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魔術研究発表
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会場の大広間は通常、舞踏会や、お披露目会、盛大な祝い事をするときに使われる場所だ。
王室が伝統と格式、権威を示すために作った、豪華な広間である。
天井のきらびやかなクリスタルで作られたシャンデリア、細部にまでこだわった調度品。そして、細やかな装飾がほどされた壁紙は、それだけで優雅な雰囲気を作り上げていた。
しかし、その壁が今、青く燃えていた。
「さあ、皆様! ぜひお近くでご覧になってください! この壁一面の青い炎! これが! 今回の私たちの最高傑作!」
発表開始直前、緊張した面持ちで研究所所長だと名乗っていた男が、観客の悲鳴を浴びながらそれは楽しそうに炎の前でくるくると回っている。
エルムは所長が騎士たちに連行されるのではないかとひやひやしていたが、隣に座るセオドアが嬉しそうに大笑いしているので見守ることにした。メグが驚いていないかと隣を向くと、先ほどまで隣にいたメグが消えていた。
「メグ!?」
エルムはとっさに立ち上がり、周囲を見渡す。青い炎に近づいているメグが見えた。
「メグ!」
「おい、エル!」
セオドアの静止を振り切って、メグのもとに走るエルム。メグが炎に触れる寸前でメグを炎から引きはがした。
「危ないだろ!」
「兄さま! これ! よく見てください! この距離なのに!」
「え?」
メグの言葉でエルムは違和感に気が付く。
「熱くない」
触れる直前まで近づいていたが、熱を感じるどころか、冷たい風を感じエルム思わず炎に手をかざした。
「冷たい」
「そうなの! こんなに燃えているのに、煙も出ていない!」
「なにこれ! 冷たい風が出てる! 壁も全く焦げてない!」
メグとエルムが不思議そうな顔で炎の下をのぞき込んだり、揺れ方を観察し始める。
「そうなのです! お嬢様! お坊ちゃま! その反応が見たかった! こちらの炎ではございません! 氷炎でございます! 暖炉から着想を得て開発いたしました」
所長がそれは嬉しそうに炎の説明を始めると、驚いていたほかの観客もちらほらと炎に近づいていく。
説明に耳を傾けながら、メグは思っていた研究発表とは少し違うなと感じていた。王都の研究発表は支援者を集めるプレゼンテーション的側面が強く、わかりやすく、役に立つ研究を前面に押し出しているのだ。
オリバーが「あれはお祭りです」と話していた意味がメグは理解できた気がした。
「これ、どうなってるの」
「床に式を埋め込んでるのかな。熱を吸収して冷気に変えてるとか? でもどうやって」
説明が終わって、炎が消えても炎が出ていた壁付近から動こうとしないメグとエルム、呆れた様子のセオドアが、白衣を着た研究員を数名伴って近づいてきた。
「先ほどは、ありがとうございました。所長の圧が強すぎて、誰も近づいてくれなくて。氷炎なしで場が冷えていくかと思いましたよ」
「仕込みだと勘違いされた方もいらっしゃいましたね……本当に助かりました。ありがとうございます」
礼を言う研究員に何のことかわからない、という顔をする2人。セオドアが、そうだろうね、と呟いた。
「メグは面白いものだから、近づいて行っただけだからね。彼らは王立研究所の研究員だよ。聞きたいことがたくさんあるんじゃないか?」
セオドアがそう言うと、メグとエルムは怒涛の勢いで疑問を研究員に投げかけ始める。
氷炎の式の構築方法から始まり、開発の経緯、失敗だった流れ、あれこれと質問を続け、最終的に研究員たちの最近不思議に思っていることまで聞いていた。
質問に丁寧に答えていた研究員たちも疲れが出始めてきたころ、セオドアが止めに入ったことでお開きとなった。
「この後、軽い立食会があるんだ。彼らも来るからその時、また話せばいい」
セオドアはそう言ったが、エルムとメグはフォーマルな服を用意してきていない。2人がそう言うと、セオドアは何を言ってるんだと笑った。
「私を誰だと思っているんだ?」
******
――レージュ侯爵家はセオドア第二王子殿下と密接な関係を持っている。
上流貴族や社交界で噂されている話だ。レージュ家がセオドアにつくと、王権争いが過熱するのではと、まことしやかにささやかれている。しかしローレンスが、王の意志に従う、と言い続けているので今のところ大きな波にはなっていなかった。
「父上、また薬飲むだろうな……」
立食会場でセオドアの用意した服に身を包み、困惑した顔でジュースを飲んでいるエルム。隣にはメグもセオドアもいない。
「第二王子殿下の入場です」
セオドアとその隣でセオドアにエスコートされて入場するメグを見てエルムは大きくため息をついた。
ざわつく会場内。メグのエスコートは任せろ! と言い切って連れて行ったセオドアがこちらに手を振ってきた。会場内の視線がこちらに向く。エルムはなぜそんな余計なことをするんだと内心悪態をつきながらセオドアに向かって一礼する。
セオドアが満足そうに笑うと、王妃であるビクトリアのもとにメグを連れていく。
「だから、なんでそんなことを……」
セオドアの手のひらで踊らされている感覚になりながら、声をかけようと様子をうかがっている貴族の視線を感じ、エルムはもう一度大きくため息をついた。
王室が伝統と格式、権威を示すために作った、豪華な広間である。
天井のきらびやかなクリスタルで作られたシャンデリア、細部にまでこだわった調度品。そして、細やかな装飾がほどされた壁紙は、それだけで優雅な雰囲気を作り上げていた。
しかし、その壁が今、青く燃えていた。
「さあ、皆様! ぜひお近くでご覧になってください! この壁一面の青い炎! これが! 今回の私たちの最高傑作!」
発表開始直前、緊張した面持ちで研究所所長だと名乗っていた男が、観客の悲鳴を浴びながらそれは楽しそうに炎の前でくるくると回っている。
エルムは所長が騎士たちに連行されるのではないかとひやひやしていたが、隣に座るセオドアが嬉しそうに大笑いしているので見守ることにした。メグが驚いていないかと隣を向くと、先ほどまで隣にいたメグが消えていた。
「メグ!?」
エルムはとっさに立ち上がり、周囲を見渡す。青い炎に近づいているメグが見えた。
「メグ!」
「おい、エル!」
セオドアの静止を振り切って、メグのもとに走るエルム。メグが炎に触れる寸前でメグを炎から引きはがした。
「危ないだろ!」
「兄さま! これ! よく見てください! この距離なのに!」
「え?」
メグの言葉でエルムは違和感に気が付く。
「熱くない」
触れる直前まで近づいていたが、熱を感じるどころか、冷たい風を感じエルム思わず炎に手をかざした。
「冷たい」
「そうなの! こんなに燃えているのに、煙も出ていない!」
「なにこれ! 冷たい風が出てる! 壁も全く焦げてない!」
メグとエルムが不思議そうな顔で炎の下をのぞき込んだり、揺れ方を観察し始める。
「そうなのです! お嬢様! お坊ちゃま! その反応が見たかった! こちらの炎ではございません! 氷炎でございます! 暖炉から着想を得て開発いたしました」
所長がそれは嬉しそうに炎の説明を始めると、驚いていたほかの観客もちらほらと炎に近づいていく。
説明に耳を傾けながら、メグは思っていた研究発表とは少し違うなと感じていた。王都の研究発表は支援者を集めるプレゼンテーション的側面が強く、わかりやすく、役に立つ研究を前面に押し出しているのだ。
オリバーが「あれはお祭りです」と話していた意味がメグは理解できた気がした。
「これ、どうなってるの」
「床に式を埋め込んでるのかな。熱を吸収して冷気に変えてるとか? でもどうやって」
説明が終わって、炎が消えても炎が出ていた壁付近から動こうとしないメグとエルム、呆れた様子のセオドアが、白衣を着た研究員を数名伴って近づいてきた。
「先ほどは、ありがとうございました。所長の圧が強すぎて、誰も近づいてくれなくて。氷炎なしで場が冷えていくかと思いましたよ」
「仕込みだと勘違いされた方もいらっしゃいましたね……本当に助かりました。ありがとうございます」
礼を言う研究員に何のことかわからない、という顔をする2人。セオドアが、そうだろうね、と呟いた。
「メグは面白いものだから、近づいて行っただけだからね。彼らは王立研究所の研究員だよ。聞きたいことがたくさんあるんじゃないか?」
セオドアがそう言うと、メグとエルムは怒涛の勢いで疑問を研究員に投げかけ始める。
氷炎の式の構築方法から始まり、開発の経緯、失敗だった流れ、あれこれと質問を続け、最終的に研究員たちの最近不思議に思っていることまで聞いていた。
質問に丁寧に答えていた研究員たちも疲れが出始めてきたころ、セオドアが止めに入ったことでお開きとなった。
「この後、軽い立食会があるんだ。彼らも来るからその時、また話せばいい」
セオドアはそう言ったが、エルムとメグはフォーマルな服を用意してきていない。2人がそう言うと、セオドアは何を言ってるんだと笑った。
「私を誰だと思っているんだ?」
******
――レージュ侯爵家はセオドア第二王子殿下と密接な関係を持っている。
上流貴族や社交界で噂されている話だ。レージュ家がセオドアにつくと、王権争いが過熱するのではと、まことしやかにささやかれている。しかしローレンスが、王の意志に従う、と言い続けているので今のところ大きな波にはなっていなかった。
「父上、また薬飲むだろうな……」
立食会場でセオドアの用意した服に身を包み、困惑した顔でジュースを飲んでいるエルム。隣にはメグもセオドアもいない。
「第二王子殿下の入場です」
セオドアとその隣でセオドアにエスコートされて入場するメグを見てエルムは大きくため息をついた。
ざわつく会場内。メグのエスコートは任せろ! と言い切って連れて行ったセオドアがこちらに手を振ってきた。会場内の視線がこちらに向く。エルムはなぜそんな余計なことをするんだと内心悪態をつきながらセオドアに向かって一礼する。
セオドアが満足そうに笑うと、王妃であるビクトリアのもとにメグを連れていく。
「だから、なんでそんなことを……」
セオドアの手のひらで踊らされている感覚になりながら、声をかけようと様子をうかがっている貴族の視線を感じ、エルムはもう一度大きくため息をついた。
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