僕のレークス

Kyrie

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番外編 020. Sweet! Sweet! Sweetie!(1)

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2年生9月

*

9月の朝早く。
土曜日なのに、僕はぱんぱんに膨らんだリュックを背負い、大きくて重いバッグをカゴに積んで、自転車を走らせていた。
いつもより人通りが少ない道を駆け抜けていく。
そして、目的地に到着し、一応呼び鈴を鳴らし、肩で息をしたままカードキーで玄関のドアを開ける。

「真人っ!」

中から出迎えてくれたのは、さっきまで寝てたみたいなぼさぼさのたてがみのライオン頭。

「レネっ!」

僕は荷物を放り出してレネに抱きついた。
レネも僕をぎゅうっと抱きしめてくれる。

約一か月ぶりのハグだ。


***

今年の夏、レネは例年通りティグと冒険に出かけた。
今回の行き先は北欧。
またもやレンタカーや電車で移動して回った。

去年と違って、早いうちから計画についてレネは僕に話してくれた。
冒険の期間を短縮する案もあったらしいけど、僕のためならそれは止めてほしい、と断った。
ティグの家に週末招待され、ランチを食べながら旅行の計画を立てる二人に加えてもらったり、ざっくりとした行程表をティグから受け取ったりした。

レネが冒険に行っている間は、去年と比べ物にならないほど、僕たちはスマホでメッセージを交わした。
僕はまた希望者のための学校の補習を受け、靖友くんと相談して一緒の夏期講習を受け、夏休みの宿題をし、田舎に行ったり靖友くんや地元の友達と遊んだり、もちろんレネの部屋を訪ねたりして夏休みを過ごした。

靖友くんも僕とレネの様子に満足したようで、そのことについてはとやかく言われなかった。
でも、泊まりに来たときには「で、レネさんとどうなってんの?」と言葉は柔らかなくせに、結構際どいことまで聞いてきた。
春に僕がレネとようやくセックスをした話をしたときには、真っ青になっていたけど、夏になったら多少慣れたみたいだった。
相変わらず、僕が「セックス」という単語を使うと「そんな言葉、使ってもいいって父さん、教えていませんっ!」と言ってるけど。
靖友くんがパパなら、僕はグランパだよ。
僕のほうがたくさん経験してるもん、きっと。


そうやって、ちょっぴり寂しかったけど充実した夏休みを過ごし、夏休み明けテストも無事に終了した週末、僕はやっとレネと会えることになった。
レネも僕も一秒でも早く会いたくて、僕はこんな朝早くから自転車をこいでたわけ。


一か月ぶりに会ったレネは、こんがりと小麦色に日焼けをし、ちょっとシャープな顔つきで僕を出迎えてくれた。
冒険に出ると、やっぱり普段より緊張感が高まるらしい。
カッコいいレネに僕はどきどきした。


ハグの腕をほどいて中に入り、ドアを閉めるとそこでまたレネにぎゅうううっと抱きしめられ、僕たちは情熱的なキスをしてしまった。
まだ玄関なのに!
レネに両手で頬を包まれ、目と目を合わせると嬉しくて不思議と笑いがこみ上げてくる。
くすくすと笑うと、レネは僕の腰に手をやりエスコートしながら、部屋の中に連れていってくれた。


朝食がまだのレネがトーストを食べている間、僕は持ってきた荷物をロフトに持って行き、「僕の基地」を作った。
なんとなく、そこが僕のエリアになっていった。
そのあと、レネが淹れてくれたカフェオレを飲む。

朝食後、冒険の後片付けがまだ終わってなかったので、レネを手伝いながらレネとティグの冒険の話を聞く。
そして、なにかとどこかがふれあっていて、目が合うとキスをしていた。

昼前になると僕たちは手を繋いで買い物に出かけた。
昼と晩の食材を買うためだ。
まだ夏の日差しなので暑い。
それでも手を離したくなくて、汗だくで手を繋いでた。




昼は僕が作ることにした。
レネのキッチンには炊飯用の土鍋が買われていた。
土鍋を使うのは初めてだったけど、ふっくらと美味しく炊けたと思う。
お味噌汁と鮭の切り身を焼いた。
冷蔵庫にあったブロッコリーはおかか醤油和えにした。

久しぶりの和食のせいか、レネは「おいしい!」とたっぷり食べてくれた。
嬉しいな。
自分が作ったものを「おいしい」と食べてもらえる喜びをレネはティグと一緒に「レークス」で感じているんだろうな。

食後、ソファでくつろいでいるレネの後ろに僕はそっと回った。
そして、首まわりのたてがみを集め、さっきの買い物で僕がこっそりと買った髪ゴムで結ぶ。
いつもたてがみで隠れているせいか、日焼けしていない白いうなじが露わになった。

うっ

僕はうめいた。
想像以上にセクシーだった。

ただ、いつも見ていて「暑苦しそうだなぁ」と思ってたから、結んでいたんだけど、こんなに色気が出るものなんだ。

「ああ、真人、これはいいね!」

レネは無邪気に涼しくなった首の後ろを快適に思っているらしく、僕にお礼を言う。
僕は曖昧に返事をする。

あー、これか。
靖友くんが「夏は髪を結ぶ子が増えるから嬉しい!」と言ってたのは。
僕は初めてうなじに色気を感じてしまった。

「レネ、でもこれはうちの中だけのほうがいいかも」

あまりにラフすぎるし、カッコいいかどうかと聞かれると、ちょっと「笑ってしまうかわいい感じ」になってしまうので、そう言ってしまったけど、後から「僕が他の人に見せたくない」んじゃないか、と思ってきてしまった。
こういうの、って嫉妬になるのかな。




午後は、レネがパソコンに取り込んだ冒険の写真を解説つきで見せてくれた。
半分くらいは、レネが僕にメッセージつきで送ってくれたものだった。
でも、やっぱりメッセージの短い文章だと細かい話まではわからなかったので、ティグと一緒にどんな冒険をしたのか知ることができた。
いいな、こういうの。
僕も靖友くんと免許取って冒険に行こう!

「いつか、真人と一緒に旅行がしたいな」

レネが僕の頬にキスしながら言った。

「うん、楽しそう」

「ホテルがなくても大丈夫?」

「車中泊?
それもワクワクするね。
寝袋がいるかな」

「素敵な景色のところに車を停めて、そういうのも楽しいよ」

「うん」

これから先のことを話してくれるレネが、嬉しかった。

思った以上に、僕はレネに飢えているみたいだ。
朝、レネと会ってからずっとどこかふれてるし、隙があったらお互いにキスを求めているし、なんだか全部嬉しくて、もっとほしくてたまらなくなる。

なんだか、今日の僕はヘンだ。

僕は止まりそうにない自分を抑えるように、ぎゅっとレネを抱きしめた。








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