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二章「異世界に召喚された俺も当然少しは役に立ちたい」

6.新四天王の選考基準は当然実力主義

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 魔王城城下町。
 最近ツルギは外を出歩くことも多くなった。この世界の文化を知るならば、直に触れるのがよいとの方針からだ。最初は心配もされたが、護身術程度は身に着けたので、表通りであればある程度安心して歩ける。
 商業区域の大通りを歩く。商業区域の中でも中心に位置するこの場所は、店も多ければ人も多い。
 町の人の中にはツルギに声をかけてくる人もいる。四天王となってからそれなりの時間が経ったので、知名度もそこそこだ。声をかけられれば当然挨拶を返すわけだが、その中にはいろんな種族の人がいる。
 獣のような耳の生えた人、半透明で柔らかい体を持った人、動く骸骨(生まれた時から骸骨らしい)……。最初はビクついていたものだが、最近はもう慣れた。

 大通りの脇には比較的大きな公園がある。ここを一回りして帰ることにしよう。
 大きな池に、きれいな花壇。そういえば、自宅の近くにもきれいな公園があってよく遊びに行ったような……。なぜかずいぶんと昔のことに思える。

 広場になっている所に掲示板が立っていた。いくつも張り紙が貼ってある。最近は勉強にも身が入るので、この世界の文字も時間をかければ何とか読める。
 張り紙の内容はお祭りの開催日時、魔界軍四天王の募集、不用品の売り出し……。
 四天王の募集!?
 思わず二度見した。
 確かにそう書いてある。魔王のサインまで入っていた。なぜこんなところで……。

 魔王城魔王室。
 魔王が書類仕事などを行う机と、その前には来客用の大きなソファーと低いテーブルがある。
「公園で四天王募集の張り紙を見たんですけど」
 そのソファーに座るツルギは、机に座る魔王に質問を投げかけた。
「あんなところで一般の方から募集するんですか?魔界軍内から選ぶんじゃなくて」
「魔界軍内から選んでもよいのだが、四天王というのは強ければいいという物ではないからな。そういった掘り出し物は広く視野を持って探さねばならん」
 軍内の幹部であればいくらでもいる。そのなかで魔王直属の部下である四天王になるには単に経験が豊富であればよいとかいうわけではない。というのが魔王の考えだ。
「ただでさえ二人しかいない四天王の、更に一人は役立たずなのにこれ以上役立たずが増えたら困りますよ」
「だからこそ採用審査は厳格に行う。面接には君も参加してもらうぞ」
「はあ。……それでも面接より戦闘力の試験とかが必要だと思うんですけど」

 数日後。
「何人か集まったから面接をしようと思う」
 また魔王室に呼び出されたツルギに掛けられた第一声はそれだった。
「あ、集まるんですね」
「ああ。すでに来てもらっているので、早速だが面接室に行って準備をしよう」
 二人が向かった先は、ツルギがこの城に召喚されて、最初に魔王と出会ったあの部屋だ。
 部屋の中にはあの時と同じようにパイプ椅子と長机。だが今回は長机の向こうの椅子は三脚。
「今回の面接官は三人ですか?」
「そうだ。我、君、そしてフレア君だな。彼女は用事があって少々遅れるらしい。しかし、来てもらっておいてあまり待たせるわけにもいかんから、とりあえず我らのみで始めよう」
 椅子に腰を下ろすと、机の上には書類の山……、というほどではない。文字がまばらに書かれた紙が数枚。その紙一枚に今回応募してきた人一人のプロフィールが書いてあるらしいが、ツルギには名前程度しか読めない。
「これから本人が来るのだから大丈夫であろう。よし、早速一人目に入ってきてもらうぞ」
「失礼します」
 扉を開けて入ってきたのは、筋骨隆々の大男。腰を下ろしたパイプ椅子が頼りなく見えるほどだ。
「ゴドガンと申します。よろしくお願いします」
 書類によれば、年齢は四十歳。『一つ目族』という種族らしく、その名の通り顔には真ん中に大きな目が一つだけ。ちょっと怖い。
「ふむ。なかなか鍛えておるようだな」
「はい。木こりをしておりますので、腕っぷしには自信があります」
 ガハハと豪快に笑い、肘をまげて力こぶを盛り上げる。スゴイ。
 その後もいくつか質問に答える。野生の怪物と戦ったとか、魔法を筋肉で受け止めたとか、武勇伝は尽きない。

「ありがとうございました。失礼します」
 面接を終え、ゴドガンは部屋を出た。
「今の人はなかなか強そうでしたね。いいんじゃないですか?」
「ん~。でもなあ~、なんかむさくるしくない?」
 確かに、筋肉はムキムキ、身長も魔王でさえかなり高いのに、それより二回りは大きかった。
「やっぱり四天王は直属の部下だからかわいい子がいいなあ~」
「そんなこと言って、やはり大事なのは強さ……。あ、でもフレアは美人で強いですよね。魔王さんが選んだんですか?」
「いや、彼女は、というか、前の四天王は全員先代の魔王の頃からだ」
「ああそうか。魔王さんが魔王になったのは数か月前ということでしたもんね」
「うむ。だから……」
「遅くなりました」
 急に扉が開いたと思えば、遅れていたフレアが入ってきた。
「ああ、フレア君。大丈夫だよ。滞りなく進んでいる」
「そうですか」
「ささ、座ってくれ。そしたら次の人に入ってきてもらおう」

「失礼します」
 次に入ってきたのは、華奢な体躯の女の子。しゃなりしゃなりと椅子に向かうと、しなをつくって腰を下ろした。
「リファリアです。よろしくおねがいします」
 二十歳。魔族であるらしい。
「お仕事の経験などはございますか」
「今は酒場で踊り子をやっています」
「ふむ。それではスリーサイズなどを……」
 バキッ!ぐわあああああん……。
「ギャッ!」
 フレアが天井から伸びる紐を引くと、魔王の真上からかなだらいが落ちてきた。直撃した魔王は悲鳴をあげて完全にノビてしまった。
「失礼しました。続けましょう」
「は、はい……」
 その後も魔王が気を失ったままで面接は続けられる。
 魔法の心得が少々あること、やる気ならだれにも負けないこと、人前に出るのは慣れていること……。

「失礼します」
 そしてリファリアは退室する。
「彼女は、どうでしょうね。確かにやる気はありそうですが」
 フレアが机の書類を見ながら呟く。同じ四天王として半端な人材を入れるわけにはいかない。
「でも可愛かったですネ~。あの子が四天王にいれば城が華やかになる……」
「ツルギさんまでそんなことを……」
 そこでノビていた魔王が急に目を覚ました。
「ハッ!我は今まで何を。リファリアちゃんは……」
「もう帰りましたよ」
「そうか……。しかし可愛かったナ~」
「お二人とも、たらいを御所望ですか」
 フレアの目は本気だ。二人はデレデレとした顔を吹き飛ばし、真面目な顔で姿勢を正す。
「それでは次の方に入っていただきましょう。次の方で最後です」

「失礼します」
 入ってきたのは頭に角をはやした、(何とは言わないが)豊満な女の子。たゆんたゆんと(何とは言わないが)揺らしながら歩き、椅子に腰を下ろした。
「『牛人族』のミルクといいます♪十八歳です♪(何とは言わないが)サイズは100センチです♪」
「採用!」「採用!」
 パカッ。ひゅううぅぅぅ。
 例によってフレアが手元の紐を引くと、ツルギと魔王の足元の床が開き、二人は奈落の底へと落ちて行った。
「あの……」
「申し訳ないですが今回は御縁がなかったということで」

 結局四天王は二人のままでしばらくやっていく。
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