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魔力をためる種子
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「オリバー先生! 植物を高濃度の魔力水で育てたいです!」
「ヒューゴさん! 魔力が混ざってた種を採取後すぐ水につけたらどうなるか調べます! 淡水蚕の池へ行きましょう!」
エルムとメグがまとまった実験方法を叫びながら研究室に入ると、オリバーとヒューゴ、そしてオリバーの講義を受けていたセオドアが目を丸くした。
エルムはすぐに準備室に飛び込み、魔力測定器や採集用のケースを準備し始める。
セオドアは、研究発表後ローレンスのもとで外交を学ぶという名目でレージュ家に入り浸っていた。
外交手腕で貴族社会を生き残ってきたレージュ家の子息子女は話術や経営、外交的知識を念入りに教育される。貴族や王族関係者がその教育に混ざって学ぶことは歴史上何度かあり、それを悪用したとセオドアは笑っていた。
「メグ様、育てる植物の候補をあげて、方法を調べてください。成長に必要な水分量を意識してみてください。ヒューゴは……」
オリバーがヒューゴを見ると、もうすでに手にはフィールドワーク用の外出鞄を用意している。
「準備していってきます」
「わかりました。気を付けて」
オリバーの返答をほとんど聞いていないような速さでヒューゴとエルムが研究室を出ていく。
その背中を見送るセオドアが、何の話か聞いてもいいかい? とメグに言った。
「手伝ってくれるなら」
「もちろんだ」
もとより乗り掛かった舟だからね。セオドアの言葉にメグが嬉々として説明を始める。
その様子を見てオリバーは新しい発見への期待と同時に、ローレンスの胃の心配をするのだった。
******
「なんでだ?」
魔力をため込んだ種子を採取後すぐに水に入れて、時間経過を調べる。エルムの調査はすぐに結果を出した。
「水に入れると種子の魔力の減少が穏やかになる」
「水に溶け込んでいくのか?」
結果を書き込んでいるノートをのぞき込みながら、セオドアが聞く。
「うん、少しずつ水に溶けだしてる感じ、でも動物の魔力放出のみたいな早さじゃないんだ。なんか水が栓になってるみたいな」
「それって、目指してるものにかなり活用できるんじゃないか?」
セオドアが言うと、エルムはそうなんだけど、とうなる。
「もう少し、調べないと。水の中と真空状態だとどう違うのかも」
エルムが今後の計画を見直しながらノートに書きこんでいる。
「忙しいな」
「うん、楽しいよ」
セオドアが無理はするなよと続けると、それはメグに言ったほうがいいねとエルムが笑った。
一方、メグの魔力水で植物を作る実験はすぐに小さな壁にぶつかった。
高濃度の魔力水が足りないのだ。メグの魔力で一日に作れる高濃度の魔力水は、最大でバケツ5杯分。まだ体が幼く、回復が少し遅いため、毎日作るとなると、2杯が限界だった。温室や水耕栽培、花壇も駆使した実験では、メグの作る魔力水だけでは効率があまり良くない。
魔力の多いセオドアやフレアにも手伝ってもらっているが、高濃度の魔力水の精製にはなかなか労力が必要だった。
「チャーリー、ちょっといい?」
花壇の前で花を見ながら悩んでいるメグの前を執事長のチャーリーが通りかかった。
「どうなさいましたか?」
「濃度の高い魔力水がたくさん必要なんだけど、誰か手伝える人いない?」
チャーリーは少し考えて、申し訳なさそうに頭を下げた。
「高い魔力を持つものが多いですが、高濃度の魔力水を作るほど手のあいている者は」
「そうよね……」
「しかし、毎日魔力を余らせているものは多いので、業務終了後に声をかければ魔力に伸びしろのあるものが手伝いを申し出るかもしれません」
「でも、それをしたら、みんな休めないし」
「えぇ、しかし魔力を使いたいと考える者は多いのです。魔力を使用できる仕事は伸びしろがあるものたちでローテーションしていますし、魔力が高ければ、その分今後覚えられる仕事が増えますので」
「……あ! じゃあ……」
チャーリーの言葉にメグは思いついた形を口にする。チャーリーはそれなら大丈夫でしょうと頷いた。
若い使用人を中心に、魔力注入の式を埋め込んだビーカーを渡した。ビーカーに水を入れ、両手で持つだけで魔力水を作れる。これで、効率よく使用人の魔力量にあった魔力水を作れるようになった。
仕事後に余っている魔力で魔力水を作ってもらい、それを貯めると、一日でかなりの量になった。
「高濃度の魔力水は魔力を水に放出することで作ることができる。……多くの人が少しづつ作れば時間的負担は少ない。考えましたね」
オリバーはメグの作ったビーカーを見て、貴族じゃないとできない芸当ですが、と笑った。
「これで、もう少し実験できる植物増える」
短期間で綿毛のついた小さな種子を多く作る花の魔力量を見ながら話すメグ。オリバーはビーカーを置いて、エルムとヒューゴが追加でしている樹木の種を魔力水に浸しておく実験の結果を読み始めた。
「……試したいことが多いですね」
「最高でしょ?」
「えぇ、それはもう」
未知の発見にはいつだって心が躍る。そう答えたオリバーの顔を見てメグは本当に踊りだしそうなほどうれしそうな顔だと思った。
「ヒューゴさん! 魔力が混ざってた種を採取後すぐ水につけたらどうなるか調べます! 淡水蚕の池へ行きましょう!」
エルムとメグがまとまった実験方法を叫びながら研究室に入ると、オリバーとヒューゴ、そしてオリバーの講義を受けていたセオドアが目を丸くした。
エルムはすぐに準備室に飛び込み、魔力測定器や採集用のケースを準備し始める。
セオドアは、研究発表後ローレンスのもとで外交を学ぶという名目でレージュ家に入り浸っていた。
外交手腕で貴族社会を生き残ってきたレージュ家の子息子女は話術や経営、外交的知識を念入りに教育される。貴族や王族関係者がその教育に混ざって学ぶことは歴史上何度かあり、それを悪用したとセオドアは笑っていた。
「メグ様、育てる植物の候補をあげて、方法を調べてください。成長に必要な水分量を意識してみてください。ヒューゴは……」
オリバーがヒューゴを見ると、もうすでに手にはフィールドワーク用の外出鞄を用意している。
「準備していってきます」
「わかりました。気を付けて」
オリバーの返答をほとんど聞いていないような速さでヒューゴとエルムが研究室を出ていく。
その背中を見送るセオドアが、何の話か聞いてもいいかい? とメグに言った。
「手伝ってくれるなら」
「もちろんだ」
もとより乗り掛かった舟だからね。セオドアの言葉にメグが嬉々として説明を始める。
その様子を見てオリバーは新しい発見への期待と同時に、ローレンスの胃の心配をするのだった。
******
「なんでだ?」
魔力をため込んだ種子を採取後すぐに水に入れて、時間経過を調べる。エルムの調査はすぐに結果を出した。
「水に入れると種子の魔力の減少が穏やかになる」
「水に溶け込んでいくのか?」
結果を書き込んでいるノートをのぞき込みながら、セオドアが聞く。
「うん、少しずつ水に溶けだしてる感じ、でも動物の魔力放出のみたいな早さじゃないんだ。なんか水が栓になってるみたいな」
「それって、目指してるものにかなり活用できるんじゃないか?」
セオドアが言うと、エルムはそうなんだけど、とうなる。
「もう少し、調べないと。水の中と真空状態だとどう違うのかも」
エルムが今後の計画を見直しながらノートに書きこんでいる。
「忙しいな」
「うん、楽しいよ」
セオドアが無理はするなよと続けると、それはメグに言ったほうがいいねとエルムが笑った。
一方、メグの魔力水で植物を作る実験はすぐに小さな壁にぶつかった。
高濃度の魔力水が足りないのだ。メグの魔力で一日に作れる高濃度の魔力水は、最大でバケツ5杯分。まだ体が幼く、回復が少し遅いため、毎日作るとなると、2杯が限界だった。温室や水耕栽培、花壇も駆使した実験では、メグの作る魔力水だけでは効率があまり良くない。
魔力の多いセオドアやフレアにも手伝ってもらっているが、高濃度の魔力水の精製にはなかなか労力が必要だった。
「チャーリー、ちょっといい?」
花壇の前で花を見ながら悩んでいるメグの前を執事長のチャーリーが通りかかった。
「どうなさいましたか?」
「濃度の高い魔力水がたくさん必要なんだけど、誰か手伝える人いない?」
チャーリーは少し考えて、申し訳なさそうに頭を下げた。
「高い魔力を持つものが多いですが、高濃度の魔力水を作るほど手のあいている者は」
「そうよね……」
「しかし、毎日魔力を余らせているものは多いので、業務終了後に声をかければ魔力に伸びしろのあるものが手伝いを申し出るかもしれません」
「でも、それをしたら、みんな休めないし」
「えぇ、しかし魔力を使いたいと考える者は多いのです。魔力を使用できる仕事は伸びしろがあるものたちでローテーションしていますし、魔力が高ければ、その分今後覚えられる仕事が増えますので」
「……あ! じゃあ……」
チャーリーの言葉にメグは思いついた形を口にする。チャーリーはそれなら大丈夫でしょうと頷いた。
若い使用人を中心に、魔力注入の式を埋め込んだビーカーを渡した。ビーカーに水を入れ、両手で持つだけで魔力水を作れる。これで、効率よく使用人の魔力量にあった魔力水を作れるようになった。
仕事後に余っている魔力で魔力水を作ってもらい、それを貯めると、一日でかなりの量になった。
「高濃度の魔力水は魔力を水に放出することで作ることができる。……多くの人が少しづつ作れば時間的負担は少ない。考えましたね」
オリバーはメグの作ったビーカーを見て、貴族じゃないとできない芸当ですが、と笑った。
「これで、もう少し実験できる植物増える」
短期間で綿毛のついた小さな種子を多く作る花の魔力量を見ながら話すメグ。オリバーはビーカーを置いて、エルムとヒューゴが追加でしている樹木の種を魔力水に浸しておく実験の結果を読み始めた。
「……試したいことが多いですね」
「最高でしょ?」
「えぇ、それはもう」
未知の発見にはいつだって心が躍る。そう答えたオリバーの顔を見てメグは本当に踊りだしそうなほどうれしそうな顔だと思った。
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