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ふじゆう

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十八、モテ男の持論

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「なんか湿っぽいな? 俺が居なくて寂しかったのか?」
 トイレから帰ってきた星矢さんが、ケラケラと笑っている。沈んでいた空間が、一瞬で明るくなったようで、僕達三人は反射的に笑った。一瞬で空気を変える存在感は、単純に凄い。まるで、太陽のような人だ。
「この子達は、私と星矢の関係に、興味津々のようよ」
「そうか。でも、今のところ俺達の仲を、的確に表現する日本語が見当たらないな。あえて言うなら、『友達以上、恋人未満』という超絶にダッセー表現になっちまうな」
 大口を開けて笑う星矢さんは、生ビールを頼んだ。そして、僕達に『もっと飲め』と煽ってくる。煽り運転だけではなく、煽り飲酒も取り締まる必要があるだろう。
「星矢さんは、特定の女性は、いないんですか?」
「全ての女が、特定だぞ。それじゃダメか? なぜ、一人に絞る必要があるんだ? 甚だ疑問だ。そもそも、一人の女に全てを押し付けるルールに無理があるんだよ」
 お? と、僕は上体を前のめりにした。また、面白い事を言い出した。
「一人の女性に押し付けるとは、どういう事ですか?」
「そもそも、国を円滑に運営する為に、三権分立というシステムを採用しているんだ。司法・立法・行政だな。それならば、家族を円滑に運営する為に、そのシステムを採用するべきだ」
 星矢さんは、到着したビールをグビグビと咽頭に流し込み、盛大にゲップをした。
「分かり易く、夫婦で説明するぞ。妻・母親、恋人、セフレ。この三権分立が必要なんだよ。全ての役割を妻に押し付けているから無理が生じるんだよ。破綻するに決まっている。離婚率が、物語っているじゃないか」
「日本でも、一夫多妻制にすべきだって事ですか?」
「それは、違うな。それだと、ただ倍になっているだけだからな。まあ、現状よりかは、マシかもしれないがな。そもそも、許されるだけの説得材料がある男が、どれ程いるかという問題もあるけどな」
 確かに、星矢さんのいう事は、もっともだと思うけど、それはモテ男だから許される事だろう。そもそも、一人も相手がいない僕には、まるで夢物語だ。一人のパートナーと添い遂げる事に、美しさを感じている。結婚した経験がないから分からないけど、現実はやはり綺麗事だけでは、やっていけないのだろうか? 言われてみれば、職場の既婚者の方々からの口からは、結婚の素晴らしさが伝わってこない。
「星矢の理想は分かるけど、実際問題不可能でしょうね。嫉妬と独占欲は、基本装備されているからね」
「嫉妬も独占欲も理解に苦しむな。独占って支配だからな。うぬぼれるにもほどがあるぜ」
 ああ、ダメだ。難し過ぎて、話が理解できない。思考の軸が、極端に振り切られているように感じる。平凡に生きてきた僕には、この方々の極致的思考について行けない。その後も、星矢さんとリョウさんは、熱っぽく語り合っているが、僕と浅岡君は口をポカンと開けて、ただただ眺めていた。
「ねえ、浅岡君? 君は、どう思うの?」
「・・・天上人の話は、僕みたいな平民には、よく分かりません」
 僕は浅岡君に耳打ちする。浅岡君は、呆れた様子で、思考を放棄し、やけ酒気味にビールを流し込んでいる。
 星矢さんと仲良くなりたいし、もっと彼の事を知りたい。そう思っていたけれど、ますます星矢さんが遠い存在のように感じた。分からない事も多いけど、それでも面白い人だ。自分の欲望に忠実で、とても人間臭い人だ。
「翔太に未来。これだけは、覚えておけよ」
 星矢さんが突然、僕達に話を振ってきた。星矢さんは、リョウさんの華奢な肩に腕を回し、引き寄せていた。
「イイ男ってのはな、見た目がどうなろうと、女が寄ってくるもんなんだぜ」
 ニヤリと不敵な笑みを浮かべた星矢さんが、リョウさんの顔に唇を寄せた。次の瞬間、バコン! という鈍い音が店内に響いた。星矢さんが、頭を抱えて悶絶している。星矢さんの背後に、お盆を持ったミッチャンママが、仁王立ちしていた。お客様の頭をお盆でぶん殴るママもどうかと思う。その後、暫くミッチャンママのお説教が続いていた。周囲のお客さんが、手を叩いて楽しんでいる。ある意味、この光景も、スナック『マーブル』の名物となっている。
 最後は、笑いに包まれた、楽しい空間を演出してくれた。

 数日後、仕事中の事だ。突然、父さんからラインが送られてきて、目を疑った。
 世紀のモテ男である、矢剣星矢さんが、何者かに刺されたそうだ。
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