ジャイ子とスパイダーマンの恋

ふじゆう

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エピローグ

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「奈美恵、なに泣いてんのよ?」
 リビングテーブルの向かい側に座っているルミちゃんが、笑いながら小声で話した。ソファで遊んでいる旦那と娘に気づかれないように、配慮してくれたのだろう。
「なんでもないよ。幸せを噛み締めていただけ」
「あーはいはい、惚気ですか? 既婚者は良いですなあ!」
 私が差し出したお茶をグイっと一気に飲み干し、おかわりと言わんばかりに、グラスを突き出した。私は笑いながら、グラスにお茶を注いだ。
 海外で成功を収めたルミちゃんは、今でも忙しそうに世界中を飛び回っている。今でも、たまにこうして、私に会いに来てくれる。こんな美人さんを男性が放っておく訳がないから、きっとルミちゃん自身があまり興味がないのだろう。
「ねえ! ちょっと、リュウ! あんたの嫁が、惚気て大変なのよ!」
 ルミちゃんが、ソファにいるリュウ君に声をかけた。すると、リュウ君は、娘を背中に背負いながら、私の背後に回る。そして、肩から両腕を回し、頬を寄せてきた。
「当たり前じゃん! 今でもラブラブなんだから! 結婚は良いぞ! お前もさっさと結婚するんだな!」
「ラブラブ―ラブラブー!」
 リュウ君が私の耳元で言い、娘も楽しそうにはしゃいでいる。私は恥ずかしくて、耳が熱くなった。目の前に座っているルミちゃんは、呆れ顔だ。
 ルミちゃんとリュウ君が、五年前の地獄から私を救い出してくれた。地獄に落ちた元凶などとは、口が裂けても言わないけれど、当時お腹にいた娘も元気に育っている。
 有頂天から、突如、地獄に叩き落されたあの日。私は、どうすれば良いのか、どうしたいのか、自分では何も判断できなかった。ただただ、泣くことしかできなかった、か弱い子供だった。比喩ではなく、本当に目の前が真っ暗になった。
 私は、ただ縋っただけだ。
 最近、不祥事で逮捕された彼ではないけれど、まさに芥川の蜘蛛の糸であった。地獄に落ちた私に、リュウ君が蜘蛛の糸を垂らしてくれた。縋りつくように、その糸を掴んだだけだ。そして、天国へと引っ張り上げてくれた。
 リュウ君は、私の愛すべき旦那様であり、正義のヒーローだ。颯爽と駆け付け、助けてくれた。まさに、スパイダーマンだ。そして、あの日から二日後、ルミちゃんが帰国してくれて、毎日のように私の傍にいてくれた。少しずつ心の傷が癒え、頭と生活の全てを占めていた彼の占領面積を縮小してくれた。例えは悪いかもしれないけれど、陣取りゲームでルミちゃんとリュウ君が、相手陣営を攻め落としてくれた。まさに、一騎当千の活躍だ。ルミちゃんとリュウ君が甲冑を身に纏い、武器を携えている姿を想像すると、なんだか笑えてきた。
 ふと、気が付くと、ルミちゃんとリュウ君が痴話喧嘩をしていた。
「何言ってんのよ! 奈美恵が一番好きなのは、私なの! 私と奈美恵は、鉄の絆で結ばれた親友なの!」
「はあ? 何言ってんだよ!? 俺に決まってんだろ! 俺は旦那だぞ! 俺と奈美恵は、海よりも深い愛情で繋がってるんだ!」
 何を訳の分からないことで、言い合っているのだか・・・。でも、嬉しくて、笑みが零れた。
「えー! ママは、わたしが好きなんだよ? ねえ、ママ?」
 娘まで参戦し、大混乱を繰り広げている。三人が私を見つめた。正解を待っている眼差しだ。私は、逃げるように視線を背ける。テレビの前では、相変わらず息子が、自分の世界に没頭している。こんなにも騒がしいのに・・・ある意味、あの子が一番逞しいのかもしれない。三人からの視線が痛い。
「四人とも、大好きだよ!」
 私は、満面の笑みを浮かべる。親友と旦那様と娘は、不服そうに唇を尖らせるのであった。
<完>
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