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011. キス・マウス
1年11月
***
教室の窓から見える銀杏の木は目に痛いほど真っ黄色に黄葉していた。
青く高い空に銀杏の葉が映えて綺麗。
あーあ、こんな日はどこかに行きたいなぁ。
いやいや、僕は今、ミッション遂行中。
早く戻らないと。
11月も半ばすぎると秋がぐっと深まってくる。
それなのに僕のミッションといったら「いちごみるく」を買うことだ。
無事に入手し、教室に戻ると靖友くんが机を向かい合わせにして僕を待ってくれていた。
「靖友くん、はい、いちごみるく」
「サンキュー!」
靖友くんのいちごみるくの紙パックを見る目は、とても優しい。
嬉しくて嬉しくてたまらない、って感じだ。
そんなに好きなのかぁ。
もしなにか靖友くんにお礼をしなくちゃならないことがあったら、絶対いちごみるくを買ってあげよう。
僕は机の上に焼きそばパン、メロンパン、シナモンロール、そしていちごみるくを置いた。
今日のお昼は購買でパンを買った。
そのついでに靖友くんのミッションを受けた。
靖友くんはしょっちゅういちごみるくを飲んでいるので、僕も飲みたくなって買ってみた。
「お、藤堂もいちごみるくじゃん!」
目がハートになってるよ、靖友くん。
好きなものを目の前にするととろとろになるのはレネだけじゃないんだ。
「うん、僕も飲んでみたくなったから買ってみた。
待ってくれて、ありがとう。
お昼食べようよ。
お腹すいた~」
靖友くんもうなずいて、まず紙パックにストローを突き刺し、いちごみるくをずずーっと吸った。
「はぁ、おいし」
180以上身長のあるカッコいい高校生の靖友くんがかわいいいちごみるくにめろめろになっている。
きっとファンの女の子が知ったらきゃーきゃー言うんだろうなぁ。
すごいギャップだもんね。
靖友くんは食前いちごみるくのあと、でっかいお弁当を食べ始めた。
僕も負けずに焼きそばパンにかじりつく。
「藤堂…」
「ん?」
お行儀が悪かったが、口もごもごさせて返事をした。
「美少年剣士が焼きそばパン…
いろいろ期待を裏切ってくれるよな…」
「どういう意味?」
「どう考えても、藤堂ならオシャレなサンドイッチだろ、焼きそばパンじゃなくて」
「よくわからないけど、僕は焼きそばパン好きだよ。
しっかり食べておかないとお昼からお腹空くし」
「ああ、美少年剣士が焼きそばパン…」
「なに言ってるの、僕は平凡な男子高生。
長身のカッコいい靖友くんがかわいいいちごみるくを飲んでめろめろになっているほうが、意外性があるよ」
お互いに「そのギャップをなんとかしろ」と話しながら、ばくばくと食べていく。
靖友くん、いい加減にその「美少年剣士」っていうの、止めてくれないかなぁ。
僕は美少年でも剣士でもないし。
僕はパンを食べている間はサーモスに入れてきた紅茶を飲んだ。
食べきるとやっといちごみるくのパックにストローを刺し、ちゅっと吸った。
甘い。
「ん?」
靖友くんが箸の手を止めて、僕を見ている。
「藤堂、おまえ…」
「?」
「いちごみるく飲むの、似合うのな」
「なにそれ。
靖友くんのほうが似合っているよ、僕はあんなふうにめろめろにならないし」
僕はまたストローを吸う。
「唇が…」
「?」
「かわいいピンクのいちごみるくのストローを吸う唇がエロい」
僕は噴き出して大声で笑ってしまった。
「なんだよ、それ~っ!」
靖友くんが真顔で言い出すからなにかと思った。
「あ、でも靖友くんもそう言うんだ。
もしかしたら唇が僕のチャームポイントかもしれない」
「はぁ?」
「レネがこの間言ったんだ。
『真人はキス・マウスを持ってるんだね』って。
意味がわからなくて聞いたら、『思わずキスしたくなる唇』のことみたい」
「おまえ、今、さらっと盛大にノロケたな」
「え、そう?
ごめん、いやだった?」
「そうじゃないけど」
お弁当を食べ終えた靖友くんはなんと二本目のいちごみるくを取り出した。
どれだけいちごみるく好きなの?
「最近、ハマってるんだ~」とは聞いていたけど、すごい。
靖友くんが食後いちごみるくを飲む。
いちごみるくを飲む靖友くんは変わらずカッコよかったが、唇が云々というのは感じなかった。
はぁ、と盛大に息を吐き出した靖友くんが僕に言った。
「そんなことを言う、ってことはレネさんとキスしたんだ」
「あ、うん。
先月の誕生日に」
「へー。
どうだった?」
「キスってすごく気持ちいいものなんだね、靖友くん」
「そんなの知らねーよ!
したことないし!
ああ、俺も恋人がほしい。
そして藤堂相手にさんざんノロケてやりてー!」
「うん、楽しみに待ってるからね」
「……お、おう。
で」
靖友くんが声を落としたので、僕は靖友くんに顔を近づけた。
「そっから先はどうなった?」
「そっから先?
せっく…うがっ」
靖友くんっ、いきなり口を塞ぐのやめてよ。
「だから美少年剣士がそんなことをあからさまに言うんじゃありません!」
なんだよ、それ。
そっちが僕とレネがセックスしたかどうか聞いてきたのに。
靖友くんがそっと手を離したので、僕は言い方を変えて答えた。
「そっから先、はまだだよ」
「えーっ!」
ねぇ、靖友くん。
それもどうかと思うよ。
言葉はどうあれ、僕たちのセックスについて聞いてる、ってこと、わかってる?
でも、気になるよね。
僕も関心はある。
というより興味津々だ。
ただ、いろいろ考えるのは面倒になった。
というのが正直なところだ。
夏の出来事は確実にレネと僕の関係を変えた。
ティグや靖友くんが僕たちを心配していたのが、最初はまったくわからなかったけど、今なら少しはわかっている、と思う。
僕も自分なりに考えてみた。
だけどぐるぐる回るだけで、なにもなかった。
第一、僕にとっては全部が初めてで、恋愛がどんなもので、恋人がどんなものなのか、全然わからない。
あと、ライオンで男性のレネとつき合っている、というのも冷静に考えたら、いろいろすごいことなんじゃないか、と思えてきた。
それで、僕は考えるのを止めた。
レネの口癖に「ナチュラル」というのがある。
僕がレネとつき合うことにしたのも、10月の誕生日にキスをしたのも、僕にとってはとてもナチュラルなことだった。
驚きも寂しさもありはするけれど、レネと僕には自然な流れだった。
このことについてはレネと話をしたことはない。
きっとタイミングが来たら、僕たちは話し合うかもしれない。
そして、時が来たら、僕たちはセックスをするんだと思う。
キスをしながら、僕にふれるレネの手や舌は随分セクシャルなものだ。
僕もそういう気分になる。
身体が反応する。
レネはそれを改めて指摘することもからかうこともしない。
全てがナチュラルに進んでいく。
僕たちの関係はそうやって少しずつ進んでいくんじゃないか、とまだ経験の浅い僕は今のところそう思ってる。
「な、藤堂、近いうちに俺んちに泊まりに来いよ」
「うん、いいけど」
「おまえの思う存分ノロケ話を聞いてやる。
学校じゃ、藤堂のストレートすぎる言葉が危険すぎて聞けない」
「靖友くんが聞きたいだけじゃないの?」
「悪いか?」
「ふふふ、いいよ」
僕は靖友くんの誘いに乗ることにした。
「大して話せることもないけど」
「恋人がいない俺にはそれぐらいで丁度いいのっ」
「そう?」
僕はちゅっと唇を突き出してみた。
固まる靖友くん。
「キス・マウスの威力を見るがいい!」
「と、藤堂っ、それレネさん以外にやったらだめ~!!!」
「はーい」
はー、靖友くんってからかい甲斐があるよね。
僕は空になったパンの袋を白いビニール袋に入れると、口をきゅっと結んでバッグに突っ込んだ。
靖友くんもかくかくしながらお弁当箱を片づけた。
「それでいつにする?」
僕たちは遊ぶ計画を立て始めた。
***
教室の窓から見える銀杏の木は目に痛いほど真っ黄色に黄葉していた。
青く高い空に銀杏の葉が映えて綺麗。
あーあ、こんな日はどこかに行きたいなぁ。
いやいや、僕は今、ミッション遂行中。
早く戻らないと。
11月も半ばすぎると秋がぐっと深まってくる。
それなのに僕のミッションといったら「いちごみるく」を買うことだ。
無事に入手し、教室に戻ると靖友くんが机を向かい合わせにして僕を待ってくれていた。
「靖友くん、はい、いちごみるく」
「サンキュー!」
靖友くんのいちごみるくの紙パックを見る目は、とても優しい。
嬉しくて嬉しくてたまらない、って感じだ。
そんなに好きなのかぁ。
もしなにか靖友くんにお礼をしなくちゃならないことがあったら、絶対いちごみるくを買ってあげよう。
僕は机の上に焼きそばパン、メロンパン、シナモンロール、そしていちごみるくを置いた。
今日のお昼は購買でパンを買った。
そのついでに靖友くんのミッションを受けた。
靖友くんはしょっちゅういちごみるくを飲んでいるので、僕も飲みたくなって買ってみた。
「お、藤堂もいちごみるくじゃん!」
目がハートになってるよ、靖友くん。
好きなものを目の前にするととろとろになるのはレネだけじゃないんだ。
「うん、僕も飲んでみたくなったから買ってみた。
待ってくれて、ありがとう。
お昼食べようよ。
お腹すいた~」
靖友くんもうなずいて、まず紙パックにストローを突き刺し、いちごみるくをずずーっと吸った。
「はぁ、おいし」
180以上身長のあるカッコいい高校生の靖友くんがかわいいいちごみるくにめろめろになっている。
きっとファンの女の子が知ったらきゃーきゃー言うんだろうなぁ。
すごいギャップだもんね。
靖友くんは食前いちごみるくのあと、でっかいお弁当を食べ始めた。
僕も負けずに焼きそばパンにかじりつく。
「藤堂…」
「ん?」
お行儀が悪かったが、口もごもごさせて返事をした。
「美少年剣士が焼きそばパン…
いろいろ期待を裏切ってくれるよな…」
「どういう意味?」
「どう考えても、藤堂ならオシャレなサンドイッチだろ、焼きそばパンじゃなくて」
「よくわからないけど、僕は焼きそばパン好きだよ。
しっかり食べておかないとお昼からお腹空くし」
「ああ、美少年剣士が焼きそばパン…」
「なに言ってるの、僕は平凡な男子高生。
長身のカッコいい靖友くんがかわいいいちごみるくを飲んでめろめろになっているほうが、意外性があるよ」
お互いに「そのギャップをなんとかしろ」と話しながら、ばくばくと食べていく。
靖友くん、いい加減にその「美少年剣士」っていうの、止めてくれないかなぁ。
僕は美少年でも剣士でもないし。
僕はパンを食べている間はサーモスに入れてきた紅茶を飲んだ。
食べきるとやっといちごみるくのパックにストローを刺し、ちゅっと吸った。
甘い。
「ん?」
靖友くんが箸の手を止めて、僕を見ている。
「藤堂、おまえ…」
「?」
「いちごみるく飲むの、似合うのな」
「なにそれ。
靖友くんのほうが似合っているよ、僕はあんなふうにめろめろにならないし」
僕はまたストローを吸う。
「唇が…」
「?」
「かわいいピンクのいちごみるくのストローを吸う唇がエロい」
僕は噴き出して大声で笑ってしまった。
「なんだよ、それ~っ!」
靖友くんが真顔で言い出すからなにかと思った。
「あ、でも靖友くんもそう言うんだ。
もしかしたら唇が僕のチャームポイントかもしれない」
「はぁ?」
「レネがこの間言ったんだ。
『真人はキス・マウスを持ってるんだね』って。
意味がわからなくて聞いたら、『思わずキスしたくなる唇』のことみたい」
「おまえ、今、さらっと盛大にノロケたな」
「え、そう?
ごめん、いやだった?」
「そうじゃないけど」
お弁当を食べ終えた靖友くんはなんと二本目のいちごみるくを取り出した。
どれだけいちごみるく好きなの?
「最近、ハマってるんだ~」とは聞いていたけど、すごい。
靖友くんが食後いちごみるくを飲む。
いちごみるくを飲む靖友くんは変わらずカッコよかったが、唇が云々というのは感じなかった。
はぁ、と盛大に息を吐き出した靖友くんが僕に言った。
「そんなことを言う、ってことはレネさんとキスしたんだ」
「あ、うん。
先月の誕生日に」
「へー。
どうだった?」
「キスってすごく気持ちいいものなんだね、靖友くん」
「そんなの知らねーよ!
したことないし!
ああ、俺も恋人がほしい。
そして藤堂相手にさんざんノロケてやりてー!」
「うん、楽しみに待ってるからね」
「……お、おう。
で」
靖友くんが声を落としたので、僕は靖友くんに顔を近づけた。
「そっから先はどうなった?」
「そっから先?
せっく…うがっ」
靖友くんっ、いきなり口を塞ぐのやめてよ。
「だから美少年剣士がそんなことをあからさまに言うんじゃありません!」
なんだよ、それ。
そっちが僕とレネがセックスしたかどうか聞いてきたのに。
靖友くんがそっと手を離したので、僕は言い方を変えて答えた。
「そっから先、はまだだよ」
「えーっ!」
ねぇ、靖友くん。
それもどうかと思うよ。
言葉はどうあれ、僕たちのセックスについて聞いてる、ってこと、わかってる?
でも、気になるよね。
僕も関心はある。
というより興味津々だ。
ただ、いろいろ考えるのは面倒になった。
というのが正直なところだ。
夏の出来事は確実にレネと僕の関係を変えた。
ティグや靖友くんが僕たちを心配していたのが、最初はまったくわからなかったけど、今なら少しはわかっている、と思う。
僕も自分なりに考えてみた。
だけどぐるぐる回るだけで、なにもなかった。
第一、僕にとっては全部が初めてで、恋愛がどんなもので、恋人がどんなものなのか、全然わからない。
あと、ライオンで男性のレネとつき合っている、というのも冷静に考えたら、いろいろすごいことなんじゃないか、と思えてきた。
それで、僕は考えるのを止めた。
レネの口癖に「ナチュラル」というのがある。
僕がレネとつき合うことにしたのも、10月の誕生日にキスをしたのも、僕にとってはとてもナチュラルなことだった。
驚きも寂しさもありはするけれど、レネと僕には自然な流れだった。
このことについてはレネと話をしたことはない。
きっとタイミングが来たら、僕たちは話し合うかもしれない。
そして、時が来たら、僕たちはセックスをするんだと思う。
キスをしながら、僕にふれるレネの手や舌は随分セクシャルなものだ。
僕もそういう気分になる。
身体が反応する。
レネはそれを改めて指摘することもからかうこともしない。
全てがナチュラルに進んでいく。
僕たちの関係はそうやって少しずつ進んでいくんじゃないか、とまだ経験の浅い僕は今のところそう思ってる。
「な、藤堂、近いうちに俺んちに泊まりに来いよ」
「うん、いいけど」
「おまえの思う存分ノロケ話を聞いてやる。
学校じゃ、藤堂のストレートすぎる言葉が危険すぎて聞けない」
「靖友くんが聞きたいだけじゃないの?」
「悪いか?」
「ふふふ、いいよ」
僕は靖友くんの誘いに乗ることにした。
「大して話せることもないけど」
「恋人がいない俺にはそれぐらいで丁度いいのっ」
「そう?」
僕はちゅっと唇を突き出してみた。
固まる靖友くん。
「キス・マウスの威力を見るがいい!」
「と、藤堂っ、それレネさん以外にやったらだめ~!!!」
「はーい」
はー、靖友くんってからかい甲斐があるよね。
僕は空になったパンの袋を白いビニール袋に入れると、口をきゅっと結んでバッグに突っ込んだ。
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