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006. サマー・ホリデーズ(3)
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1年7月8月
***
夏休みが始まった。
最初の五日間は、学校の希望者対象の補講を受けた。
休み前にもらった成績は悪くはなかったけど、数学が苦手だから受けることにした。
僕が補講を受けることを知ると、最初は受ける気がなくて申し込んでいなかった靖友くんが担任の先生にねじ込んで一緒に受講することになった。
午前中で終わる補講の後、学校でお昼を食べると僕たちは靖友くんが自転車を買ったショップに行った。
そこで靖友くんがカゴやスタンド、変速ギアなどのこだわりポイントを教えてくれて、僕なりにこだわった白いフレームのシャープな感じの自転車を買うことに決めた。
こだわってしまうとパパとママからもらったお金では足りなくなったので、その分はこれまで貯めた貯金を使うことにした。
休みは始まったが、まだ事務の先生が勤務していたので自転車通学の手続きをして僕は早速補講に自転車で通った。
慣れるとバスより随分早く移動ができた。
帰りに靖友くんと寄り道もした。
図書館やファストフード、目的なしに街をぶらつく。
面白い雑貨を取り扱う店で、僕はかわいいネコのキャラクターのキーホルダーを見つけた
色違いを買って、一つは靖友くんにプレゼントした。
「いろいろつき合ってくれたから、お礼に。
僕のが赤で、靖友くんのは緑だよ」
僕は自分の自転車の鍵につけながら言った。
「わ、まじで?
藤堂とおそろじゃん。
サンキューな!」
靖友くんは快く受け取り、彼の自転車の鍵につけてくれた。
補講が終わり、八月に入った。
僕は一週間の夏期講習に行った。
大学受験をするつもりなので、少しでも力をつけておいたほうがいい、と両親と話し合った。
そこにも僕は自転車を走らせた。
夏休みの宿題をし、中学の頃の地元の友達と遊び、高校での友達と遊び、お盆にはパパのほうのグランパとグランマのところに行っていとこたちと海に行き西瓜も食べた。
家では炊飯器のないレネのうちでもご飯が炊けるように、鍋でご飯を炊く練習をしていた。
あとはお味噌汁に簡単な和え物や煮物。
レネは和食に興味があるようだけど、自分で作るのは苦手のようだった。
そのぶんティグが料理上手なので、ティグのところで和食を食べているみたい。
いつもレネに作ってもらってばかりなので、今度は僕がご飯と味噌汁ぐらい作れたらいいな、と思っている。
ママも「家事ができないとひとり暮らしをするとき大変よ!」と言い、パパも鍋でご飯を炊くときのコツを教えてくれた。
「本当は飯盒でも炊けるといいんだけど」とも言っていた。
充実した夏休みを過ごしている。
僕はそう思っていた。
お盆が明けて、靖友くんが自分んちに遊びに来ないか、と誘ってくれた。
僕は自転車を走らせ待ち合わせ場所に行き、そこからは二人で靖友くんの家に行った。
靖友くんの部屋に入るのは初めてだった。
靖友くんはコーラとポテトチップスを出してくれた。
会わなかった間の話をしたり、靖友くんの部屋をじっくり見たりした。
「あ、これ」
僕は本棚から一冊のマンガを抜き出した。
高校の弱小バスケ部の話で、転校生が入部するとそれまで卑屈だった部員の意識が変わってインターハイで勝ちに行きたい!と思うようになり…という話だった。
中学のとき、友達が貸してくれて読んでいたけど完結しないまま卒業してしまったので、最後まで知らない。
そのとき僕は水泳部が舞台のマンガを買っていて、友達とお互いのマンガを貸し合っていた。
「全部そろってるよ。
読む?」
「でも、せっかく靖友くんのところに招待されたのに悪いよ」
「いいよいいよ。
ちょっと読んで、あとは貸してやるし。
俺、その間にゲームするから。
迎えの時間がきてクエストが途中までになっててさ。
もうちょっとでクリアできそうだから、その間読んでてよ」
「うん、じゃあ」
僕は遠慮なしに一巻から読み始めた。
三十分くらい経った頃、ベッドの上の靖友くんが「よっしゃあああっ!」と叫んで、彼のゲーム機からクエストが成功した音楽が流れ始めた。
靖友くんはぴこぴこボタンを押し、報酬品やお金を受け取っている。
そして、クエストのあとキャラクターが露天風呂に入る音楽が流れてきた。
「なぁ」
「なに?」
「レネさんから連絡ある?」
僕は二巻の途中のページから目を離さずに靖友くんの問いに答えた。
「うん、たまにメッセージが来るよ」
「たまに?」
「……ん、……美味しそうなケーキとか綺麗な景色とかの写真」
「え、それだけ?!」
「多分、レネは自分が見たり体験したことを僕に知らせたいみたい」
「は?」
「ティグが『それじゃ物足りないでしょ』って、レネと一緒に自撮りしたり、レネがケーキや景色をスマホで撮っている姿や美味しいケーキを食べて目がとろんとろんになっている写真を送ってくれてる」
「藤堂、それでいいの?」
「なにが?」
「寂しくないの?」
「なんで?
レネはちゃんとメッセージもくれるし、最後には『好き』って書いてくれているよ」
「あのさ……レネさんとどこまでいってんの?」
「どこまで?」
僕はようやくマンガから目を離し、靖友くんを見た。
「いや、あの……手ぇ繋いだ?」
「うん」
「ぎゅうは……してたか。
キスは?」
キス?
「んー、いつもこめかみにレネがしてる」
「口は?」
「ないよ」
「は?!
じゃ、じゃあ、えっちは…?」
えっち?
「靖友くんは僕がレネとセックスしたことがあるかどうか、聞いてるの?」
「ばっ!
おまえ、その美少年剣士の顔であからさまに言うんじゃありませんっ!」
「だってセックスはセックスでしょ。
レネとはしたことないよ。
まだ誰ともしたことがない」
「…………もしかしてキスも?」
「うん、そうだよ」
靖友くんはベッドの上に崩れ落ちた。
大丈夫?
「さ、さすがだな、藤堂」
「なにが?
どうしたの、靖友くん。
大丈夫?」
「も一回聞くけど、レネさんとつき合っているんだよな?」
「そうだよ」
「一か月会わなくても寂しくないんだよな?」
「そうだよ」
「そっか~。
まぁ、藤堂ならアリなのかもな」
なにが僕ならアリなのかさっぱりわからなかった。
その話題はそれで終わりになった。
僕たちは残り少なくなった夏休みと宿題のことを話し、一緒に宿題をしたり遊び予定を立て、マンガの続きを借りて、その日は終わった。
***
夏休みが始まった。
最初の五日間は、学校の希望者対象の補講を受けた。
休み前にもらった成績は悪くはなかったけど、数学が苦手だから受けることにした。
僕が補講を受けることを知ると、最初は受ける気がなくて申し込んでいなかった靖友くんが担任の先生にねじ込んで一緒に受講することになった。
午前中で終わる補講の後、学校でお昼を食べると僕たちは靖友くんが自転車を買ったショップに行った。
そこで靖友くんがカゴやスタンド、変速ギアなどのこだわりポイントを教えてくれて、僕なりにこだわった白いフレームのシャープな感じの自転車を買うことに決めた。
こだわってしまうとパパとママからもらったお金では足りなくなったので、その分はこれまで貯めた貯金を使うことにした。
休みは始まったが、まだ事務の先生が勤務していたので自転車通学の手続きをして僕は早速補講に自転車で通った。
慣れるとバスより随分早く移動ができた。
帰りに靖友くんと寄り道もした。
図書館やファストフード、目的なしに街をぶらつく。
面白い雑貨を取り扱う店で、僕はかわいいネコのキャラクターのキーホルダーを見つけた
色違いを買って、一つは靖友くんにプレゼントした。
「いろいろつき合ってくれたから、お礼に。
僕のが赤で、靖友くんのは緑だよ」
僕は自分の自転車の鍵につけながら言った。
「わ、まじで?
藤堂とおそろじゃん。
サンキューな!」
靖友くんは快く受け取り、彼の自転車の鍵につけてくれた。
補講が終わり、八月に入った。
僕は一週間の夏期講習に行った。
大学受験をするつもりなので、少しでも力をつけておいたほうがいい、と両親と話し合った。
そこにも僕は自転車を走らせた。
夏休みの宿題をし、中学の頃の地元の友達と遊び、高校での友達と遊び、お盆にはパパのほうのグランパとグランマのところに行っていとこたちと海に行き西瓜も食べた。
家では炊飯器のないレネのうちでもご飯が炊けるように、鍋でご飯を炊く練習をしていた。
あとはお味噌汁に簡単な和え物や煮物。
レネは和食に興味があるようだけど、自分で作るのは苦手のようだった。
そのぶんティグが料理上手なので、ティグのところで和食を食べているみたい。
いつもレネに作ってもらってばかりなので、今度は僕がご飯と味噌汁ぐらい作れたらいいな、と思っている。
ママも「家事ができないとひとり暮らしをするとき大変よ!」と言い、パパも鍋でご飯を炊くときのコツを教えてくれた。
「本当は飯盒でも炊けるといいんだけど」とも言っていた。
充実した夏休みを過ごしている。
僕はそう思っていた。
お盆が明けて、靖友くんが自分んちに遊びに来ないか、と誘ってくれた。
僕は自転車を走らせ待ち合わせ場所に行き、そこからは二人で靖友くんの家に行った。
靖友くんの部屋に入るのは初めてだった。
靖友くんはコーラとポテトチップスを出してくれた。
会わなかった間の話をしたり、靖友くんの部屋をじっくり見たりした。
「あ、これ」
僕は本棚から一冊のマンガを抜き出した。
高校の弱小バスケ部の話で、転校生が入部するとそれまで卑屈だった部員の意識が変わってインターハイで勝ちに行きたい!と思うようになり…という話だった。
中学のとき、友達が貸してくれて読んでいたけど完結しないまま卒業してしまったので、最後まで知らない。
そのとき僕は水泳部が舞台のマンガを買っていて、友達とお互いのマンガを貸し合っていた。
「全部そろってるよ。
読む?」
「でも、せっかく靖友くんのところに招待されたのに悪いよ」
「いいよいいよ。
ちょっと読んで、あとは貸してやるし。
俺、その間にゲームするから。
迎えの時間がきてクエストが途中までになっててさ。
もうちょっとでクリアできそうだから、その間読んでてよ」
「うん、じゃあ」
僕は遠慮なしに一巻から読み始めた。
三十分くらい経った頃、ベッドの上の靖友くんが「よっしゃあああっ!」と叫んで、彼のゲーム機からクエストが成功した音楽が流れ始めた。
靖友くんはぴこぴこボタンを押し、報酬品やお金を受け取っている。
そして、クエストのあとキャラクターが露天風呂に入る音楽が流れてきた。
「なぁ」
「なに?」
「レネさんから連絡ある?」
僕は二巻の途中のページから目を離さずに靖友くんの問いに答えた。
「うん、たまにメッセージが来るよ」
「たまに?」
「……ん、……美味しそうなケーキとか綺麗な景色とかの写真」
「え、それだけ?!」
「多分、レネは自分が見たり体験したことを僕に知らせたいみたい」
「は?」
「ティグが『それじゃ物足りないでしょ』って、レネと一緒に自撮りしたり、レネがケーキや景色をスマホで撮っている姿や美味しいケーキを食べて目がとろんとろんになっている写真を送ってくれてる」
「藤堂、それでいいの?」
「なにが?」
「寂しくないの?」
「なんで?
レネはちゃんとメッセージもくれるし、最後には『好き』って書いてくれているよ」
「あのさ……レネさんとどこまでいってんの?」
「どこまで?」
僕はようやくマンガから目を離し、靖友くんを見た。
「いや、あの……手ぇ繋いだ?」
「うん」
「ぎゅうは……してたか。
キスは?」
キス?
「んー、いつもこめかみにレネがしてる」
「口は?」
「ないよ」
「は?!
じゃ、じゃあ、えっちは…?」
えっち?
「靖友くんは僕がレネとセックスしたことがあるかどうか、聞いてるの?」
「ばっ!
おまえ、その美少年剣士の顔であからさまに言うんじゃありませんっ!」
「だってセックスはセックスでしょ。
レネとはしたことないよ。
まだ誰ともしたことがない」
「…………もしかしてキスも?」
「うん、そうだよ」
靖友くんはベッドの上に崩れ落ちた。
大丈夫?
「さ、さすがだな、藤堂」
「なにが?
どうしたの、靖友くん。
大丈夫?」
「も一回聞くけど、レネさんとつき合っているんだよな?」
「そうだよ」
「一か月会わなくても寂しくないんだよな?」
「そうだよ」
「そっか~。
まぁ、藤堂ならアリなのかもな」
なにが僕ならアリなのかさっぱりわからなかった。
その話題はそれで終わりになった。
僕たちは残り少なくなった夏休みと宿題のことを話し、一緒に宿題をしたり遊び予定を立て、マンガの続きを借りて、その日は終わった。
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