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第三章 世界創造ー三五〇年前ー
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夜が明け、照り返す太陽の光に、グルーは眉をひそめた。グルーの呼びかけに応じ、役者は出そろっている。
灼熱の女神、グルー=マーサ。
氷雪の女神、アルプ=ウィント。
風雲の女神、ゾマ=スリング。
霧雨の女神、イスブク=フォル。
唯一の生き残りである人の子の戦士、シュガー=ホープ。
グルーと対面になる形で、四人が並んでいる。四人の女神の中に混じっているシュガーは、酷く居心地が悪そうだ。場違いにもほどがあると、三人の女神から一歩下がって委縮していた。
「単刀直入に申し上げますが、グルー姉様? これからの方針は、お決まりになられたのですか?」
ゾマが、真っ先に口を開き、皆の視線がゾマからグルーに移った。グルーは腕組みをし、どっしりと根が張っているように仁王立ちをしている。暫く、瞳を閉じていたグルーが、ゆっくりと目を開いた。
「未来永劫、争いのない国を築こうではないか」
「はい。勿論、わたくし達も、そう願っておりますわ。具体的には、何か良い妙案がございまして?」
グルーの回答に誰も異を唱えないが、イスブクと同じ疑問を抱いていた。理想は同じだが、肝心の解決策が見当たらない状況であった。海に囲まれ独立した島国は、格好の的であり、多くの国々が手に入れたい。幾度となくこの地を攻めてきた他国の戦士を返り討ちにし、四人の女神はこの地を守ってきた。その度に、数えきれないほどの人の子の死体の山を築いてきた。多くの屍を超え、現在までやってきた。
「争いは争いを生み、多くの尊い命を奪ってきた。この地とこの地に住む人の子を守る為という大義の旗を振っていたのだ。しかし、そんなものはまやかしだ。我々の過ぎた力は、人殺しの手段でしかなかった。この地に、我々はいない方が良いのだ」
「お言葉を返すようですが、我々がいなければ、早々にこの地は他国に攻め落とされていた事でしょう。今よりも酷い惨状になっていたかもしれません」
「我は過去の話をしているのではない。未来の話をしているのだ」
グルーは、ゾマに厳しい視線を送った。
「と、言いますと? 我々がいない方が良いとは、我々が他の地に移り住むという事ですか? それも同じ事です。早々に攻め落とされてしまいます」
ゾマが首を傾げると、グルーは大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。
「この地を閉ざす」
「どういう事ですか?」
これまで黙って聞いていたアルプが、一歩前に出た。
「我々が壁となり、外からの干渉を遮断するのだ。全ての魔力を投げ打ち、この地を取り囲む。我々の力の全てを防御に使うのだ」
「つまり、外界から隔絶された孤島を作り上げるという事ですね?」
「その通りだ。魔力を用いて、高い標高の山脈を築く。そして、イスブクの霧で、山頂を覆い隠す。外からは入れず、中からは出られないようにするのだ」
「・・・そういう事ですか。人の子が越えられないほどの高い山脈・・・我々の魔力量であっても、肉体を維持する事は不可能でしょうね。我々自身が山脈と化すと言う事ですね?」
「ああ。不服か?」
グルーが顎を上げ挑発するように尋ねると、アルプは素早く顔を左右に振った。
「今更、この身が惜しい訳もありません。それに、消滅するわけでもありません。この地の人の子を、見守り続けましょう」
アルプが微笑むと、ゾマとイスブクは、静かに頷いた。三人の反応を見て、グルーも顎を引く。
「それならば、私の風でイスブクの霧を留めておく事に致します。山脈の頂上に沿って円形に風流を作れば、頭上からの侵入も防げるでしょう。そうすれば、この地の空を塞ぐ事なく、太陽の恵みを与える事ができます。人の子にとって、太陽の恩恵は必要不可欠ですからね」
ゾマの提案に、アルプとイスブクは同意し、グルーは小さく舌打ちをした。グルーの舌打ちが聞こえていたアルプは、呆れたように嘆息を吐く。圧倒的な魔力を誇るグルーであるが、子供じみた一面を覗かせる。
「この度の戦争で、敵国の科学技術には、目を見張るものがありましたわ。そして、魔力の向上も。いずれは、ゾマにも劣らない飛行能力を持った者、あるいは兵器が誕生する可能性がございます。用心に越した事はありませんわね」
イスブクが視線を向けると、グルーは頷き、指を立てた。
「それともう一つ。この地の民の魔力を奪う」
「魔力を奪うとは、どういう意味ですか?」
皆の視線が、アルプに集まった。
「そのままの意味だ。平和で平穏な生活を送るのに、魔力は不要だ。魔力とは、殺人術だ。人の子には、必要ない」
「お待ち下さい、グルー様。魔力は、なにも殺人だけを目的とした能力ではございません。生活を便利にかつ豊かにする能力です。正しく使用すれば、なにも問題ないはずです」
「ならん。人の子には、過ぎた力だ。身の丈に合わぬ力は、持つべきではない。力を持った者は、力を使いたくなるものだ。その力で、弱き者を攻撃し、傷つけ支配したくなるものだ。人の子に過ぎた力は、与えるべきではない。人の子は弱い。しかし、知恵がある。創意工夫を繰り返し、住み良い生活を送るだろう」
「・・・分かりました」
「不服かもしれぬが、もう時間がないのだ。早々に取り掛かる。人の子の戦士シュガー=ホープよ」
「はい!」
グルーは一番奥に控えているシュガーを見る。シュガーは素早く駆け出し、グルーの前で跪いた。
「お前がこの地をまとめ上げるのだ。そして、この地を平和で幸福に溢れた世界にするのだ。我々の意図は理解したな?」
「は! 身に余る役目を仰せつかい光栄でございます! 必ずや皆様方の期待に応えてみせます!」
「うむ、頼んだぞ。皆よ手を」
グルーは両手を広げると、それぞれの女神が手を取り合い、円を作った。グルーから左回りに、イスブク・アルプ・ゾマと並んでいる。
「まずは、そうだな・・・小型で素早く、人の子を怖がらせない・・・鳥だな。『魔力を吸い取る鳥』を創造する。イメージをし、魔力を集めよ」
四人の女神が、目を閉じ祈りを捧げると、円になっている四人の中心に光が集まり、鳥が出現した。
「ピチチチチ!」
数羽の鳥が一斉に方々に散っていった。その中の一羽が、シュガーの肩に止まる。シュガーが人差し指を向けると、鳥は指を突いた。
「魔力を吸い取る鳥。『魔吸いの鳥』だな」
シュガーが呟くと、突然眩暈を起こし、その場で倒れこんだ。そして、鳥はシュガーの元から飛び立った。
「魔力を著しく消費すると、睡魔に襲われる。これを繰り返す事で、魔力は失われていくだろう。そして、何世代にも渡った頃には、人の子から魔力は失われているはずだ。人の子の魔力を餌にした鳥が滅んだ時、この世界から魔力も滅ぶのだ」
グルーは、飛び立った鳥を見上げている。そして、顔を他の三人の女神に向ける。
「さあ、皆の者、最後に何か思い残した事はないか? 会話をするのは、これが最後だ。しかし、我らは常に傍にいる。未来永劫、この地の民を守るとしよう」
「きっと、わたくしとゾマは、山と化すと自我を失うでしょう。人の子の幸福を見届ける事は、叶いませんわ。しかし、必ずや平和で幸福な世界を築いてくれると信じております」
「そうですね。イスブクの言うように、私達の魔力では、お勤めを果たすので精一杯です。ですから、グルー姉様、アルプ様。どうか人の子を見守ってあげて下さいね」
イスブクとゾマが、それぞれ手を握っているグルーとアルプに視線を向け、微笑んでいる。グルーは、力強く頷き、アルプに顔を向けた。
「アルプは、何かないか?」
「そうですね。私だけ、皆様よりも仕事が少ない事にいささか心苦しさも感じますが・・・私は私なりに、人の子の幸福と尊厳を守っていきます」
アルプは目を伏せ、頭を下げた。
「あ、そうだ。グルー姉様とアルプ様は、もう喧嘩してはいけませんよ。対極に位置するお二人が喧嘩をしてしまうと、世界が滅んでしまいますからね」
ゾマが笑いながら、グルーとアルプに交互に顔を向けた。グルーとアルプが視線を合わせると、互いに照れくさそうに笑った。
「さあ、では、始めるぞ。アルプ、ゾマ、イスブク・・・祈りを・・・」
手を繋いだ四人が、目を閉じた。すると、それぞれの姿が発光し、この地を眩い光が覆った。そして、瞬間的に天を貫くほどの雄大な山脈が、島国を取り囲んだ。色濃い霧が山脈の頂上を覆い隠し、空を円形に切り取った。空の中心に到達した太陽が、世界を温かな光で照らしている。
灼熱の女神、グルー=マーサ。
氷雪の女神、アルプ=ウィント。
風雲の女神、ゾマ=スリング。
霧雨の女神、イスブク=フォル。
唯一の生き残りである人の子の戦士、シュガー=ホープ。
グルーと対面になる形で、四人が並んでいる。四人の女神の中に混じっているシュガーは、酷く居心地が悪そうだ。場違いにもほどがあると、三人の女神から一歩下がって委縮していた。
「単刀直入に申し上げますが、グルー姉様? これからの方針は、お決まりになられたのですか?」
ゾマが、真っ先に口を開き、皆の視線がゾマからグルーに移った。グルーは腕組みをし、どっしりと根が張っているように仁王立ちをしている。暫く、瞳を閉じていたグルーが、ゆっくりと目を開いた。
「未来永劫、争いのない国を築こうではないか」
「はい。勿論、わたくし達も、そう願っておりますわ。具体的には、何か良い妙案がございまして?」
グルーの回答に誰も異を唱えないが、イスブクと同じ疑問を抱いていた。理想は同じだが、肝心の解決策が見当たらない状況であった。海に囲まれ独立した島国は、格好の的であり、多くの国々が手に入れたい。幾度となくこの地を攻めてきた他国の戦士を返り討ちにし、四人の女神はこの地を守ってきた。その度に、数えきれないほどの人の子の死体の山を築いてきた。多くの屍を超え、現在までやってきた。
「争いは争いを生み、多くの尊い命を奪ってきた。この地とこの地に住む人の子を守る為という大義の旗を振っていたのだ。しかし、そんなものはまやかしだ。我々の過ぎた力は、人殺しの手段でしかなかった。この地に、我々はいない方が良いのだ」
「お言葉を返すようですが、我々がいなければ、早々にこの地は他国に攻め落とされていた事でしょう。今よりも酷い惨状になっていたかもしれません」
「我は過去の話をしているのではない。未来の話をしているのだ」
グルーは、ゾマに厳しい視線を送った。
「と、言いますと? 我々がいない方が良いとは、我々が他の地に移り住むという事ですか? それも同じ事です。早々に攻め落とされてしまいます」
ゾマが首を傾げると、グルーは大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。
「この地を閉ざす」
「どういう事ですか?」
これまで黙って聞いていたアルプが、一歩前に出た。
「我々が壁となり、外からの干渉を遮断するのだ。全ての魔力を投げ打ち、この地を取り囲む。我々の力の全てを防御に使うのだ」
「つまり、外界から隔絶された孤島を作り上げるという事ですね?」
「その通りだ。魔力を用いて、高い標高の山脈を築く。そして、イスブクの霧で、山頂を覆い隠す。外からは入れず、中からは出られないようにするのだ」
「・・・そういう事ですか。人の子が越えられないほどの高い山脈・・・我々の魔力量であっても、肉体を維持する事は不可能でしょうね。我々自身が山脈と化すと言う事ですね?」
「ああ。不服か?」
グルーが顎を上げ挑発するように尋ねると、アルプは素早く顔を左右に振った。
「今更、この身が惜しい訳もありません。それに、消滅するわけでもありません。この地の人の子を、見守り続けましょう」
アルプが微笑むと、ゾマとイスブクは、静かに頷いた。三人の反応を見て、グルーも顎を引く。
「それならば、私の風でイスブクの霧を留めておく事に致します。山脈の頂上に沿って円形に風流を作れば、頭上からの侵入も防げるでしょう。そうすれば、この地の空を塞ぐ事なく、太陽の恵みを与える事ができます。人の子にとって、太陽の恩恵は必要不可欠ですからね」
ゾマの提案に、アルプとイスブクは同意し、グルーは小さく舌打ちをした。グルーの舌打ちが聞こえていたアルプは、呆れたように嘆息を吐く。圧倒的な魔力を誇るグルーであるが、子供じみた一面を覗かせる。
「この度の戦争で、敵国の科学技術には、目を見張るものがありましたわ。そして、魔力の向上も。いずれは、ゾマにも劣らない飛行能力を持った者、あるいは兵器が誕生する可能性がございます。用心に越した事はありませんわね」
イスブクが視線を向けると、グルーは頷き、指を立てた。
「それともう一つ。この地の民の魔力を奪う」
「魔力を奪うとは、どういう意味ですか?」
皆の視線が、アルプに集まった。
「そのままの意味だ。平和で平穏な生活を送るのに、魔力は不要だ。魔力とは、殺人術だ。人の子には、必要ない」
「お待ち下さい、グルー様。魔力は、なにも殺人だけを目的とした能力ではございません。生活を便利にかつ豊かにする能力です。正しく使用すれば、なにも問題ないはずです」
「ならん。人の子には、過ぎた力だ。身の丈に合わぬ力は、持つべきではない。力を持った者は、力を使いたくなるものだ。その力で、弱き者を攻撃し、傷つけ支配したくなるものだ。人の子に過ぎた力は、与えるべきではない。人の子は弱い。しかし、知恵がある。創意工夫を繰り返し、住み良い生活を送るだろう」
「・・・分かりました」
「不服かもしれぬが、もう時間がないのだ。早々に取り掛かる。人の子の戦士シュガー=ホープよ」
「はい!」
グルーは一番奥に控えているシュガーを見る。シュガーは素早く駆け出し、グルーの前で跪いた。
「お前がこの地をまとめ上げるのだ。そして、この地を平和で幸福に溢れた世界にするのだ。我々の意図は理解したな?」
「は! 身に余る役目を仰せつかい光栄でございます! 必ずや皆様方の期待に応えてみせます!」
「うむ、頼んだぞ。皆よ手を」
グルーは両手を広げると、それぞれの女神が手を取り合い、円を作った。グルーから左回りに、イスブク・アルプ・ゾマと並んでいる。
「まずは、そうだな・・・小型で素早く、人の子を怖がらせない・・・鳥だな。『魔力を吸い取る鳥』を創造する。イメージをし、魔力を集めよ」
四人の女神が、目を閉じ祈りを捧げると、円になっている四人の中心に光が集まり、鳥が出現した。
「ピチチチチ!」
数羽の鳥が一斉に方々に散っていった。その中の一羽が、シュガーの肩に止まる。シュガーが人差し指を向けると、鳥は指を突いた。
「魔力を吸い取る鳥。『魔吸いの鳥』だな」
シュガーが呟くと、突然眩暈を起こし、その場で倒れこんだ。そして、鳥はシュガーの元から飛び立った。
「魔力を著しく消費すると、睡魔に襲われる。これを繰り返す事で、魔力は失われていくだろう。そして、何世代にも渡った頃には、人の子から魔力は失われているはずだ。人の子の魔力を餌にした鳥が滅んだ時、この世界から魔力も滅ぶのだ」
グルーは、飛び立った鳥を見上げている。そして、顔を他の三人の女神に向ける。
「さあ、皆の者、最後に何か思い残した事はないか? 会話をするのは、これが最後だ。しかし、我らは常に傍にいる。未来永劫、この地の民を守るとしよう」
「きっと、わたくしとゾマは、山と化すと自我を失うでしょう。人の子の幸福を見届ける事は、叶いませんわ。しかし、必ずや平和で幸福な世界を築いてくれると信じております」
「そうですね。イスブクの言うように、私達の魔力では、お勤めを果たすので精一杯です。ですから、グルー姉様、アルプ様。どうか人の子を見守ってあげて下さいね」
イスブクとゾマが、それぞれ手を握っているグルーとアルプに視線を向け、微笑んでいる。グルーは、力強く頷き、アルプに顔を向けた。
「アルプは、何かないか?」
「そうですね。私だけ、皆様よりも仕事が少ない事にいささか心苦しさも感じますが・・・私は私なりに、人の子の幸福と尊厳を守っていきます」
アルプは目を伏せ、頭を下げた。
「あ、そうだ。グルー姉様とアルプ様は、もう喧嘩してはいけませんよ。対極に位置するお二人が喧嘩をしてしまうと、世界が滅んでしまいますからね」
ゾマが笑いながら、グルーとアルプに交互に顔を向けた。グルーとアルプが視線を合わせると、互いに照れくさそうに笑った。
「さあ、では、始めるぞ。アルプ、ゾマ、イスブク・・・祈りを・・・」
手を繋いだ四人が、目を閉じた。すると、それぞれの姿が発光し、この地を眩い光が覆った。そして、瞬間的に天を貫くほどの雄大な山脈が、島国を取り囲んだ。色濃い霧が山脈の頂上を覆い隠し、空を円形に切り取った。空の中心に到達した太陽が、世界を温かな光で照らしている。
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