空と傷

Kyrie

文字の大きさ
21 / 50

第21話

しおりを挟む
マッサージの後、カヤとロダとルーポはのんびりお茶を飲んだ。
アルベルトはルーポに教えてもらったマッサージを「忘れないうちに」と復習するために席を外した。
カヤとロダはルーポを労い、話巧みなロダの豊富な話題にルーポは心を苦しめずにすんだ。

夕刻近くになって、カヤが汗をかいたので早めに風呂に入りたいとアルベルトに言い、いつもより早い時間に入浴することになった。

「おら、行くぞ、ルーポ」

「え、あ、いえ、どうぞお先に」

「なに言ってる」

カヤがこれまで通りにルーポを連れて浴室に行こうとしていると、ロダが声をかけた。

「一緒にお風呂ですか。
いいな。
私も一緒に…」

「来るな。
おまえが来ると狭い」

「じゃあ、私がルーポと入りますよ。
カヤはお一人で広々とどうぞ」

「ぼ、僕は最後に……」

「おまえをきちんと洗わないと、アルベルトに怒られるだろうが。
今はおとなしそうにしているが、あれできっちり厳しく見ているんだから。
ほら、行くぞ」

カヤはルーポをかかえるようにして浴室に連れていき、今まで通りに躊躇せず大胆に服を脱ぐとさっさと入っていった。
ルーポは自分の気持ちを考えると恥ずかしくてたまらなかったが、それを悟られるわけにもいかず「平常心。平常心」とぶつぶつとまじないのようにつぶやきながら、仕方なく服を脱ぎ、平気な様子で後に続いた。
が、なるべく顔を背け、カヤを見ないようにし、身体や髪を洗い、カヤと共に湯船に入った。

「やっぱり風呂はいいなぁ、ルーポ」

「…………は…い」

消え入りたいほど緊張したルーポに気がついているのかどうだか、カヤは変わらず呑気に話しかける。
ますますルーポは身を硬くし、身体ごとカヤから逃げるように背けた。

「ルーポ」

とても近くで声がした。
え、と驚いて思わず顔を上げてそちらを見てしまった。
そのタイミングでカヤの大きな手が後ろ頭に回され、気がついたときには顔が近づいていて、唇がかすめとられていた。


まるで、昨日の朝のように。



あまりのことに、ルーポは空色の目を開きっぱなしだった。

動きを止めたルーポにカヤはまた顔を近づけ、ちゅぽっと唇を吸い取る。

声も出ず、固まったままなのをいいことに、次に唇を重ねたときにはその熱い舌でルーポの唇をこじ開け、中に侵入する。

「………んんんっっ!!!」

「ばか」

一旦、唇を離すとカヤが言った。

「静かにしろ。
外にはアルベルトがいる」

なにか言いたいのに、まったく声にならない。

そんなルーポを見て、カヤは「仕方ないな」と小さくつぶやくと、またかすめるように唇を奪い、そしてにやりと笑って「上がるぞ。おまえも早く上がれ」と浴槽から出ていった。

残されたルーポは呆然としていたが、はっとしてのろのろと湯船から上がった。
新しい服を着て浴室から出ると、あまりに赤い顔をしていたのでアルベルトが驚き、「湯あたりしましたか?!」と慌てて冷たいレモン水をルーポに飲ませるほどだった。


ふらふらしたまま、久しぶりに大食堂で食事をした。
幾つか手順やマナーを忘れそうなことがあったが、今回はカヤも隣にいてぼんやりしたルーポをそっとサポートし、ロダもにこやかにフォローしたので大きな失敗もなくルーポは食事を済ますことができた。


ルーポは早く一人になりたくて、足早に客室に戻るとベッドに飛び込んだ。

どうしよう

どうしよう


丸1日以上、何もなかったように振舞っていたカヤにやきもきしたものの、ルーポは「あれは僕をどなたかと間違われたんだ」と無理矢理結論づけ、平静を保っていた。
が、風呂でのキスはごまかしようもなかった。


どうして?

なんで?


もう一人だ。
薬師の顔もしなくてもいい。

ルーポは両手で顔を覆うと声を殺して泣き出してしまった。
そうでもしないと、身が持ちそうになかった。
混乱して、どうしようもなかった。





どれくらいそうしていたのかわからず、眠れるはずもなく、ルーポはただただベッドに横になったままだった。

音がした。

小さな、ノックの音。


まさか、またカヤ様がっ?!

ルーポは暗闇の中、ベッドから降りると走り、ドアを開けた。

「!」

気がついたときには太い腕に抱きしめられていた。
そして、ぱたりというドアが閉まる微かな音。

自分の肩に顔を埋める大きな人。
流れる長い髪。
思わず漏れる熱い吐息がルーポの顔にかかる。

カヤ様……!!!

ルーポは思わず、自分が触っている人物のシャツを握りしめ、ぎゅっと目を閉じる。
その仕草に、ますます腕に力が籠り、ルーポの首筋にさらに顔を埋めていく。
そしてそのままルーポを立て抱きにし歩くと、2人でベッドに上がった。

「ルーポ……」

濡れたその声は、紛れもないカヤのものだった。

「カヤ様ぁ……、んん」

切なくルーポが名前を呼ぶと、すぐに唇を塞がれた。
そして顔中に降り注ぐキスの嵐。

ルーポは我を忘れた。
何も考えずに、カヤの太い首に腕を巻きつけ抱きしめた。
それに応えるように、カヤもキスを止め、ルーポを抱きしめ返した。

ずっと

ずっと

こうしたかった……

「カヤ様……」

小さなキスが何度も何度も唇に落とされ、ルーポの体温が上がる。
身をよじれば、響く衣擦れの音。

唇が重なる時間が次第に長くなり、こじ開けなくても開いたルーポの口の中にカヤの舌が入り込んだ。

「ふぅ……ふっ……んんっ」

鼻にかかった声が漏れる。
ルーポの舌はこれまで経験したことがないくらい吸われ、絡まれ、愛撫される。
自分がカヤから拒まれていないことを知る。
求められていることを知る。
新しい涙がほろりほろりと流れる。

「まだ泣いてるのか。
いやか?」

優しく問われ、ルーポは首を振る。

「そうか」

カヤは短く答えると、また唇を重ね舌を潜ませ歯のつけ根の部分を舌先でなぞった。


ルーポは嬉しかった。
カヤに抱き込まれ、自分も手を伸ばしカヤに抱きつく。
唇を吸われ、離れると自分からも唇を突き出し追うと、またとらえられ重なり合う。




どれくらいそうしていたのか、離れるのはとても嫌だったのにカヤが身を離した。
ベッドから降り、ルーポをベッドの中央に寝かせる。
愛おしそうに髪をなで、名残惜しそうに短く唇をかすめ取ると、大きな手で両目を覆い目を閉じさせた。
ルーポは耳をすました。
掛け布団を整え、再び唇を重ねるとカヤの気配が離れていくのを感じた。
何も言われていないのに、目を開けてはいけないと思った。

小さくきしむ音がして外の空気が忍び込み、ぱたんと微かな音を立てドアが閉じられた。
そしてカヤの気配は消えた。

ルーポはひどく寂しく思いながらも、先程まで自分を囲うように抱きしめられていた腕を思い出した。
熱い吐息と、ときどき名前を呼ぶ優しく甘く響く声、そして唇と舌の感触。
自分が手を伸ばすと応えるようにそれを取り、握り、ずっと離さずにいてくれたこと。

ルーポはまた温かな涙を流し、やがては眠ってしまった。



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

処理中です...