ジャイ子とスパイダーマンの恋

ふじゆう

文字の大きさ
6 / 19

<中学生編>ep2

しおりを挟む
「おはよう! 時枝さん! それと、ジャイ子ちゃん!」
 私は、金縛りにあったように、体が硬直した。振り返らなくてもその声で誰だか分かった。
「おっす! 杉本。あれ? あんた朝練は?」
 ルミちゃんが軽く手を上げる。その気軽さが羨ましかった。私は、声が喉の奥で引っかかって、挨拶すらできない。かろうじて、小さく顎を引いた。
「寝坊したんだよー! やっちゃったよー!」
 杉本君が寝ぐせを手で押さえながら、小刻みに白い息を漏らしている。
「おいおい、キャプテンだろ? しっかりしろよ! 転ぶなよー!」
 会話もそこそこに、走り去る杉本君に、ルミちゃんが声をかけた。後ろ手に手を振る杉本君が転ばないか心配になった。私達も足元を気を付けながら、学校へと向かう。ルミちゃんは、朝練がないのか疑問であった。
「いや、うちみたいな弱小陸上部は、この時期はオフだよ。朝練は、やらない。でも、テニス部みたいな強豪は、朝練もしっかりあるみたい。筋トレとかがメインだけどね。ご苦労なことだ」
 とのことだ。うちの学校は、部活動は強制参加なのだが、私はイラスト部に参加している。部と言っても、ほぼほぼ自主活動で、帰宅部としての色が強い。だから、部活動をしたくない生徒が、多数席だけを置いている幽霊部活だ。私は、一応毎日参加している。ルミちゃんは、弱小陸上部と言っているが、ルミちゃんは個人で唯一全国大会に出場している。ただあまり、競争とか順番とかには興味がないらしく、ただ走るのが好きみたいだ。当初は、お兄ちゃんからの質問というより、尋問が凄かった。なぜ、バスケ部に入らないのかと。ルミちゃんを説得するように頼まれたこともあった。だけど、決めるのはルミちゃんだし、彼女がやりたいことをして欲しかった。
『ジャイ子? どうして、ジャイ子なの?』
 杉本君に声をかけられたのは、二年生に進級した少し後だ。入学式で新入生代表の挨拶をしていた杉本君の、堂々として凛々しい姿に目を奪われた。その後すぐに、それは私だけではなかったのだと、気づかされたのだけれど。一年生の時は、ただただ杉本君を目で追いかけていただけであった。それだけで、満足していた。一年生の時から、存在感があり目立っていた杉本君であった。確かに、ルミちゃんが言っていることは、全てその通りで、杉本君の噂は毎日のように耳に入ってきていた。ただ、それらの杉本君を司るパーツは、彼を好きになった原因ではなく、要因に過ぎない。
 私の感情に私が気が付いたのは、去年の文化祭の時だ。有志の出し物で、杉本君がスパイダーマンの格好をして、仲間達とダンスを披露していた。それまでは、ルミちゃんが言うように、完璧すぎて高嶺の花にもほどがあった。手を伸ばすのもおこがましいほど、神々しかった。しかし、そのパフォーマンスで、存在がとても身近に感じたのだ。そして、極めつけは、二年生に進級した頃だ。相変わらず『ジャイ子』と呼んでくる上川君の、ある意味お陰なのかもしれない。私があだ名で呼ばれた時に、偶然杉本君が居合わせたのだ。そして、声をかけられた。あれほどまでに、緊張した記憶がない。そもそも、鮮明な記憶がない。ただ、杉本君に話しかけられたという事実は確かであった。それまで、私の存在を全く知らなかった杉本君であったが、あの日を境に声をかけてくれるようになった。ほとんどが、挨拶であったが、私にとってはそれだけで十分過ぎた。杉本君の中に私の存在が入ったことだけでも奇跡だと思った。常に友人に囲まれていて、女子からの人気も凄い。私の本名を知っているのか疑問であったが、そこはあえて触れる気はない。
 ルミちゃんに、『付き合いたいの?』と聞かれたけれど、そんな気は毛頭ない。今のままで幸せなのだから。これ以上は、分不相応だ。私は影に隠れているのが、性分にあっている。
 小学生の時は、ルミちゃんの光に守られてきた。それは、今も変わらないのだけれど。なかなかに厄介なのは、上川君の存在だ。上川君のお陰で、杉本君に認知してもらえたのだから、贅沢なのかもしれない。中学生になって、隣の小学校と学区が同じの為、合流した。杉本君は隣の小学校出身だ。小学生の頃やんちゃであった上川君は、中学生になってそのパワーが増した。ヤンキーとまでは言わないけれど、髪を染めピアスを開け、理不尽に暴力で立ち向かうようになった。先生にも食ってかかったりと、なかなか上川君には馴染めない。何度か停学処分を受けていた。しかし、その理由は、友人を守る為だとルミちゃんが教えてくれた。だけれど、私は、暴力が受け入れられなかった。できるなら、上川君とは距離を取りたいのだが、残念ながら彼は相変わらず私を『ジャイ子』と呼び、絡んでくるのだ。絡まれるというと語弊があるかもしれないけれど、あまり悪目立ちしたくはない。
 ルミちゃん、杉本君、上川君、と強烈な光を発する三人に関わりを持ち、嬉しい反面やはりあまり目立つのは好まない。そして、その光を自分の力だと誤解しないように、勘違いしないように、肝に銘じ小さくなって生活をしていくことを誓ったのだ。周囲の人達から、白い目で見られたり、それこそイジメにあったりしないように。ジャイ子のクセに、生意気だぞ。そう自分に言い聞かせるのだ。のび太君やジャイ子ちゃんがごちゃ混ぜになっているけれど、これが現実なのだから仕方がない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

俺の可愛い幼馴染

SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。 ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。 連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。 感想もご自由にどうぞ。 ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

カモフラージュの恋

湖月もか
恋愛
容姿端麗、文武両道、しかも性格までよし。まるで少女漫画の王子様のような幼馴染な彼。 当たり前だが、彼は今年も囲まれている。 そんな集団を早く終わらないかなと、影から見ている私の話。 ※あさぎかな様に素敵な表紙を作成していただきました!

処理中です...