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第33話
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エトコリアでのルーポの生活は地味に始まった。
ダイロスに呼ばれた日は、朝食を食べると歩いて魔導宮に行った。
そして大魔術師の部屋で魔法を習う。
まずは自分の中の魔力を掴むこと。
これまでそんな不思議な力が自分の内側にあるとは知らなかったので、それを掴めというのはなかなか酷なことだった。
ダイロスはせかすことはせず、根気強くルーポに付き合った。
ダイロスに弱く魔力を流されると何かが自分の奥の深いところで流れているのを微かに感じることができた。
しかし、ただそれだけであった。
ルーポが自分の内側に集中しても、さっぱりだった。
大体、そこで終わった。
多忙なダイロスが割ける時間は短く、時には半時の半分しかないこともあったが、ルーポは不満一つ言わずにいた。
ダイロスが去ったあとも1人で第魔術師の部屋で魔力を掴む練習をする。
終わるのが昼過ぎになることが多く、ルーポは魔導宮からの帰り、街の屋台でなにかを求めて食べて帰る。
この世界では通貨というものが存在せず、自分の持てるものを提供し合うことになっていた。
なのでルーポは簡単に、目についた珍しいものを試してみることができた。
今はポケット状になった薄いパンにスパイスを利かせた肉と野菜を詰めたものが気に入っていた。
そして小屋に帰っていった。
魔導宮に行かない日は、小屋で過ごすことが多かった。
マーガスは「ハーブ」と呼ぶ香りのいい植物を扱うのを得意としていた。
温室も持っていて、それを見せてもらうとルーポは目を輝かせた。
名前は違うが、幾つか自分が見知った植物もあり、ルーポは嬉しくなった。
マーガスもルーポの薬袋の中に入っていた薬草に関心を持った。
薬袋の中には種で持ち歩いているものもあり、蒔いてみることにした。
ルーポはマーガスのハーブの世話や、ハーブティー、ハーブ石けんを作るのを手伝った。
これは2人にとってとても楽しいことだった。
小屋があんなに雑然としていたのは、マーガスが片付けが苦手だからだ。
次々にものを出しては片づけることをせず、自分の関心のあるものを取り出しそれに取り掛かってしまう。
ルーポがわかる範囲で片づけると、マーガスは「おまえ、すげぇな!」と50男とは思えないほどのきらきらした目で見るので、ルーポは自主的に片づけをするようにした。
小屋においてもらうのに、なにか仕事があったほうが気も楽だった。
マーガスはハーブやエトコリアにある薬草についてルーポに教え、自分の持っている少ない本も見せてやった。
あまりに覚えることが多いので、ルーポは貴重な羊皮紙に書きつけようとしたがマーガスが止めた。
「書いても無駄だ。
おまえの世界に戻ったとき、ここで書いた文字は全て消えるそうだ。
身体で覚えろ、染み込むまで」
ルーポは必死になって覚えていった。
マーガスもルーポが覚えるまで辛抱強く、何度も教えていった。
しかし、一向に魔法については進まなかった。
自分の中の魔力を掴まないと、次に進めない。
ルーポは焦る気持ちを抑えながら、とにかく黙って自分に集中していた。
ダイロスやマーガスに言われたことを思い出しながら、意識を内側に向けるがなにを捕まえていいのかよくわかっていない。
確かにあるのだ。
微かだが確実に自分の中にあるあの掴みようもないものを捕まえるにはどうすればいいのか。
あまりに根を詰めてげっそりと気力を失ったり、ふらふらになっていると「なにやってんだよ、おまえっ!」と温泉に連れていかれ、湯に入らされた。
小屋のそばの森には不思議なことに温泉が湧いている場所がある。
初めてそこに入ったときは最悪だったことをルーポは覚えている。
ダイロスにマーガスの元に連れてこられてすぐにアキトが現れ、鼻をくんくん鳴らしながらルーポのにおいを嗅ぐと言った。
「そなた、雄のにおいがする。
それも、身体の内側から」
「え」
前夜のカヤとのことを思い出し、ルーポはたじろぎ真っ赤になった。
アキトは強引にルーポの腕を引いて、森に向かった。
むっとする硫黄のにおいがしたかと思うと、ルーポは温泉に突き落とされた。
驚いて手足をばたつかせていると、ぐいっと腰を引き寄せられた。
アキトに湯の中で立たされると湯は臍の上くらいまであった。
溺れることはないとわかるとルーポはほっとした。
が、ぷちぷちとアキトが器用にシャツのボタンを全てはずし脱がした。
「これは」
アキトの少し侮蔑を含んだ声にルーポは固まる。
「たっぷり愛された跡だろ。
いいことじゃないか」
2人の後を追ってきたマーガスが笑って言い、手にしていた籠を足元に置いた。
「え、なにが」
「気づいていないのか。
あちこちにつけられてるぞ、キスマーク」
「ふぁっ?!」
「あとで鏡を見せてやるよ」
「い、いいえっ、いりません!」
「なんで?
素晴らしいことじゃないか。
アキトもうらやましいなら、後でつけてやる」
「そなたにつけられても嬉しくありません」
アキトはぷいと横を向いた。
初日からものすごい恥ずかしい思いをしたが、そう思っているのはルーポだけでアキトはそれ以上なにも言わなかったし、マーガスは別のことに関心があった。
マーガスは人の髪を洗うのが大好きだった。
自分の作るハーブ石けんもそこは大きなこだわりの一つで、ふんわりと艶やかに洗い上がるためのハーブの配合には非常にこだわっていた。
好きな香りの石けんを選ばせてくれることもあったり、髪の状態によっては特別な石けんしか使わなかったりした。
「おまえ、すげぇいい髪してんな。
フェアリー・ヘアかよ。
それもこんなに見事なの、人間では初めて見た!」
カヤがつけたキスマークだらけの上半身を見られて恥ずかしさに震えているルーポに、マーガスはそう言った。
そして「来い。髪を洗ってやる!」と嬉々としてルーポの腕を取り、少し温泉が浅くなっているところに座らせた。
持ってきた籠の中から手桶と石けんを取り出す。
「まずはリラックスがいいだろ。
今日はラベンダーで洗ってやる」
他のことはがさつだが、マーガスは髪を洗うときとハーブに関わることをするときだけは丁寧な作業をした。
それはカヤでもアルベルトでもなく、優しい香りに包まれてとても気持ちのいいものだったが、ルーポは少し切なくなった。
最後にビネガーとラベンダーのオイルで作ったリンスで髪を浸しながら、マーガスはぼそりと言った。
「愛される相手がいるのは、幸せなことだ」
優しい響きだった。
ルーポのあとはアキトが髪を洗われた。
ぶつくさ文句を言っていたが、気持ちいいのは知っているようで、マーガスに髪を預けるとあとは静かになり、うっとりとしてアキトは目を閉じていた。
初めて満月の日を迎えた。
「今夜はアキトに近づくなよ」
マーガスが作った朝食を2人で食べながら、マーガスが言った。
「どうしてですか?」
「夜になればわかる」
その日は魔導宮に行く日だったので、ルーポはダイロスと魔力を掴む練習をした。
帰り際に「今夜は満月ですね。気をつけなさい」とダイロスも言った。
「ダイロス様、今朝、マーガスにも同じことを言われました。
どうしてですか?」
「夜になればわかりますよ。
できればマーガスのそばにいなさい」
ダイロスはそれだけしか言わなかったので、ルーポもそれ以上は聞けなかった。
夜、日が沈むとすぐに大きな満月が昇ってきた。
甘いはちみつ色の、濃い色をしていた。
小屋の戸口を開き、早めに夕食を済ませたマーガスが外を覗いてた。
ルーポもそっと横に立った。
小屋が建っているところは小高い丘になっていて、草原の中に白い一本道があり街の中心部へと続いている。
道は月光に照らされ、ぼんやりと浮かんで見えた。
クゥゥゥゥゥーーーーーン
遠くで獣の声がしたような気がした。
「あれは?」
思わず小声でルーポが聞いた。
「アキトだよ。
いた、あそこだ」
マーガスも小声で答え、宙を指さした。
そこには銀に光る毛並みに包まれた、大きくて美しい狐が一匹、空を駆けていた。
ルーポは驚いた。
獣の耳が頭の上から生えた人の姿をしたアキトは見慣れていたが、狐の姿のアキトは初めてであった。
アキトは叫ぶように鳴きながら、空を駆けまわっている。
「どうして?」
「あれは妖だ。
ここやおまえの世界とはまた別の世界の魔物だそうだ。
月の力の影響をよく受けるから、満月の日は制御が効かない。
あいつになにかされたら、厄介だからな。
まぁ、大丈夫だと思うが、絶対はない。
満月の日には気をつけろよ。
他のときは、ほら、結構いいヤツだとルーポも知ってるだろ」
ルーポはうなずいた。
あんなにからかったりばかにしたりするくせに、アキトは案外面倒見がよかった。
がさつなマーガスが気がつかないようなことを言ってくれる。
着の身着のままで来たルーポに、「ルーポの服がない」と言い出した。
「それならオレの服を……」とマーガスが言いかけたところで、アキトが整った眉を片方だけ吊り上げた。
「そなたのがさがさなシャツをルーポの着させる、というのですか。
ついでにそなたの服も新調していらっしゃい。
私のものも頼みます」
美しい人の迫力、というのをルーポは初めて間近で見た。
怒らせると怖い、と心底思った。
翌日、マーガスはルーポを連れて街の服を扱う店に行った。
店は2人の女性がやっていて、マーガスとは親しいようだった。
2人はきゃあきゃあと言いながら、ルーポ、マーガス、そしてアキトの服を選んだ。
そして「ねーねー、時間はあるでしょ。お茶を飲んでいってよ」と断る隙もなく、ソファに座らせられると焼き菓子とお茶が用意された。
マーガスが「諦めろ」とぼそりと言った。
よくわからなかったが、店を出る頃にはルーポはその意味がわかった。
矢継ぎ早に交互にしゃべる女性に付き合うとぐったりしてしまった。
「帰ったら、湯に浸かろう」
「はい、すぐにそうしましょう」
マーガスとルーポは店を出てすぐに、そんな会話をした。
ダイロスに呼ばれた日は、朝食を食べると歩いて魔導宮に行った。
そして大魔術師の部屋で魔法を習う。
まずは自分の中の魔力を掴むこと。
これまでそんな不思議な力が自分の内側にあるとは知らなかったので、それを掴めというのはなかなか酷なことだった。
ダイロスはせかすことはせず、根気強くルーポに付き合った。
ダイロスに弱く魔力を流されると何かが自分の奥の深いところで流れているのを微かに感じることができた。
しかし、ただそれだけであった。
ルーポが自分の内側に集中しても、さっぱりだった。
大体、そこで終わった。
多忙なダイロスが割ける時間は短く、時には半時の半分しかないこともあったが、ルーポは不満一つ言わずにいた。
ダイロスが去ったあとも1人で第魔術師の部屋で魔力を掴む練習をする。
終わるのが昼過ぎになることが多く、ルーポは魔導宮からの帰り、街の屋台でなにかを求めて食べて帰る。
この世界では通貨というものが存在せず、自分の持てるものを提供し合うことになっていた。
なのでルーポは簡単に、目についた珍しいものを試してみることができた。
今はポケット状になった薄いパンにスパイスを利かせた肉と野菜を詰めたものが気に入っていた。
そして小屋に帰っていった。
魔導宮に行かない日は、小屋で過ごすことが多かった。
マーガスは「ハーブ」と呼ぶ香りのいい植物を扱うのを得意としていた。
温室も持っていて、それを見せてもらうとルーポは目を輝かせた。
名前は違うが、幾つか自分が見知った植物もあり、ルーポは嬉しくなった。
マーガスもルーポの薬袋の中に入っていた薬草に関心を持った。
薬袋の中には種で持ち歩いているものもあり、蒔いてみることにした。
ルーポはマーガスのハーブの世話や、ハーブティー、ハーブ石けんを作るのを手伝った。
これは2人にとってとても楽しいことだった。
小屋があんなに雑然としていたのは、マーガスが片付けが苦手だからだ。
次々にものを出しては片づけることをせず、自分の関心のあるものを取り出しそれに取り掛かってしまう。
ルーポがわかる範囲で片づけると、マーガスは「おまえ、すげぇな!」と50男とは思えないほどのきらきらした目で見るので、ルーポは自主的に片づけをするようにした。
小屋においてもらうのに、なにか仕事があったほうが気も楽だった。
マーガスはハーブやエトコリアにある薬草についてルーポに教え、自分の持っている少ない本も見せてやった。
あまりに覚えることが多いので、ルーポは貴重な羊皮紙に書きつけようとしたがマーガスが止めた。
「書いても無駄だ。
おまえの世界に戻ったとき、ここで書いた文字は全て消えるそうだ。
身体で覚えろ、染み込むまで」
ルーポは必死になって覚えていった。
マーガスもルーポが覚えるまで辛抱強く、何度も教えていった。
しかし、一向に魔法については進まなかった。
自分の中の魔力を掴まないと、次に進めない。
ルーポは焦る気持ちを抑えながら、とにかく黙って自分に集中していた。
ダイロスやマーガスに言われたことを思い出しながら、意識を内側に向けるがなにを捕まえていいのかよくわかっていない。
確かにあるのだ。
微かだが確実に自分の中にあるあの掴みようもないものを捕まえるにはどうすればいいのか。
あまりに根を詰めてげっそりと気力を失ったり、ふらふらになっていると「なにやってんだよ、おまえっ!」と温泉に連れていかれ、湯に入らされた。
小屋のそばの森には不思議なことに温泉が湧いている場所がある。
初めてそこに入ったときは最悪だったことをルーポは覚えている。
ダイロスにマーガスの元に連れてこられてすぐにアキトが現れ、鼻をくんくん鳴らしながらルーポのにおいを嗅ぐと言った。
「そなた、雄のにおいがする。
それも、身体の内側から」
「え」
前夜のカヤとのことを思い出し、ルーポはたじろぎ真っ赤になった。
アキトは強引にルーポの腕を引いて、森に向かった。
むっとする硫黄のにおいがしたかと思うと、ルーポは温泉に突き落とされた。
驚いて手足をばたつかせていると、ぐいっと腰を引き寄せられた。
アキトに湯の中で立たされると湯は臍の上くらいまであった。
溺れることはないとわかるとルーポはほっとした。
が、ぷちぷちとアキトが器用にシャツのボタンを全てはずし脱がした。
「これは」
アキトの少し侮蔑を含んだ声にルーポは固まる。
「たっぷり愛された跡だろ。
いいことじゃないか」
2人の後を追ってきたマーガスが笑って言い、手にしていた籠を足元に置いた。
「え、なにが」
「気づいていないのか。
あちこちにつけられてるぞ、キスマーク」
「ふぁっ?!」
「あとで鏡を見せてやるよ」
「い、いいえっ、いりません!」
「なんで?
素晴らしいことじゃないか。
アキトもうらやましいなら、後でつけてやる」
「そなたにつけられても嬉しくありません」
アキトはぷいと横を向いた。
初日からものすごい恥ずかしい思いをしたが、そう思っているのはルーポだけでアキトはそれ以上なにも言わなかったし、マーガスは別のことに関心があった。
マーガスは人の髪を洗うのが大好きだった。
自分の作るハーブ石けんもそこは大きなこだわりの一つで、ふんわりと艶やかに洗い上がるためのハーブの配合には非常にこだわっていた。
好きな香りの石けんを選ばせてくれることもあったり、髪の状態によっては特別な石けんしか使わなかったりした。
「おまえ、すげぇいい髪してんな。
フェアリー・ヘアかよ。
それもこんなに見事なの、人間では初めて見た!」
カヤがつけたキスマークだらけの上半身を見られて恥ずかしさに震えているルーポに、マーガスはそう言った。
そして「来い。髪を洗ってやる!」と嬉々としてルーポの腕を取り、少し温泉が浅くなっているところに座らせた。
持ってきた籠の中から手桶と石けんを取り出す。
「まずはリラックスがいいだろ。
今日はラベンダーで洗ってやる」
他のことはがさつだが、マーガスは髪を洗うときとハーブに関わることをするときだけは丁寧な作業をした。
それはカヤでもアルベルトでもなく、優しい香りに包まれてとても気持ちのいいものだったが、ルーポは少し切なくなった。
最後にビネガーとラベンダーのオイルで作ったリンスで髪を浸しながら、マーガスはぼそりと言った。
「愛される相手がいるのは、幸せなことだ」
優しい響きだった。
ルーポのあとはアキトが髪を洗われた。
ぶつくさ文句を言っていたが、気持ちいいのは知っているようで、マーガスに髪を預けるとあとは静かになり、うっとりとしてアキトは目を閉じていた。
初めて満月の日を迎えた。
「今夜はアキトに近づくなよ」
マーガスが作った朝食を2人で食べながら、マーガスが言った。
「どうしてですか?」
「夜になればわかる」
その日は魔導宮に行く日だったので、ルーポはダイロスと魔力を掴む練習をした。
帰り際に「今夜は満月ですね。気をつけなさい」とダイロスも言った。
「ダイロス様、今朝、マーガスにも同じことを言われました。
どうしてですか?」
「夜になればわかりますよ。
できればマーガスのそばにいなさい」
ダイロスはそれだけしか言わなかったので、ルーポもそれ以上は聞けなかった。
夜、日が沈むとすぐに大きな満月が昇ってきた。
甘いはちみつ色の、濃い色をしていた。
小屋の戸口を開き、早めに夕食を済ませたマーガスが外を覗いてた。
ルーポもそっと横に立った。
小屋が建っているところは小高い丘になっていて、草原の中に白い一本道があり街の中心部へと続いている。
道は月光に照らされ、ぼんやりと浮かんで見えた。
クゥゥゥゥゥーーーーーン
遠くで獣の声がしたような気がした。
「あれは?」
思わず小声でルーポが聞いた。
「アキトだよ。
いた、あそこだ」
マーガスも小声で答え、宙を指さした。
そこには銀に光る毛並みに包まれた、大きくて美しい狐が一匹、空を駆けていた。
ルーポは驚いた。
獣の耳が頭の上から生えた人の姿をしたアキトは見慣れていたが、狐の姿のアキトは初めてであった。
アキトは叫ぶように鳴きながら、空を駆けまわっている。
「どうして?」
「あれは妖だ。
ここやおまえの世界とはまた別の世界の魔物だそうだ。
月の力の影響をよく受けるから、満月の日は制御が効かない。
あいつになにかされたら、厄介だからな。
まぁ、大丈夫だと思うが、絶対はない。
満月の日には気をつけろよ。
他のときは、ほら、結構いいヤツだとルーポも知ってるだろ」
ルーポはうなずいた。
あんなにからかったりばかにしたりするくせに、アキトは案外面倒見がよかった。
がさつなマーガスが気がつかないようなことを言ってくれる。
着の身着のままで来たルーポに、「ルーポの服がない」と言い出した。
「それならオレの服を……」とマーガスが言いかけたところで、アキトが整った眉を片方だけ吊り上げた。
「そなたのがさがさなシャツをルーポの着させる、というのですか。
ついでにそなたの服も新調していらっしゃい。
私のものも頼みます」
美しい人の迫力、というのをルーポは初めて間近で見た。
怒らせると怖い、と心底思った。
翌日、マーガスはルーポを連れて街の服を扱う店に行った。
店は2人の女性がやっていて、マーガスとは親しいようだった。
2人はきゃあきゃあと言いながら、ルーポ、マーガス、そしてアキトの服を選んだ。
そして「ねーねー、時間はあるでしょ。お茶を飲んでいってよ」と断る隙もなく、ソファに座らせられると焼き菓子とお茶が用意された。
マーガスが「諦めろ」とぼそりと言った。
よくわからなかったが、店を出る頃にはルーポはその意味がわかった。
矢継ぎ早に交互にしゃべる女性に付き合うとぐったりしてしまった。
「帰ったら、湯に浸かろう」
「はい、すぐにそうしましょう」
マーガスとルーポは店を出てすぐに、そんな会話をした。
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