ワイバーンの背中

Kyrie

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第3話 墜落

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解体屋たちと水についての報告を受けた討伐隊隊長モススは頭を抱えた。
参謀が「かき集めれば1人分の水は確保できそうだ」と精一杯の追加報告もしたが、巨大なインペゲの解体の一番の功労者であるザムエルとなかなかの荒くれ者揃いの解体屋をまとめてくれた長のどちらのその水を使わせるのか考えるとため息しか出なかった。

すると先輩竜騎士に連れられ、竜騎士ダイスがモススの元に現れた。
先輩竜騎士によりダイスがモススに伝えたいことがあると言い、モススは今はそれどころじゃないと思いながらも面倒くさそうに許可した。
相手は竜騎士様であらせられるので、無下にはできない。

「私のワイバーンのエミュがザムエルさんを森の湖まで運ぶ、と言っています」

「なに。それは本当か」

「は、はぁ。エミュの言葉がわかるわけではありませんが、そういう雰囲気で…」

モススの勢いにダイスの声は小さくなっていったが、モススはそれには構わなかった。

「よし、今すぐザムエルを泉に連れていってやってください」

「承知しました」


モススはほっとしたものの、慌てたのはザムエルである。
知らせを聞いてダイスに気を遣い、かなり離れた場所から大声で言った。

「ダイスの旦那、いいんですよ。
俺はみんなよりちょっと早くこの隊から上がらせてもらって、自分で水場まで行きますんで」

「お一人で?徒歩で?
エミュがあなたを運ぶと言っているのです」

「しかしこの臭いだし、ダイスの旦那もエミュも鞍だって汚れっちまう」

「モスス隊長の許可はいただいています。行きましょう」

周囲が好奇の目で二人の会話を聞き、また先に水を使い切ってしまった解体屋たちは「早く行けよー。行ってくれよー。頼むからさー」と願うような目でザムエルを見たので、仕方なくザムエルは観念した。

ザムエルはまた、ダイスの操るエミュに乗り、森の中の湖まで飛んだ。





エミュが選んだ湖は比較的大きめで、深い森の中でも湖の周りには日差しが入り、明るかった。
湖の岸に降り立つと、「ミュイミュイ」と甘えたように鳴き、ダイスに鞍を外してもらうと嬉しそうに羽をぱたぱたとさせた。

「ありがとうな、エミュ。
その…いやだっただろ」

地上に降りるやいなや、ザムエルはすぐさまダイスとエミュから離れ、エミュにそう言った。
エミュはわかっているのかどうなのか「ミュミュ?」と不思議そうに鳴くばかりだった。


「さ、早くさっぱりしてください」

ダイスは特別に支給された石けんと布や着替えをザムエルに渡した。
ザムエルは一礼して受け取ると、ダイスから離れたところで汚れた服を脱ぎ、水に入っていった。

ザムエルの体は美しかった。
噂によると40過ぎで、故郷に妻子を残し働きにきているということだったが、均整のとれた体は褐色で、水に濡れると艶めかしく光った。
短髪と同じく下の毛も銀色だったのには驚き、思わず見入ってしまったところで、ダイスは我に返った。


討伐隊の野営地でも、ザムエルがいるとつい目で追ってしまっていたのを何でも屋のザジに幾度か指摘されたのを思い出した。

『ダイスの旦那、ザムエルが人の目を引くのは承知してますがね、そんなに見ちゃあいつも気になって仕方ねぇですよ。
ほどほどにしてやってください』

『す、すみません』

ザジはにやにやしながらダイスを見るので、いたたまれなくなりダイスは逃げるようにその場から去った。

そんなことも思い出すと、かっと全身が赤くなり熱くなった気がした。

「ミュイーミュイー」

「え、あ、ごめんごめん。エミュ、どうした?」

エミュの声にダイスは再び我に返った。

エミュは森のほうを向き、ミュイミュイと鳴いている。

「森に入りたいのか。
私たちが水を浴びている間だけだぞ。
あまり奥まで行かないこと。
おまえはザムエルさんをまた連れて帰らなくてはならないんだからな」

「ミュミューイ」

エミュは好奇心旺盛なワイバーンだ。
今回の討伐隊との訓練でも、これまで見たことがないものばかりなのでずっと興奮しっぱなしだった。

ブリスの森には小型から中型のモンスターが現れるので、それに警戒しながら森の中での行動の訓練もした。
エミュはいたく森の中が気に入ったようだった。

「行ってこい」

ダイスが言うと、エミュは器用にのっしのっしと二本足で歩き森の中に入っていった。
それを見送ると、ダイスも気を取り直して水浴びを始めた。








さっぱりしたザムエルは機嫌がよさそうだった。
髭が伸びているので、野性味が増している。
連れてきてよかった、とダイスは思った。

エミュも機嫌よく「ミュイミュイ」鳴きながら、ダイスたちの元へ戻ってきた。

「お、ブリスベリーを食べたのか。あれはうまいもんな」

ザムエルは口の周りを赤くしたエミュに声をかけた。
エミュは甘えるように「ミュミューイ」と返事をした。
ザムエルはエミュの首を軽くぽんぽんと叩いてやる。

そのやりとりを微笑ましく、ダイスは見ていた。
そして支度をし、エミュは2人を乗せて空に飛び上がった。





ほどなくして、エミュが聞いたことのない声で叫ぶように鳴いた。

「ガガガガガ、ギャアアアアグゲゲゲギャギャギャ」

「エミュっ?!どうしたエミュっ」

ダイスが舵を操るがエミュは指示に従わないどころか、右の翼を動かすのを止めたのでおそろしい速さで落下し始めた。

「エミューーーーっ」

ダイスとザムエルが名前を呼ぶが、エミュは悲痛な叫びしか出さない。
しかしこのままでは2人が危険だとわかっているようで、叫びながらもエミュは動く左の翼を必死に羽ばたかせる。
が、それでは不十分だ。
落下していく。

「ザムエルさんっ」

「ダイスっ」

「エミュがっ。エミュっ、エミューーーーっ!飛べ、エミュっ」

「ガアアアアっ」

「どこか痛いのか、エミュっ」

「ギーーーーギーーーーーっ」


バランスも崩し、エミュと2人はぐんぐん落下していく。
やがてやってきた想像もできないような衝撃により、誰もが気を失った。







***

最初に気がついたのはダイスだった。
全身を強く打った記憶がある。
まだその衝撃が体に残っているが、頭をあまり動かさないようにそっと起き上がった。

「ザムエルさんっ。エミュっ」

ダイスはザムエルに守られるように落ちたらしい。
木の枝による傷だらけのザムエルがそばに横たわっていた。

鞍は2人の近くにあり、その向こうにエミュが横たわっていた。

気が動転していたダイスはそのままなにも考えず、鞍に仕込んである救援花火を打ち上げた。

「助けてくれっ。ザムエルさんがっ。エミュがっ」

花火への反応がないことがわかると、ダイスはもう1つの救援花火にも着火しようとした。

「や…め」

「ザムエルさんっ」

うめきながら、何かを言おうとしたザムエルにダイスが気づいた。

「……ダ…スのだん…な」

「今はダイスと呼んでください」

「花火は…打つ…な」



ダイスがザムエルに近づきわかったことは、ザムエルは全身打撲のほかに左足首をひどく捻挫し歩けないのと、ザムエルが苦しそうに言うには肋骨にひびが入っているようだった。
とりあえず、ダイスは体を洗った布でザムエルの胸と足をしばった。

そしてダイスはザムエルに肩を貸し、2人はエミュに近づいた。

エミュは「ギギ……ギギ……」と小さな威嚇音を出していた。

「なにがあったんだ、エミュ」

ダイスは小さくつぶやくしかなかった。







**
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