乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ

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2:ヴェストリオーア戦役編

5:直前直後/後



 連続で虹! 連続で虹です!!!
 レインボーですよー!!!

 と、叫びたい気持ちはあるけれど、わたくしは女王。隣室には寝ずの番の侍女も騎士もいる。黙る。
 でもね。

 10連で二回連続の虹演出が見られるなんて、ありえなくない?!
 排出率がナゾのままの闇ガチャだけど、虹が最高ランクなのは確定!

 わたくしは期待に満ちた心のまま、結果を表示させた。一覧。


    ※詳細を見る場合は各項目をタップしてください
   ★★★  魔法軸(回復) new
   ★★★  魔法軸(回復) new
   ★★★  魔法軸(回復) new
   ★★★  魔法軸(回復) new
   ★★★  魔法軸(回復) new
   ★★★★ テレポストーン new
   ★★★  魔法軸(炎)
   ★★★★ オンセンストーン(小)
   ★★★   エーリカ・オルフ new
   ★★★★★ヴァネサ new


 「new」が多い。10のうち8項目にnew表示がついてる。回復魔法軸はたしかにいままで一度も出たことはなかった。

 基本的に、魔法使いの回復魔法はそう強くない。切り傷擦り傷かすり傷の応急処置くらいなものだ。軸を作ることができるのは、十大魔法使いくらいなものだろう。
 回復の専門家である治癒師は魔法軸を作ることはできない。
 つまり、回復の魔法軸はほぼ存在しえないものと言っていい。貴重品だ。

 それから、テレポストーン。
 覚えがないアイテムなのに、どういう効果なのかはっきり理解できるネーミング。メタ認知というやつか。

 一応、詳細確認はする。アイテム名をタップしたら、極小ウィンドウがポップした。

 【消耗アイテム】テレポストーン 10/10
  マイルームに一瞬で戻ることができる

 マイルーム?
 わたくしの私室ということかしら。だとしたら、クラビア宮にいつでも戻れるということか。

 だったらきっと使い道がある。
 いつでも拠点に帰ることができるなんて、チートもいいところだ。戦場からでも帰れるのか、本当に私室なのかは検証しておく必要があるだろう。

 わたくしはベッドヘッドに並べられたクッションをひとつ取り、そこに現れた魔法軸とテレポストーンを置いた。魔法軸はともかく、テレポストーンはわたくし自身が持っていなくてはいけないと思う。

 そして、深呼吸。
 いよいよ新人のデータだ。まずは、星3から。


 223: エーリカ・オルフ 文官 ★★★ new
   年齢 23:性別 女:気質 一字千金:野心 15:忠誠 20
   統率  8:武勇 3:知略 25:内政 48:外政 42

  騎士爵家の三女で、とても字が美しい。執政院の元清書係。
  王都焼失によって怪我を負い、職も失ったが一念発起、
  新王国の求人募集の試験を受けた。
  辛い食べ物が好き。世の中にはもっと刺激があっていい。
  早口言葉がとても得意。


 ほう? ほほう? ほーほほほーう!
 字がきれいな文官!!

 大事なところだからもう一回。
 字が! きれいな! 文官!!!!
 お宝だ!!!

 フォントどころか活版印刷もない世界、読みやすい文字はこれ以上ないくらい大切なことだ。悪筆な文官など抹殺案件。誤読を誘発するような文字は滅ぼさねばならない。

 ちょっと苛ついてしまったけれど、とにかく、得難い貴重な人材であることは短い紹介で十分にわかる。採用試験を受けたのなら、連絡先はわかるだろう。すぐに通知を手配しよう。

 ガチャ雇用二人目の文官。
 やっぱりこの期間限定ガチャは文官ガチャだ。

 ひいてよかった……。

 ほんとに、反射でタップしてしまったけど、良かった……。元は取った。
 それに、わたくしにはまだ星5の人材が残っている!

 姓がない表記ということは、貴族ではないということだろうか。
 わたくしは緊張しつつ詳細画面を開いた。



  ヴァネサ  聖女 ★★★★★ /HB  new
    年齢 13:性別 女:気質 純真無敵:野心 2:忠誠 80
    統率  255:武勇 2:知略 11:内政 8:外政 4

  寒村ルーゲ村出身。神聖力を持つ美少女にして【聖女】。
  ピンクブロンドは伊達じゃない。
  『恋よ! 花よ!2 ~ときめき★Heart Beat!』のヒロイン。
  死神咳が蔓延した王国中を癒やすだけの力を持っているが、
  予防対策が万全となり死神咳は流行らないので活躍の場はない。
  民を救う知恵を持った女王を敬愛している




「………………………………は?」

 思わず声が漏れた。
 いや、これ、何? どういうこと?
 どこから突っ込む? 落ち着ける?

 わたくしは目を閉じ、深呼吸した。鼻からゆっくり息を吸い、さらにゆっくり細く細く、唇の隙間から息を吐く。二回、三回。

 薄目を開けて見ても、ウィンドウの紹介文は変わらない。当然だけど。

「聖女、聖女って、この世界にいるものなの……?」
 クリキンワールドにはいなかった、はず。わたくしがプレイできなかった新作にそういう設定があったのかもしれないけれど、いないと思う。世界観が違いすぎるから。

 いや、いい。わかってる。わかってるのよ。
 問題は先送りしても良いことはない。気がついた時がいつも最速。対応するのは早い方が良い。

 無視できないのは三行目だ。


『恋よ! 花よ!2 ~ときめき★Heart Beat!』


 ……わたくし、少し気を失っていたみたい。

 落ち着こう。慌てたところで状況は変わらないもの。事態と事実をよく理解しなくてはならない。興奮と衝動で物事を決めてはいけない。判断もね。落ち着いて、落ち着いて。

 わたくしはもう一度深呼吸した。

 『恋よ! 花よ!』は乙女ゲームだ。ヒロインは「ゲルダ」。
 プレイヤーが自由に名前を付けられるゲームが多かった気がするから、デフォルトネームなのかどうかはわからない。

 ゲーム内容を要約すると、ピンクブロンドの少女が、見目のいい男たちを良い感じに操って侍らせるゲームだ。玉の輿ゲーと言ってもいいかもしれない。

 異母妹ゲルダが書き散らしていた攻略情報メモ程度の知識でも、恋愛シミュレーションの一般的なことは知っている。
 そして最大のポイントは、我が愛する『クリーグキングダム』と同じ会社が制作していたことだ。

 あの会社は、とにかく続編が大好きだった。壮大な世界設定が得意だったから、一本作っただけでは物足りなかったに違いない。

 メインキャラクターをしゃぶり尽くす勢いで流用し、無印、2、3、4、パワーアップ、S、R、X。ローマ数字でカウントしていたシリーズもあったはずだ。

 女性向け恋愛シミュレーションゲームだって、人気があれば続編を作っていても何の不思議もない。
 むしろ絶対に作るはずだ、あの会社なら。

 ああ! ゲルダの話が聞きたい!

 転生の記憶を持っていることに気がついていたけれど、特に話したいと思ったことがない異母妹に、わたくしは今、初めて会いたいと思っているわ!

 ……いや、やっぱりいいわ。

 あの子、鬱陶しかったもの。
 前世の記憶の有無は関係ない。自分以外の人間にも意思があることを知らないヤツは皆、同じ目をしている。
 たとえばあの子の両親とかね。

 ゲルダのメモは断片情報ばかりで、イケメンたちのプロフィールや重要イベントらしきものについての覚え書きだった。

 ボニファツとの出会いについて、白騎士エリアス、公爵家のゲーアハルト、オスカーという大商人の初期位置、最初のフラグイベント。そのくらいの情報だ。もちろん、わたくしはすべて記憶した。

 そういえば、二周目以降に開放される隠し攻略対象がいたはずだ。どこかの第二王子。どこかの、第二王子。

 ついさっきまでカードゲームを要求してきた最終兵器は隣国の第二王子だ。
 背中に冷たい汗がわく。口の中が干上がって、喉が痛い。

 まさか。やっぱり。


「わたくしは、いつから……乙女ゲームの世界と、思い込んでいた……?」


 動機がする。
 息が苦しい。
 冷や汗が出る。

 けれど思い返せば兆候はいくつもあったのだ。
 ヒロイン『ゲルダ』がいて、悪役令嬢『ハイデマリー』が生まれた世界だ。攻略対象者も、暫定・候補者含めて揃っている。
 最初は間違いなく乙女ゲーム『恋よ! 花よ!』の世界だった。

 けれど、『クリーグキングダム』の世界でもある。イベントも起きているし、キャンペーンシナリオに沿ったマップも開いた。それもまた間違いない。
 ヴェストリオーア戦役編が開幕することも、求人ガチャが教えてくれたくらいだし。

 半分呆然としつつ、わたくしはそこまで考え、ふと気がついた。
 Heart Beatという単語だ。
 これが謎のパラメーター「HB」なのではないの?

 「HB」が表示されていたのは、ネリジェラク王子、ジークムンド卿、クリームヒルト卿、それにゲーアハルトとウーゴ師だ。

 わたくしは心に鞭打ち、ネリジェラク王子のデータを呼び出した。
 もしも本当に「HB」がHeart Beatで、乙女ゲームの好感度ならばきっと変化があるはずだ。

 だって、夜明けまでゲームしてたのだもの。
 恋愛的な意味じゃなくても親密になる。ネットゲームでも、いつも同じチームで行動しているうちに、友情っぽいものが芽生えたりするじゃない。



 222:ネリジェラク・エア=ジュラス 王子/騎士 ★★★★★ /HB ++++++++++
    年齢 24:性別 男:気質 一騎闘戦:野心 90:忠誠 125
    統率  8:武勇 255↑:知略 22:内政 40:外政 50

  湖の国エアジュラス王国の第二王子。側室腹の兄がいる。
  魔剣アンゲスアエシュマエの【運び手】に選ばれ、狂気に陥った。
  右目は自分で、素手で抉り出した。
  魔剣の力で常人離れした戦闘力を手に入れた結果、恐怖されて孤立。
  『聖魔戦役』の名プレイヤーだったが、対戦して貰えなくなった。
  身長:187cm 誕生日:海神月28日 猫派

  王位継承の争いを優位に進めたい兄とその母の策略で、
  魔剣の封印を解く羽目になった。
  だが、自分なら魔剣を使いこなせると思ったのも事実。

  エアジュラス王国は湖国と言われるが、湖は国土の1/6

  この世のすべては遊戯であり、自分は勝者だと信じていた。
  幼い思い込みは黒歴史。
  内なる望みは、自分より強い相手にひれ伏したい。
  素晴らしきは我が女王陛下! 嗚呼!
  (初出:『恋よ! 花よ!2 ~ときめき★Heart Beat!』
   出典:『一騎闘戦3/血塗れ大決戦ブラッディパーリー』)


 ほーらね!

 と、勝ち誇ればいいのか、何なのか。ただひとつ言えることは、わたくしはまだ甘かったということ。

 『一騎闘戦3/血塗れ大決戦ブラッディパーリー』って、いわゆる無双系アクションゲームだったはずだ。プレイヤーキャラが何百何千という敵を倒しまくるやつ。
 一時とても流行った。

 乙女ゲームの攻略対象者として人気がでたイケメンキャラを、別ゲームに迎え入れて新規客層を狙ったっていうシタゴコロが見え見えだわ。マーケティング判断はともかくとして、巻き込まれたわたくしはいい迷惑じゃないの。

 ネリジェラク王子のめちゃくちゃなパラメーターの意味はわかったけど。

 どうするよ、わたくし。

 わたくしはため息と共にベッドにひっくり返った。少しでも眠ろうと思ったからだ。
 ウィンドウを消そうと思ったときだ。
 金色のウィンドウがポップアップした。



【戦闘結果】クラビア宮の反乱
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