白妙薄紅

Kyrie

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十六、

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雨が降っていた。
しとしとと細く、絡みつく蜘蛛の糸のような雨が音もなく花街にも降っていた。
夜も更け、大通りを歩く人影もほとんどなく、茶屋では多くの客が赤い行灯あんどんの光にぼんやりと照らされた次の間で、その日買った陰間を楽しんでいる時間だった。

この二人も例外なく、次の間の緋色のしとねに場所を移していた。
白妙しろたえ掛川かけがわの膝の上に抱かれ座っている。
肌寒かったので、掛川の白い肌襦袢はだじゅばんの合わせに手をかけ、自分を引き寄せその胸に顔を埋め、掛川のこうの匂いと共に煙管きせるの煙の跡も嗅いでいた。
掛川はむき出しになった白妙のたおやかな足の甲や裏を、太い親指でもみもみともみほぐしていた。
気持ちよくなり、白妙はこてんと額を掛川の胸に預け、見られないようににへらと笑った。



白い仔猫をあやすようにしながら、掛川が口を開いた。

「白妙」

「はい、旦那様」

「すでに聞いていると思うが、おまえが十五になったら身請けしたいと惣吉そうきちに申し出た」

「はい」

「私のところに来るといい」

掛川は静かに言った。

「きっと飯田橋さんも身請けしたいと言ってるんだろう。
あの人も立派に商売もやっているし、人からの信頼も厚い。
あちらに行ってもおまえは不幸せにはならないはずだ。
でも、私のところに来てほしい」

口調とは裏腹に、白妙の足に絡める掛川の手にぐっと力が入った。

「家の事情でうちに住まわせることはできないが、新しい家を用意するつもりだ。
そのほうが気兼ねがないと思う。
毎日は難しくても、できるだけ白妙のところに帰ろう。
そして最後まであの花の絵札をおまえと一緒に見たいんだ」

普段より多い口数に、白妙は首を傾げた。

「あと半年で絵札を全部見られそうにないだろう」

「そうですね」

「それに」

掛川にしては乱暴に白妙を褥に押し倒し、荒々しく緋色の肌襦袢の裾を割りまくり上げる。

「私のほうがおまえを気持ちよくさせてやることができるし」

白妙の小枝の先を厚い舌でべろりと舐める。

「や」

「私のほうがもっともっと幸せにしたやることができるからっ」

今度は下から上に舐め上げる。

「やあぁ」

「私のところに来なさい」

掛川が小枝をぎょくごと口に含むのは、容易いことだった。

「ひゃあ」

生温かい口の中で舌が小枝も玉もれろりれろりと絡み、派手な音を立て始める。

「でもっでもっ」

いつになく性急な掛川の仕掛けに白妙はあっという間に追い詰められ、涙を浮かべた。

「でも?」

一度小枝と玉を口から放して、掛川が問う。

「赤さんが寂しがります」

「飯田橋さんだね」

はっと気づいて白妙が両手で口を覆う。

「あの人も余計なことを吹き込んで。
まぁ、それくらいお互い余裕がないということか」

苦笑いしながら掛川は少し吐き捨てるように言った。
白妙は自分の口の軽さを後悔した。

「知っているならそれでいいよ。
どのみち、どこからか漏れ聞こえてくるだろうから、飯田橋さんも自分も責めないでおくれ」

掛川は白妙の足の間を割り、淵がよく見えるように折り曲げた。

「おまえがここを出る頃、私は二人の赤ん坊も腕に抱いているだろうよ」

「ひゃあああ」

厚い舌が淵の周りを這い、そして中をまさぐった。

「だからなんだい。
私の白妙への想いは変わらない。
今、こうやっておまえを抱いているが、それが花街ではなくて私たちの小さな家になるというだけだ」

舌はずんずんと淵の奥へと進んでいく。
白妙の声がどんどん大きくなる。





「おまえの中は熱いな、白妙」

荒い息を吐きながら、掛川はぼくを白妙の淵の奥底深く沈めていった。
正面から突き上げられるが、緋色の褥が白妙の背中を柔らかく受け止めたので痛くはなかった。

「旦那様ぁ」

白妙が呼ぶと掛川は白妙の手を握った。
熱い熱い手だった。

これまで掛川がこんなに手荒く白妙を抱いたことはなかった。
いつもと違う掛川に少し驚いたが、白妙はなにも言わず黙ってされるがままになっていた。

自分が小さく軽いので、膝の上に乗せられたまま木で貫かれることも多かった。
ただの猫可愛がりをされることも多かった。
いくら自分の芸を見せても、小さくて可愛らしいことだけしか見てもらえないことも多かった。

掛川は違った。
いつも白妙の踊りも歌も真剣に楽しんでくれた。
どんどん吸収する白妙にたくさんの珍しいことや考え方を教えてくれた。
自分だけではなく、白妙もまた気持ちよくなるように愛撫を繰り返してくれた。
白妙の木液ぼくえきが次第に濃い白になり、気持ちよくなるとそれを吐き出すことを体に覚えさせると愛おしそうに髪をなで、口を吸い、そしてまた愛撫してくれた。
なので、飯田橋に抱かれたときに木液を吐き出したとき、飯田橋は驚き、そして白妙を乱暴に抱いた。
そのとき初めて飯田橋は気づいた。
白妙もまた、木液を吐き出せることに。
そして、どんなときに木液を吐き出すのかということも。


美しい花の絵札にはたまに秘密の言葉が隠されていて、それを白妙が見つけると他に聞こえないように掛川はそっと耳打ちをして教え、くすくすと笑いあった。
その時間が白妙は好きだった。
とても親密な、まるで本物の恋仲になったような気にさえなった。
大きな胸に抱かれるたび、白妙は安堵の思いを幾度も覚えた。
それもまた、好ましいことだった。



赤さん二人と私と……

掛川が抱えるものの多さを改めて知った気がした。

「なにを考えてる、白妙っ」

「あっ、やあああっ、そこっ」

「ここかっ」

浅いところを執拗にこすられたり、深いところを抉られたり、今夜の掛川はおかしかった。
狂わんばかりになるところをしつこく責められ、だらりだらりと木液をこぼし続ける。

「旦那様ぁ、もう堪忍してぇ」

「ならば、私のところに来い」

「あ、そんなっ、奥っ、やあっ」

ひどいことをしているのに、やっぱり掛川は白妙をおかしくなるほど感じさせ、気づかぬうちに細い腰を振らせていた。



いつもなら熱く火照った体になるのに、今宵は霧雨のせいかしっとりと肌寒いままだった。
事が終わり、掛川の胸に抱かれていたが、白妙は寒くて震えた。
掛川が上掛けを白妙にかけてやり、太い腕で白妙を抱き締めた。
意味もなく白妙は涙を流した。

「どうした」

白妙は首を振った。

「私がひどかったか」

また首を振った。

「おまえは優しいね、白妙」

額に唇を落とし、掛川は白妙の薄い背中をさすってやった。

「おいで。
私が温めてやろう」

白妙が素直に掛川の体にぴったりと身を寄せると、本当に恋仲の二人のように思え、ますます涙が溢れた。

「泣くな、白妙」

「……はい」

「と言っても仕方ないか」

大きな溜息を掛川が吐く。

「雨に紛れて泣くといい。
私がそばにいてあげるから心配ないよ」

白妙はいつものように掛川の胸に顔を埋めた。

白妙の心臓に絡みつく赤い糸がきりきりと締まり、食い込んでいく。





しとしとの絹糸の雨は、朝告鳥が鳴いても止むことはなかった。



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