ジャイ子とスパイダーマンの恋

ふじゆう

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<中学生編>ep3

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  我ながら良く頑張ったと思った。そう思うことにした。卒業式まで後一か月と少し。波風を立てずに、平和な中学校生活を送ってきた。それでも、三年生になる頃には、『ジャイ子』という変なあだ名は、多くの人に浸透してしまっていた。でも、不思議なもので、悪意を持ってそう呼ぶ人はいなかった。目立つお三方の御威光が、そうさせたのだろう。
 中学校生活最後の二月。私は一世一代の大決心をした。志望高校の受験も無事終えたことで、少し気持ちが大きくなっていたのかもしれない。ちょっとだけ、自信をつけたのかもしれない。私は三年間想い続けた杉本君に、バレンタインのチョコレートを渡すことにした。覚悟が萎えてしまわないように、ルミちゃんに想いを告げる。
「お、やっと、告る気になったの? 私の分も宜しくね。奈美恵、私のこと好きでしょ?」
 私は顔と手をブンブンと振った。滅相もない。これは、記念受験と同じだ。
「え? 私のこと好きじゃないの?」
「ち、違うよ。そっちじゃない!」
 眉を下げるルミちゃんに、私は慌てて返した。同性でもチョコレートをあげるのかと思案したが、そう言えばルミちゃんは毎年女の子に貰っていたことを思い出した。
「どんなチョコを上げるの? 手作り?」
「う、うん・・・手作りに挑戦しようと思って」
「おお、気合い入ってるねえ」
「そ、そうじゃないよ! ただ、クモの形のチョコを作りたいから、たぶん市販の物じゃ売ってないと思って」
 私が俯いて尻つぼみに話すと、ルミちゃんは空を見上げ指さす。
「雲? なんで?」
「あ、虫の蜘蛛だよ」
「はあ? 蜘蛛? うげえ趣味悪! やっぱり私いらない」
 あからさまに気持ち悪そうにするルミちゃんに、気持ちが沈む。それは、私だってそう思うのだけれど、奇をてらい過ぎるかもしれないけれど。
「杉本君、蜘蛛が好きなんだって。フォルムがカッコイイって。だから、スパイダーマンのコスプレもしてたみたいで・・・それに、沢山チョコをもらうだろうから、覚えてもらえたらいいなと思って」
「ああ、そう言えば、あいつ。文化祭の模擬店でお化け屋敷やってた時も蜘蛛男とか、意味不明なことやってたっけ。あれは趣味だったんだね? 悪趣味」
 とことん、ルミちゃんからの杉本君の評価は低い。蜘蛛男は、私も知っているけれど、それだけではない。腕時計やインナーのシャツ、スマホのケースも蜘蛛だ。不思議なもので、私はルミちゃんほどの拒否反応はない。確かに、昔だったら、同じ反応をしていたのかもしれない。中学生になってから、蜘蛛が嫌いじゃないというより、好きな部類に入るようになった。好きな人の影響を受けている。お店やテレビなどで、蜘蛛が視認できると、杉本君の顔が浮かび上がるのだ。そのことを杉本君と接点を持つ話題にしようと、頭の中でシミュレーションをするけれど、現実で実行されたことは、一度もない。
「あ! 思い出した! 確か、杉本って、芥川の『蜘蛛の糸』の読書感想文書いて、コンクールで金賞取ってたよね? なかなか渋いチョイスだなって思ってたんだけど、ただ蜘蛛が好きなだけだったんだね? なんじゃそりゃ!」
 ルミちゃんは、口元に手を当てて、『なんじゃそりゃ!』と、もう一度空に向かって叫んだ。とことん、馬鹿にしている様子だ。確かに、私がルミちゃんに告白した時、協力しないとは言っていたけれど、ここまで否定的だと流石に悲しくなってきた。
「そう言えば、ルミちゃんは、チョコあげないの?」
「ああ、リュウにあげるよ。ま、正確には、上川家にあげる」
「え? どういうこと?」
「お隣さんとの恒例行事みたいなものだよ。母親同士が互いの男どもにチョコをあげるの。それに強制的に付き合わされてるって訳」
 それでは、ルミちゃんは、個人的にあげたりはしないようだ。ルミちゃんらしいと言えばらしいけれど、なんだかもったいない気もする。きっと、ルミちゃんからチョコをもらって嬉しくない男子は、いないだろうから。
 何はともあれ、私は自力で頑張るしかなさそうだ。まだ少し時間があるから、色々勉強して、当日に備えよう。
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