地味子が悪役令嬢を破滅させる逆転物語

日本のスターリン

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1章 転校

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「遅刻遅刻~!」

 ハーフの女子高生のジミー・慈美子じみこは今日新しい高校・原句呂はらくろ高校に転入する事になっていた。両親が仕事の都合で海外に赴任する事になり、慈美子は親戚のお寺の家に預けられる事になったのである。
 慈美子は昨日引っ越してきたばかりだ。昨日は緊張のあまりよく眠れなかったのだ。そのため、朝寝坊し、遅刻しそうなのだ。慈美子は身長よりも長い三つ編みの赤髪を靡かせ、食パンを銜えて走っている。少女漫画で良くありがちな光景だ。

ドンッッッ!!!

「きゃあ!」
「うわあ!」

 急いでいた慈美子は同じく急いでいた男子高生にぶつかってしまった。どうやらその男子高生も原句呂高校の学生の様である。
 その男子高生は申し訳無さそうに平謝りする。

「すまんすまん!大丈夫か!?」
「ええ、こちらこそ、ごめんなさい」

 慈美子はその男子高生の顔を見上げると、一瞬で恋に落ちた。一目ぼれである。その男子高生は金髪の長身に、容姿端麗で非常にハンサムな顔立ちをしていた。アニメキャラで例えるなら銀魂の土方十四郎のようなカッコよさである。
 その男子高生の顔をまじまじと見つめる慈美子の顔を見つめ返しながら男子高生は首を傾げた。

「お前、見ない顔だな。本当にここの学生か?」
「は、はじめまして!今日、この学校に転校してきたの!ジミー・慈美子と申します!」
「ジミー?その名前は外国人か?」
「ええ、私ハーフなの」
「そうか、僕は南斗関都なんとかんと!よろしくな」
「うん。よろしくね!」

 2人はアイドルの握手会のように軽く握手した。慈美子は強く握りたかったが恥ずかしくて気が引けたのだ。
そんな慈美子の気持ちには微塵も気付かず、関都は我に返ったように現状を思いだした。

「ああ!悠長に自己紹介している場合じゃなかった!遅刻遅刻!急ぐぞ!」
「ええ!」

 2人は慌てて校舎に走って行った。ギリギリセーフだ。2人はチャイムが鳴り終わるぎりぎりにE組の教室に入室した。
 関都は慈美子が自分と同じ教室に入室した事に驚きの声を上げる。

「同じクラスだったのか!」
「ふふふ!そうみたいね!私も驚いたわ!」

 そんな2人を険しい表情で見つめる美女が居た。2人を羨むように睨んでいたのは、真っ赤なアイシャドーと真っ赤な口紅が特徴的な悪役令嬢の城之内《じょうのうち》競子《けいこ》である。
城之内は身長より長い真っ赤なロングヘアを全て後ろに一纏めにし、地面に付かないように大きくカールさせた髪型をした絶世の美女である。大きく湾曲した赤い髪の毛は足元まであり、毛先もクルンと大きくカールしている。また、城之内は女子の中では長身でスタイルも抜群である。

「なんなの!あの女!関都さんと一緒に登校するなんて!生意気ですわ!」

 そう言う城之内もまた関都に惚れているのだった。
そんな城之内競子は、城之内財閥のご令嬢の大金持ち。城之内財閥は国内最大大手のカジノオーナーなのだ。ギャンブル中毒者をカモに荒稼ぎしている財団だ。城之内競子は2人兄妹の末っ子として、大変可愛がられて過保護に育てられてきた。故に、性格には難がるのである。
しかし、関都も慈美子も城之内の熱い視線には気が付いていなかった。

「隣同士だな」
「ええ」

 慈美子は関都の隣の席に座っていた。慈美子は内心狂喜乱舞しそうなくらいに心底喜んでいた。
しかし、慈美子は気が付かなかったが、慈美子の前の席には城之内が睨むように座っていた。

(昨日まではわたくしが関都さんの隣だったのに、この女のせいで1つ席をずらされたんですの!ぜ~ったいに許せませんわ!)

 城之内が怒りに燃えていると、担任の先生が教室にやってきて、朝の挨拶が始まった。挨拶の終わりに慈美子の紹介が入った。先生は、慈美子を「おいでおいで」のジェスチャーで前に呼び寄せた。

「今日は皆様に転校生を紹介したいと思います。ジミーさん、前に出て自己紹介を」
「は、はい!」

 慈美子は教壇に立って一礼し、自己紹介した。プレンセスが舞踏会であいさつをするかのように、両手で真っ赤なセーラ服のスカートの裾をつまみ上げて一礼したのだ。

「初めまして。私はジミー・慈美子と申します!趣味・特技は特にありません!どうかよろしくお願い致します!」

(なんなんですの、あの気取ったお辞儀の仕方は!まるでわたくしみたい!庶民のくせにお嬢様ぶった仕草をするなんてますます癪に障りますわ!)

 慈美子は自己紹介を終えると自分の席に戻ろうとした。すると、城之内の席を横切ろうとした瞬間、城之内は足を横に出した。慈美子は城之内の足に蹴躓いて転んでしまった。
 城之内は慈美子にしか聞こえないように小声で呟いた。

「あ~ら、ごめんあそばしまし!わたくしの足は長くて長くてついはみ出してしまいましたの!」

 城之内は慈美子を嘲笑している。他のクラスの皆も慈美子が転んだ事に笑いを堪えていた。城之内が転ばせたとは誰一人気が付いていないのである。

「大丈夫か!?」

 関都が心配して慈美子に駆け寄った。関都は慈美子に優しく手を差し伸べた。慈美子はテレながらもゆっくりと手を伸ばした。

「全く…何もない所で転ぶなんてそそっかしいなぁ」

 呆れた口ぶりの関都も城之内の意地悪には気が付いていない様子だった。慈美子は関都の手を掴んで起き上がった。その手はとても暖かく、まるでホッカイロのようであった。

(まぁ~!関都さんの手を握るなんて!なんてずうずうしい女なのかしら!!このままじゃ済ましませんわよ!)

 そんな城之内の考えなどつゆ知らず、慈美子は無事席に戻った。しかし、城之内は慈美子を睨み続けているのであった。
次に事件が起こったのは体育の時間の帰りだった。グラウンドから教室に戻ろうと、慈美子が上履きを履くと指がチクっとした。

「いったい!」

 なんと靴の中に画びょうが入っていたのだ。画びょうは慈美子の足の親指に刺さってしまっていた。慈美子は急いで画びょうを指から抜きながら、頭を捻った。

「一体誰がこんな事を…」
「あら~お気の毒ですわぁ~!」

 そこに現れたのは城之内だった。城之内はお笑い芸人の熱湯風呂でも見るかのように、慈美子を嘲笑した。
 まるで慈美子の足に画びょうをが刺さるのを待ち伏せでもしていたかのようなタイミングで現れたのだ。

「ほほほほほ!一体どなたがこんなひどいイタズラをなさったのかしらね~!」
「とぼけないで!あんたがやったんでしょう!?」
「ほほほほほ!何か証拠でもございますの?」
「そ、それは…」

 証拠はない。しかし、こんな卑劣ないたずらをするのは城之内しか居なかった。慈美子は怒りを堪えながら、城之内に問いかけた。

「あんた、名前は?」
「わたくしは城之内競子と申します。どうぞ、お見知りおきを」
「こんな事ばかりしてたらそのうち絶対報いが来るわよ!」
「さぁ?なんの事かしら?わたくしにはさっぱりぃ~!」
 
 城之内はしらばっくれてその場を去ってしまった。城之内と入れ替わる様に、そこに関都が通りかかった。
 関都は、靴下を脱いでいる慈美子を見て不思議そうな顔をした。

「どうしたんだ?慈美子」
「靴に画びょうが入っていて、足の親指に刺さっちゃって」
「これは酷い!全く誰がこんな卑劣な真似を!」

 慈美子は絆創膏を貼ろうとした。しかし、無かった。慈美子はいつも絆創膏を携帯しているが、今日は転校初日の緊張のあまりうっかり持ってくるのを忘れてしまったのだ。

「しまったわ…絆創膏持ってくるの忘れちゃった…」
「こんなモン唾を付けとけば治る」

 そう言うと、関都は慈美子の足の親指をしゃぶった。慈美子はドキっとした。

ドクンドクン

 慈美子は胸の鼓動が高まり、動悸が激しくなった。まるでフルマラソンを走り終わったランナーのようである。

「これでもう大丈夫!」
「あ、ありがとう…」

 こうして慈美子の転校初日は幕を下ろしたのだった。
 慈美子は自宅で今日起こった出来事を日課の日記帳に徒然なるままに綴った。関都への想いも載せて。
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