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001. My T(1)
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昼休み、俺と藤堂はいつものように机を向かい合わせにして、弁当を食っていた。
窓から見える校庭の大きなイチョウの木はまっきっきの葉っぱをどんどん落とし、はげていってた。
「それでね、レネたちがすごく困っているから食事の準備をすることにしたんだ」
藤堂はそう言うとぐびっと紙パックのコーヒー牛乳のストローを吸った。
こらこらこら、かわいくストローを吸ってるんじゃありません!
藤堂は去年の入学式から目を引くヤツだった。
さらさらした黒髪に切れ長の目をして、いつも涼し気な顔をしている。
俺は「美少年剣士」と勝手に名づけているけれど、なかなかいいと思っている。
冷静そうで、実はぽけぽけに抜けているギャップがこれまたすごい。
1年のときに、ケーキショップ「レークス」のパティシエのレネさんと恋人になり、ほんのりしていた色気がだばだば放出に変わった。
彼女いない歴の長い……というか存在したことがない俺にとっては刺激が強すぎる。
「そりゃ大変だな」
レークスのケーキはうまい。
だから人気だ。
いつもはレネさんとティグさんという、ものすごくガタイのいいカッコいいジェントルメン2人で店をやっている。
しかし、近づいてくるクリスマスシーズン。
いつもは2人の友達が手伝いに来るのに、今年はどうやってもつかまらなかったらしい。
藤堂はなにか手伝いがしたい、と2人に言ってみたけど、うちの高校はバイト厳禁だ。
藤堂は「バイト代を出さなかったらいい」と食い下がったようだが、レークスがうちの学校のそばにあるし疑わしいことをさせるわけにはいかない、とレネさんがきっぱりと断ったそうだ。
まぁな。
レネさんは去年の梅雨のくっそ蒸し暑い中、スリーピースを着て藤堂のご両親にご挨拶しに行ったくらいだもん。
学校にもご両親にもきっちりしたいと思うだろうな。
それでも諦めない藤堂は2人の食事係を買って出た、ってわけだ。
「で、藤堂、おまえ7人分の食事って作ったことある?」
「え?」
小首をかしげる藤堂、かわいいよ。
ああ、レネさんが心配するのがよくわかる。
俺は大好きないちごみるくの紙パックにストローを刺し、ずずーっと吸った。
ふぅ、今日もうまいよ、いちごみるくちゃん!
「レネさんとティグさんってすっごい食べそうじゃん」
「うん、そうだね」
「クリスマスって激務っぽいからいつもより食べそうだから、3人前くらいいきそう」
「そうかもなぁ」
「3人前が2人分、プラス藤堂ので7人分」
「あ、そうか……」
おまえんちはとーちゃん、かーちゃん、藤堂の3人家族だろ。
あんまり作ったことないと思うよ。
「靖友くんは作ったこと、ある?」
「ん?もちろん。
うち、とーちゃんとかーちゃん、俺、妹の4人じゃん。
俺と妹は育ちざかりなわけよ。
中学女子だって食うわ食うわ、すごいよ。
今日も『早弁する』って弁当のほかにおにぎり2つ持ってってた」
「すごいね」
「だから7~8人分準備しとかないと間に合わなくてさ。
とーちゃんもかーちゃんも食費が大変!」
俺がげらげら笑っていると、藤堂が必死に俺の腕をつかんできた。
「靖友くん、僕と一緒にご飯作らない?」
え?
「お礼にいちごみるくを1か月分ごちそうするから!」
こんなに必死の藤堂を初めて見た。
恋人のレネさんの役に立ちたいと思うこと。
しかし自分の想像を越えた量の食事の準備をするのは不安に思うこと。
もし失敗して、かえって2人に迷惑をかけるようなことはしたくないこと。
藤堂はとつとつと俺に訴える。
「……あ…うん、いつだっけ?」
「12月23~25日!」
「家に帰ってかーちゃんに相談してみるよ。
妹も受験生だから、冬休みに俺、家事やらないといけないかもしれないし」
「うん、ありがと、靖友くん!
僕、ちょっと考えが甘かったなぁ。
あの、今さらだけど無理しないでね」
「うん」
結局、俺は藤堂と一緒にレークスの名物パティシエのため、クリスマスに「食事係」を務めることになった。
レネさんとティグさんはすっごく喜んでくれて、そして心配もされた。
「クリスマスは家族や大切な人と過ごす重要な時間なのに…」
とレネさんはとても申し訳なさそうにした。
2人のジェントルメンの思考はちょっとヨーロッパっぽい、気がする。
そのあと、「クリスマスにご家族と過ごせないお詫びに」と藤堂んちとうちにレークスのホールケーキを持ってジェントルメンは挨拶に来た。
レークスのケーキが好きな妹は大喜びだったが、それ以外にもかーちゃんと2人して目をハートに輝かせてレネさんとティグさんを見つめていた。
すまんよ、とーちゃん。
とーちゃんもなかなかイケてると思うけど、あの200cmはありそうなジェントルメンに勝ち目はない。
レークスの3階部分はティグさんのプライベートエリアになっている。
ここに3日間、4人で泊まり込みをする。
事前にティグさんのキッチンを藤堂と2人で見せてもらった。
「ティグが他人をキッチンに入れるなんて珍しいんだよ」
レネさんが言った。
「そんなこと言ってられないでしょ、今年は」
ティグさんの答えに、
「あの、ご心配でしょうが、丁寧に使いますのでよろしくお願いします」
と俺は礼をし、つられて藤堂も頭を下げた。
「ああ、そんなことしないでよ。
こっちが無理をお願いしているんだから。
この2人なら無茶苦茶しないだろう。
こちらこそよろしく。
じゃあ、頼むね」
ティグさんはにっこりと笑うと大きなウィンクを寄越した。
窓から見える校庭の大きなイチョウの木はまっきっきの葉っぱをどんどん落とし、はげていってた。
「それでね、レネたちがすごく困っているから食事の準備をすることにしたんだ」
藤堂はそう言うとぐびっと紙パックのコーヒー牛乳のストローを吸った。
こらこらこら、かわいくストローを吸ってるんじゃありません!
藤堂は去年の入学式から目を引くヤツだった。
さらさらした黒髪に切れ長の目をして、いつも涼し気な顔をしている。
俺は「美少年剣士」と勝手に名づけているけれど、なかなかいいと思っている。
冷静そうで、実はぽけぽけに抜けているギャップがこれまたすごい。
1年のときに、ケーキショップ「レークス」のパティシエのレネさんと恋人になり、ほんのりしていた色気がだばだば放出に変わった。
彼女いない歴の長い……というか存在したことがない俺にとっては刺激が強すぎる。
「そりゃ大変だな」
レークスのケーキはうまい。
だから人気だ。
いつもはレネさんとティグさんという、ものすごくガタイのいいカッコいいジェントルメン2人で店をやっている。
しかし、近づいてくるクリスマスシーズン。
いつもは2人の友達が手伝いに来るのに、今年はどうやってもつかまらなかったらしい。
藤堂はなにか手伝いがしたい、と2人に言ってみたけど、うちの高校はバイト厳禁だ。
藤堂は「バイト代を出さなかったらいい」と食い下がったようだが、レークスがうちの学校のそばにあるし疑わしいことをさせるわけにはいかない、とレネさんがきっぱりと断ったそうだ。
まぁな。
レネさんは去年の梅雨のくっそ蒸し暑い中、スリーピースを着て藤堂のご両親にご挨拶しに行ったくらいだもん。
学校にもご両親にもきっちりしたいと思うだろうな。
それでも諦めない藤堂は2人の食事係を買って出た、ってわけだ。
「で、藤堂、おまえ7人分の食事って作ったことある?」
「え?」
小首をかしげる藤堂、かわいいよ。
ああ、レネさんが心配するのがよくわかる。
俺は大好きないちごみるくの紙パックにストローを刺し、ずずーっと吸った。
ふぅ、今日もうまいよ、いちごみるくちゃん!
「レネさんとティグさんってすっごい食べそうじゃん」
「うん、そうだね」
「クリスマスって激務っぽいからいつもより食べそうだから、3人前くらいいきそう」
「そうかもなぁ」
「3人前が2人分、プラス藤堂ので7人分」
「あ、そうか……」
おまえんちはとーちゃん、かーちゃん、藤堂の3人家族だろ。
あんまり作ったことないと思うよ。
「靖友くんは作ったこと、ある?」
「ん?もちろん。
うち、とーちゃんとかーちゃん、俺、妹の4人じゃん。
俺と妹は育ちざかりなわけよ。
中学女子だって食うわ食うわ、すごいよ。
今日も『早弁する』って弁当のほかにおにぎり2つ持ってってた」
「すごいね」
「だから7~8人分準備しとかないと間に合わなくてさ。
とーちゃんもかーちゃんも食費が大変!」
俺がげらげら笑っていると、藤堂が必死に俺の腕をつかんできた。
「靖友くん、僕と一緒にご飯作らない?」
え?
「お礼にいちごみるくを1か月分ごちそうするから!」
こんなに必死の藤堂を初めて見た。
恋人のレネさんの役に立ちたいと思うこと。
しかし自分の想像を越えた量の食事の準備をするのは不安に思うこと。
もし失敗して、かえって2人に迷惑をかけるようなことはしたくないこと。
藤堂はとつとつと俺に訴える。
「……あ…うん、いつだっけ?」
「12月23~25日!」
「家に帰ってかーちゃんに相談してみるよ。
妹も受験生だから、冬休みに俺、家事やらないといけないかもしれないし」
「うん、ありがと、靖友くん!
僕、ちょっと考えが甘かったなぁ。
あの、今さらだけど無理しないでね」
「うん」
結局、俺は藤堂と一緒にレークスの名物パティシエのため、クリスマスに「食事係」を務めることになった。
レネさんとティグさんはすっごく喜んでくれて、そして心配もされた。
「クリスマスは家族や大切な人と過ごす重要な時間なのに…」
とレネさんはとても申し訳なさそうにした。
2人のジェントルメンの思考はちょっとヨーロッパっぽい、気がする。
そのあと、「クリスマスにご家族と過ごせないお詫びに」と藤堂んちとうちにレークスのホールケーキを持ってジェントルメンは挨拶に来た。
レークスのケーキが好きな妹は大喜びだったが、それ以外にもかーちゃんと2人して目をハートに輝かせてレネさんとティグさんを見つめていた。
すまんよ、とーちゃん。
とーちゃんもなかなかイケてると思うけど、あの200cmはありそうなジェントルメンに勝ち目はない。
レークスの3階部分はティグさんのプライベートエリアになっている。
ここに3日間、4人で泊まり込みをする。
事前にティグさんのキッチンを藤堂と2人で見せてもらった。
「ティグが他人をキッチンに入れるなんて珍しいんだよ」
レネさんが言った。
「そんなこと言ってられないでしょ、今年は」
ティグさんの答えに、
「あの、ご心配でしょうが、丁寧に使いますのでよろしくお願いします」
と俺は礼をし、つられて藤堂も頭を下げた。
「ああ、そんなことしないでよ。
こっちが無理をお願いしているんだから。
この2人なら無茶苦茶しないだろう。
こちらこそよろしく。
じゃあ、頼むね」
ティグさんはにっこりと笑うと大きなウィンクを寄越した。
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