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ブラック・バニーズ かけら(4)
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桐谷が他界して、一年近く経った。
半年のブランクを経て、優也がブラック・バニーズの黒服に復帰してからも半年となる。
優也はずっと気がかりなことがあった。
桐谷の私物はともかく、桐谷が書斎として使っていた部屋は仕事で使った書類もある。
そんな大事なものをずっと一個人の家に置いておいていいのだろうか。
社外に持ち出せる程度のものなら、そうたいしたものもないかもしれないが、桐谷が使っていたパソコンもそのままにしてある。
優也は佐伯に相談し、ざっくりと仕事のものとプライベートなものを分けておき、仕事のものは佐伯が処理してくれることになった。
生前もほとんどこの部屋に入ることはなかった。
優也は恐る恐る中に入った。
デスクの上にはアクリルの透明な写真立てがあった。
それは桐谷の息子の龍治と佐伯が会社の桐谷の部屋を片付けたとき、持ち帰ったものだ。
中にはまだ野心をぎらぎらと燃やしながらも醒めた目をした美崎の写真が入っていた。
このときのことは覚えている。
美崎が桐谷に恋い焦がれ、どうしても店に来てほしい、という思いで草津オーナーの友人のフォトグラファーに撮られたものだった。
優也は手際よく、書類をまとめていった。
部屋には作りつけのクローゼットがあった。
あまりものが外に出ていないのを好む桐谷だった。
クローゼットの中には仕事には関係のないものがデスク周りよりたくさんあった。
優也と桐谷の間には秘密がたくさんあった。
いい大人だったし、優也も桐谷に知られたくないことはいくつかあった。
なので、お互いが干渉しないようにしていた。
桐谷が優也と音信不通だったとき、桐谷がどんなふうに生きていたのかちらりと話は聞いたが、あまり詳しくは聞かなかった。
あの人のことだ、女も男も抱いていてもおかしくない。
それを知るのは、嫌だった。
クローゼットの奥のほうから、薄い上品な水色の小さな紙袋が出てきた。
取り出して、デスクの上に置いた。
ロマンティックな書体のフランス語が金色の箔押しとなっている。
それは誰もが知っている有名な高級女性用下着メーカーのブランドの名前だった。
優也は驚きが隠せなかった。
自分と暮らしている間にも、桐谷はこんな下着を購入し、優也が滅多に入らない書斎にひそめていたのか。
どす黒い気持ちがわき上がる。
しかし、自分に残酷な気持ちも現れる。
もし、仁に女性との付き合いがあって、俺と過ごしている時間にもそれが続いていたら、俺はとんだお笑い種だな。
自分が男性である、という引け目はどうしても拭い切れるものではなかった。
自虐的な気持ちが働いて、紙袋の口を留めていたシールをそっとはがした。
中には白いショップの箱が入っていた。
優也は迷わず蓋を開けた。
「え?」
思わず小さな声を上げた。
中には紙袋と同じくらい淡い色合いの水色のガーターベルトが入っていた。
刺繍細工の小さな飾り花がついている。
しかし、だ。
女性用にしては大きい。
大きすぎる。
仁って、こんなに大柄な女性が好みだったっけ?
呆気に取られて、優也は思わずガーターベルトを手に取った。
カシーンっと金属の落ちる音。
「あああああああああああああっっ」
叫びのような優也の慟哭が桐谷の書斎から響いた。
20170727
半年のブランクを経て、優也がブラック・バニーズの黒服に復帰してからも半年となる。
優也はずっと気がかりなことがあった。
桐谷の私物はともかく、桐谷が書斎として使っていた部屋は仕事で使った書類もある。
そんな大事なものをずっと一個人の家に置いておいていいのだろうか。
社外に持ち出せる程度のものなら、そうたいしたものもないかもしれないが、桐谷が使っていたパソコンもそのままにしてある。
優也は佐伯に相談し、ざっくりと仕事のものとプライベートなものを分けておき、仕事のものは佐伯が処理してくれることになった。
生前もほとんどこの部屋に入ることはなかった。
優也は恐る恐る中に入った。
デスクの上にはアクリルの透明な写真立てがあった。
それは桐谷の息子の龍治と佐伯が会社の桐谷の部屋を片付けたとき、持ち帰ったものだ。
中にはまだ野心をぎらぎらと燃やしながらも醒めた目をした美崎の写真が入っていた。
このときのことは覚えている。
美崎が桐谷に恋い焦がれ、どうしても店に来てほしい、という思いで草津オーナーの友人のフォトグラファーに撮られたものだった。
優也は手際よく、書類をまとめていった。
部屋には作りつけのクローゼットがあった。
あまりものが外に出ていないのを好む桐谷だった。
クローゼットの中には仕事には関係のないものがデスク周りよりたくさんあった。
優也と桐谷の間には秘密がたくさんあった。
いい大人だったし、優也も桐谷に知られたくないことはいくつかあった。
なので、お互いが干渉しないようにしていた。
桐谷が優也と音信不通だったとき、桐谷がどんなふうに生きていたのかちらりと話は聞いたが、あまり詳しくは聞かなかった。
あの人のことだ、女も男も抱いていてもおかしくない。
それを知るのは、嫌だった。
クローゼットの奥のほうから、薄い上品な水色の小さな紙袋が出てきた。
取り出して、デスクの上に置いた。
ロマンティックな書体のフランス語が金色の箔押しとなっている。
それは誰もが知っている有名な高級女性用下着メーカーのブランドの名前だった。
優也は驚きが隠せなかった。
自分と暮らしている間にも、桐谷はこんな下着を購入し、優也が滅多に入らない書斎にひそめていたのか。
どす黒い気持ちがわき上がる。
しかし、自分に残酷な気持ちも現れる。
もし、仁に女性との付き合いがあって、俺と過ごしている時間にもそれが続いていたら、俺はとんだお笑い種だな。
自分が男性である、という引け目はどうしても拭い切れるものではなかった。
自虐的な気持ちが働いて、紙袋の口を留めていたシールをそっとはがした。
中には白いショップの箱が入っていた。
優也は迷わず蓋を開けた。
「え?」
思わず小さな声を上げた。
中には紙袋と同じくらい淡い色合いの水色のガーターベルトが入っていた。
刺繍細工の小さな飾り花がついている。
しかし、だ。
女性用にしては大きい。
大きすぎる。
仁って、こんなに大柄な女性が好みだったっけ?
呆気に取られて、優也は思わずガーターベルトを手に取った。
カシーンっと金属の落ちる音。
「あああああああああああああっっ」
叫びのような優也の慟哭が桐谷の書斎から響いた。
20170727
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