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解放
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「ちょっと! お兄さん! こんな所で寝てちゃ風邪ひくよ!」
激しく肩を叩かれ目を覚ますと、初老の男性の顔が目前にあった。僕は声を出して、飛び起きた。
「まったく、平日に酔いつぶれるなんて、良いご身分だねーって、あれ? あんたこのあいだの」
先日、会った警察官のおじさんだ。僕は後ろに振り向くと、ここは交番であった。
「どうも、すいませんでした」
僕は立ち上がり、警察官に頭を下げた。警察官は大きく溜息を吐いた。
「全く、最近の若いもんは。恥じらいってものがないのかねえ?」
「すいません。ああ、それで、この前の女の人は、どうなったんですか? 髪がなんとかって騒いでたと思うんですが」
僕が訪ねると、警察官は帽子を取って、薄くなった頭髪を掻いた。
「ああ、あの子ね。なんだか、要領が掴めなくてね。起きたら、髪が切られて色が変わっているって、そりゃあ大騒ぎだったんだよ。でも、しばらくしたら、ジッと鏡で自分の顔を見つめ出して、今までにないくらい理想的だってさ。被害届出すか聞いたんだけど、別に良いって言うんだよ。しかも、携帯を渡されてさ、写真を撮ってくれって言う始末でね」
「写真ですか?」
「ああ、今度美容院に行った時に、この写真を見せてリクエストするんだってよ。まったく、訳が分からない。こっちは、いい迷惑だ」
警察官は、呆れたように溜息を吐いた。話を聞いて、思い出した。
「すいません! 鏡を貸してもらえませんか?」
僕が言うと、警察官は面倒臭そうに、交番の中を指さした。頭を下げて、交番の扉を開き、壁に掛けられている鏡を覗き込んだ。プリン状態になっていた髪が短くカットされ、黒髪になっている。しかも、金メッシュが絶妙に入れられていた。僕は、しばらく、鏡から目が離せなかった。
「なんだい、なんだい。あんたもかい?」
僕は深々とお辞儀をして、逃げるように交番を飛び出した。思わずにやけてしまう口元を手で押さえた。体がいつもより、軽やかに感じ、跳ねるように駅の改札へと向かった。しかし、ふと思い出して、ピタリと足を止める。これほどの技術があって、それぞれに似合う髪を作れるのに・・・彼が行っていることは、あきらかに犯罪だ。許されるものではない。彼は欲求を満たしたいだけであったが、しかるべき場所で行えば、大勢の人を幸せにできるのに。そう思うと胸が苦しくなってきた。『捕まって、死刑になれば』彼はそう言っていた。彼の為にも、捕まった方が良いのかもしれない。そして、罪を償って、多くの笑顔を生み出して欲しい。死刑には、なって欲しくない。罪を重ねて欲しくない。素晴らしい腕と、素敵な感性を、己の欲求解消だけに使って欲しくない。才能の無駄使いだ。これは、僕のエゴなのかもしれないけど。
僕は、踵を返し、交番へと歩いて行った。
どうか、彼を捕まえてあげて下さい。彼を助けてあげて下さい。
余談ではあるが、数日後、彼女ができた。しかも、同時に三人から告白された。どうやら、聞くところによると、変わったのは髪形だけではなく、性格が明るくなったそうだ。不思議なものだ。
もしも、悲しい犯罪者に、もう一度会うことができたなら、お礼が言いたい。
激しく肩を叩かれ目を覚ますと、初老の男性の顔が目前にあった。僕は声を出して、飛び起きた。
「まったく、平日に酔いつぶれるなんて、良いご身分だねーって、あれ? あんたこのあいだの」
先日、会った警察官のおじさんだ。僕は後ろに振り向くと、ここは交番であった。
「どうも、すいませんでした」
僕は立ち上がり、警察官に頭を下げた。警察官は大きく溜息を吐いた。
「全く、最近の若いもんは。恥じらいってものがないのかねえ?」
「すいません。ああ、それで、この前の女の人は、どうなったんですか? 髪がなんとかって騒いでたと思うんですが」
僕が訪ねると、警察官は帽子を取って、薄くなった頭髪を掻いた。
「ああ、あの子ね。なんだか、要領が掴めなくてね。起きたら、髪が切られて色が変わっているって、そりゃあ大騒ぎだったんだよ。でも、しばらくしたら、ジッと鏡で自分の顔を見つめ出して、今までにないくらい理想的だってさ。被害届出すか聞いたんだけど、別に良いって言うんだよ。しかも、携帯を渡されてさ、写真を撮ってくれって言う始末でね」
「写真ですか?」
「ああ、今度美容院に行った時に、この写真を見せてリクエストするんだってよ。まったく、訳が分からない。こっちは、いい迷惑だ」
警察官は、呆れたように溜息を吐いた。話を聞いて、思い出した。
「すいません! 鏡を貸してもらえませんか?」
僕が言うと、警察官は面倒臭そうに、交番の中を指さした。頭を下げて、交番の扉を開き、壁に掛けられている鏡を覗き込んだ。プリン状態になっていた髪が短くカットされ、黒髪になっている。しかも、金メッシュが絶妙に入れられていた。僕は、しばらく、鏡から目が離せなかった。
「なんだい、なんだい。あんたもかい?」
僕は深々とお辞儀をして、逃げるように交番を飛び出した。思わずにやけてしまう口元を手で押さえた。体がいつもより、軽やかに感じ、跳ねるように駅の改札へと向かった。しかし、ふと思い出して、ピタリと足を止める。これほどの技術があって、それぞれに似合う髪を作れるのに・・・彼が行っていることは、あきらかに犯罪だ。許されるものではない。彼は欲求を満たしたいだけであったが、しかるべき場所で行えば、大勢の人を幸せにできるのに。そう思うと胸が苦しくなってきた。『捕まって、死刑になれば』彼はそう言っていた。彼の為にも、捕まった方が良いのかもしれない。そして、罪を償って、多くの笑顔を生み出して欲しい。死刑には、なって欲しくない。罪を重ねて欲しくない。素晴らしい腕と、素敵な感性を、己の欲求解消だけに使って欲しくない。才能の無駄使いだ。これは、僕のエゴなのかもしれないけど。
僕は、踵を返し、交番へと歩いて行った。
どうか、彼を捕まえてあげて下さい。彼を助けてあげて下さい。
余談ではあるが、数日後、彼女ができた。しかも、同時に三人から告白された。どうやら、聞くところによると、変わったのは髪形だけではなく、性格が明るくなったそうだ。不思議なものだ。
もしも、悲しい犯罪者に、もう一度会うことができたなら、お礼が言いたい。
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