My T

Kyrie

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003. My T (3)

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ジェントルメンの食事係、と言いつつ、家事全般を請け負うことになった。
というか、した。
元気でタフな2人が、やはり疲労の色が隠せないのをちらちら見たからだ。
藤堂と話をし、ティグさんの許可も得て、そうした。

食事係だけでも想像以上に大変だった。
だって、食う食う!
びっくりするほど食う!
藤堂と二人、チャリで買い出しに行き、昼の準備をしたけれど、「これでは足りない」とまた買い足しに行った。
材料を切るだけでもなかなか。
藤堂はこれだけ大量の料理を作るのに慣れていないし、「えー、調味料計らないの?!」なんて言っている。

「入れ過ぎたらマズいけど、薄いのから足してちょうどよくすればいいんだから」

と俺は計らずにどばどば入れ、こまめに味見をする。
最初はどぎまぎしていた藤堂も次第にそのやり方に慣れてきた。


食事、掃除、洗濯、雑用。
定期的に2階の倉庫からケーキのパッケージのストックを1階に下ろしたり、ごみ捨てをしに行ったり、そういうことも。
厨房に入るときは忍者のように手早く迅速に静かに黙って。

今はティグさんが「シーツ洗いたい」と涙目で訴えてきたので、立派な洗濯機にごうんごうん頑張ってもらいながら、冬休みの宿題をやっている。
言い出したのは藤堂で、俺は驚いていたけど、「早くやらないとお正月が迎えられないから」と言った。
25日までここの家事やって、26日は後片付けの手伝いをちょっとして、27日はジェントルメンがお礼になにかしてくれるっていうし、それが終われば28日で大掃除とおせちとお雑煮……なるほど。
できるときに詰め込んでやってたほうが、後がラクそうだ。
藤堂と俺は普段見せない素晴らしい集中力で宿題に取り組んだ。
わからないところはすぐに聞けるし、効率もよかった。


俺たちはティグさんちのゲストルームで寝泊まりした。
活動時間が違うから、とティグさんの寝室にジェントルメンは寝ている。
あのごっつい200cm越えの2人がどうやって寝るんだろう、と思っていたけど、シーツを取りに寝室に入ったら納得した。
「部屋にベッドしかありません」というような、キング以上サイズ、キング・オブ・キングスサイズと言えばいいのか、そんなでっかいベッドがひとつどどーんとあった。
藤堂もこれには目を丸くした。
レネさんちのベッドも大きいけれどここまでじゃない、とつぶやいていた。

ちなみにゲストルームのベッドもでかく、藤堂と2人で寝ても有り余る。
俺は180cm越えしちゃったので、かーちゃんが「そんなベッドを入れられる部屋じゃないから!」と布団生活だ。
おまけに足が出るので、座布団を足している。
シーツと掛布団はでかいのを買ってもらった。
ごめんよ、とーちゃんかーちゃん。
俺と妹のせいで、2人のすねはほっそほそだよ。
だから大学は国立一本狙いだ!
そして、がんがん給料稼いで、いい部屋住んでのびのびできるベッド買って、のびのび入れる風呂もつけるんだもんね!

こんな野望を持っている俺なんで、ティグさんちのベッドは快適で仕方なかった。




親子丼作って、豚汁作って、夜食の焼きおにぎり作って、朝のミネストローネ作って、チーズ切って、ハム切って、茹で野菜サラダ作って、煮しめ炊いて、中華丼作って、ワンタンスープ作って、豚の生姜焼き焼いて、パン買って、豆サラダ作って、ポテトサラダ作って、かぼちゃサラダ作って、れんこんのきんぴら作って、お手軽サンド作って、即席ピクルス作って……
とにかく、藤堂と俺は思いつくものをどんどん作っていった。
ジェントルメンはそれをすっごい勢いで食べ尽くしていく。
昼は俺たちもいるときに交代で上がってくるので、お茶を淹れたり、汁を温めたりもできたけど、朝や夜食はもう俺たちが寝ているので2人にやってもらっている。

その前から忙しかったようだけど、23、24日の2日間で、さすがのジェントルメンもげっそりしてきた。



最終日の25日の朝、俺と藤堂は6時に起きてダイニングに行ったけど、ジェントルメンはすでに朝食を済ませた後だった。
見事に食べ尽くされていて、俺らの朝食はない。
コンビニでなにか買ってくるか、と言っていた矢先、階段をあがる足音がしてドアが開いた。

ぱりっとした真っ白なコックコートを着たレネさんとティグさんが手に皿を持って入ってきた。

「おはよう。
そしてメリー・クリスマース!」

レネさんが愉快そうに言い、テーブルの上にケーキを置いた。
一つは真っ白い生クリームにたっぷりのいちごをあしらい、くるくるのらせん状のチョコレートで飾られた「雪のケーキ」と勝手に俺が呼んでいるケーキ。
チョコレートプレートには「Love, Masato!!!!」の文字。

もう一つは濃厚なチョコレートケーキで、少し小ぶりだけどどっしりとした存在感。
洋酒に漬けたドライフルーツがアクセントとして入っている「オトナ・ブッシュ」と俺が呼んでいるケーキ。
これはブッシュ・ド・ノエルっぽく木みたいな模様があるから。
こちらは皿の上に「Love, Motochika」とハートマークが書いてあった。

藤堂はとろけるような顔をしてレネさんにお礼を言っている。

「ごめんね、俺たち、全部食っちゃったから。
パンケーキも焼いてきたよ」

とティグさんが山盛りのパンケーキの皿もテーブルの上に置いた。

「プレートの文字は俺が書いたよ。
今回、本当に助かったから『愛』を込めて丁寧に書いたんだ」

悪戯っぽく笑うと、ティグさんは大きなウィンクをした。

「ありがとうございます。
嬉しいです」

俺は礼を言った。

「忙しい君たちにクリスマス・ケーキがないだなんて耐えられないよ」と言いながらレネさんは藤堂に近づいていった。

「オゥ、真人ォ、足りない!」と腕を広げてがぱーーーーーっと藤堂を巻き込むようにハグをした。
「レネ」と藤堂も言っているけどレネさんがでかすぎて、藤堂が見えません。
藤堂充電中。

ティグさんはパンケーキ用にバターと「メープルシロップより今はこっちにはまってるんだ」とはちみつを出してくれ、「ありがとうございます」と返事をした。

「長いッスね」

「まぁね。レネも今回は相当くたびれてるし」

充電中の2人を見ながらティグさんとそんなやり取りをした。
じゃあ、さ、ティグさんも相当くたびれてるんじゃないの?
充電しなくて大丈夫なの?

ちらりとティグさんを横目で見たら、ティグさんは充電中の2人を微笑ましくそして少し寂しそうに見ていた。

「んんんーーーーー!!」

突然、藤堂がうめきだした。
はいはい、もう君たち、ね。
とーさん、カノジョいないんですよ。
そこのところわかっていますかね?
とーさんの目の前でなにをやっているんだ、藤堂!
ちゅっちゅちゅっちゅ、やりすぎだろーーーー!

ハグからバードキスになったあと、べろちゅーになって藤堂がうめいている。
口元はレネさんの太い腕で見えませんけどね。
まさか親友のキスシーンをこんなふうに見せつけられるとは。
海外ドラマかよ!


ようやく解放された藤堂はふらふらだったが、満足そうだった。
はいはい、よかったねー。
ほんと、すごいよなぁ、藤堂は。
と思っていたら、「ティグ」と言い、今度はティグさんに腕を開いて近づいていった。
ティグさんも「真人」と呼んで、ぎゅっぎゅっと親愛なるハグをした。

「あ、靖友くんもする?」

ティグさんとのハグのあと、俺の方を向きながら藤堂が言った。
は。
え。
「え、遠慮しときます」と答えたかと思うと、「うちで遠慮するなよー」とがばーーーーっとでっかいものが抱きついてきた。

「はうっ?!」

妙な声を上げてしまったが、これはティグさんだ。
ティグさんの充電は十分じゃない。
俺はできる範囲で腕を回し、ティグさんをぎゅっとした。
一瞬、ティグさんが身体を微かに震わせたけど、ティグさんは耳元でおどけたように笑い、そして真面目な声で「ありがと」と言い、腕をほどいた。

「よーし、これで最終日も頑張れるな」

ジェントルメンは拳を軽くぶつけ合い、笑いながら厨房へ戻っていった。

ティグさんはあれで足りたんだろうか。
ちょっと心配になったが、とっとと食べて昼の準備もしなくちゃならない。
ありがたくパンケーキとクリスマスケーキを藤堂と食べ、最終日に備えた。






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