もののけもの

ふじゆう

文字の大きさ
37 / 41
第三章 三つ目の願いを握った小さな娘

十四

しおりを挟む
 遠くの方から、微かに破裂音や金属音が耳に届いてきた。意識がはっきりしているけど、眠っていたような奇妙な感覚に襲われていた。未だに、激しい戦闘を繰り広げている銀将君・神槍さん、そして夜叉丸と化した祈子さんから生み出されている音だ。
 雫さんが、長縄縛寿の孫だって? 笑えない冗談だ。
 長縄縛寿とは、六角堂の当主と神槍の当主、そして響介さんの三人がかりで討伐した御三家の一角の当主だ。禁忌を犯した長縄縛寿は、打倒された。そして、歪屋に異議を唱えていたそうだ。それは、いったいどういう事なのだろう? そして、長縄が犯した禁忌とは、いったいなんなのだろう。
「響介さん、教えて下さい」
 視線を響介さんに向けると、彼は大きく息を吐いて、僕を見た。
「長縄縛寿の犯した禁忌とは、『妖結晶』の作成だよ。そして、『妖結晶』とは、『人間にもののけの能力を、移植する代物』だ。つまり、意図的に、『もののけ』を作り出すものだ。非人道的な実験も繰り返されていた。ほとんどの者が『妖結晶』によって、後天的に発症した。しかし・・・」
 響介さんは、言葉を切り、僕の背後に視線を送る。地下への階段が存在する小さな社の方だ。小さな社の前に設置されている賽銭箱の前に、真君が横たわっている。九十九君の一人が、真君を見守っていた。
「受精卵に『妖結晶』を含ませて、先天的に『もののけ』として産み落とされたのが、真君だ」
 思わず、息が詰まった。真君の出生に、長縄が関わっているというのは、そういう事だったのか。僕が放心状態でいると、突然影が頭上を越えていった。咄嗟に顔を上げ影を追うと、背中に『鍵』と描かれた緑色の羽織が見えた。鍵助さんが、応戦に向かったようだ。
これで、あちらは、三対一だ。刃物を扱う達人である祈子さんが、夜叉丸を手にすると、凶悪な殺戮マシーンと化すようだ。御三家の二人であっても、食い止める事ができないみたいだ。いや、単純に打倒するだけなら、簡単なのかもしれない。祈子さんを傷つけないように立ち回っているからこそ、攻めあぐねている感じだ。僕は、現実逃避をするように、遠くの戦闘をまるで映画でも見る感覚で眺めていた。
 そうでもしないと、メンタルが崩壊しそうだ。
 あまりにも現実味がなくて、涙すら流れてこない。
 響介さんは、僕達が地下へ行く前から、雫さんが黒幕であることを悟っていたのだろう。だからこそ、突然アドバイスのようなものを送ってくれたのだ。そして、九十九さんも知っていたのかもしれない。でなければ、真君が宝石を盗み出したのをみすみす逃したりはしないだろう。
「君の目的は、長縄家の復興かい? 妖結晶を奪い取って、引っ繰り返す腹積もりだったのかい? ついでに、憎き僕を倒せたら、一石二鳥って感じかい?」
「・・・」
 雫さんは、眠そうな目つきで、響介さんを見つめている。すると、スルスルと響介さんの背後に、鏡々さんがやってきた。そして、鏡々さんは、響介さんに耳打ちをした。
「・・・ほう。なるほどねえ」
 響介さんが、口角を吊り上げて、ニヤリと笑みを浮かべた。顔面に笑みを張り付けたまま響介さんは、雫さんへと歩み寄った。そして、暫く雫さんを見つめていた響介さんが、勢い良く右手を伸ばし、雫さんの左胸を掴んだ。
「ちょっっ!! 何やってんですか!?」
 僕は、反射的に大声で叫んだ。そして、衣服が破れる音と共に、響介さんは右手を引いた。響介さんの右手からは、真っ赤な血液が滴り落ちている。
雫さんの衣服は破れ、大きな胸が露わに・・・心臓が止まったように、時間が止まったように、頭が真っ白になった。
 どこからともなく、響き渡る薄気味悪い笑い声。
「久しいのう。歪屋あ。貴様の顔を見ると、受けた傷が疼くわい」
 雫さんの左胸に、人の顔が存在していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

私の守護霊さん

Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。 彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。 これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。

ベスティエンⅢ

熒閂
キャラ文芸
美少女と強面との美女と野獣っぽい青春恋愛物語。 ちょっとのんびりしている少女・禮のカレシは、モンスターと恐れられる屈強な強面。 禮は、カレシを追いかけて地元で恐れられる最悪の不良校に入学するも、そこは女子生徒数はわずか1%という環境で……。 強面カレシに溺愛されながら、たまにシリアスたまにコメディな学園生活を過ごす。

処理中です...