしつつ言う俺に結ちゃんはため息をつく。

「潤は恋がないと生きていけないんじゃなかったの」

 俺がもう、前のような恋がなくても生きていけることを結ちゃんは知らない。あきれた様子の結ちゃんに俺は嘘をつく。

「そうだよ」

「この一ヶ月半告白してきた人いなかったの」

「いないよ、結ちゃんに勝てるって考える人いると思う?」

 結ちゃんの人気にどれだけ俺が苦労したか、それは口にはださない。

「いるでしょ」

 今度は俺があきれる番だ。不満を隠すことなく表情に出す。

「自己評価低いのも考え物だよね」

「どういう意味?」

 本当に意味がわからないようで目を丸くして聞いてくる結ちゃん。知らないなら知らないままでいてほしいのは俺の勝手な考えだ。

「いーや、なんでもない。結ちゃんは? 告白減った?」

「最初は俺の方が! って寄ってくる人がいたけど、最近はいなくなった。潤、なにかした?」

 結ちゃんの言葉に口角が上がるのを感じる。嬉しい。結ちゃんも感づいているのだ。一歩先を行っていた結ちゃんにすこし近づけた気がした。

「してないよ、勉強と運動頑張ったぐらい」

 小さな見栄を張る。これで全部言ったらなんだかかっこわるい。そう思って気がついた。俺、結ちゃんの前でかっこつけてる。

 気持ちを自覚したら、なんだかおかしくなってきた。

「自他ともに認める結ちゃんの彼氏になったからね」

 すごいでしょ、と胸を張る俺を見て、結ちゃんがすごいねと頭を撫でてきた。結ちゃんは昔から俺のことを弟かなにかのように思っている節がある。
 この関係のままならば、少しおどけたほうがこちらの思いが通りやすいのではと打算的な考えが浮かんだ。

「こちらとしては、もう少し恋人期間延長してほしいんだけど……」

 上目遣いで顔を作る。俺の顔はいいんだ。今は使えるものは全部使ってやる。
 結ちゃんが俺のお願いに弱いのはもう十分知っていた。

 しかし、想定とは裏腹に、あきれ顔の結ちゃんと目が合う。

「……潤、また付き合った人のこと好きになっちゃう悪癖出てるんじゃないの」

 ため息混じりの結ちゃんに俺は大きく首を横に振る。
 嫌そうな雰囲気ではないのが救いだった。

「違う! いや、違うわけじゃない、というか、えっと、そうじゃない好きっていうか……結ちゃんといて楽しくて、結ちゃんと一緒に出かけて、いろんなことを体験して時間を共有できたのがうれしくて……えっとそれが今の自分よりももっと成長できるって思えて……」

 今までとは違う好きをどう表現したらいいのかわからずに、しどろもどろになりながら、結ちゃんといてどれだけ楽しかったかとかを長々語ってしまった。

「だからね、結ちゃんを好きになったら、結ちゃんに見合う男になりたいって思った。今の俺は好きじゃないとしても、明日の俺、未来の俺に恋をしてくれるよう頑張るから……付き合ってほしい」

 あまりにも必死な告白。顔が真っ赤になってるのはわかっていた。もう少しかっこつけたかったが、もういまさらだ。

「いいよ。でも私も条件がある」

 渋々受け入れると言った体の結ちゃん。俺につられたのか、耳が少し赤い。

 いますぐ抱きしめたい気持ちを抑えて、条件を聞く。

「期間は決めない。無期限よ」

 まんざらではない、くらいの様子だったはずの結ちゃんが勝ち誇った顔でこちらを見ている。

「……え?」

「やっと、恋を知ったね」

 嬉しそうに笑う結ちゃん。

『いつものような恋愛感情は向けないで』

 その意味が今、明確にわかった。

 あの頃は、恋憧れていただけだ。

「そうだね」

「もう、離さないよ」

 結ちゃんはそう言って立ち上がる。結ちゃんの背中を見つめながら、意味を考える。

 一ヶ月目くらいに結ちゃんのお母さんに交際がばれてお父さんに挨拶して、最近は迎えに来るときインターホンを押して家にあげてもらえるようになった。母さんも父さんも結ちゃんのことが大好きで、次はいつ家にくるんだとうるさい。それに、牽制のつもりでやっていた毎日の登下校で生徒会長の彼氏って全校生徒に知らしめている。

 あれ、気がつかないうちに外堀を完璧に埋められてたな俺。

「やられた」

 立ち上がって零したつぶやきに、結ちゃんは俺の方を振り向いた。

「私、潤に恋はしない」

――だって、愛してるから。

 そう言いきった時の、結ちゃんの顔は世界一かわいかった。
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