ちら見せ紐

Kyrie

文字の大きさ
1 / 5

第1話

しおりを挟む
俺の名前は初瀬はせ京一郎きょういちろう、16歳。
黒短髪、眼鏡、制服のシャツのボタンはきっちり上まで留め着崩すことはなく、成績は常に上位三位内にいる。
冗談も通じず、面白みがないせいもあって他の生徒との交流もほとんどなかった。

しかし、そんな俺に……こ、恋人ができた。
鈴木博文、同じく16歳。
ちゃらちゃらしていて、女子が好きでいつも話しかけている。
成績はまぁまぁ、だと本人が言っていたが実際のところは知らない。

接点がなさそうな俺たちが、その、恋人になったのは鈴木が猛烈に押して押して押して押してきたので、なぜかこうなっていて、自分でも現状把握がいまだにできていない。

高校に登校しクラスの席についてその日の準備をしてしばらくすると鈴木が登校してきた。
「初瀬ー、おはよう!」と言うなり抱きつき「あー、今日もかわいいなぁ、初瀬ー」と言い、そこからずっとべたべたしている。

俺がトイレに行こうとすると一緒についてきそうになって止めたら、「だって、かわいい初瀬が襲われたら困るもん。俺も行くー」と言ってきた。
文武両道の両親両祖父母に育てられた俺は剣道と柔道を習っているので、がっしりした体格をしている。
背も176cmと低くはないはずだ。
この俺が襲われるはずもなく、たとえ襲われたとしても自分で対処できる。
だから断ると「やだよー。初瀬のかわいいアレを他の人に晒すだなんて俺、耐えらない。守りに行く!」と言った。
最初、なんのことだかわからなかったが、やっと意味がわかると顔が赤くなってしまい「馬鹿者ー!」と振り捨ててきたはずなのに、トイレについてきた。
そして「ごめんねー、俺のかわいい初瀬の見せたくないからガードさせてー」と俺を一番端の便器の前に立たせ、その横で他の生徒が見られないように仁王立ちをする。
恥ずかしくなり「馬鹿者ー!」と言って個室に駆け込む。
そんなことを何回も繰り返し、最近では俺がトイレに行くと「初瀬、個室空いてるぞ」と他の生徒がご丁寧に教えてくれるようになった。



洒落っ気もなく、顔がいいわけでもなく、気の利いた会話もできず、体はがっしりと大きく、勉強ばかりしている俺のどこがいいのか。
俺は何度も鈴木にその疑問を投げつけてみてはいるものの「うーん、なんでだろ?俺にもよくわからない。えへへ」と言うばかりなので埒が明かない。
それなのに、「わーい、女の子大好きー!!」と女子の会話の中にするりと入っていき、「あ、ミカちゃん、シャンプー変えた?」「トモちゃん、今日のピアスかわいいじゃん」と楽しそうにしている。
根っからの女好きなのだ。
なのに、なぜ、俺?



そんななのに、なぜかキスはしている。
放課後の図書室で宿題をしていたら、「初瀬ー!」と声がしたので顔を上げるとむちゅっとされた。
唇が離れると「一緒に帰ろう」と鈴木が笑っていた。
俺が固まっていたら「そんなにかわいい顔しちゃだめ!」と俺の宿題をまとめて持ち、俺の手をひっぱり屋上に続く階段を上り始めた。
動揺していたので手を引かれるままついていってしまったが、施錠された屋上へのドアの前までやって来ると、鈴木が振り向いた。
「ほんと、そんな顔、他のヤツに見せちゃだめ」と言い、またむちゅっとキスされた。
俺はただただ立っているしかできなかった。
鈴木は俺を抱き締めると「たまんないな。止められないよ」と何度も唇を合わせてきた。
呆然と立ったままの俺に鈴木は「ね、口開けて」と熱っぽい声で言ったのでしびれた頭でのろのろとそうすると、にゅるりと舌を入れてきた。
それがディープキスだということに気がついたのは、帰宅して制服を着替えてからのことだった。




隙をつかれて何度かキスをされた後、鈴木が自宅に遊びに来い、と誘ってきた。何度も断っていたが、またもや押しに押されてしぶしぶ行くと、どういう流れかベッドに押し倒されむちゃくちゃキスをされていた。

「す、鈴木」

「ん、なに?
ああ、ほんともう、なんでこんなにかわいいの、初瀬ってば」

「ちょっと待て」

「ん、なに」

「おまえの股間に違和感を感じる」

「そりゃ、かわいい初瀬にちゅーしてたら勃つに決まってんじゃん」

俺は血の気が引いた。
そんな俺に構わず、鈴木は身体を俺に乗り上げたままキスをしてくる。

「はぁ、初瀬とえっちしたいなぁ。
いつがいい?」

「あ?」

「俺、ちゃんと待つからさー、俺とえっちしてよ。
初瀬がその気になるまで、待つからー。
他の人としないでー。
ねー、約束してー」

顔中キスされながらこんなことを言われても、誠にもって困る。




その日はそれで終わったが、それから次第にエスカレートし、今では鈴木の手や口で何度かイカされるまでになってしまった。

未だに状況がよく把握できていない。

鈴木と一緒にいるとずっとパニック状態になってしまい、冷静になれる時がないのだ。





今日も登校してくると一直線に俺のところに来てべたべたしたあと、「じゃ、ちょっと行ってくるー」と鈴木は女子の輪の中に入っていった。
俺が眺めていると、田中が「あれが本来の鈴木の姿なのに、どうしてこんなにでかい男を好きになっちゃったかねぇ」と言った。
田中は鈴木と同じ中学で、とても仲がよく、鈴木のことをよく知っていた。

「初瀬さー、鈴木のことどう思ってる?」

「どうって」

「あんまり好きじゃなかったら、きっぱりフってやってよ」

「え」

「ほんと、女子のこと大好きなんだよね、あいつ。
女子に囲まれているのが好きで、そのために中学のときバカな努力をめちゃめちゃしてたし」

「……」

「初瀬さー、あんまり鈴木のこと好きじゃなさそうじゃん。
鈴木のことうっとうしそうだし、いつも鈴木だけが声かけて誘ってばっかじゃん」

「……」

「いいヤツだからさー、真剣じゃないならフってやってくれよ。
幸せになってほしいし」

「……」

「うーん、それかあんまり反応がなかったら鈴木のほうが初瀬をフるかなぁ」

「えっ」

「だって面白くないじゃん。
自分ばっかり動いて、リアクションも薄いし、誘ってもらえないのって」

頭の中が真っ白になった。

「あー、なにやってるのー!」

鈴木が女子の輪から抜けて近づいてくると、ぐっと俺を抱き寄せた。

「いくら田中でも、かわいい初瀬は譲れなーい」

「はいはい、取りゃしねーよ」

「わかんないだろ、初瀬、かわいいもん。
男は豹変するからな」

鈴木の声は耳に入らない。

フられる?
鈴木に?
俺が?
面白みもなく、受け身の俺が?
やはり?



それからずっと、俺の頭は真っ白のままだった。





**

「ちら見せ紐・誕生編」https://etocoria.blogspot.jp/2018/04/chiramise.html
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

処理中です...