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第二章 口が裂けても伝えぬ乙女心
二
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昨日は、この玄常寺に仕えるようになって三か月、最も濃い一日となった。
「恋、一日」
ポツリと呟くと、思わず顔が緩んでしまい、その姿を九十九君に見られた為、誤魔化すように箒を暴れさせた。幸い、本日は、学校が休みの為、たっぷり眠れると思っていたが、そうは問屋が卸さなかった。僕は、奉公人であり『もののけもの』見習いなのだ。昼までゆっくり惰眠を貪るなど、そんな贅沢は許されない。
昨日は、心身ともに疲れ果てた。奇妙な『髪の毛グルグル男』を発見したり、超ド級の悪霊であるところの『首狩り夜叉丸』に追い掛け回されたり、鍵助さんの能力が判明したりと大忙しだった。そして、極めつけは、元町先輩が突然錯乱状態となり、藍羽先輩や響介さんを襲おうとした。結果的に、僕と前九十九さんが被害を受けた。前九十九さんが、昇天するかのように、白髪一本を残し、姿を消した。錯乱した元町先輩は、この玄常寺にいるそうだが、姿を見かけない。まだ、意識を取り戻していないのだろうか? そもそも、元町先輩は、どこの部屋にいるのだろうか?
「おはようございます。染宮殿。どうかされましたか? もう、お体は、宜しいのですか? 今日くらいは、ゆっくりされても宜しかったのに」
考え事をしていると、箒を持った九十九さんが近づいてきた。
「おはようございます。九十九さん。はい。もう大丈夫です。怪我の具合も問題ありませんしね。そうだ、九十九さん?」
「はい、何でしょう?」
怪しく黒光りする仮面が、僕を見上げている。
「元町先輩の様子は、どうですか?」
「まだ、眠っておいでですよ」
「そうですか・・・ところで、元町先輩は、どこにいるんですか?」
「地下の独房においでですよ」
「・・・はい?」
『地下の独房』とは、なかなかに凶悪な響きだ。そもそも、この玄常寺に地下などあったとは、知らなかった。
「ご存じありませんでしたか。この玄常寺は、罪を犯した『もののけ』や、訳ありの人間の収容所の役目を果たしているのですよ? 罪を犯したというと、語弊がありますね。失礼しました。中には、変わり者もいましてね、自ら志願して、収容される『もののけ』もおります。人間もまた然り。人間の社会でも『もののけ』の社会でも、負適合者というものはおります。社会からの『除け者』ですね」
「全く、知らなかったです。収容所の役目だなんて。昔から、そうなんですか?」
「そうですね。元々は、その為に存在していました。現在では、役目は、多岐に渡りますが。この玄常寺は、元は『現常寺』と表記されていました。現世(うつしよ)と常世(とこよ)の狭間に存在するお寺という意味だそうです。消滅させる程ではないが、自由勝手にさせる訳にもいかない存在が、収容されます」
なるほど。つまりは、看守の役目を担っており、歪屋とは看守長の称号という訳なのか。確かに、不思議に感じていたことがある。九十九衆は、九十九人いるはずだが、それほどまでの数を見たことがなかった。僕が見ていたのは、地上組だけだったという訳だ。
だからこその歪屋は、中立という立場なのだろう。御三家が捕らえた『もののけ』を収容する。故に、『歪屋に手を出してはならない』ということなのだろう。それが、長縄家の言うところの『特別扱い』なのだろうか? 致し方ないような気もするけれど、長縄家が歪屋の役目を奪おうとしていたのだろうか? 僕だけ蚊帳の外の状態がモヤモヤする。響介さんは、時が来たらと言っていたが、その時とは、いったいいつなのだろうか?
九十九さん曰く、玄常寺の地下に存在する収容施設は、地下五層になっているそうだ。この広大な土地の下に、更に五層になっているとは、眩暈がしそうだ。一・二層が訳ありの人間が収容されているそうだ。三・四層が『もののけ』や『もののけもの』が収容されていると言っていた。五層は、最重要機密だそうだ。ここには、いわくつきの物品などが、保管してあるそうだ。
九十九さんが、チョコチョコと僕の体に寄り添ってきて、口元(らしき所)に手を添えて、内緒話をし始めた。
「ここだけの話ですけどね。今の歪屋殿は、絶大な権力をお持ちなのです。それこそ、警察組織を独断で動かせるほどの。何故だか、ご存じですか?」
「え? そうなんですか? それも知らない話です」
「現警視総監殿の御子息が、玄常寺に収容されているのですよ。ちょっと、表には、出せないほどの性癖の持ち主だとか。表沙汰になれば、大ごとです。だから、警視総監殿は、歪屋殿に頭が上がらないのです。完全に泣き所を押さえている訳ですから・・・ここだけの、話にして下さいね」
僕は、目を丸くして、口元を手で押さえている。九十九さんは、満足気に頭を下げて、去って行った。
まだまだ、僕の知らない謎がありそうだ。それにしても、九十九さんは九十九さんでも、当然と言えば当然だが、性格が微妙に違う気がする。
「恋、一日」
ポツリと呟くと、思わず顔が緩んでしまい、その姿を九十九君に見られた為、誤魔化すように箒を暴れさせた。幸い、本日は、学校が休みの為、たっぷり眠れると思っていたが、そうは問屋が卸さなかった。僕は、奉公人であり『もののけもの』見習いなのだ。昼までゆっくり惰眠を貪るなど、そんな贅沢は許されない。
昨日は、心身ともに疲れ果てた。奇妙な『髪の毛グルグル男』を発見したり、超ド級の悪霊であるところの『首狩り夜叉丸』に追い掛け回されたり、鍵助さんの能力が判明したりと大忙しだった。そして、極めつけは、元町先輩が突然錯乱状態となり、藍羽先輩や響介さんを襲おうとした。結果的に、僕と前九十九さんが被害を受けた。前九十九さんが、昇天するかのように、白髪一本を残し、姿を消した。錯乱した元町先輩は、この玄常寺にいるそうだが、姿を見かけない。まだ、意識を取り戻していないのだろうか? そもそも、元町先輩は、どこの部屋にいるのだろうか?
「おはようございます。染宮殿。どうかされましたか? もう、お体は、宜しいのですか? 今日くらいは、ゆっくりされても宜しかったのに」
考え事をしていると、箒を持った九十九さんが近づいてきた。
「おはようございます。九十九さん。はい。もう大丈夫です。怪我の具合も問題ありませんしね。そうだ、九十九さん?」
「はい、何でしょう?」
怪しく黒光りする仮面が、僕を見上げている。
「元町先輩の様子は、どうですか?」
「まだ、眠っておいでですよ」
「そうですか・・・ところで、元町先輩は、どこにいるんですか?」
「地下の独房においでですよ」
「・・・はい?」
『地下の独房』とは、なかなかに凶悪な響きだ。そもそも、この玄常寺に地下などあったとは、知らなかった。
「ご存じありませんでしたか。この玄常寺は、罪を犯した『もののけ』や、訳ありの人間の収容所の役目を果たしているのですよ? 罪を犯したというと、語弊がありますね。失礼しました。中には、変わり者もいましてね、自ら志願して、収容される『もののけ』もおります。人間もまた然り。人間の社会でも『もののけ』の社会でも、負適合者というものはおります。社会からの『除け者』ですね」
「全く、知らなかったです。収容所の役目だなんて。昔から、そうなんですか?」
「そうですね。元々は、その為に存在していました。現在では、役目は、多岐に渡りますが。この玄常寺は、元は『現常寺』と表記されていました。現世(うつしよ)と常世(とこよ)の狭間に存在するお寺という意味だそうです。消滅させる程ではないが、自由勝手にさせる訳にもいかない存在が、収容されます」
なるほど。つまりは、看守の役目を担っており、歪屋とは看守長の称号という訳なのか。確かに、不思議に感じていたことがある。九十九衆は、九十九人いるはずだが、それほどまでの数を見たことがなかった。僕が見ていたのは、地上組だけだったという訳だ。
だからこその歪屋は、中立という立場なのだろう。御三家が捕らえた『もののけ』を収容する。故に、『歪屋に手を出してはならない』ということなのだろう。それが、長縄家の言うところの『特別扱い』なのだろうか? 致し方ないような気もするけれど、長縄家が歪屋の役目を奪おうとしていたのだろうか? 僕だけ蚊帳の外の状態がモヤモヤする。響介さんは、時が来たらと言っていたが、その時とは、いったいいつなのだろうか?
九十九さん曰く、玄常寺の地下に存在する収容施設は、地下五層になっているそうだ。この広大な土地の下に、更に五層になっているとは、眩暈がしそうだ。一・二層が訳ありの人間が収容されているそうだ。三・四層が『もののけ』や『もののけもの』が収容されていると言っていた。五層は、最重要機密だそうだ。ここには、いわくつきの物品などが、保管してあるそうだ。
九十九さんが、チョコチョコと僕の体に寄り添ってきて、口元(らしき所)に手を添えて、内緒話をし始めた。
「ここだけの話ですけどね。今の歪屋殿は、絶大な権力をお持ちなのです。それこそ、警察組織を独断で動かせるほどの。何故だか、ご存じですか?」
「え? そうなんですか? それも知らない話です」
「現警視総監殿の御子息が、玄常寺に収容されているのですよ。ちょっと、表には、出せないほどの性癖の持ち主だとか。表沙汰になれば、大ごとです。だから、警視総監殿は、歪屋殿に頭が上がらないのです。完全に泣き所を押さえている訳ですから・・・ここだけの、話にして下さいね」
僕は、目を丸くして、口元を手で押さえている。九十九さんは、満足気に頭を下げて、去って行った。
まだまだ、僕の知らない謎がありそうだ。それにしても、九十九さんは九十九さんでも、当然と言えば当然だが、性格が微妙に違う気がする。
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